源王は玉座を譲らない   作:青牛

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激闘の行方はわからない

 前半を戦い抜いた雷門のベンチにて、鬼道が仲間たちに注目されながら話を始める。

 その内容は後半の動き、特にカオスの攻撃への対処についてである。

 

「休止符?」

 

「ああ。とても小さなものだがな」

 

 鬼道は、前半中のカオスのプレーの観察を踏まえた推理を語り出した。

 

「まず奴らは、ダイヤモンドダストとプロミネンスの混成チームだ。結成から今日までにそう長い時間は経っていない」

 

「ダイヤモンドダストとの試合だって、少し前のことですものね」

 

「ああ。つまり、奴らの連携は急拵えのものだということだ」

 

 夏未の相槌に首肯しながら、彼は続ける。

 

「そして前半中、奴らのプレーを観ていたが、プロミネンスはプロミネンス同士、ダイヤモンドダストはダイヤモンドダスト同士の連携こそハイレベルだったが、やはりプロミネンスとダイヤモンドダストの組み合わせの連携はやや(つたな)い」

 

「そうなのか? 俺には両方スゲーようにしか見えねーけど」

 

「もちろん同じチームだった仲間同士の連携に比べればの話で、こちらも短い間で相当の特訓をしたのだろう。だが……」

 

 彼らが行ったのは二つのチームの合併。

 雷門イレブンのような、一つのチームに仲間を加えていくやり方とは規模(スケール)からして違う。攻防共に戦術は全く違うものになるし、チームメイトのほぼ半分が、お互いに初めて組む相手になるのだ。

 精々一週間程度の短い時間で、その連携を元々のチームメイトと同等にまで仕上げるのは不可能だったということである。

 

「前半で円堂がボールを奪えたのもそのためだ。付き合いの長い仲間へのパスを封じた上で、プレッシャーをかけて新しい仲間へ咄嗟のパスを出させれば、奴らは少しだけ相手への気遣いを忘れる」

 

 パスという行為一つ取っても、送り手と受けとり手の理解が必要だ。

 ボールを蹴り出す強さ。狙う位置。タイミング。

 慣れ親しんだチームメイトとのものならともかく、最近組んだばかりの相手のそれは、まだ彼らも身体では覚え切れていない。

 余裕を奪えばそれらがズレて、彼らのリズムには雑音(ノイズ)が混じり始める。

 

「パスが乱れれば、それを受け取ってから次の行動までのリズムも乱れる。今の俺たちならば、そのズレた動きには対処できるというわけだ」

 

 隙というには些か弱いが、突けば彼らのリズムを崩す切っ掛けになり得るこれが、鬼道の見出だしたカオスの休止符(じゃくてん)だった。

 

「つまり後半は、プロミネンスにはダイヤモンドダストへパスを出させて、ダイヤモンドダストにはその逆を仕向けるということだね?」

 

「その通りだ、アフロディ。そしてボールを奪ったら、間髪入れずに切り込んでいく。円堂、お前も後半は積極的に上がってくれ」

 

「おう、わかった! 源田、ゴールは頼んだぜ」

 

「任せてくれ。これ以上点はやらん。壁山、士郎、綱海さん。三人にも、頑張ってもらうことになるが……」

 

「はいっス!」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「言われるまでもねえ。大船に乗ったつもりで、どんどん任せろよな!」

 

「よーし! 後半、気合い入れるぞ!」

 

『おう!』

 

 斯くして、後半戦の方針は定まった。

 後は力と気合いのぶつけ合い。激闘の後半戦が、幕を開ける。

 

 

 

 

 

 カオスはキックオフから、一気に攻め込んできた。

 燃え広がる燎原の火、あるいは叩きつける吹雪のような凄まじい勢いだ。

 一歩間違えれば勢いに呑まれかねないその状況で、鬼道が走る。

 向かう先は、ドリブルで上がってきたネッパー。

 

「……ドロル!」

 

 行く手に現れた鬼道を見た彼は周囲に目を遣る。

 相変わらず塞がれている、ヒートやバーン(プロミネンス)へのパスコース。

 

「おォーーっ!」

 

 その僅かな思考の間にも鬼道の猛スピードのスライディングが来る。

 ネッパーは咄嗟の判断で、プロミネンスに比べてマークに隙のあるダイヤモンドダストのメンバーへ、前半同様にパスを出した。

 ボールがドロルの下へ届いた直後。

 

アイスグランド!」

 

「なっ!?」

 

 狙い澄ました士郎の必殺技で、ドロルは忽ちの内にボールを奪われたのだった。

 開幕早々の攻守逆転。カオスの面々が動揺から立ち直る前に、彼らの合間をすり抜けて雷門のFWたちが走り込む。

 ディフェンスがアフロディと豪炎寺の二人の対応に回ったところで、ゴールの正面へ円堂が飛び込んだ。

 彼へのクロスはパズルのピースが嵌まるように鮮やかに通り、雷門の見事な速攻が叩き込まれた。

 

メガトンヘッド!!」

 

 円堂の強烈なヘディングに弾かれたボールがカオスのゴールへと突っ込む。

 

「やらせねえ……! バーンアウト V2!」

 

 しかし、流石にこの状況で早々に追加点は渡すまいと、グレントがその意地のように燃え上がる炎で、今度はボールを黒炭に変えてみせた。

 

「くっそー!」

 

「気を落とすな。まだまだいくぞ!」

 

 確かにこの一撃は決まらなかったが。

 鬼道の言葉通り、ここからしばらくは雷門の連続攻撃となった。

 

ツナミブースト!」

 

ツインブースト!!」

 

バーンアウト V2! オオァァーーッ!」

 

 前半の仕返しのような怒涛の猛攻。

 次々とカオスのボールがカットされ、流れるままにシュートが放たれるためだ。

 必死に耐えるグレントだったが、乱され切ったディフェンスはとうとう本命へのパスを許してしまう。

 

爆熱ストーム G2!!」

 

バーンアウト V2…! ……ゥグアア!」

 

 ボールを焼き尽くそうと突き出された炎を纏う彼の両手が、それを上回る豪火に焼かれて弾かれた。雷門の2点目である。

 

「くっ……」

 

「ガゼル様、バーン様……」

 

 もう後がない。ジェネシスの称号を奪取するという宿願のために、勝つ以外の道がないカオスの面々の表情に不安が走る。

 彼らの視線は自然と、チームのエース二人に集まっていた。

 

「情けねえ面してんじゃねえぞ、お前ら!」

 

「まだ勝負は終わっていない。勝つのは、我々カオスだ……!」

 

 バーンとガゼルは、背に受けるそれらを跳ね返すような、決して諦めない姿をに見せる。

 そう。ここで勝負を諦めるくらいなら、最初からカオスの結成などしていない。最強の座を諦められないから、こうして彼らは戦っているのだ。

 

 二人の姿に、失点を取り返して逆転しようとカオスが奮い立つ。

 最後まで戦い抜こうという彼らの姿に、相対する雷門も手を緩めずに挑む。

 このまま追加点で突き放そうと、アフロディが空へ舞い上がった。

 

ゴッドブレイク!!」

 

 そして放たれた、神の必殺技。

 金色(こんじき)の輝きが目前のカオスゴールへ向かう。

 

フロストミスト 改!」

 

 クララが凍てつく息吹を浴びせるものの、それでもシュートは凄まじい威力を保って進んでいく。

 

「くっ……!」 

 

 迫るそれを目の当たりにし、マスクの下で歯噛みするグレント。

 また“バーンアウト”を放ったところで、恐らく通用しないだろう。また点を奪われる。

 これ以上の失点は、いよいよ敗北が決定的になる。

 それは、個々のプライドを捨ててまで勝ちを目指したキャプテンたちの思いが絶たれるということだ。

 

『おいネッパー、さっきのはどういうつもりだ? マークが厳しかったヒートに強引にパスするより、リオーネに出して抜ける方が安全に突破できたろう!』

 

『雷門ごときに負ける寸前だったダイヤモンドダストが、偉そうに指図するんじゃねえ。バーン様の命令だから“混成チーム(カオス)”を組んでるだけだ。同格なんて思うなよ』

 

『なに……!?』

 

『あの化け物(キーパー)も知らないで、暢気なものね。試合(ほんばん)無様を晒すのはあなたの勝手だけれど……私たちをそんなプロミネンスの自滅に巻き込まないでくれるかしら?』

 

『なんだと?』

 

『言い過ぎだクララ……』

 

『あらゴッカ。私間違ってること言ったかしら?』

 

『やめろみんな! 俺たちはガイアからジェネシスの座を勝ち取るために手を組んだんだろう、仲間割れをしてる暇なんてない!』

 

『仲間に見えるかしら、ヒート?』

 

 キャプテン二人はともかくとして、チームメイトたちはまだわだかまりを抱えていたカオス。

 燻っていた不満の火が、ある日の練習を切っ掛けに燃え上がり、いよいよチームが割れそうになったその時。

 

『てめえらなにやってやがる!』

 

『お前たち、次の試合の意味を、まだわかっていないのか?!』

 

 カオス結成から数日間、チームを離れて特訓をしていたバーンとガゼルが現れたのだ。

 彼らからすればここに至っていがみ合いを起こしているのなど愚の骨頂だった。

 もはや言葉だけでは伝わるまい。そうして二人は、源田を打ち破るために編み出した新たな必殺技を見せた。

 

ファイアブリザード!!』

 

 二人が組んだ理由はジェネシス、即ち最強の名を自分たちのものにするため。そのために作ったのが、プロミネンスでもダイヤモンドダストでもない新たな一つのチーム。

 今すべきことは、プロミネンスだのダイヤモンドダストだのという過去のしがらみで仲間割れを起こすことでは断じてないのだと、プレーを以て示したのだった。

 

 彼らの雄姿に感じ入り、ようやく纏まったカオスというチーム。

 確執を乗り越えて力を合わせ、共に勝利を目指す意思の統一。

 それは、グレントも例外ではなかった。

 

『……グレント。次の試合で重要になるのは、我々キーパーだ』

 

 何を当たり前のことを。

 カオスのキーパーにはなれなかったベルガの言葉に、そう思うだけだったグレントは今、その言葉の意味を実感している。

 向かうところ敵なしと思っていたエースたちのシュートでも、未だに一点しか奪えていない雷門というチーム。

 この状況での一点の重み。奪われれば、勝利がその分だけ遠のいていく。

 絶対に譲ってはならない一線が、ここなのだと、心を燃やす。

 

「ハァッ……!」

 

 否。荒々しく燃やすだけではない。燃え上がる一方でボールを前に逸らぬよう、()()()()()クールさを保つ。

 二つの思いは、そのまま彼の両手に現れていた。

 相反する力。それらは綺麗には混ざり合わない。しかし、反発した末にも、強大な力が生まれるのだ。

 

カオス……」

 

 弾ける力を受ける腕の負荷は決して軽くない。

 それでもグレントは、両腕の力を緩めなかった。

 

バーストォ!!!」

 

「なっ――」

 

「オオオォォォーーッ!!」

 

 冷気と炎をぶつけ合うことによる、急激な空気の膨張。

 合わせられた腕を中心にした衝撃波によって、アフロディのシュートは弾き返されたのだった。

 この防衛は、先ほどまでの連続攻撃で防いでいたのとは違う、流れを変える契機となる。

 

「行けェ!」

 

 グレントからのボールで、カオスが反撃に転じた。

 ボールを持って上がっていくのはドロル。

 

(…! リズムが変わったか!)

 

 鬼道は彼らの変化を悟るが、他の者たちはまだだった。

 先ほどまでと同様に止めようとするが、

 

「行かせない! フレイム――」

 

ウォーターベール V2!!」

 

 彼はパスではなく、必殺技による力での正面突破を選択した。

 改めてパスを出したのは、一之瀬を抜き去って距離を置いてからのこと。

 

「くっ……」

 

 カオスは戦術を、パスではなく必殺技、個人技主体に切り替えてきた。

 必殺技を積極的に狙ってくるようになれば、先ほどまでのようには行かなくなる。互いに一歩も退かない、激しい攻防になった。

 

フレイムベール V2!」

 

アイスグランド!」

 

フロストミスト 改!」

 

ザ・ウォール 改!」

 

 とりわけ厄介なのが、ボンバとゴッカ、二人の巨漢DFだ。

 雷門のボールカットがうまく行かなくなり、正面からディフェンスに挑まなければならなくなると、彼らもその力を遺憾なく見せつけてきた。

 

イグナイトスティール 改!!」

 

 火炎迸るボンバのスライディングをかわせば、

 

フローズンスティール 改!!」

 

 軌跡が氷河を描くゴッカのスライディングをかわせない。逆もまた然り。

 このコンビネーションは、シンプルながら非常に凶悪だった。

 

ノーザンインパクト V2!!」

 

 攻めあぐねる雷門に対し、カオスは再びゴールに手を掛けた。

 

キングシールド G2!!」

 

 源田が止めるが、ここに来てガゼルたちも勢いが乗ってきている。

 

「さっさとゴールを渡してもらうぞ、源王」

 

「俺たちは、お前らに勝ってグランの奴も倒さなきゃならないんでな」

 

「……それなら実力でどかしてみせろ。俺はテコでもここを動かんからな……!」

 

 場の空気も熱を持ってきた中で、混沌とした試合はいよいよ、最終局面を迎えようとしていた。

 

 

 

 




鬼道有人
カオスの連携の隙を見抜く。ボールをよく見るゴーグルの賜物。

グレント
キーパーの意地を見せる。

オリジナル必殺技
カオスバースト:両手に炎と冷気をそれぞれ纏わせ、それらを合わせることで衝撃波を生み出し、ボールを弾き飛ばす。ゲーム的にはパンチング系の必殺技になる。
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