源王は玉座を譲らない   作:青牛

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お久しぶりです。

ムゲン・ザ・ハンドの描写が難産でした。



奥義の極意は易くない

 綱海に呼ばれてやって来た源田が、立向居と顔を突き合わせている。

 ことの経緯を聞いた彼は、得心して頷いた。

 

「なるほどな。確かに、究極奥義となれば一筋縄ではいかないだろう」

 

「でも、お前ならなんかヒントとかわかんねーか? 同じキーパーだしよ」

 

 綱海に軽く言われた源田だが、その表情は渋い。

 

「とは言ってもな、綱海さん。俺にも“シュタタタタタン、ドババババーン”はわからん。本当に」

 

「そ、そうですよね……」

 

 心底切実そうに告げられ、やり取りを聞いていた立向居も苦笑いするしかなかった。

 現代最強との呼び声高いキーパーにすら匙を投げられる、一時代を築いた伝説の選手の遺した技の極意。

 円堂大介はあまりに感覚派過ぎる。今更で、そして何よりも深刻な問題であった。

 

「だからどんなものか推測するしかないんだが……改めて、どんなものか確認しておこうか」

 

「は、はいっ!」

 

 とはいえ、源田も必殺技を“開発”した人間だ。

 祖父の遺したノートを解読して必殺技を“習得”してきた円堂とは別種の経験がある。

 その点では綱海の行動も間違いではなかっただろう。

 

 “ムゲン・ザ・ハンド”の手掛かりは以下の通り。

 

 一。全てのシュートを見切る必殺技であること。

 二。その極意はシュタタタタタン、ドババババーン。

 三。ポイントは目と耳。

 

 源田はこれらを脳内で反芻しながら唸る。

 

「とりあえず、円堂の言っていた全身でシュートの情報を捉える、というのは間違いないだろうな」

 

 問題は、実際にどうやってそれを成し遂げるのか。

 

「立向居はどんな風に特訓していたんだ?」

 

「ええっと……綱海さんたちにシュートを打ってもらって、それを目を瞑って受け止めようとしてました」

 

「ふむ……」

 

 立向居の返答を聞き、考え込む源田。

 

(……なんだろうな。シュタタタタタン、ドババババーン)

 

 シュタタタタタン、ドババババーン。

 

 シュタタタタタン、ドババババーン。

 

 シュタタタタタン、ドババババーン。

 

 繰り返しても繰り返しても何も意味が伝わって来ない。

 それどころか繰り返すほどに、怪しげな魔術の儀式の呪文か何かに思えてくる。

 

(見切る。目と耳。シュタタタタタン、ドババババーン)

 

 キーパーの必殺技には、例外(ゴールずらし)はあれど、“ボールを受け止める”という大前提が共通して存在する。

 技の目的もそれを行使する者が人間であるというのも同じならば、やることも、例えば空を飛んだりするような、そんな突飛なことは求められない筈だ。

 

「つまりは……」

 

「あのぅ……源田さん?」

 

 黙り込んでしまった源田の姿に、自分の答えが何かおかしかっただろうかと立向居が怪訝そうに顔を覗き込んだ。

 それと同時に、源田の目がカッと見開かれる。

 源田は、覗き込んだ目と目がかち合ってしまった立向居がビクリと身体を跳ねさせたのにも気付かずに勢いよく振り向いて言う。

 

「わかったぞ立向居! シュタタタタタン、ドババババーンが!」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「マジか源田!」

 

「この極意が示すのはおそらく、静と動だ」

 

「と、言いますと……」

 

 なにやら確信があるらしい彼に、立向居がその自信の源を問うた。

 源田はそれに、快く答える。

 

「まず“シュタタタタタン”は、ボールを見切るための情報の取捨選択。耳や目から取り入れる情報、それらから“止めるために必要な”ものを仕分ける作業だろう。こう、シュバババッと素早く手を伸ばして色んな場所から必要なものを取り出したりするような。そして後半の“ドババババーン”は、仕分けた情報から、一気に力を解放して見切ったボールを捕らえる爆発力を表すのだと思う」

 

「な、なるほど……!」

 

 当代で守護神たちの王と呼ばれる男による、“シュバババッ”という両手を素早く動かすジェスチャー混じりの解説に、立向居は目から鱗が落ちるような心地になった。

 擬音のみだったのに比べれば、こうして言葉になると随分イメージしやすい。

 

 全身を目と耳にするように、あらゆる感覚で情報を集める。

 それはこの究極奥義に挑むと決まった段階でわかっていたことだった。

 しかし情報は、集め、精査し、活用するもの。

 

 例えば豪炎寺の放ってくるような炎のシュートを止めるに当たって、立向居が観るべきは炎ではなく、それに包まれた奥に存在するボール本体である。

 炎はただの力の現れ。キーパーは本質(ボール)を捉えねばならないのだから。

 

 そしてボールの姿を捉えたのならば、後はこの手で掴むのみ。

 単純明快。言葉にされて、立向居の思い煩いは氷解する。

 

「……どうだろうか? 結局俺の所感でしかないわけだが」

 

「いえ、凄く参考になりました! ありがとうございました、源田さん!」

 

「助けになれたのならなによりだ。……じゃあ、頑張れよ」

 

「よかったな、立向居。俺からもありがとよ、源田!」

 

 話が終わると共にちょうどハーフタイムが終わって、試合が再開する。

 エールの言葉を残し帝国のゴールへ向かって歩いていった源田の背が、立向居にはとても大きく見えたのだった。

 

 

 

 始まった試合後半。

 その展開は、前半と概ね変わっていない。

 

「鬼道さん!」

 

 帝国イレブンからボールを受け、“デスゾーン”を試みる鬼道・円堂・土門の三人。

 

「集中……取捨選択……爆発……」

 

 そして、源田のアドバイスを胸に“ムゲン・ザ・ハンド”に挑む立向居。

 この二つが、現在の主たる要素である。

 

デスゾーン!」

 

 再び放たれ、しかし前半同様に途中で力が逃げてしまう“デスゾーン”。

 対する立向居は、今度こそ奥義の核心を掴むべく腕を振るった。

 

「……違う。こうじゃない……!」

 

 ボールを捕らえることはできたものの、彼も苦心している。

 

「立向居!」

 

「はいっ――?」

 

 綱海からパスを呼び掛けられ、ボールを投げようとした立向居は、そこで異変に気付いた。

 自らの視界で、前方の綱海の姿が蜃気楼のように、何重にも重なるように揺らいでいることに。

 

(……!? ボールも、幾つにも見える……!)

 

 思わず手元のボールを見て、それも同じ風に見えることに立向居は困惑する。

 

「立向居?」

 

「あ、はい!」

 

 再度の綱海の呼び掛けで我を取り戻した立向居だったが、異様な視界は戻らなかった。

 

(どうなってるんだ……!? いや、もしかして、これが……)

 

 試合が続き、眼前で帝国と雷門の攻防が繰り広げられる中、立向居はこの異変を考察する。

 

――弱い波でも、何度も打ち寄せる内に、岩を削って砕いちまうのさ!

 

 ふと思い浮かんだのは、源田を呼ぶ前に綱海が口にした言葉。

 まるで複数に増えたようなボールに、これが現実ならどう対処する。そう思ったとき、彼の言葉を連想したのだ。

 それに源田の助言を付け加えれば、何を目指すべきなのか。

 

(ひょっとして、これが……)

 

 考える間に、ボールは横を過ぎてネットに突き刺さる。

 

「おい、立向居?」

 

「いいんです。このまま、練習を続けさせてください」

 

 曲がりなりにもボールを取れていた先程までと打って変わった様子に綱海が訝しげに声をかけたが、立向居はやる気に満ちた顔で大丈夫だと答える。

 目指すべき究極奥義のビジョンが見えた彼は今、暗闇が晴れたような心地であった。

 

 

 

 対する鬼道たちは、手順は完璧なはずなのに必殺技が成功しないという謎を、未だ解けずにいた。

 タイミングは合っている。

 帝国の選手がやるように、スピードと回転、息を合わせてボールを蹴り出している。

 それにもかかわらず、ボールから力が逃げてしまう。

 

(いったいなぜだ?)

 

 立向居とは別種の難問。

 これだけ試行を重ねても上手くいかないことからして、問題は鬼道たちのミスなどではなく、必殺技の根本にあるのだろう。

 とはいえ、その根本の問題とはなんなのか。

 

アースクェイク 改!」

 

「フッ、通してもらうぞ!」

 

 考えている間にも、試合は進んでいく。ここにいるのは鬼道たちだけではないのだから。

 大野の必殺技をかわした豪炎寺が、源田の立つゴールを狙う。

 かつて激突した地区大会の決勝戦の時のように、視線をぶつけ合う。

 

「練習とはいえこれも試合だ。本気でいくぞ、源田!」

 

「来い、豪炎寺!」

 

 豪炎寺にとっての源田は、好敵手であり越えるべき壁であった。

 今はエイリア学園との戦いにあたり仲間として背中を預ける関係だが、そこは変わらない。

 挑む機会があるのなら、エースストライカーとして全力で臨む以外にないのだ。

 

爆熱ストーム G2!」

 

 そして魔神の雄叫びがフィールドに響き渡り。

 ボールは渦巻く豪火と共に、帝国ゴールへと向かっていく。

 対する源田も油断なく、両拳に気を漲らせて跳んだ。

 

フルパワーシールド V2!」

 

(これも進化しているか!)

 

 間欠泉の如き凄まじい勢いで吹き上がる衝撃波の巨大な壁にぶつかったボールは、しばらくせめぎ合った後、弾き返された。

 

「わかってはいたが……あれから更に腕を上げているな。流石だ、源田」

 

「それはこちらの台詞だ。他人のゴールへ打っているのを見るのと、自分で受けるのではまるで違うぞ」 

 

 ダイヤモンドダストの攻撃の殆どを凌いだその力。

 目の前の男は相も変わらず、ゴールキーパーの“王者”と呼ばれるのに相応しい実力者だというのを再確認した豪炎寺が、笑みを浮かべて源田と顔を見合わせる。

 その二人の姿は、なんとも楽しそうだ。

 

「さあ皆、鬼道にボールを集めるんだ!」

 

「大声出さねえでも、わかってんだよ源田!」

 

 源田の声掛けにそう雑に答えながら、ボールの弾かれる先に居た咲山が続けてパスを回す。

 

「鬼道、何度でも付き合うぜ。思い切りやってこい!」

 

 そう言いながらボールを渡す寺門。

 協力してくれる帝国の仲間たちの姿に、鬼道は必ず“デスゾーン”を完成させなければならないと、決意を新たにする。

 そこで、ふと佐久間の言葉が彼の脳裏に浮かび上がった。

 

『雷門に居る方がお前は自分が出せてると思う』

 

「……そうか。そういうことか」

 

 鬼道は、雷門の自分を表した言葉から答えを見つけて呟いた。

 

「どうした、鬼道?」

 

「二人とも。次の“デスゾーン”は……」

 

 訝しんだ円堂と土門にも、鬼道は自身の考えを告げる。

 ここまでとは打って変わったその内容に二人は少々面食らい、そして鬼道を信頼して頷いた。

 

「何か見つけたか、鬼道」

 

 自信ありげな背中。それらがこれまでで一番、勢いよく飛び上がった。

 源田の見守る三人の回転は、これまでタイミングを合わせるのに苦心してきた経験をかなぐり捨てたように、バラバラだった。

 三者三様。思い思い、全力の回転。

 散々言ってきた“デスゾーン”の極意である、三人の息を合わせることを無視した行為だったが、滅茶苦茶に見えて、どこか安定感さえ見える。

 

「オオオォーーーーッ!」

 

「うぉーーーー!」

 

「まだだ。まだ――今だ!」

 

 そして、別々に回っている歯車がふとしたときにカチリと噛み合ったようなその瞬間、彼らは飛び上がり、ボールを蹴り出した。

 

デスゾーン!!!』

 

 正しい行程とは正反対のそれで放たれたボールは、しかし力を保ったままでゴールへと向かっていく。

 まさに、必殺技と呼ぶに相応しい威力。

 これこそが帝国の誇る伝統の必殺技、そのあるべき姿だと物語るような威容である。

 試行錯誤と鬼道の閃きによって、ついに“デスゾーン”が完成したのだ。

 

 そしていまにも眼前へと迫ろうとしているそれを、立向居は落ち着き払って観察していた。

 必殺技について未だに迷走していたなら、“デスゾーン”の思わぬ完成に呆気に取られていたかもしれない。

 しかし今の彼は、全身でシュートを捉える、ただそれだけに集中していた。

 力が安定したシュートは、動きと音も一定で感じ取りやすく。

 ボールのことが、手に取っているようにわかる。

 

(見えた! 聞こえた!)

 

 シュタタタタタン。

 ボールから迸るエネルギーも、放たれる暴風も捨て置き、動きを読み取る。

 シュートへ向かって手を伸ばすのではなく、シュートのやって来る場所を見切り、手を()()()()()のだ。

 立向居は全力で、見切ったその空間そのものへ目掛けて力を解き放つ。

 

 ドババババーン。

 後光と共にその背より伸びたのは、無限にも思える幾本もの黄金の腕。

 

ムゲン・ザ・ハンド!!!」

 

 それは、ぴったりとシュートにタイミングを合わせ、ただ一点に集束して潰してしまうほどに折り重なって抑え込む。

 そしてついに、“デスゾーン”は立向居の両手に煙を立てながら収まったのだった。

 

「なっ……」

 

 立て続けの事態に、見ていた全員が言葉を失う。

 彼らは数秒かけて目の前で起こったことを理解し、次に歓声を上げた。

 

「立向居、今のがもしかして、“ムゲン・ザ・ハンド”か!? すごいじゃないか!」

 

「円堂さんたちも“デスゾーン”がついに完成しましたね!」

 

「す、すごいっス! みんなすごいっス!!」

 

 鼻息荒く、全身で喜びを表現する壁山の叫びが、この場の皆の総意を端的に表していた。

 そして一頻り讃え合い、喜びをわかち合ったところで、冷静になると疑問が出てくる。

 

「でも、どうしてあれで完成したんだ?」

 

「タイミングだ」

 

 “デスゾーン”の肝だというタイミングが、それまでの練習とは違ったにも拘わらず、失敗するどころか初めての成功を生み出した。

 その答えを鬼道が明かす。

 

「帝国と雷門は違うチーム。帝国には帝国の、雷門には雷門のタイミングがあったんだ」

 

「俺たち三人のタイミングだからできたってことか!」

 

「なるほどな。流石だ、鬼道」

 

 佐久間は鬼道の説明に得心する。

 帝国の“デスゾーン”は針の穴に糸を通すような繊細な連携を重視するが、雷門は無理に息を合わせるより、全力の衝突こそが力を生み出す。

 三人が一定の回転に合わせるのではなく、思い思いに全力で回転し、その呼吸が合うタイミングを利用する。個性のぶつかり合いこそが、この成功へと導いたのだということを。

 

「立向居! やったじゃねえか!」

 

 一方の綱海と源田は、しみじみと究極奥義の感覚を反芻している立向居に声をかけていた。

 

「綱海さん、それに源田さん! お二人のアドバイスのお蔭です、ありがとうございました!」

 

「いや、これもお前の努力の賜物だ。立向居、よくやったな」

 

 頭を下げる立向居に源田は笑みを向け、称賛を惜しまず送る。

 新生雷門の守護神、その二枚看板。

 完成した究極奥義は、立向居もまた雷門のゴールに立つに相応しい男であるというこれ以上ない証だった。

 

「……さて。ここからが本番だ」

 

「鬼道?」

 

「“デスゾーン”は強力だが、エイリア学園に通用するかは疑問が残る。俺たちが目指すのは、“デスゾーン”を超える必殺技だ」

 

「“デスゾーン”を超える……!」

 

 鬼道が語ったのは、たった今完成させた必殺技の進化。

 更なる特訓に円堂は目を輝かせ、

 

「俺も、“ムゲン・ザ・ハンド”を進化させてみせます!」

 

 立向居も、“究極奥義に完成なし”との言葉を胸に誓うように言い、円堂はそれに頷く。

 そのやり取りを皮切りに練習が再開されようとして――

 

 

 

 スタジアムが、轟音に揺れた。

 

「なんだ!?」

 

 衝撃波と共にフィールドへ怪しい煙が広がり、円堂たちの視界を塞いだ。

 その中から、彼らに見覚えのある二つの人影が姿を現す。

 

「お前たちは……!」

 

「ガゼルに……バーン、だったか?」

 

 名を呼ばれた二人は、雷門イレブンを見据えて名乗りを上げた。

 

『我らは“カオス”』

 

「猛き炎“プロミネンス”」

 

「深遠なる冷気“ダイヤモンドダスト”が融合した、最強のチーム」

 

『我らの挑戦を受けろ、雷門イレブン!』

 

 キャプテン二人に続くように現れる、赤と青、両者のイメージカラーを織り混ぜられたユニフォームに身を包むメンバーたち。

 彼らの瞳は一様に、危険な程の闘志が漲っていた。

 

 




源田幸次郎
立向居にムゲン・ザ・ハンドを説く。
シュタタタタタン、ドババババーン!

立向居勇気
助言によってムゲン・ザ・ハンドを掴む。

綱海条介
こっちも大概フィーリングで生きてる。

デスゾーン組
完成!



次回にはカオス戦に入る予定です。
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