絢の軌跡   作:ゆーゆ

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序章
新たな門出


「いい風だ。新たな門出にはもってこいといったところか」

「うん、晴れてくれて何よりだね」

 

昨夜から宿泊していた「キルシェ」で遅めの朝食をとり一休みした後、2人は駅前広場周辺を散策していた。理由は単純、起床の時間が早すぎたため、時間を持て余しているからだ。ノルドの民の朝は早い。入学式の時間に合わせて目覚まし時計をセットしたものの―――自然と目が覚めてしまっていた。ガイウスに至っては、アヤが目を覚ました頃、身支度を終えていたほどだ。

 

「じゃあ、私はベンチで休んでるから」

 

昨晩に見つけたベンチに腰を掛けながら、アヤはガイウスに向かって言う。

 

「すまない、すぐに戻る」

「ゆっくりでいいって。時間はあるんだし」

 

ガイウスが向かった先は、橋を越えた先にあるトリスタ礼拝堂。橋を越えたすぐ先に礼拝堂があることは、チェックアウトの際にキルシェのマスターが教えてくれた。

一方の私は、ベンチに座りながら目を閉じ、眉間にしわを寄せていた。

 

(落ち着かないなぁ)

 

ノルドでの生活が長かったせいだろうか。僅か一晩とはいえ、「物」で溢れる周囲の環境に、違和感を抱いてしまう。過去に慣れ親しんだ筈の環境なのだが、どこかしっくりこない。その影響なのだろう。十二分に睡眠をとったはずが、気怠さを感じる。

私でさえこれなのだ。表情には出さないが、彼も一種のストレスを感じているのかもしれない。礼拝堂での一時が、少しでも癒しになってくれればいいのだが。

 

「野太刀・・・・・・いや、長巻か。珍しいな」

 

長巻という言葉に思わず反応し目を開けると、前方には私と同じ制服に身を包んだ男子が立っていた。彼の興味深げな視線の先にあるのは、私が抱きかかえるように手にしていた「得物」。

 

「あ―――すまない。起こしてしまったか」

「ううん、眠ってたわけじゃないから。気にしないで」

 

ばつが悪そうに頭を下げる彼に対し、いいからいいからと勢いよく手を振る。

 

「えーと。お互い士官学院の新入生、で合ってるよね?」

「ああ。リィン・シュバルツァーだ。よろしくな」

「私はアヤ・ウォーゼル。こちらこそよろしく」

 

お互いに名を名乗りあった後、私とリィンは軽く握手を交わす。

差し出された手に思わず反応してしまったが、不快感は少しも無かった。

 

「でも、これが長巻だってよく分かったね?麻袋で包んでるのに」

「そのことか。最初は野太刀か槍かと思ったんだが、重心に違和感があったからな」

「なるほど。お互い、東方の剣術や武具の心得があるってわけか」

 

言いながら、私は彼が背負う紫色の包みに視線を向ける。長さから察するに、おそらく太刀の部類だろう。

 

「君も俺と同じ色の制服なんだな。少し安心したよ」

「・・・・・・やっぱりこれ、気のせいじゃなかったんだ」

 

そう。そうなのだ。

ちらほらと同じ新入生と思われる生徒は見かけるものの、その誰もが緑色の制服を着ている。たまに純白の制服を目にしたが、私とガイウスのように紅色の制服を着ている生徒を見たのは、目の前にいるリィンが初めてだった。留学生用の特別仕様、という可能性も考えていたが、どうもそれも違うようだ。

 

「いずれにせよ、アヤとはまた入学式で会うことになる気がするよ」

「それには同感。もしかしたら、同じクラスなのかも」

「そうだな。その時はよろしくな」

 

「それじゃあ、また」と軽く手を振りながら、リィンは士官学院の方に歩き出していった。それと入れ違うように、ガイウスがこちらに向かって歩いてくる。

 

「もういいの?」

「ああ。今のは?」

「同じ士官学院の新入生みたい・・・・・・さて、私達もそろそろ行かないと」

「もうそんな時間か」

 

気付けば、そろそろいい時間帯になっていた。

私達は足早に、士官学院を目指して歩き始めた。

 

__________________________________

 

「―――ご入学、おめでとーございます!」

 

校門を抜けた先で突然向けられた言葉に反応し、足が止まる。

私たちを出迎えてくれたのは、緑色の制服を着た女子生徒と、整備屋のような服装の男性だった。

 

「えーと。ガイウス・ウォーゼル君と、アヤ・ウォーゼルさんでいいんだよね?」

「あ、はい。どうも初めまして」

 

私達の名を知っているということは、受付係か何かだろうか。案内書には、直接入学式の場である講堂に向かうようにとあったはずだが。いずれにせよ、少なくとも制服を着た女子生徒の方は、おそらく先輩に当たるのだろう。

 

「2人とも、遠いところからご苦労さま。昨晩はよく眠れたかな?」

 

思わず、私とガイウスの視線が交差する。女子生徒の言葉が意味するところは、私とガイウスの事情を知っているということだ。

 

「さすがにノルドは遠すぎるからね。それを配慮して、宿泊の手続きや申請をしてくれたのは彼女なんだ。お礼を言っておくといい」

「そうだったんですか。ありがとうございます」

「感謝します。助かりました」

 

私とガイウスの言葉に、女子生徒は「いいよいいよ」と謙遜の言葉を繰り返す。

 

「それが申請した品かい?いったん預からせてもらうよ。」

 

整備屋姿の男性が、私とガイウスの得物を肩に担ぐ。失礼ながら、初めは学院の教職員かと思ってしまっていたが、彼も女子生徒同様、私達の先輩なのだろう。

 

「入学式はあちらの講堂であるから、このまま真っ直ぐどうぞ」

 

____________________________________

 

「さすがに広いな。それにすごい人数だ。俺たちはここで授業を受けるのか」

「なわけないでしょ。ここは講堂。授業は各クラスの教室でやるの」

 

弟の無自覚なボケに突っ込みを入れながら、自分の席を探す。

案内書によれば席順はあらかじめ決まっており、私とガイウスの席はかなり離れているようだ。

 

「そろそろ始まるようだな。席についた方がいいんじゃないか?」

「そうだね。じゃあ、私の席は向こうだから」

「俺の席は・・・・・・あれか」

 

ガイウスが自分の席へと向かう。無意識に、目線が彼の背中を追ってしまう。

ただの入学式だ。心配性にも程がある。そろそろ、自分の心配をしてもいい頃だ。

 

(今日から私も士官学院生か・・・・・・うん、気合入れていかなくちゃ)

 

今日この日から、新しい地での新しい生活が始まるのだ。気を引き締めていかないと。

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