源王は玉座を譲らない 作:青牛
幕を開けたカオスとの試合。
前半も未だ半ばというところで、雷門イレブンは一様に言葉を失っていた。
「源田……!」
ベンチで見守っていたアツヤは、信じがたい光景に開いた口が塞がらない。
決して砕けない最強の壁。キング・オブ・ゴールキーパーと謳われた源田幸次郎の帯びてきたイメージであり、積み上げてきた実績だった。
それが砕かれた。如何なるボールも一度捕らえれば逃さない、大きく厚い掌が弾かれ、ゴールへの道を抉じ開けられた。
究極奥義として進化までした彼の最高の技が、正面から破られたのだ。
真・帝国では正気がなかった彼としては、“キングシールド”を使って真っ向から負けたのはこれが初めてになるだろう。
王座を死守するために編み出した究極奥義を以てして敗れた。その衝撃は如何程か。
「源田、大丈夫か?」
ゴールネットに突き刺さったボールを見つめたままでいる源田の背に、円堂が声をかける。
「円堂……すまない、しくじった」
「心配するな! 勝負はまだまだこれからだ! みんなで攻めて、みんなで守るぜ、源田」
「円堂くんの言う通りだ。ボクたちが、必ず追いついてみせるよ」
「円堂……アフロディ……ああ。俺も、次は止めてみせる」
二人の言葉に頷いた源田が、拳を握って力強く立ち上がる。
動揺は決して小さくなかったが、チームのゴールを背負う責務を思い起こし、持ち直したのだ。
(対立関係を乗り越えて新たな必殺技を編み出すほどに、彼らはこの試合に全てをかけている。前回の試合を踏まえれば、源田くん相手に無策で挑んでくるはずがないと予想はしていたけれど……想像以上に苦しい戦いになりそうね)
彼らの温かいやり取りを見守りながら、しかし瞳子は冷静に状況を分析する。
これからもカオスは“ファイアブリザード”を狙ってくるはずだ。
防げないならば打たせなければよいと言っても、完全にゼロにすることはできまい。追加点を取られる可能性は残り続ける。
対するこちらは反撃して点を取り返すしかないが、オフェンス時の強力な手札となっていたアフロディが、ドリブル技を破られしまっている。
雷門イレブンの攻撃力は低下した状態にあると言えるだろう。
その中で前半の内に反撃を決め、
「みんな、点を取っていくぞ!」
『おぉっ!』
瞳子とほぼ同じことを考えながら、鬼道はそう言ってチームの気勢を高め、反撃を試みる。
だが、戦いは司令塔たちの見立て通りに厳しいものとなった。
「フロストミスト V2!」
「うわっ!」
クララの凍える息吹を受けて一之瀬の足が止まる。
「フローズンスティール 改!」
「くっ……」
ゴッカの氷のスライディングで豪炎寺が足諸共に凍りかける。
「イグナイトスティール 改!」
「ぐあっ!」
ボンバの燃えるスライディングで、土門が弾き飛ばされる。
雷門の攻撃は、カオスのディフェンスに悉く阻まれ、ゴールに辿り着けずにいた。
そして守備も一切気が抜けない。
「ウォーターベール V2!」
「ザ・ウォール――うぁぁ!」
「フレイムベール V2!」
「ザ・タワー――キャーッ!」
オフェンスが防がれるということは、それだけ敵のオフェンスに移るということ。
雷門のディフェンスは、カオスのまさしく混沌のように凄まじい猛攻に耐えることになった。
士郎と綱海が、ガゼルとバーン、最低でもどちらか片方を常にマークするようにして二度目の“ファイアブリザード”を未然に防いでいるが、彼らは単独のシュートも決して“打たせていい相手”ではない。
「アトミックフレア V2!!」
「キングシールド G2!!」
再び紅蓮の炎がゴールを守る源田を襲う。
これもまた、着実に消耗として彼の身に蓄積していくのだ。
「このままじゃ、源田のやつでも身が持たねーよ……」
「まさか、あの“キングシールド”を正面から破るシュートが出てくるとはな」
観客席では、帝国イレブンが芳しくない戦況を見守って固唾を呑む。
「編み出した“デスゾーン2”も、円堂さんが上がる余裕がなくっちゃ!」
「ククク……万事休す、ですかね?」
「いや。鬼道なら、必ず突破口を見つけられるはずだ」
多くの声に心配や不安の混じる中、佐久間は毅然とした態度で、新しい一歩を踏み出した友を見守っている。
(なにかないのか、突破への糸口は……あいつらに付け入る隙は!)
彼らに見守られる鬼道はいままさに、思考をフル回転させていた。
なんとかしてシュートにさえ漕ぎ着けられれば望みはあるが、それが非常に困難なのが現状である。
ガゼルとバーンを抑えるためにディフェンスラインが下がっていて、ボールをストライカーまで繋ぐ中盤が手薄なのだ。
折角の
アフロディは無敵に思われた“ヘブンズタイム”を破られ、中盤での圧倒的な突破力が失われた。
ゴーグルで隠れた目にも焦燥が浮かび出してきた中、眩しい陽光が雲の隙間から差し込んだ。
鬼道は思い出す。同じ日射しの下で、大海原中のキャプテン――音村と戦術について語り合ったことを。
『なるほど。そこに2ビートが加われば、8ビートになる。面白い考え方だ』
『でしょ? でもそこに16ビートが加われば?』
『……! 右の守りが甘くなる』
『ビンゴ!』
――簡単なことなのさ。この世はみんな、リズムの調和でできている。
彼は言った。寄せては返す波の音。渡りを謳う鳥の声も、騒がしい人の声にも、それぞれのリズムがあると。
(リズム……!)
一分の隙もないように見えるカオスとて、決して例外ではない。
無敵のように思えるのは、今の自分たちの
いますべきは、彼らのリズムを理解し、それを狂わせる
「ウォーターベール V2!」
「ボルケイノカット! くっ……」
「ドロル!」
サイドから切り込んだドロルと迎え撃つ土門。
必殺技の打ち合いとなって膠着しかけたところで、ネッパーが走り込んでくる。
彼にパスが回って土門が突破され、カオスの攻撃は途切れない。
ネッパーからヒート。ヒートからリオーネ。パスが淀みなく繋がれていく勢いに圧倒されそうになるが、鬼道はその様をゴーグルでつぶさに観察した。
ほんの僅かの違和感さえ見逃すことがないように。
「ガゼル様っ!」
「ノーザンインパクト V2!」
「まだまだッ……!」
そして、次なるシュートと引き換えに、鬼道は光明を見出だした。
「鬼道くん、このままじゃ源田くんが……っ」
「わかっている。みんな、次は――」
“ファイアブリザード”も含めて、もう5発目になるシュート。
ガゼルとバーン、エースが二人に増えたという単純ながらも強烈な変化による前回とは比べ物にならないハイペースの攻撃に、源田の限界を懸念した士郎が鬼道へ駆け寄ったが、彼はそれに落ち着き払って返すのだった。
依然として続くカオスの攻撃。
ゴッカがボールを運んでいくが、今度の雷門のディフェンスは動きが早かった。
「!」
アフロディと一之瀬が一気に距離を詰め、彼の進路を塞ぐ。
「ゴッカ、こっちよ!」
「やらせないよ!」
その勢いに足が止まりかけるゴッカにクララがパスを呼ぶが、彼女へのパスコースは二人が徹底的に塞いでいた。
空いているのはネッパーの方だ。
「くっ、ネッパー!」
「ああ!」
続いてボールを受けたネッパーの前には鬼道が立つ。
先の二人と同様、凄まじいプレッシャーのディフェンスだった。彼を相手にしては容易く抜けないどころか、奪われかねない圧がある。
「くっ、リオーネ!」
焦ったネッパーが、コースの空いていたリオーネへ向けてパスをすると、
「うおぉぉりゃあーーっ!」
彼女が受け取ったのと殆ど同時に、円堂のスライディングが雄叫びと共に炸裂して、ついにカオスのオフェンスが断ち切られたのである。
「なっ!?」
「鬼道!」
これまでと同じ流れの筈なのにボールが奪われたことに驚くカオスの面々を置き去りに、雷門のボールは今試合で初めて、カオスのゴールへの接近を成し遂げる。
「いくぞ円堂! 土門!」
「ああ!」
「見せてやろうぜ!」
ボールと共に向かっていくのが、FWたちではなく鬼道や土門、そして円堂であるという不可解さのインパクトも、それを手伝っただろう。
彼ら三人でのシュートはこれまでの試合でも全く記録にない。カオスが妨害に動くより早く飛び上がった三人が、編み出した必殺技を放つ。
『デスゾーン――』
それは、帝国の
『2!!!』
基となった必殺技である“デスゾーン”と比較しても凄まじいエネルギーは、ボールを核にした巨大な砲弾のようになって、カオスのゴールへと降って来る。
「バーンアウト V2!!」
グレントは向かってくるシュートを灰塵に変えてやろうと、猛火の灯った両の掌、その最大火力を突き出すが、
「オオオ、オオァアーーっ!?」
思惑は叶わず。
炎は闇色の砲弾に突き破られ、掻き消され、ゴールを許すことになったのだった。
前半の終了も迫る中で雷門の得点。これで先程の“ファイアブリザード”の失点を取り戻し、両者の状況は振り出しに戻る。
「よっしゃあ!」
「決まったな、“デスゾーン2”!」
新兵器が実戦で成果を挙げたことで、俄に活気づく雷門イレブン。
「へっ……一点くらい、また取り返すまでだ!」
これを危険と判断したのか。
キックオフから、バーンは火が着いたような勢いで速攻をかけた。
時間的からして、このシュートが前半最後の一撃になるだろう。雷門のこの活気の火をここで消し止め、後半に持ち込ませまいとして駆ける。
「ガゼル!」
「ああ!」
『ファイアブリザード!!!』
間髪入れずに放ったのは、やはり彼らの最強のシュート。
追加点を狙う混沌の一撃がゴールへ迫る。
「二度はやらせるものか……!」
既に何本もシュートを受けている身体の負担は決して軽くない。しかしゴールを預かる者として、退く選択肢も毛頭ない。
そう決意を漲らせる源田が、シュートを睨みながら腕に力を込めたその時。
「ザ・ウォール 改!」
「ザ・タワー V2!」
抜き去ったバーンたちに追い縋った壁山と塔子の二人が、シュートを前に壁となった。
必殺技は進化し、激しい炎と冷気の渦を塞き止める。
「おぉーーーーっ!!」
それでも障壁を破って進むシュートに、さらに立ち塞がったのは円堂だ。
“デスゾーン2”と並ぶ、リベロとなった彼の新たな必殺技。
「メガトンヘッドォーーー!!!」
巨大な拳が彼の頭から繰り出され、先の二人に代わってシュートを止める。
“ファイアブリザード”はこれまでの戦いの中でも比類なく強力な必殺技であったが、三回に渡るシュートブロックの前には折れることになった。
ボールが弾け飛ぶ。反動で円堂もその場から後ろへ転がり、倒れる。
それらを見届けるような数秒の後、前半終了のホイッスルが鳴り響いた。
「円堂!」
「大丈夫だ。これくらい、なんでもない」
駆け寄った源田に、円堂は立ち上がろうとしながら笑いかける。
「それに、言っただろ? “みんなで守る”って」
その言葉に、源田は目を見開いた。
彼の中では“自らが”守るのが主だった。仲間と連携するが、最終的には自分で止めるものだという意識。それぞれの役割に徹して、ある意味では過干渉をしない帝国のチーム思想だ。
対する雷門というチームには、各々がポジションだけに囚われない、自由さがある。
(……なるほどな)
彼らの姿を見てきた数は知れない。
しかしそれでも、内側に加わってみて初めてわかることもある。
「これが雷門か」
「なにか言ったか? 源田、っと……」
ぼそりとした源田の呟きに、円堂が反応した瞬間。その足がよろめき、姿勢が崩れた。
流石にダメージがあったのだろう。
そのままでは再び倒れ込むところだったが、力強い手が、彼の手を握る。
「円堂!」
「キャプテン!」
「た、助かった。ありがとな、源田」
「……いや。俺からもありがとう。円堂、財前、壁山」
鬼道や豪炎寺が、その姿に顔を見合せ、頷き合う。
集まってきた雷門イレブンに源田が見せたのは、これまでで一番、温かな微笑み。
(これが、チーム。これが、雷門か……)
前半は同点に終わり、戦況は油断ならない。。
それにも拘わらず、アツヤはその光景を見ていて、不思議と口元が緩んでしまったのだった。
源田幸次郎
雷門というチームを本当の意味で知る。
円堂守
底なしの明るさ。教祖と呼ばれる所以を見せる。
鬼道有人
カオスへの突破口を見つけつつ、雷門のチームの在り方を実感する源田を後方から見守った。
カオス
はじめから協力モード。
アニメにおけるネッパーのやらかしは、「10点もの大量リードによる慢心(原作でも言及)」や「そもそもの雷門への軽視(直接戦うのが初めて)」などによるものと思われる。
今作でも、追い込まれてギリギリ同点で終わったダイヤモンドダストに「マジ? ダッサ!」となっていたメンバーは少なくなかったが、ちゃんと試合を見ていたバーンに「アレ(源田)相手にそんなこと言ってる場合かっ!」と渇を入れられた。
実際バーンの単独シュートも止められたため、プロミネンスメンバーも気を引き締めている。