短編集   作:二ベル

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悲劇も惨劇もいらない、必要なのは・・・喜劇だ。




あえて、アレの名前は言いません。
無理な人は無理です。ええ。勝てるわけがないのです。


黒竜は死んだ

【隻眼の黒竜が遂に討たれた。】

 

それは下界全土に知られた大大大大ニュースだった。

迷宮都市オラリオから遥か北へと進んだ先、黒竜が飛び立ったその先、世界の端っこで全ての決着が付いた。

 

しかしその戦いでもやはり、犠牲は大きかった。

 

聖女と狐人のメイドは顔を青くして怯え

剣姫は黒い竜巻を起こして半ば暴走を起こし

万能者は眼鏡を割られ、泣きじゃくり

王族妖精は同胞の正義の眷族たる妖精に止めれ

妖精にあるまじき悲鳴を上げた山吹色妖精はその馬鹿魔力を持って土地ごと焼き払おうとした。

女達はいいようにあしらわれ、その柔肌を辱められたのだ。

 

しかし、被害はそれだけに飽き足らず。

 

 

【猛者】は戦いの後、美神に『しばらく近づかないで・・・』と言われ膝から崩れ落ち

【凶狼】は『これが・・・黒竜・・・だと・・・?』と目をあらん限り見開き、ピクピクと苛立ちを露にし、

赤髪の鍛冶師は、壊れることのない至高の魔剣を大地に突き刺して、帰りを待つ愛する女神に想いを馳せ

【益荒男】は帰りを待つ同郷の少女に『俺は貧乳がいいんだ・・』などと意味不明なことを心の中で呟き

【非凡夫】は『俺、こんなことで英雄になりたくないっす・・・・』と涙を流し

【勇者】は親指を舐めることをやめ吸い付いた。幼児退行であった。

 

 

そして、『成長促進の共有』などという馬鹿なスキルを発現した1人の白兎は冒険者達の前で膝から崩れ落ち、今や迷宮都市で帰りを待ってくれている『死んだと思ってたら生きてた』血縁の義母と、叔父を名乗る大男に心の中で大いに叫んだ。

 

 

『こんなことで、最後の英雄になりたくなかった』と。

 

 

日が昇れば、日は落ちる。

それに呼応するように、冒険者達はギリリ・・・と拳を握り締めて、あの真っ赤な憎たらしい太陽に向かって吠えた。

 

 

「「「「フッざけんなぁああああああああああ!!!」」」」

 

 

 

冒険者達の、眼前には、大穴が開き風通しのよくなった山脈と蒸発した湖に、森林は氷山に、とにかく地形というかいろいろ変化してしまったが、そのすぐ近くの地面には黒竜だったもののシミができているだけだった。

 

 

冒険者達は1週間という現実逃避の末、御通夜みたいな顔でオラリオへと帰った。

住人達は大いに混乱した。

神々は阿鼻叫喚、咽び泣いて大喜び。

 

『よくやった!! アレはさすがに俺達も無理だ!! お前達こそが、英雄だ!!』

 

歴史に、刻まれた瞬間である。

 

 

■ ■ ■

 

 

「で、お義母さん。話があります。」

 

「・・・・・・」

 

「叔父さん、逃げないで。」

 

「・・・・・」

 

 

それは、【ロキ・ファミリア】本拠、黄昏の館の中庭にて行われた宴会・・・などではなく、尋問であった。

 

代表者は二つ名【終末兎(フィーニス)】を賜る、兎を彷彿とさせる少年である。

ベル・クラネル14歳。

所属派閥【アストレア・ファミリア】Lv.9

神ロキにオラリオ到着時に派閥に勧誘されたものの『胸が大きくて優しいお姉さんみたいな神にしろって死んだおじいちゃんに言われたから』という理由でアッサリと、そしてグッサリと神の胸を抉り都市を彷徨い続けたところ、まさしく『ザ・お姉さん』な女神。女神の中の女神、アストレアに出会い、逆ナンされ派閥に加入。

成長促進スキルだけでなく、それを共有するスキルまで発現させた結果、神々に『あ、こいつが全部終わらせるんじゃね?来たんじゃね?ビックウェーブ来たんじゃね?』と噂され、終末を冠する名を与えられた。

 

しかし本人としては、住人達に『週末は何してますか? 私達の仕事、ちょっと手を貸してくれませんか?』などと言われ、週末の日曜大工でもするお父さんの気持ちをこの時、父親がいないにもかかわらず兎は体感した。

 

兎は女神に抱きついて、泣いた。

 

 

閑話休題。

 

 

中庭に設けられたテーブルには、今回の黒竜討伐に関わった冒険者・・・派閥の代表者たちが集まっていた。そして、過去、その黒竜と戦い滅んだ実績を持つお方をゲストにお迎えしたのである。2人は気まずそうに、『ぷいっ』と目をそらした。

 

ちなみに2人は【戦場の聖女】によって時間をかけて治療されるどころか、彼女がLv.5にまで上り詰めた際に発現したスキル【聖なる献身(ノブレス・オブリージュ)】なるスキルによって、生まれ持った不治の病まで治せるようにまでなった。

 

兎は泣いて喜び、聖女に求婚した。

女神に怒られた。

 

 

「お義母さん」

 

「・・・・なんだ」

 

「どうして、黒竜のこと、教えてくれなかったんですか? 本当に、負けたんですか? アレに」

 

少年の言う『アレ』に、周りにいる冒険者達はコクコクと首を縦に何度も振った。

思い出してしまった女性陣は両腕を抱きかかえるようにして震え上がった。

 

 

「どう考えてもありえねぇだろ・・・どうすればアレで壊滅するんだよ・・・」

 

鍛冶師が言った。

 

「ザルド・・・正直に答えろ。貴様等、何があった」

 

猛者は美神に『しばらく帰ってこないで・・・』と言われ今や偶然、雨の中都市を彷徨っているところをツインテールのロリ巨乳女神(眷族はいない)に出会い保護され居候していた。じゃまる君の売り子が新たに大きなお友達が加わっていたのは言うまでもない。

やがて観念したかのように、2人はそれぞれ、しぶしぶ、口を開いた。

 

あの、冷酷にして、冷徹にして、冷血のアルフィアが、今まで見た事がないくらいにいやそうに口を引きつらせ、両腕を抱き、摩り、

 

あの、『何でも食べちゃう系おじさん』な【暴食】のザルドが、今まで見た事がないくらいに頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

 

 

『見るがいい神々よ!! これが最強派閥の成れの果てだ!!』

と何処かで旅行帽を被った神が言ったような気がした。

 

 

「・・・・・アレはさすがに私でも無理だ。悲鳴も上げる。」

 

「どんなにレベルが高い女であろうとも・・・アレの前には生娘も同然だった。【ヘラ】の眷族達は良い様に辱めを受け、【ゼウス】の眷族は・・・阿呆共はそれを見て興奮し、錯乱に陥った女達に巻き込まれて・・・やがて・・・」

 

 

「「全滅した」」

 

 

ひゅぅ~。と冷たい風が肌を撫でた。

アルフィアは愛息子であるベルからポンチョをかけられ、『優しい子に育って私は嬉しい・・・・メーテリア、見ているか?お前の子は立派になったぞ』と空に向かって呟いた。

ザルドは、まるで真っ白に燃え尽きたように大地に目を向けて乾いた笑みを浮かべながら、『常識人でさえ狒々爺のせいで巻き添えをくらって・・・このザマだ。オッタル、これが、頂に上った者の末路だ。いずれお前もこうなる』と、2人して謎に哀愁に満ちていた。

 

 

「・・・黒竜って、山より大きいって・・・」

 

「乳房の大きい女は・・・・山脈。などと言うだろう?」

 

「つまり?」

 

「黒竜は女の乳房を登りきった。そして飛び立った。ほら、山を飛び越えたぞ」

 

「・・・・・・」

 

「じゃ、じゃぁじゃあ!!」

 

 

そこで少年だけに質問させるのはよくないと思ったのか、山吹色妖精レフィーヤ・ウィリディスLv.7が手を上げる。

 

「そ、その・・・『隻眼』っていうのは?」

 

「ああ、レフィ、僕見ましたよ。」

 

「え? ベル? どういうことですか?」

 

「触覚・・・そして、確かに片目はありませんでした。ほら、1番大きかった人ひとりが入りそうな魔石を持った巨大なやつです」

 

「嗚呼・・・確かに、唯一奴の片目を潰せた最強の英雄がいた」

 

「なんで滅んだの?」

 

 

その質問に、少しだけ間が開いた。

顔色を悪くしガタガタと震えるのはザルドだった。

逆に、黒いオーラを噴出したのはアルフィアだ。

 

 

「お前の」

 

「父親が」

 

「私の妹を」

「ヘラの眷族を」

 

「「孕ませたからだ」」

 

 

少年の喉から、『こひゅっ』という謎の音が鳴った瞬間である。

黒竜討伐に失敗した二大派閥は、錯乱した女達、そしてその痴態を見て興奮したどうしようもない狒々爺の眷族達にキレた女神によって起こされた【ラグナロク】によって滅んだ。

そして命からがら生き延びた少年の父はどういうわけか、アルフィアの妹・・・少年の実母を孕ませた。これにはザルドも『あいつ何やってんだ!?』とガタガタと震えた。

 

 

【ヘラ】は激怒した。

必ず、かの邪知暴虐の狒々爺(ゼウス)を除かなければならぬと決意した。

ヘラには孫の居場所がわからぬ。ヘラは、最強最悪(クレイジーサイコ)である。泣き腫らすアフロを指を指して笑い、眷族を可愛がりながら暮らしてきた。けれども浮気(ゼウス)に対しては、人一倍に敏感であった。

 

それでも【ヘラ】には無理だった。

というか、無理な物は無理だった。

 

 

「私とて女だ・・・あのような、黒光りする存在・・・無理だ」

 

「そう言えば昔、お義母さんが『きゃぁっ!?』て悲鳴を上げて次の瞬間家が吹き飛んでたことがあったなぁ・・・」

 

「つまり貴様等は、あの黒光りするアレを倒せる存在を生み出すために大抗争を起こしたと?」

 

「「そうだ」」

 

「馬鹿じゃねーか」

「阿呆じゃねーか」

 

「いくら死者が0だったとはいえ・・・本拠で寝ているアリーゼ達にどう説明すればいいのやら・・・」

 

大抗争は死者0に終わった。

理由があるとすれば、冒険者のレベルが思ってたより高かったことにあった。【勇者】の親指はそれはもう痛みまくった。

かつての最強派閥は、どこか頭がおかしかった。

というか、オラリオの冒険者は考え方がおかしかった。

 

 

「ね、ねぇ・・・ベル?」

 

「どうしたの、アイズ?」

 

くいくいっと少年の袖を引っ張るアイズに振り返ると、彼女はオロオロとしながら少年に聞いてくる。それはかつて行ったエダスの村についての質問であった。

 

「あの鱗ってもしかして・・・」

 

「たぶん・・・卵・・・」

 

「きゅぅぅぅぅ・・・」

 

「アイズさぁぁぁぁん!?」

 

「誰か、誰か担架を!! アイズは倒れた!!」

 

『竜の鱗を祀る村』は『アレの卵を祀っていた村』ということであった。万能者に探知機を作ってもらい大急ぎで第二第三の黒竜が生まれないように未然に防ぎに行ったところ、すでにその卵は死滅していた。世界は守られた。

 

 

「で、でも、お義母さん、強いじゃん!! 叔父さんだって!!」

 

「ベヒーモスとリヴァイアさんを倒して、黒竜がまさかアレだとはさしもの貴様等であっても思いもしなかったのだろう。俺であっても予想外だったのだ【終末兎(フィーニス)】」

 

「オッタルさん・・・・いや、その、じゃが丸君の篭、降ろしてくださいよ。どんだけ入ってるんですかそれ」

 

「休憩中だ」

 

「大丈夫なんですか?」

 

「・・・あと5分で帰る」

 

「あ・・・はい」

 

 

じゃが丸君の屋台は、屈強な男が真っ白なエプロンに、謎の触角をつけて売り子をしており、『じゃが丸君猪味』なるものまで開発されていた。

なお、開発者は彼の派閥の治療師である。

彼女曰く、『くっそうける』という理由で造られた。

売り上げは上がり、店長は喜んだ。

 

 

「ベル! お前だってわかるだろう!? 」

 

ドン!!と机に拳を叩きつけて、訴えかけてくるのは義母であった。

その目には『わたし、悪くないもん!!』というのが見え見えであった。

 

 

「な、何が?」

 

「あんなものが、お前の愛しの女神の衣服の中に入り込んでみろ!!」

 

「こ、この世の終わりだぁ!?」

 

「そうだ! そういうことだ!! 私達【ヘラ】の眷族はいいようにあしらわれ、辱めを受けた!! ああ、二度と思い出したくない!! 1匹倒したと思ったら、30匹いるんだぞ!?」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 

「レ、レフィ!? しっかりぃ!?」

 

「カサカサと・・・ああ、痒くなってきた!! 私は風呂に入る!! 付いて来いベル!! たまには背中を流せ!!親孝行しろ!!」

 

「そ、そんなぁ!?」

 

 

屈強なドワーフであろうとも、心は乙女。鎧の中に入り込まれれば悲鳴を上げるし、ドレスをまとった魔導士とて乙女、生娘のような悲鳴を上げたくもなる。

奴に対抗できるのはごくごく稀な存在だったのだ。

それは男とて例外ではなかった。

苦手なものは多いのだから。

ザルドでさえ、アレを食べるのは憚られた。というか、仲間達に全力で止められた。喰ったら追い出すとまで脅迫された上で。

 

 

「じゃ、じゃあ・・・隻眼黒竜(コック・りゅう)っていうのは一体どこから・・・?」

 

「大量にいただろう?」

 

「う、うん・・・」

 

「あいつ等は、群にして個。個にして群。つまり・・・」

 

「「「「つまり・・・???」」」」

 

 

「空を飛ぶ奴等の群体、それはまさしく・・・『黒竜』のようだったのだ」

 

 

「俺も最初あれを見たときは震えた。オラリオの女神共も裸で逃げ出すだろうよ・・・不思議と、ベヒーモスの方が優しいとさえ思えたほどだ」

 

「生理的嫌悪には、いくらレベルを上げようと・・・ダメだ・・・すまん、ベル・・・」

 

 

「僕は悲しいよ・・・そんな理由で・・・僕は天涯孤独の身を味わっていたなんて・・・」

 

 

 

【ヘラ】は激怒した。

必ず、かの邪知暴虐の狒々爺(ゼウス)を除かなければならぬと決意した。

ヘラには孫の居場所がわからぬ。ヘラは、最強最悪(クレイジーサイコ)である。泣き腫らすアフロを指を指して笑い、未だ会った事もない孫に会った時にどう可愛がってやろうかとニコニコしながら暮らしてきた。けれども糞爺(ゼウス)に対しては、人一倍に敏感であった。孫を天涯孤独の身に晒し泣かせた奴だけは除かねばならぬと決意した。

とりあえず通りすがりにアフロとヘルメスがいたので、泣かせた。

 

 

 

 

 

 

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