源王は玉座を譲らない   作:青牛

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源王の守りは――

 迫り来る、電撃を纏った翼竜のシュート。

 それを迎え撃つために、源田は身体に気を漲らせる。

 

「……! 源田。使うのか、あの技を……!」

 

 その動きに気づいた鬼道が、かつて彼が練習で開発・披露した“最強の技”を思い出して戦慄する。

 帝国での特訓の際、“皇帝ペンギン2号”では破ることが叶わなかった源田最大の防御。

 

 あるリスクも併せ持つその技を使うのは、この攻防が試合を決めるという確信があるからか。

 

 彼は広げた両腕に、“ビーストファング”の要領で気を込める。

 “ビーストファング”は通常、全身に気を行き渡らせても恐ろしい反動が来るのだ。

 負担をさらに集中させるその所業は、並のキーパーならばそれだけで腕を壊すもの。

 

 しかしまだ終わりではない。

 

 腕の内に気を込めた次は、それぞれの腕の傍らに新しく気の塊を形成した。

 

「──ぬうん!!」

 

 拳を胸の前で打ち合わせることでその2つの気を合わせて、一つの円盾(まるたて)を作り出した。

 

「ハァッ!」

 

 まだ足りない。

 最後に打ち合わせた拳を盾に向けて振るい、手を(かざ)して溜めていた力を注ぎ込む。

 黄金の盾に百獣の王を思わせる装飾が加わった。

 

キングシールド!!!

 

 それは王であるが故の技ではない。

 

 自分が、仲間が信じる王者であるために編み出した盾。

 

 

「おおおおおおぉぉぉぉ!!」

 

 

「いっけえええぇぇぇぇ!!」

 

 

 イナズマを帯びた翼竜は、その盾に激突する。

 この盾さえ破れば、ゴールは目前だ。

 

 足が地面と擦れながら、ジリジリとゴールラインへ近づいていく。

 

「ぬ、おおおおおおおああああああ!!!」

 

 それでも、源田が押し込まれかけた足を前に踏み出す。

 大地を踏みしめ、埋まる勢いで足を押し込む。

 

「まだだ……! 言った筈だ、円堂!」

 

 

 

 

 

 

 

「――お前には、負けないと!」

 

 思い切り突き飛ばすような姿勢になり、盾も前進した。

 ついにボールを弾き飛ばし、源田はバランスを崩してそのまま前のめりに倒れたものの同時に最後のホイッスルが鳴り響いた。

 

『試合終了ーーー! 予選でありながら間違いなくFF史上に刻まれるであろう白熱した名勝負、制したのは、王者帝国学園だーーー!』

 

 スコアは2ー1。FF地区予選、その決勝戦の勝利は帝国学園がもぎ取ったのである。

 スタジアムの観客は類い稀な死闘を演じた両者に喝采の声援を惜しみなく送る。

 声援を浴びながら、立ち上がりもせず地面に這いつくばって呆然としていた源田に、鬼道達がゆっくりと歩み寄った。

 

「まったく、勝者がなんて姿を晒しているんだ」

 

 そう言って、手を掴んで力ずくで引っ張り起こす。

 ようやく現実へ理解が追い付いてきた源田が口を開いた。

 

「勝った、のか」

 

「ああ。俺達の、帝国の勝ちだ。そして皆、俺についてきてくれてありがとう」

 

「なにこれで終わりみたいに言ってるんですか鬼道さん」

 

「ククク…これは私達のサッカーの産声に過ぎませんよ」

 

「おう。ここからが俺達の始まりだ、鬼道!」

 

「お前達……」

 

 帝国イレブンの面々が口々に言葉をかける。

 鬼道が彼らの思いを受けて感動にうち震えている所へ、雷門イレブンがやって来た。

 

「凄かったな、お前ら!」

 

「円堂……」

 

「負けちまったのはすっげえ悔しい! でも、お前らとあんなに熱い試合が出来て、俺嬉しいよ!」

 

「根性と熱血特訓が俺達雷門の真骨頂だ。そうだろ皆!」

 

『おーっ!』

 

(……すまない、夕香。お前に勝ちを報告しに行くにはまだまだ精進が足りないらしい)

 

 雷門イレブンが円堂の声に従い叫ぶ。

 負けたのは悔しかったが、互いに全力を出した結果だった。

 このフィールドに立つ選手達は全員、その高揚を共有していた。

 

「でも、また来年だな……。鬼道、全国大会、俺達の分も頑張ってくれよ!」

 

「……? お前達、知らんのか?」

 

「知らないって?」

 

「お前達雷門中も、全国大会には出場できるぞ」

 

「ええ!?」

 

 鬼道のカミングアウトによって雷門イレブンが驚愕に揺れる。

 

「特別措置、というやつだ。帝国学園と同じ予選ブロックでは準優勝校も全国大会への出場が認められる」

 

 それは帝国学園が絶対的な王者であったが故に生まれた制度だ。

 

 帝国学園がFFの20連覇を成し遂げた頃。

 “無敵の帝国学園”の存在は日本のサッカー界に知れ渡っていた。

 同時に、帝国と同じ地区の学校は絶対に地区予選を突破できず、選手達は誰一人として日の目を見ることがかなわないという意味でもあった。

 今まで、そしてこれからも現れるであろう優れた若きサッカープレイヤーが、圧倒的格上、最強の帝国学園に容赦なく道を絶たれるのは忍びない。

 一部でそういった声が上がり、全国サッカー協会もそれを認めたことによってこのような措置が取られたのである。

 

「帝国の強さが故に提案された特例だ。もっとも、総帥……いや、影山の裏工作がわかった今では、どこまでその強さとやらが本物だったかは怪しいがな」

 

「でも、とにかく俺達も出られるってことか!」

 

「お前達に喜ばしいことかはわからんぞ。優勝した俺達も当然出場する」

 

「つ、つまり、またあんたらと戦うってことでやんすか!?」

 

「それもお前達が決勝まで勝ち進めばの話だろうがな。全国は地区予選とはレベルが違う。精々勝ち上がって来ることだ。俺達に再び倒されるために」

 

「なにを、その頃には俺達だってもっと強くなってやるぜ。今度こそ源田(そいつ)の守りをぶち抜いてやる! なあ豪炎寺!?」

 

「ああ。練習試合のリベンジもまだ果たせていない。このまま終わりはしないぞ」

 

「やってみろ。次は1点たりとも渡さんぞ」

 

 気炎を吐く雷門のストライカーコンビに、キング・オブ・ゴールキーパーが不敵な笑みを向けた。

 そのまま選手達が各々、試合で戦っためぼしい相手と発破をかけあったりする短い交流の時間が生まれた。

 

「源田。本当に、ほんっと~に強かったな!」

 

「お前も強かったがな。とにかくここでは、俺の勝ちだ円堂」

 

「ああ、負けちまった。でも次は俺が勝つぜ!」

 

「そう来なくては。だが俺ももっと強くなる。次も俺の勝ちだ」

 

「だったら俺はもっともっと強くなるぞ!」

 

「むっ……ならば俺はさらにもっともっと強くなるまでだ」

 

「じゃあ俺はもっともっともっと――」

 

「その辺りにしておけお前ら」

 

 初めはお互いを称え合っていたのに途中からレベルの低い言い合いをしているGK2名に鬼道が待ったをかけた。

 ベンチへ戻って荷物の片付けに行く前に、両チームが向かい合い、彼らは固い握手を交わす。

 

「またな鬼道、源田。次は絶対俺達が勝つぜ!」

 

「フッ。だからそれはお前達が勝ち進めばの話だというのに……」

 

「まあ雷門なら勝ち進んで来るだろう」

 

「……そうだな。ではな、雷門――」

 

 

 

 

『決勝で会おう』

 

 

 

 

 そう約束して、歓声に見送られながら彼らはフィールドを去っていった。

 荷物を纏めて廊下を歩く帝国イレブンの背に、呼び止める声がかかった。

 

「お兄ちゃん!」

 

「春奈……」

 

「鬼道。あの子が、お前の戦う理由か?」

 

「源田」

 

「先に行っているぞ」

 

 鬼道を残して、帝国の面々は先へ進んでいった。

 その場で彼らが何を話したのかは、兄妹だけのものである。

 

 

 

 

 

 

「それにしても、特訓か……そうだ、これまでメニューを考えていた総帥がいなくなったし、今度から俺が練習メニューを――」

 

『それは待て源田』

 

 影山の裏工作があったとはいえ、帝国学園の強さは円堂達が身を以て知っているように本物だ。

 当然その力を得る特訓も並の学校とは比較になるものではない。

 その帝国学園の練習の後に、怪物的な密度の自主トレーニングをこなしている源田に普段の練習メニューを任せたりすればどうなるか。

 源田が提案しかけたのをこの場にいない鬼道を除いた帝国学園サッカー部は心を一つにして却下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合の一部始終を映していたパトカーの小型テレビの電源が落ちた。

 刑事鬼瓦(おにがわら) 源五郎(げんごろう)が口を開く。

 

「どうだ。帝国の選手はお前を見限ったからこそ、こんなに素晴らしい試合ができたんだ」

 

「下らん。点を取られ、土壇場で必殺技を作る賭けを行う。危うい場面がいくつもあった泥臭い勝利だ。そんなものは私の求めるものではない」

 

 その言葉を向けた相手は、にべもない返しをする。

 同じものを見ていた筈なのに、その2人で思ったことがあまりにも違った。

 元々、これだけでこの男のどす黒い心を清められるとは思っていなかったが、それでも期待していなかったといえば嘘になる。

 どうしてこの男はサッカーをこれ程までに汚せるのか。

 そんな怒りを抱きながら、激情に反して鬼瓦は静かに言葉を紡いだ。

 

「お前にはその泥臭さの素晴らしさがわからないんだろうな。だからお前は選手だけでなく、サッカーにも見捨てられたんだ」

 

「……価値があるのは、ただただ圧倒的な、完璧な勝利だけだ。それだけだ」

 

 鬼瓦の隣に座っていた男――影山(かげやま) 零治(れいじ)はそれきり口を閉じた。

 

(源田幸次郎――)

 

 思い出すのは、あの男を勧誘した時のこと。

 影山にとって、全てを注ぎ込んだ最高傑作は鬼道 有人ただ一人。

 他の帝国の選手など、鬼道の足を引っ張らない程度の添え物に過ぎない。

 だが、その得点を許さない圧倒的な防御力は彼の信条とする完全勝利に通じるものがあるとして、鬼道程ではないが源田にだけは多少目をかけていた。

 

『源田よ。私の(もと)に来るつもりはないかね?』

 

『……仰っている意味がよくわかりませんが』

 

『簡単なことだ。帝国学園の一選手ではない、影山零治の全面的なバックアップを受けた選手としてサッカーをしないか?

 私に従うのならば更なる力を、そう――

 

 

 

 

 

 ――神の如き力を与えてやろう』

 

 そう言って、あの男に手駒に加わるよう誘いをかけた。

 仮に源田が頷いたのならば、当時既に秘密裏に動かしていた“プロジェクトZ”に加えてやってもいいと思っていた。

 その程度の実力はあると正当に評価していた。

 だが、あの男は断った。

 

『総帥のありがたいお言葉ですが……お断りさせて頂きます』

 

『……何故かね? 神の力が欲しくはないのか?』

 

『与えられる、ということはいつか奪われるということです。与えられる力に興味はありません』

 

『他を利用するのも勝ちの手段だ。使ってやればいい、とは考えないのかな?』

 

『……俺がなんと呼ばれているかご存知ですか?』

 

『もちろんだとも。キング・オブ・ゴールキーパー、サッカー人生において無失点、我が帝国学園の守護神たる君に相応しい呼び名だろう』

 

『王には2種類が居ます。周囲に据えられた都合のよい飾り物と、全ての障害を押し退けて玉座を勝ち取った者。俺は後者がいい』

 

『………』

 

『ご心配は無用です。一度座ったこの玉座、誰にも渡すつもりはありません』

 

 そう言って、源田は影山の誘いをはね除けたのだ。

 

(貴様の王道が、神の力の前にどこまで通じるか。精々、足掻いてみるがいい――)

 

 既に手は打っている。次なる策は、影山の瞳に映っていた。

 

 

 

 

 

 

 




はい、という訳でリメイクして最大の変化、帝国学園の勝利です。






ああ、やめて! 石投げないで! 負けた雷門無理矢理全国に出した訳じゃ、いや、そうだけど一応この設定の根拠というか理屈はあるんです!

今回の帝国の予選ブロックの準優勝校本戦出場という特別措置は、もしかしたらあったのかなと思っています。

端的に言うと帝国が強すぎたために作られた関東地区の学校への救済措置です。
根拠は、アニメでの豪炎寺の野生中と去年戦ったという発言です。

野生中は去年、地区大会の決勝で帝国と戦っていますが、敗北して準優勝でした。
木戸川は全国の決勝まで進んでいますので、練習試合でもない限り、ジャングルの動物達と戦うことはないはずなんですよね。
木戸川は所在がおそらく関東という以外曖昧なので、去年は同ブロックだったとかだとしたら一応戦いますがそれだと野生が予選決勝に行ってる以上豪炎寺負けてますし。

という訳で、去年は野生中がこの特別措置で全国へ行き、豪炎寺の木戸川と戦ったんじゃないかなと考えました。

無論、先に述べたように練習試合やってたら崩れる理論なんですがこの作品ではこういうことにしておいてください。




源田幸次郎
勝った。雷門に再戦を誓い別れる。
練習量は基本的に化け物的である。体力バカたる所以。

源王の守りは破れない。

オリジナル必殺技
キングシールド:源田最強の必殺技。
強すぎて試合中の発動回数に限度がある。

イナズマワイバーン1号落とし:ワイバーンクラッシュをイナズマ1号落としで撃ち込む。
電撃を纏ってワイバーンが黄色くなる。

影山零治
不穏な人。身近に体力バカが居たんだからそれをノータッチな訳もなく……



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