源王は玉座を譲らない   作:青牛

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源王は炎を絶やさない

「やったな染岡ぁ!」

 

「間違いなくヒーローでやんす!」

 

「凄いです染岡さん!」

 

「おう! 見たかお前ら!」

 

 試合開始からずっとシュートを鎧袖一触に蹴散らしていた源田からついに得点したとあって、雷門は喜びに沸いていた。

 円堂が自分のことのように喜び、1年生の栗松(くりまつ) 鉄平(てっぺい)宍戸(ししど) 佐吉(さきち)がシュートを決めてみせた染岡に尊敬の眼差しを送る。

 

「流石だな、染岡」

 

「豪炎寺。どうだよ、俺のシュート。お前を超えちまったかもな?」

 

「フッ。そうだな、ならば追いつかなければな」

 

「あなたたちーー! まだ試合は終わってないわよ!? 早く戻りなさい!」

 

「「「「「あっ」」」」」

 

 興奮冷めやらぬ円堂達に夏未がベンチから一喝する。

 さっさと自陣に戻らないと試合が再開できずロスタイムが生まれる。審判が厳しいと、場合によってはイエローカードを取られることもあるので雷門選手達は急いで守備に向かった。

 若きイナズマイレブンも、才色兼備の女子マネージャーが落とすカミナリにはたじたじである。 

 

 

 

 

 

 

 

「ッア゛ア゛ア゛ァァァ!」

 

 雷門がまだ得点に盛り上がっていた頃。

 片膝をついていた源田が、言葉にできない感情を込めた拳を、地面に叩きつけた。

 衝撃波は出ない。己の中に渦巻く激情も。

 無失点伝説の返上、それはいい。もともと、自分がGKとしての試練に備えて鍛えていた結果勝手についてきた称号だ。肝心のこの戦い(試練)で失うのなら、それは自分の無力故。

 

 だが、染岡(あのストライカー)のシュートの力を見誤った。

 

 仲間達にゴールは任せろと言いながら、守り切ることができなかった。

 

 その不甲斐なさを憎む炎に、身の内から焼き焦がされそうになる。

 

 帝国は試合を再開するためボールを取りに来たのだが、源田の鬼気迫る様子に少し躊躇う。

 今まで一度も破られたことのない守りが突破されてついに得点を許してしまった彼の心情は推し測れば、かける言葉が見つからない。

 

「源田、ボールを渡せ」

 

 ただ一人、歩み寄った鬼道以外は。

 

「……ああ。すまない」

 

 我に返った源田は静かに、ゴールに転がっていたボールを拾って鬼道に渡した。

 鬼道はそれを受け取ってセンターサークルに向かって歩き、立ち止まる。

 

「1点取られたなら、1点取り返せばいい。それだけの簡単なことだ。

 

 

 

 

 ──次は頼むぞ」

 

 振り返らず、それだけ言って走り出す。

 帝国の者達もそれに倣い反撃のため走り出す。

 

「ああッ!」

 

 彼らの背に、咆哮に近い返事がぶつかってきた。

 今まで、どんな時でも後ろに彼が立っているというのは、帝国の面々にいつも安心を与えてきた。

 だがその分、凄まじい実力を持ちつつも共に技を開発したり、肩を並べてプレーしてきた鬼道に比べて彼との間にどこか一線を引いてしまっていたのかもしれない。

 

(源田も、あんなに叫んだりするんだな)

 

 佐久間が想起したのは、先程の染岡と源田の攻防。

 源田はこれまで、不動の存在感とでもいうべき雰囲気を纏っていた。凪いだ水面のように、何にも揺らがない。

 気のいい奴だというのは練習やそれ以外の交流でわかっていたが、しかしいつも、彼が別のどこかを見ているような気がしていたのだ。

 それが今は、シュートを決められて荒れ狂い、水を消し飛ばして燃え盛る豪火が吹き出している。

 

 まるで凍りついていた何かが溶けだしたようだった。

 

 初めて見たそんな源田の姿に、なんだか柄にもなく体に火照ってくる。

 

「俺達のサッカーをしたくはないか?」

 

 雷門中との決勝戦が決まった頃、彼らは集められて鬼道にこう言われた。

 影山の、全てを操ろうとする糸を振り切って、自分達で戦おう。

 普通に考えればそういう意味だろうが、佐久間は“俺達のサッカー”がなんなのか、本当にわかった気がした。

 

 

 

 

「来るぞ円堂」

 

「ああ。あいつら、きっと今までで一番手強いぞ!」

 

 

 

 

 それからの帝国と雷門の攻防は熾烈を極めた。

 円堂と豪炎寺の見立て通り、彼らはこれまでで最も激しい攻撃を仕掛けてきた。

 ボールを巡って彼らの体と体、闘志と闘志がぶつかり合う。

 

「通さないッス!」

 

「ちぃっ……しつこいなお前……!」

 

 ドリブルで迫る成神に向かって壁山が猛進した。

 帝国仕込みの多彩な技術と独特なリズムのステップで壁山を抜き去ろうとするが、その巨体故になかなか振りきれない。

 

「へっ、ジグザグスパーク!」

 

「うわぁ!? シビビビ……」

 

 ジグザグとした奇妙なステップを踏んでいた成神が、軌跡に乗るような電撃を壁山へ放った。

 そうして痺れて動けなくなった壁山の脇を悠々と抜いていく。

 

「辺見先輩!」

 

「おう! いくぜ、フリーズショット!」

 

 ボールを受け取った辺見が、冷気を纏ったシュートを繰り出す。

 進路を凍らせながら迫るそれを円堂は迎え撃つ。

 

ゴッドハンド……! 何っ!?」

 

 自身の最大の防御を出した円堂だが、ボールと衝突しようとした瞬間、突然踏ん張りが利かなくなった。

 “フリーズショット”は冷気を放ちながら進むシュート。ボールが近づいて足下が凍りつき、滑って円堂の体勢が崩れたのだ。

 半端な当たり方をしてしまって逸れたボールの軌道は、このままではゴールに入ってしまう。

 マネージャー達が悲鳴を上げかけた。

 

「ぐぅっ!」

 

「土門!」

 

 そのギリギリのピンチを、咄嗟に割り込んだ土門がボールを顔で受けることで凌いだ。

 跳ね上がったボールはゴールを飛び越えていき、試合が止まった。

 円堂達が倒れた土門に駆け寄る。

 

「土門、大丈夫か!? 血が……」

 

「こんなの、なんてことない。円堂、俺も雷門イレブンに、なれたかな……」

 

「なに言ってるんだ、お前はとっくに仲間だ!」

 

「……そっか……」

 

負傷した土門に代わり、影野(かげの) (じん)がフィールドへ入る。

 

「キャプテン。俺、土門の分も頑張るよ……」

 

「おう、頼む!」

 

 ここしばらくベンチに居た影野が、この大舞台に出られた喜びで静かに気炎を吐く。

 帝国のコーナーキックで試合再開。

 辺見が蹴ったボールは、両者のせめぎあいの末に咲山が確保した。

 

「オラァ!」

 

「うおお!」

 

 そのまま放ったシュートだが、これは円堂が反応した。

 受け止められたボールをすぐに雷門が運んでいく。

 敵陣に切り込もうとする少林寺へ、“静かなる狂犬”の異名を取る万丈が狙いを定めた。

 

「くらえ、サイクロン!」

 

「負けるもんか! 竜巻旋風!」

 

 少林寺へ万丈が風を纏った蹴りを放てば、彼も対抗して竜巻を巻き起こした。

 渦巻く風が2つ。それに煽られたボールがフィールドの逆サイドへ飛んでいく。

 

「オラァ! 寺門!」

 

 それを大野が、巨体を生かした体使いで半田を押し退けて奪い取り、寺門へ渡す。

 

源田(あんなの)見て、決めずにいられるか……! 佐久間!」

 

「ああ!」

 

 寺門がボールを打ち上げると、跳び上がった佐久間がヘディングで地上に戻す。

 “ツインブースト”は何も鬼道と佐久間だけの専売特許ではない。

 

ツインブースト!!」

 

 既にブーストのかかったボールへさらに、長い足をしならせた蹴りを浴びせて発射する。 

 

爆裂パンチ!」

 

「ちくしょうが!」

 

 だがこれは円堂が危なげなく防いでみせた。 

 止めたボールで今度こそ点を決めるため、雷門が走る。

 

「寄越せぇ! 勝つのは――」

 

「俺達だぁ! 染岡!」

 

 ボールを受け取った半田(はんだ) 真一(しんいち)が、今度は大野とぶつかり合いながらも耐えきって、染岡へパスを回す。

 

ワイバーンクラッシュ!」

 

 先程源田から得点を奪った翼竜が再び羽ばたく。

 

「同じ技が2度通じると思うなァ! トリプルパワーシールド!」

 

 今度は源田も正確にシュートを読んで対応してきた。

 展開された3重の壁に突撃した翼竜は壁を2枚破るも、3枚目の突破は叶わず弾かれる。

 

「くそっ! 決まらねえか!」

 

『染岡、“ワイバーンクラッシュ”を放つも“トリプルパワーシールド”に防がれるーー! 先程対処しきれなかった攻撃にもう対応した源田! GKの王者は未だ健在! 帝国が反撃に回るぞーー!』

 

「俺が止める!」

 

「へっ、上等!」

 

 カウンターに出る帝国に風丸が息巻いて立ち向かう。

 それを前にする咲山が、マスクの下で凶暴に笑いながらボールを蹴った。

 

ダッシュアクセル!」

 

「なにっ!?」

 

 急加速した咲山が、追いきれなかった風丸を抜き去っていった。

 

「ハッハァ! 甘ぇな」

 

「まだ俺がいる……」

 

「……ん? うおっ!?」

 

 走る咲山の、すぐ近くに影野が現れた。思わず咲山が声をあげる。

 別段、影野が素早かった訳ではなく、ここまで近づいてきて初めて存在に気づいただけであるが。

 自分の影の薄さに悩んでいる影野は、殊更それを意識させる咲山の反応への私怨を若干混ぜながらディフェンスを仕掛ける。

 

コイルターン……!」

 

「なんだと!?」

 

 影野は咲山の周囲を高速で旋回し、発生させた突風で振り回してバランスが崩れた所を見計らいボールを奪う。

 

「頼む、豪炎寺……!」

 

 奪ったそれを影野は豪炎寺へ繋げる。

 

「行かせねえ!」

 

 ボールを持った彼を止めるべく大野がタックルをかける。

 だがそれに止められる豪炎寺ではない。

 

「通してもらうぞ。ヒートタックル!」

 

「ぬあぁ!」

 

 炎を撒き散らす突進で逆に大野を吹き飛ばしてゴールへ迫っていく。

 

「来るがいい! もう点は渡さんぞ!」

 

 源田も豪炎寺のシュートに備えて力を溜める。

 

(染岡は、強くなったぞ。このままでいいのか? 豪炎寺修也)

 

 豪炎寺は、自分に託されたボールを見ながら、自分自身に向けて問う。

 このまま“ファイアトルネード”を撃っただけで破れる程、源田の守りは甘くない。この試合で嫌になるほど味わっていることだ。

 それを相手に点を取るほどに強くなった染岡が、皆が、こんな自分をエースと呼び、シュートを決めると信じてくれている。

 ならばそれに応えなければ、ストライカーも夕香のお兄ちゃんも名乗れはしない。

 

(夕香。お兄ちゃんは絶対に、「勝った」とお前に言いに行くぞ!)

 

 高まる情熱が吹き出したかのように、足に留まらず、飛び上がる豪炎寺の全身が炎に包まれる。

 最高点に到達して彼の周囲に散った火の粉は、人型を成しているように見えた。

 

爆熱ストーム!」

 

 何かの咆哮らしきものを響かせながら、灼熱のシュートはゴールを襲う。

 しかし、思いを背負っているのは彼のみにあらず。

 

「渡さんと、言った! フルパワー――」

 

 源田もまた、新たにした決意と共に、最も強大な衝撃波の壁を名の通りの全力全開で放つ。

 掲げて力を溜めた両手を、腰まで下ろして重ね、左手の力を移した右拳を飛び上がって地面に叩きつけた。

 

「――シールド!」

 

 先程使用していた“トリプルパワーシールド”でさえ及びもつかない圧迫感を伴って現れた壁は、ゴールエリアを覆うどころかペナルティエリアを半分に分断してしまうほどの規模と厚さだ。

 

ボールが激突し、その強大な壁に罅を入れる。

 

「ぬ、おおおお!」

 

 だが源田が雄叫びを上げると、出来たその罅の奥からさらに衝撃波が吹き出した。

 長かった拮抗の末にボールは弾き返される。

 

『豪炎寺のさらに燃え上がった炎のシュートをも止める源田! 先の得点は幸運で終わってしまうのか雷門中!?』

 

 染岡がボールを確保してもう一度撃とうとしたその時、後半終了のホイッスルが鳴り響いた。

 

『ここで後半終了ーー! 同点のため延長戦に突入します! 既に全国大会の決勝戦かと思うほどの熱量と激しさを持った戦いとなっておりますが、勝利の女神は一体どちらに微笑むのかーー!?』

 

 スコアが1ー1の状況。帝国と雷門の激闘は、延長戦にもつれ込んだ。

 

 




源田幸次郎
もう殆ど覚えていない前世でもGKをやっていたが、決して無敵ではなかった。
点を取られもしたし、全力でシュートを防いでみせたこともある。
この世界に来て、理想のために圧倒的な力を身につけたものの、その弊害で長らく感じていなかった勝負の熱が彼に再び火を着ける。

佐久間次郎
よく見たら源田と揃って“次郎”な人。
いつも落ち着いて見えた源田が荒れ狂い、燃え上がる姿に感化された。
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