こちらの世界に来て少し、特段問題が起きるわけでもなく、異世界から侵略されるわけでもない。我が故郷と比べてとんと平和な現代日本の生活を満喫していた俺は実に充実していた。強いて言うなら体が鈍るなー程度の事であるが腐ってもこの体は英霊のもの、その程度で性能を落とすことはないと
小林さん御一行ともなかなか仲良くなれたのではないだろうか。小林さんは俺が着た執事服が妙に気に入ったらしくことあるごとにメイド談義、執事談義という名の講義をしてくれるわけだが俺は
トールさんに関しては威嚇されっぱなしというかちょっとドライであるが原作でも敵対勢力にはこんな感じだったしいいや。雑談に応じてくれるようになっただけ嬉しい。でも訓練と称して殺しに来ることだけはいただけない。まあお遊びで殺されるほど弱くはないし鈍りを解消するいい訓練になるからいいんだけど。
そしてカンナカムイ。彼女はもともと無所属であるから調和勢とか混沌勢とか関係ない。あと物静かな割に人懐っこいので結構懐かれてしまった。出会うたび餌付けしてたのが大きいだろうか?実際は俺が外で何かを食べているたび狙ってるようにカンナがやってくるんだけどはたから見たら不審者だよね。シグルドさんボディめっちゃイケメンだから許されてるのかも。やはりイケメンは無罪なのか・・・前世の俺よ、今俺はいろいろ謳歌してるで・・・あとよく引っ付いてくる。膝の上とか肩車とか。はいそこ、携帯を置いてください。これは俺の体がトールさんと同じくマナを生産しているからエネルギー補給なのかもしれない。そう、竜種改造のスキルである。心臓が魔力炉心になっている俺は息をするだけでそれはそれは膨大な魔力とマナを生産している。型月世界と違ってこの世界のドラゴンは自力で魔力を作れる奴と周りから吸収するやつに分かれているようで、周りから吸収するやつは俺みたいなのに引っ付いてると効率がいいとかなんとか。
さてさて俺はニート万歳していたわけであるがそれは流石に世間体が悪いと思う。なのでこの金塊を売っぱらった金を元手に
「というわけで真ヶ土殿、当方を雇ってはくれまいか」
「いいけど、後で翔太にルーン魔術の講義をしてくれないかな?」
「その程度でよければいつでも。だが今はルコア殿が使い魔になってるのでは?」
「あの方はすごいんだけどちょっと大雑把でね。教えること自体もあまり得意ではないようだ。導くことは大得意なのにねえ」
「承知した。そちらの組織で使っているのは魔術文字をもとにしたものでよかったか?」
「そうだよ。これ一覧ね。とりあえずこれ覚えて出社してねー。さっきテストした限りだと即戦力だし、問題なさそうだね」
あはは、と笑う壮年の男性。この方は真ヶ土専務。小林さんが勤める地獄巡商社の専務にしてこの地域一帯の異世界人(人外も含む)を管理する守護者でもある。要はコネである、コネ入社である。ちょくちょく危ないことがあるこの世界で俺がいることにより小林さんになんかあったらえらいことなので責任を取るため同じ場所に入れてもらうことが出来た。ありがたや・・・
「本日よりここで働かせていただく。名はシグルド。どうかよろしく頼む」
ぱちぱち、とまばらな拍手が響く入社初日、真ヶ土専務に紹介された俺が頭を下げ、顔を上げると口をあんぐりと開ける聖海の巫女ことエルマ殿、めんどくさいという顔をしている小林さんに何かを察している滝谷さん。そして教育係は小林さんに決まってしまった。そして朝礼終了後・・・
「ちょっとちょっとシグルド君!どうしちゃったのさこんなところにやってきて?」
「うむ、当方も食い扶持を稼がないことには生きていけないのでな。真ヶ土殿に相談したところ快く入社させていただいた。プログラムの打ち込みは問題なくできるので安心していただきたい」
「そうなんだよかった~~じゃなくて!どうやって戸籍とか用意したの?」
「真ヶ土殿がちょちょいとである」
「待て待て待て待て!!どうしてシグルドがこの世界にいる!?君は確か西方で暴れる混沌勢の討伐を・・・」
「聖海の巫女殿、久しいな。それ自体は問題なく討伐完了である。次の任務が終焉帝の娘を監視することなだけであった。まあ早い話が左遷である。当方の戦闘力で反逆でもされたらということだ」
「この世界ではエルマだ。それは・・・その・・・お気の毒というか何というか・・・?」
「いや?当方これでも楽しんでいる。戦いだけの日々よりはよっぽどいい」
「そ・・・そうなのか・・・?お前ってこう、鬼神のように戦い続けてるからてっきりバトルジャンキーなのだとばかり・・・」
「当方、ひどい誤解を受けている。当方は戦闘は好きではない。必要とあらばためらわないだけだ」
「いや、急所ばかり狙って攻撃しておいてそれは信じられないぞ」
「合理的だからな」
「なに?エルマちゃんの知り合いなの?もしかしてドラゴン?」
「いや、こいつは人間だ。調和勢の竜殺しことシグルド。人類の最高戦力の一人だ・・・思想以外は」
「お初にお目にかかる。シグルド・フリーヴァだ」
「ああご丁寧に。僕は滝谷、好きに呼んでよ。じゃあそろそろ仕事しよっか・・・竜殺し?」
「後で先輩方には聞かせよう・・・まったく、来たからにはビシバシとしごいてやる!まずはお茶くみからだ!」
「いや、シグルド君PC使えるらしいしまずこの仕事やってみようよ。このプログラムなんだけどね・・・仕様はこの書類に書いてあるから、ちょっと打ち込んでみて」
「承知した」
小林さんから書類を受け取ってソフトを開き、仕様書を眺める。そして俺の
「うっわマジで打ててるじゃん・・・しかもきれいな配列、バグもなさそうだし、ホントに即戦力だぁ・・・!ごめん、これと、これ!あとこれもお願い!」
「うむ、承知した。小林殿と比べて少ないのが申し訳ないが当方の速度でもこの程度なら完成できそうである。感謝」
「そこは私もほら、先輩の意地があるんだよ。でもこれなら早く終われそう・・・!このデスマの中で定時退社が・・・!」
「まずいよエルマちゃん、彼予想以上に仕事できるよ。お茶くみ教えてる場合じゃないよこれ」
「なななんだとぉ!?バカな!?こいつは生粋の異世界人だぞぉ!?何をどうしたらこんなにPC操作に慣れて・・・・あっ!言葉か!」
正解。俺が修めてるメインはルーン魔術、それも原初のルーンとかいう文字を書くだけというほぼ
たぶんトールさんならエルマさんより早く習得しそう。彼女魔術それなりに詳しいし、言語理解してるし。あたふた慌てつつそれでもお茶くみや雑務に励むエルマさん、さすがまっじめー。時折俺を見てぐぬぬという顔をしているがドラゴン特有の高いプライドが傷ついたのだろうか。まっさらな状態なら流石に
そして定時退社・・・できるわけもなく。普通に残業になった。小林さんは俺の数倍の速度で仕事を終わらせていくが追加されていく仕事のほうが多い。俺も頑張るんだけど流石に脳みそは追いついてるんだけどやったことない仕事のせいなのかどうも手が追い付かない。うーんこの。もっと早く打てるようにならないかなあ。テキトーにルーン刻んで俺が加速するか?不自然だからやめるか。普通に頑張って仕事しよ。結局は継続と努力が一番っていうしね。
というわけで犬の遠吠え響くとぷんと日が暮れたあたりで今日の仕事は終わりと相成った。いやー、小林さんたちには悪いんだけど結構楽しかったな。向こうだと腐っても主戦力だったから、戦い!戦い!戦い!って感じで休む暇どころか書類仕事すらやらなかったからね。そんなことする暇あったら
「んー、終わったあ・・・!ありがとうねシグルド君。ほんとに助かっちゃったよ」
「いや、気にする必要はない。当方も勉強させてもらっている。遠慮なく使ってもらっていい」
「そう?じゃあ遠慮なく。ねえ滝谷君、エルマ、シグルド君連れて一杯どう?親睦会ってことで」
「いいねー、ファフ君も呼ぼうか!シグルド君の事聞きたいし」
「私は構わないが・・・ファフニール殿が来るのか・・・?」
「来るって。シグルド君のこと話したら即答だった」
「あのおこもり暮らしのドラゴンが一発で来るって・・・何者なのさ」
「当方珍しいことはないただの竜殺しである」
「もうその時点でおかしいんだぞシグルド」
え、そうなんですか!?ほら、この世界の人間ならともかく異世界産の人間だと人間態トールさんvsカンナのじゃれ合い程度の事なら軽くできるからワンチャン竜討伐も行けるって思ってたのに・・・確かに俺以外に竜を殺してるって人の名前聞いてないけど!しょうがねえじゃん向こうテレビもネットも新聞もないから情報源って基本噂なんだよ!情報だって真偽不明だもん!俺は悪くねえ!俺は悪くねえ!
そんなこんなで店に入り、席を確保して待っていると程なくしてメガネをかけて長い髪をかけた黒ずくめのイケメンが来た。というかファフニールさんだ。いやー、久しぶりだなあ・・・俺を見ると不快そうに眉を顰めるが彼は基本人に会うと大体こんな感じなので嫌われてはないと思う。というか嫌ってたら来ないうえに遠隔で即死するような呪いをかけてくるだろうし。
「久しいな、ファフニール殿。壮健なようで何よりだ」
「フン、貴様も死に損ねているようだな。ああ、忌々しい」
「相変わらず手厳しい。2年前は本当に世話になった」
「俺は何もしていない。貴様が勝ち取ったものだ。そこだけは違えるな」
「え?結構仲いい感じ?ファフ君ってシグルド君とどんな関係なのさ」
「一度全力で殺し合った。腹立たしいことに相打ちで終わったがな。こいつと俺は同格ということになる。ならばそれなりの態度はとる」
「ええ・・・具体的には?」
「とある国の王、まあもう滅ぼされているが・・・がファフニール殿の財宝が欲しいなどとたわけたことをぬかしてな。なまじ金だけは持っていたから当方が行くことになってしまったのだ。屠竜派にとってもファフニール殿は排除したいから、というのもあるが。結果は双方相打ち、当方の回復が遅れ、ファフニール殿によってその国は呪いの焦土と化したわけだ。エルマ殿が浄化に駆り出されたあれだ」
全力を振り絞って生き延びようとしたのは初めての経験だった。Fateシリーズの
「あーーー!あの時の!道理で人間たちが何も言わず浄化してくれっていうわけだ!ファフニールがやったんだな!?」
「フン、俺の財宝を狙うならば自分で来て力を示すのが道理だ。簡単にはくれてやらんがな。それでその竜殺しに財宝の一部をくれてやってこの話は終わりだ」
「当方としてはもう財宝を狙う理由は消えていたんだがな。もう一度戦うのは当方が確実に死ぬ、だから代わりといっては別だがその時当方が使っていた短剣を交換という形で置いて今に至る」
「あの短剣は悪くない。ルーンの配置に効果、色彩も美しく実用一辺倒の鋭さがある。貴様が死ぬときは貴様の剣を俺がもらう。バルムンクは逃したが、あれは逃さん」
「当方が死した後ならば如何様にも。屠竜派が渡すとは思えんが」
「貴様がいなくなればあとは蟻だ。滅ぼすことは容易い」
「ああもう物騒!もっと楽しい話をしよう!メイドのこととか!」
「そうでヤンス!ファフ君とシグルド君が仲良しなのはわかったでヤンス!さあ飲むでヤンスよ!」
「なっ・・・滝谷!貴様・・・」
「ふむ、エールをいただこうか」
「ビールだねーエルマは?」
「カシスオレンジ!」
この後めちゃくちゃ飲んで帰った。小林さんは酔いつぶれたので俺が送ったが危うく勘違いしたトールさんにやられかけたのをここに記しておく。