源王は玉座を譲らない   作:青牛

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証なき最強はわからない

「とうとう来たね、円堂君」

 

 スタジアムに来た雷門イレブンを既に待ち構えていたジェネシス。

 キャプテンであるグランが、そう言って彼らを出迎えた。

 

「ああ。お前たちを倒すためにな」

 

「俺はこの戦いで、ジェネシスが最強の戦士であると証明してみせる」

 

「最強を目指すだけのサッカーが楽しいのか?」

 

 円堂の問いに、グランは涼しげな表情を一瞬歪めながら返す。

 

「……それが、父さんの望みなのさ。俺は父さんのために最強になる。最強でなければならないんだ」

 

「誰のためでもない。お前自身はどうなんだ」

 

「円堂君、お互いの信じるもののために全力で戦おう」

 

 グランは最後まで円堂の知りたいことを口にはしなかった。

 ポジションにつくべく、円堂たちに背を向けて自陣へと

歩き出す。

 

「源田君。君にも、期待しているよ」

 

「……そうか」

 

 その帰り際、顔だけ振り返ったグランの挑戦的な言葉に、源田はただ一言答えるのだった。

 

「全力でかかってこい」

 

 

 

 

 

 

 長らく続いたエイリア学園との戦い。

 その最後の試合のキックオフのホイッスルが、鳴り響いた。

 

「さあ。最強のジェネシスの力、思い知るがいい」

 

 先攻のジェネシスが、キックオフから高速パスワークで早速雷門ゴールへ迫る。

 MFのアーク、ウルビダ、そしてFWのウィーズ。

 体格のいいウィーズが、トラップしたボールを胸の前に留める。

 

ガニメデプロトン V2!」

 

 空中に静止したボール。

 それに両手に集めた気を思い切り浴びせかけ、挨拶代わりのシュートをゴールへと打ち込んだ。

 向かってくるボールに源田は構えかけ、そして止めた。

 

メガトンヘッド! てりゃあーー!」

 

 代わってシュートの前に立ちはだかったのは、円堂である。

 ボールは見事に弾かれて鬼道の下へ渡り、円堂もその勢いのまま駆け上がっていく。

 スピーディーな攻守の切り替えは、新チームの目玉となったリベロの面目躍如といったところか。

 

イリュージョンボール 改!」

 

 弾かれたボールをすかさず奪いに来たウルビダを、鬼道が見事にかわして、歩を進める。

 次いで一之瀬、豪炎寺と繋がれていったボールを受けたのは、アフロディだ。

 

「さあ、いくよ!」

 

 金色に輝く翼を広げ、アフロディがグラウンド上空へと舞い上がる。

 頭上を覆う研究所の証明に照らされながら、それよりも眩い光を纏ったボールへ、踵を振り下ろした。

 

ゴッドブレイク!」

 

 ジェネシスのゴールへ向かうボール。

 

「よっしゃ、先制点もろたで!」

 

 ベンチから、得点を確信した浦部の声が上がったが、そう上手くは行かない。

 シュートを待ち受けるジェネシスの小柄なキーパー、ネロが不敵に笑った。

 

プロキオンネット V3!」

 

 ネロが周囲に展開した三つの光の玉。

 広がって三角形をかたち作ったそれは、まるで星空の結界。

 三角形の中央に飛び込んできたボールを奇妙な弾性で受け止めた。

 ボールの神々しい光は、自身を包み込んだネットの中で段々と散っていく。

 

「…っ、フン!」

 

 そして、ネロの手で地面に叩きつけられ、ついにシュートの勢いを完全に殺されたのだった。

 

「なんでやねん…!」

 

 これまでの戦いで別格の強さを見せてきた彼のシュートが防がれたことに、雷門イレブンへ動揺が走る。

 

爆熱ストーム G2!!」

 

 ならばと豪炎寺が続く。

 今度は渦巻く爆炎がジェネシスのゴールを襲うが、

 

プロキオンネット V3!」

 

 これも、やはり同様に止められてしまう。

 

「アフロディ君と豪炎寺君でもゴールを奪えないなんて…」

 

 チーム随一の得点力を誇る二枚看板の立て続けの得点失敗に、ベンチの木野の表情が陰る。

 エイリア学園最強、ジェネシスの名に偽りなし。

 ゴールを守るネロの存在は、間違いなく、この戦い最大の難関の一つとなるだろう。

 

「苦戦は覚悟の上よ」

 

 そう言う瞳子の声にも緊張があった。

 如何にしてネロの守りを破るか。現雷門トップクラスの威力でも得点を望めない以上、その一点は何よりも価値があり、何よりも遠いものに思えてくる。

 

「……でも。キーパーなら…!」

 

 しかし、聞いていた立向居は、瞳子と同じく緊張を感じる声と共に、自陣のゴールを見た。

 

流星ブレード V2 !!」

 

キングシールド G2!!」

 

 そこには、グランのシュートを受け止めて立つ、源田の姿がある。

 

「よく止めた、源田! …皆、得点が難しいのは相手も同じことだ、挫けるな!」

 

「鬼道の言う通りだ! こっちもガンガン攻めて、点を取るぞ!」

 

『おう!』

 

 こちらもしっかりと相手のシュートを止めたことで、落ちかけたチームの士気が戻った。

 

「フン……流石に地上最強などと名乗るだけはあるか」

 

 一方で、エースのシュートが止められたにも拘わらず、ジェネシスに動揺はない。

 ウルビダが、冷たい眼差しで雷門ゴールを見つめていた。

 

 

 

 開幕のシュートの応酬から、試合展開は激しい攻防に移る。

 

アイスグランド 改!」

 

 士郎が、氷で捕らえたアークからボールを絡め取れば、

 

シグマゾーン!」

 

「ぐああっ!」

 

 ウルビダを基点にした一矢乱れぬ三人がかりのアタックで、円堂がボールを奪われる。

 

「ふん」

 

「くっ……!」

 

 ジェネシスの動きは、ここまでエイリア学園と戦ってきた雷門イレブンからしても、依然として凄まじい速さだった。

 彼らの超人的な動きに個人技で対抗できていたのは、雷門イレブンの中でもごく一握り。

 

「はっ!」

 

「チッ」

 

 その一人がアフロディだ。

 横合いからスライディングを仕掛け、ウルビダから鮮やかにボールをカットした。

 そのまま美しいドリブルで駆け上がる彼の前に、カバーに入ってきたコーマとゾーハンが立ち塞がり、後ろからは反転してきたウルビダが迫る。

 自らを包囲しようとするジェネシスに、アフロディは腕を掲げた。

 

ヘブンズタイム

 

「通じると思うか! シグマーー」

 

 その指がパチンと鳴らされた音を聞きながら、ウルビダたちは突進を仕掛け、

 

「ーー

 

 アフロディが、その場から影も形もなくなっていることを認識した。

 カオスとの戦いで一度破られた経験を得て、彼の“ヘブンズタイム”は更なる領域へ踏み込んでいたのである。

 

「なっ……くぅっ!」

 

 直後に吹き荒れた突風で彼女たちは足止めされ、アフロディはジェネシスゴールへ迫っていった。

 ボールの接近を認めたネロが身構える。

 

(しかし……普通に打っても、さっきと同じだ)

 

 そこで、アフロディは横を一瞥してから、飛び上がった。

 

ゴッドブレイク!」

 

 再び放たれた神のシュートは、しかしゴールへは向かわず、コースを逸れていく。

 行き先に駆け込んでいたのは豪炎寺だ。

 

「いくぞ! 爆熱ストーム G2!!」

 

 豪炎寺によるシュートチェイン。

 神々しい力の混ざった爆炎がゴールを襲った。

 

「……!」

 

 ネロはその威力を、正しく認める。

 “プロキオンネット”でも、防ぎきれない破壊力があると。

 

 

 

 

 ゆえに、最強の戦士の力の真価を解き放った。

 

時空の壁!!!

 

 翳した手から広がる異空間。

 それに呑まれたボールは徐々にスピードを落としていき、ついにはネロの目の前で、纏っていた力の全てと共に停止した。

 迸る神の力も、触れるものを焼き払う爆炎も、時間が止まればただ在るのみ。

 

「フン!」

 

 そして、ネロは完全な無防備と化したボールに拳を打ち込み、弾き返した。

 

「なにっ!?」

 

 雷門の強力なストライカー二人の力を合わせてもなお破れなかったことに、先ほどよりも大きな動揺が走る。

 彼らが気持ちと態勢を立て直す暇もなく、思い切り飛んだボールは、そのままグランの下へ直通で届いてしまった。

 

「さぁ、見せてあげよう。これがジェネシスだ!」

 

 グラン、ウルビダ、ウィーズの三人に囲まれたボールが、黒い、宇宙空間を思わせる神秘的な闇に包まれた。

 やがて三人と共に上空へ浮き上がったボールは、まるで生まれようとする新たな星のように、高まった力と共に胎動する。

 

スーパーノヴァ!!』

 

 そのボールにグランたちは息のあったキックを叩き込み、地上へと向かわせた。

 危うげな輝きを纏ったボールが降ってくる姿は、まるで空から星が墜ちてくるかのように思わせる。

 

「任せろ…! キングシールド G2!!」

 

 ゴールへと迫るその災害を、地上に立つ源田が王者の盾を以て迎え撃つ。

 だが、星を受け止めるなど人間にできることだろうか。

 

「ぬぅぅ……!」

 

 ジリジリと押し込まれていく体。

 踏み留まろうと源田が足に力を込め直した瞬間-ー

 

「ぐっ」

 

 盾が砕け、それでも勢いの衰えないシュートが、源田の顔を打ち抜きながらゴールへ突き刺さった。

 あまりの勢いに、空中でそのまま後ろ向きに一回転して、背中から叩きつけられるように倒れた源田の姿に、雷門イレブンの視線は釘付けとなる。

 

「アリを踏み潰した人間を、最強の人間と呼べるか?」

 

 彼らの様子を見たウルビダが、得意気な顔で問いを投げた。

 思わず、皆は彼女の方へ振り返った。

 

 答えは否だ。そんなことはあり得ない。

 アリを踏み潰す程度、殆どの人間が容易くできることだ。それで、最強の人間の証明になる筈がない。

 

「だが、もしもライオンを身一つで打ち倒したのならば、その人間の力は誰もが認めるところ。アリでは意味がない。我らジェネシスの力を見せつけるために育て上げられたライオンこそが、お前たちなのだ」

 

 それが、吉良星二郎が瞳子に語っていたことの全て。

 そのためのエイリア学園。そのためのジェミニストーム、そしてイプシロン。

 この戦いで集結し、数々の戦いという実績を積み重ねてきた地上最強イレブンは、全てを仕組んだ彼にとって、ハイソルジャーという兵器の凄まじさをより効果的に演出するための、ジェネシスの噛ませ犬なのだ。

 

「……円堂くん。キーパーに戻りなよ」

 

「……!」

 

 源田の倒れているゴールを見つめて言葉を失う円堂に、同じくゴールを眺めながら、グランがそう声をかけた。

 思わず、険しい顔で振り返った円堂に彼は言う。

 

「まだ前半も終わっていないのにこれじゃあ、張り合い、が……」

 

 しかし、グランの言葉は途中で途切れた。

 加えてその表情は凍りついたように固まり、視線は円堂の後方に釘付けになっていた。

 訝しむ円堂だったが、グランのみならずウルビダや他のジェネシスも皆、彼の後方、すなわちゴールを見ているようで、何が起こったのかと振り返って見た。

 

「――――」

 

 瞬間。思わず円堂は目を見開いた。

 

 仰向けに倒れていた筈の男が、糸に引っ張られるように立ち上がっている。

 彼は首筋に手をやりながら何度か首を左右に捻り、次に鼻を触ると、俯いていた顔を上げた。

 そして、集まった視線をなんでもないように口を開いた。

 

「……よし、続けるぞ」

 

 ただ、静かに。

 

「--次は、止めてやる」

 

 彼が見据えるのは次なるシュート。

 如何なる相手でも、一度奪われようとも、もうその思いと肉体は揺るがない。

 




ネロ
ジェネシスのキーパー。
今作でも初の四段階目の進化技を披露する。

源田幸次郎
ジェネシスのための噛ませ犬……犬……?強いて言うなら獅子である。
タフさだけでなく受け身技術も身に付け、継戦能力が向上している。そういう問題じゃない。
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