お隣さんちの竜殺し   作:カフェイン中毒

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 たくさんの反響ありがとうございます。日刊1位、死ぬほど驚きましたが私は元気です。いつまで続けるかわかりませんが今しばらくお付き合いください


竜殺し、弟子ができる

 どうも、竜殺しのお兄さんことシグルドです。仕事にもそれなりに慣れ始め、仕事量も増やすことができるようになりました。そして今日は待ちに待った休日です。なので真ヶ土専務にお願いをして翔太君のスケジュールを確保してもらいました。前に約束したルーン魔術の講座です。俺そんなに教えるのうまくないけど大丈夫かな・・・叡智の結晶(メガネ)ありゃ大丈夫か。俺この宝具なかったら野垂れ死にしてるな多分。あとでいいメガネ拭きとクリーナーで手入れしてやろう。

 

 「ところでなぜ小林殿は当方についてきているのだ?それにトール殿とカンナ殿はどこに?」

 

 「専務に呼ばれたんだよ。せっかくの休みなのに・・・トールは町内会、カンナちゃんは友達と遊ぶって」

 

 「トール殿に後で殺されそうであるな当方・・・」

 

 小林さぁぁぁん!!と涙を流して見送るトールさんの姿が幻視できそうだ。しかし何を置いてもついてきそうなトールさんが小林さんより町内会を優先するなんて・・・何があったんだろうか?

 

 「なんでも今日一日で議題を全部終わらせたら後の会合がグッと減るんだって。「小林さんと一緒にいる時間を増やすため今は我慢です・・・!でも竜殺しは消す」ってさ」

 

 「当方何も悪くないはずだが」

 

 「トールなりの冗談でしょ」

 

 冗談が冗談じゃすまないのがドラゴンであるがまあそれはそれとしていない理由は分かった。そして専務の狙いも大体わかった。小林さんに知識だけでも魔術の事を知ってほしいのかな?そうだよね、守護者界隈じゃ小林さん台風の目どころか地雷そのものだもんね。なんかあったら世界滅んじゃうもんね、しょうがないね。当方も頑張るよ、うん。

 

 そんな毒にも薬にもならない会話を繰り返して少し、立派な邸宅が姿を現した。真ヶ土専務のお宅である。でっかいなー、呼び鈴を鳴らすと少年がドアを開いて姿を現した。まだ幼いからか少女にも間違われそうな可愛らしい顔立ちである。これは小林さんが女装した姿を見てほしがるのもちょっとわかるかもしれない。そしてその後ろからゆっくり出てきた、立派な胸部装甲をお持ちで糸目な金髪かつ緑のグラデーションがかかった髪をお持ちの絶世の美女・・・元神にしてドラゴン、俺じゃ絶対に勝てない超存在ことケツアルコアトル、ルコアさんである。

 

 「やっほー小林さん、こんにちは~。あ~、シグルドくんも、久しぶりだね~」

 

 「こんにちは、小林さん。それと、えっと・・・シグルド先生、よろしくお願いします!」

 

 「ルコア殿、変わりないようでよかった。翔太殿、当方はシグルド。今日はルーン魔術について講義に参った」

 

 「は~い、それじゃ中に入ってね~。ボクにできることはお茶を出すことくらいだけど」

 

 そんな感じでルコアさんと翔太君について行って翔太君の部屋にお邪魔させていただく。小奇麗に片づけられてはいるが、うん。魔道具やらがそこかしこにおいてあるな。隠せてないぞ少年よ。その机の2重底の下にある触媒、そろそろ痛み出すぞ。魔力が抜けかかっているからな。

 

 「でも不思議だなー、ルコアさんいるのにシグルド君に家庭教師頼むだなんて。私よくわからないけど魔法なんでしょ?ルコアさんじゃダメなんだ?」

 

 「そこを説明すると長くなるんだけど・・・ボクはルーン魔術には詳しくないからね。ドラゴンは基本的にフィーリングで魔法を使うから体系だった技術を伝えるなら人間同士が一番だよ」

 

 「ふーん・・・」

 

 「小林殿に分かりやすく説明すると、ドラゴンは想像力と魔力で途中経過を無視して現象だけ呼び起こすのだ。燃えるものもないのに空間が燃えるとかそういうものだな。対して人間は、術式を用意してそれに必要な分の魔力を正確に通し、さらに起こった現象に対してコントロールを必要とする。簡単に言えば人間のほうがめんどくさいのだ」

 

 「余計わかんないんだけど・・・」

 

 「要は人間は魔法を使うのに専用のプログラムが必要だがドラゴンには基本的に必要ないのだ」

 

 「ああ、なるほど」

 

 「だから人間の魔法ってややこしくて覚えてるドラゴンって少ないんだよねー。その少ない中の一人がトールちゃんってわけ」

 

 「へー・・・」

 

 御茶を俺たちの前においてくれながらそう説明してくれるルコアさん。小林さんも分かってるのかわかってないのかわかんないけど俺も説明を付け加える。そわそわと俺とルコアを交互に見てる翔太君が待ちきれないようなのでさっさと説明に入ることにする。

 

 「さて、それでは翔太殿。貴殿はルーン魔術をどれほど理解している?」

 

 「えっと・・・意味のあるルーン文字を刻むことで発動する魔術体系で、詠唱が必要ない分早く発動できる利便性がある魔術、です」

 

 「うむ、その通りだ。が、現在使用者は極端に少ない。原初のルーンが失われた影響で弱体化したためであるな。もっとも、戦闘でならいまだ優位性は揺るがぬものだ。この世界では戦闘なんぞそうそう起こらないが」

 

 例えば、と例を挙げて持ってきたボールペンで紙に3つのルーンを刻む。守りの力を持つ『ニイド』魔除けの『エオロー』目標を達成させる『イング』、淡い魔力の光を伴って起動したそれを翔太君に見せつつ俺は戦闘で使っている短剣を取り出す。

 

 「現代のルーン魔術であるがこの3つのルーンを刻むことで守護の意味になる。直接的な盾のルーンもあるが、ルーン魔術の真価は1文字ではなく複数の文字を操って意味を作り出すこと。ルコア殿、これでこの紙を一刺し頼む」

 

 「いいよ~。それっ!!」

 

 いつも愛用している水晶のような短剣をルコアさんに投げ渡し、俺が紙を構える。ルコアさんが可愛らしい声と共に投げた可愛くない威力の短剣が紙に突き刺さり、半ばほどでその進行を受け止めた。本当だったら弾くぐらいの感じだったのになあ。まあ十分か、ドラゴンに投げられた短剣からでも身を守れる。誇大広告かもしれんが。

 

 「いま見たように、ただの紙ですら盾に変えることができる。刻むものを考えるならばもっと有用だろう」

 

 「す、すごいです!無詠唱なのに・・・!錬金術みたい・・・!」

 

 「へー、面白そう。要はプログラムみたいなもんでしょ?」

 

 「その通りだ。小林殿は理解が早い。実際組み合わせは多種多様、当方もまだまだだ。ではまず、これから作ってみるか」

 

 「それ・・・石?」

 

 「ルーンストーン、だね。文字通りルーンを刻んだ石だよ。お守りなんだけど、シグルド君が作ればワケが違うんだよね~。例えばこれ、確か・・・『ラド』だっけ?翔太君、魔力をこめてみて」

 

 「えっ?う、うん・・・うわっ!?」

 

 ルコアさんが投げて翔太君に渡した俺特性のルーンストーンの一つに言われるがまま魔力を通した翔太君、するとぶわっ!!!とルーンストーンから風が発生して翔太君の顔を叩いた。びっくりした翔太君がひっくり返るのをルコアさんが楽しそうに助け起こしてる。絶対それしたかっただけでしょ。あーあー胸で顔を挟んじゃってまあ・・・いやそうはならんだろ。なんでそんなきわどい体勢に自然になるの?

 

 「むぐむぐむぐ・・・」

 

 「うわー、強烈だわー・・・」

 

 「小林殿、目が笑っていないが?」

 

 「気のせいでしょ。それよりも面白そうだね、ルーン」

 

 「学んでみるか?」

 

 「時間ができたらねー・・・これは?」

 

 「『エイワズ』のルーンだ。協調性、協力者、ライバルなどの人間関係を表している。なるほど、小林殿にぴったりのルーンだろう。ちなみにさっきの『ラド』はチャンスを運ぶ風という意味があり、そこから転じて風を現している。だから魔力をこめた際風が起きたのだ」

 

 「何をもって私にぴったりだと思ったの?」

 

 「自覚がないのが一番たちがわるいと当方は思うぞ」

 

 「はー?」

 

 ドラゴンを次々堕とすドラゴンたらしこと小林さん、あなたを中心にしてドラゴンたちはつながっているんだぞ、と。滝谷さん風に言うならドラゴンコミュニティ、ドラゴンを当たり前のように平等に扱うというのは正直信じられないというのが本音だ。異世界で暮らしていたら猶更。彼らは人にかかわらないし、関わってきても積極的に殺しに来る。人と関わるということは彼らにとって食事か、気まぐれの虐殺・・・ほんとにこれくらいしかないのだ。理性ある強大なドラゴンは基本思慮深いので人間と関わらないから、本当に貴重なんだよね。小林さんの周りって。

 

 「ぷはっ!もうルコア!胸を押し付けないでって・・・やっぱりサキュバスじゃん!」

 

 「えええええええーーー?」

 

 「自業自得だ」

 

 「ほんっと凶悪だね・・・」

 

 「とにかく!ルーンストーンを作成しよう。うまくいけば魔力をこめるだけで使用可能になる便利な礼装が作れるぞ。モノによっては儀式魔法の触媒にできるほど魔力をため込める。宝石より安あがりだ」

 

 「はっはい!よろしくお願いします!」

 

 「承った」

 

 ガリガリ、と石を彫刻刀で削る音が響く。もちろんただの彫刻刀で石を奇麗に削ることはできないので彫刻刀を魔力で強化しながら、魔力コントロールの訓練を兼ねているルーンストーン作り。実際いい訓練になる。俺の場合、原初のルーンを使う関係上如何に速く、手短にルーンを描くかの技術が必要なのでルーンストーン作りはよくやった。まだ無所属だった頃、案外いい値段で売れるので路銀稼ぎにも使ったりしたし。

 

 ちなみに小林さんもやりたかったようなので俺が彫刻刀をルーンで強化して参加してもらっている。翔太君が刻んでいるのはキャスターのクーフーリンがよく使っている『アンサズ』のルーン。炎を現すだけでなくその光で真実を知らしめるのが本来の意味だ。炎のルーンは俺使わないけど。シグルドさん、戦闘で炎のルーンは使わないように心がけてるから俺もそれにならっている。例外はあるけどな。小林さんは『ウィン』。家族の幸せ、安らぎに愛と調和を意味しており、知らずにそれを選んだ小林さんはやっぱり根底からいい人なのだろう。ルーン選びでそれがにじみ出ている。

 

 「出来ました!これで魔力をこめて・・・あれっ?」

 

 「よーしできたー。結構面白いねこれ、でも腰に来るなあ」

 

 翔太君が出来上がったルーンストーンに魔力をこめる。するとポッとマッチ程度の火がともった。うーんちょっとルーン歪んじゃってるしこんなもんか。手彫りだし正確に描くにはコツがいる。小林さんの方も悪くはないけど実戦で使用できるかといったらノーかな。お守りにするにはちょうどいいかも、とこっそり魔力をこめておくことにする。実際に効果があるお守りの完成である。

 

 「うーん、ちょっとルーンが歪んじゃってるかな?自分の魔力でそれだと他人が使えるものになってはなさそうだね~。ルーンを極めた人は他人の魔力でも本来の威力が出せるのさ。シグルド君のようにね」

 

 「そうなんだ・・・」

 

 「文字を書く、確かにそれだけの魔術だが極めるというのは難しい。当方もルーンの深淵に到達したとはとても言えん。だが初めてなのに成功させたのは素晴らしい。才能はあるぞ」

 

 「あー!ずるーい!それは僕の役目だぞ!」

 

 ちょっと落ち込んでしまった翔太君を慰めるため褒めながら頭を撫でるとはにかんでくれた。なるほど確かにかわいい。ルコアさんが夢中になって致そうとするのがよくわかる。一瞬衝撃で叡智の結晶(メガネ)が割れるかと思ったが取り合えず耐えてくれたのでよしとする。叡智は伊達じゃない! そして俺の手をぺしっとはたいて翔太君を取り戻した(と思っている)ルコアさんはその豊満すぎる胸に翔太君を埋めて慰めているが学習したまえよ神様。全力で抵抗してるぞお前の主様。ジタバタジタバタと抵抗する翔太君が哀れになったのですぽっと引っこ抜いて抱き上げてやる。小林さんは我関せずでずずずとお茶をすすっているが。

 

 「あーーー!翔太君返して~!」

 

 「これ以上は窒息の危険があるので没収である」

 

 「僕はモノじゃないよー・・・」

 

 そんなこんなでこれ以降もルーンストーン作りとルーンの組み合わせなどのルーン魔術の講座を続けた。もちろん教えるのは現代版ルーンである。原初のルーンは危なっかしくて小学生に教えられるか!暴発したら簡単に家一つ吹っ飛んだりするからな!文字一つで!本気で魔力こめればドラゴンすら吹っ飛ばす産物だからな!教える人はちゃんと選ばないと。組み合わせようもんならそれはもうすごいことになるのが請け合いである。

 

 「では、邪魔をした」

 

 「結局専務はなんで私呼んだんだろ」

 

 「さてな」

 

 「あ、あの!」

 

 「ん?」

 

 講座を終え、そろそろ帰るかと切り上げて玄関で靴を履いていると見送りに来てくれていた翔太君が意を決したように顔を上げて声をかけてきた。ルコアさんは今回は手を出すつもりがないらしく傍観するっぽいな。でもその薄く目を見開いてオッドアイを見せつけてくるの怖い。なんかの圧力が出てるように見えるけど?

 

 「どうした?」

 

 「お、お願いします!僕を弟子にしてください!」

 

 「弟子入り?当方にか?」

 

 「はい!今回ルーンの事を軽く教えていただいて、もっと知りたいと思いました!お願いします!」

 

 弟子入り、弟子かあ・・・ん?まさかとは思うけど真ヶ土専務こうなることを見越して・・・?あの人ならありうるな、未来予知できるし。仕組まれてたかあ・・・ま、いっか。才能はあるしそれを磨いてみるのもいいのかもしれない。戦いばかりの異世界生活より後進を教え導くほうが個人的にはよっぽどいい。というか最高じゃん。断る要素ゼロですね。

 

 「・・・いいだろう。翔太、お前には才能がある。当方はそれを磨いてみよう。ルコア殿、構わないな?」

 

 「マスターの決めたことにボクが反対するわけないでしょ」

 

 「では、翔太。今この時よりお前は当方の弟子になる。厳しく指導するので覚悟するように」

 

 「はい!よろしくお願いします!師匠!」

 

 

 思いがけず弟子ができ、個人的にどう指導したものかを考えながら帰り道を歩いてると小林さんがにやにやしながら肘でつんつんと俺の事をついてきた。何をするんじゃい。

 

 「かわいい弟子ができたじゃん、よかったね」

 

 「ああ、あの才能をどう光らせていくか・・・腕が鳴る。実に鍛えがいのある弟子だ」

 

 「異世界の竜殺しの弟子かぁ・・・すごいことになりそう」

 

 「ルコア殿が使い魔な時点でもうとんでもないことなのだが」

 

 「それもそっか」

 

 弟子を取るのは初めてなので、大切に育てようと思った。人に利用されてばっかりの人生だけど、たまにはこんな利用のされ方も悪くないな。

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