東方海夢游 作:夕立
「……えぇ、本当ですとも。心配しなくともいいのですよ」
そう嘯く女はどこからどう見ても少女であった。しかしその貫禄は数十数百年程度で身につくようなものではない。
両腕の袖には八卦で言う『離』が縫い込まれ、頭の冠には太極図が象られている。
「……そう。本当にあるのね。『方士』」
そう返す女の髪は直毛の膝まで届くほどの長さの黒髪であり、その髪に滴る水は着ている服がぐっしょりと濡れた白装束一枚ということもあって妖艶さを醸し出している。が現代文明の支柱たる科学を否定するかのようにその女の肩から腰にかけて身体の周りを2つの輪が交差しながら囲っており、その輪の上をそれぞれ黒と白の球が廻っている。
そして2人ともその浮いた輪が至極当然であるかのように気にせず話を進める。
「無論こちらで『道』はすでに用意しております。ですが、もちろん『郷に入っては郷に従え』と申しますように向こうのルールには従った方がよろしいでしょう。」
「えぇわかってるわ。あのルールよね……えぇと」
「『スペルカードルール』です。八尋様」
「そうそれよ!」
2人と同席しながらもこれまで一言も話さなかった少女は口を開いて主に助け舟を出した。
少女の髪は後ろで括られ、そのキッと結ばれた口元と相まって見るものにいささかの威圧を覚えさせる。
主の方は決まりが悪かったらしく、一呼吸開いてから話を続ける。
「まぁとにかく行ってあげるわ
その忘れ去られたものたちの楽園『幻想郷』とやらにね!」
「えぇよろしくお願いしますよ。」
そう返す『方士』は笑顔で返す。が先程から彼女の目は黒く濁って何の輝きも返さず感情を読ませない。
そして主に従う従者はそんな『方士』をずっと威嚇していた。『方士』が何をしようとしているのかは知らず、だが野生的な勘でこの話には裏がある。そう感じながら。
………幻想郷にて海が現れ『現海異変』と呼ばれ、巫女が出るまであと5日の話である。
「………で、人が気持ちよく寝てるのに水をかけて叩き起こしてここまで引っ張ってきたことに対する言い訳を聞きましょうか『方士』」
「いえ、3日も待っていたのですが起きる気配が無かったので。そもそも先程から話をしていて思ったのですが、行けるようになったらすぐに呼べとおっしゃっただけでなくそもそも行きたいと先におっしゃったのは八尋様では?」
「……八尋様。水をかけたのはどうかと思いますが『方士』殿の方がどうあっても正論かと。」
「え、ほまれは私の味方じゃないの……?」
……ついでに言うと巫女がやってきた時に主が寝ていて従者の方が水をかけて起こすまであと5日でもあった。