絢の軌跡   作:ゆーゆ

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2人の未来を

一般的に馬の年齢は、4を掛けることで人間の年齢に例えられる。

あくまで一般論だ。馬と関わりのある者からすれば、やはりその計算方法はしっくりこない。

 

「い、イルファ!?」

 

彼女は3歳馬だから、先程の通りに計算すると12歳になってしまう。

そこまで幼くはないはずだ。体感的には、17~18歳ぐらいだろう。私とほぼ同い年だ。

以前は可愛い娘のような存在だった彼女が、いつの間にか私と肩を並べる程度に成長してくれた。

 

「はっはっは。お主には流石に分かるようだな」

「当たり前ですよ・・・・・・驚きました。どうしてイルファがここに?」

 

ゼンダー門から私達の集落まで、距離としては約300セルジュ。

トリスタとヘイムダルを繋ぐ鉄道が400セルジュ位だから、相当な距離になる。

実習中の移動手段を含め、ゼクス中将が馬を用意してくれていることは事前に知らされていた。

だがイルファは私達一族が飼う馬だ。こんなところで会うとは思ってもいなかった。

 

「トーマが手配してくれたそうだ。すまない、最後の隠し事だったな」

「そうなんだ・・・・・・うん、素直に喜んだ方がいいみたいだね」

 

イルファの首筋をゆっくりと撫でる。

毛並も艶もいい。見たところ健康そうで何よりだ。

 

「ほう、これがノルド本場の馬か。その牝馬はお前に懐いているようだな」

「ユーシスさん、分かるんですか?」

「馬は見た目以上に記憶力がいい。種族の輪を超えて、他者との絆を重んじる生き物だからな」

 

ユーシスが言うように、人間の言葉もある程度は理解できるとも言われている。

その点については定かではないが、少なくともイルファは私のことを覚えてくれているようだ。

 

私が集落を訪れてからすぐに、この地に生を受けた彼女。

私にとっては大切な家族の1人だ。今のところは、双子の妹のようなものだろうか。

 

「よろしくね、イルファ」

「ぶるるっ」

「あはは」

 

身を寄り添うようにして、イルファの背に頭を預ける。

懐かしい匂いだ。ユーシスが言うように、やはりノルドで逞しく生きる馬の匂いは一味違う。

 

「はは・・・・・・何ていうか、今更だけどさ。やっぱりアヤはノルドの民なんだな」

「同感ね。私も漸く実感が湧いてきたわ」

「遅すぎるでしょ、2人とも・・・・・・」

 

本当に今更な感想だ。とはいえ、無理もないのかもしれない。

ガイウスならその出で立ちで簡単に連想できるかもしれないが、私となれば話が別だ。

共和国人の特徴が色濃い私の外見からは、ノルドとの関連性は見出すことができないだろう。

 

「さて、そろそろ出発しよう。余り時間が無いからな」

「そうだね。ギリギリ間に合うかどうかってところかな?」

 

陽の高さから考えて、半刻を過ぎる頃には日が落ち始める頃合いだ。

馬の脚を考慮して、ペース配分も考えながら走る必要がありそうだ。

 

「俺とアヤが先頭に立つ。リィン達は離れないようについてきてくれ」

「分かった。行こう、みんな」

 

はやる気持ちを抑えるようにして、手綱を握る。

日没までに到着すれば問題ない。皆―――待ってくれているはずだ。

 

_____________________________________

 

「日が落ちてきましたね」

 

アリサの後ろに座るエマが上空を見上げながら呟く。

どうやら彼女も馬の背には慣れてきたみたいだ。

初めは強張っていた表情も、今では乗馬を楽しむ余裕すら感じられる。

 

「集落まではもうちょっとだよ。そろそろ見えてきてもいいぐらい」

「・・・・・・もしかして、あれがそうかしら」

 

視線を戻すと、確かに集落の入り口が僅かに見え始めていた。

どうやらギリギリ間に合ったようだ。

少し心配だったが、中将が用意してくれた馬の脚が良かったおかげだろう。

 

少しずつペースを落としながら、入り口にそびえ立つ木製の門をくぐる。

所々に設けられたゲルの煙突からは、モクモクと白い煙が流れ出ていた。

皆で夕餉の支度をしている最中なのだろう。近づくにつれ、懐かしい匂いが鼻を刺激してきた。

 

「お疲れさま、イルファ」

「ヒヒィンッ」

 

全身に汗を浮かべたイルファが息を荒げながら唸り声を上げる。

時間が無かったこともあり、かなり無理をさせてしまったようだ。

明日からはまた彼女の脚が必要になる。今日はゆっくりと休息を取らせてあげよう。

 

「ここがガイウスとアヤの故郷か・・・・・・」

「不思議と郷愁に誘われるような光景だな」

「ここに定住しているわけじゃないけどね」

 

遊牧民の名の通り、私達は定期的に居住地を移動させながら暮らしている。

とはいえ、何の当てもなく移動するわけではない。

季節に応じて移住する地はほとんど決まっているのだ。

 

それに遊牧だけで全てをまかなえる程、この地での生活は生易しいものでもない。

定住が必要となる作物や物品を入手するためには、他文化との交易が必須となる。

そういった意味でも、ノルドと帝国との間には昔から交流があったのだ。

 

「そろそろ次の移動の準備もしないといけない時期だね」

「ああ、そうだな。さて、まずは俺達の実家に案内するか」

「うん、長老達に紹介するのは後でも―――」

 

私の言葉を遮るようにして、懐かしい少女の声が耳に入ってきた。

 

「あんちゃーん!!」

「リリ!」

 

膝を地面に下ろしたガイウスの胸に、リリが駆け足をそのままにして飛び込んでくる。

どうやら馬の足音で私達が帰ってきたことに気付いていたようだ。

 

「おかえり、ガイウスあんちゃん、アヤおねーちゃん!」

「ああ、ただいまだリリ」

「ただいまリリ。あはは、相変わらず―――っとと」

 

リリに続いて、私の腰元にもう1人の妹が勢いよく抱きついてきた。

思わず倒れそうになる。そんなに強く抱きしめなくても、逃げはしないのに。

 

「いいタックルだね、シーダ」

「おかえりなさいっ・・・・・・アヤおねーちゃん。会いたかったよ」

「私もだよ。ただいま、シーダ」

「トーマも元気そうだな」

「へへ、あんちゃんとねーちゃんこそ。おかえりなさい、2人とも」

 

3ヶ月振りの、短いようでいて待ち焦がれた再会。

見れば、シーダの目元にはうっすらと涙が浮かんでいた。

勘弁してほしい。涙腺が脆くなった私にとって、彼女の表情は心打たれるものがある。

 

兄弟同士で再会の感動を分かち合った後、リィン達はお互いに改めて名を名乗り合った。

彼らのことは手紙でトーマ達に知らせている。

外見だけで名前が一致することだろう。

 

「2人とも、良き友に恵まれたようだな」

 

(あ―――)

 

背後から掛けられた言葉に、再び心を揺り動かされる。

その落ち着き払った低い声の持ち主には、心当たりは1人しかいない。

 

「お義父さん・・・・・・お義母さん。ただいま戻りました」

「フフ、お帰りなさい。アヤ」

 

ラカン・ウォーゼルと、ファトマ・ウォーゼル。

私に本物の愛情を注いでくれる、掛け替えのない両親。

2人の導きが無ければ、私はアヤ・ウォーゼルとしての第2の人生を歩むことは無かった。

 

「その・・・・・・あはは。こんな形で帰ってくることになるなんて、思っても―――」

 

不意に、ふわりと温かいものに身を包まれるような感覚に陥る。

気付いた時には、私はお義母さんの両腕と胸の中にいた。

 

「無事に戻ってきてくれてありがとう。こんなに早くあなたの顔が見られるなんて・・・・・・風と女神のお導きに感謝しないとね」

 

勘弁してほしいと、さっきから言っているのに。

このタイミングでこんな風に優しく抱きとめられては、我慢できるはずもない。

 

「お義母さん・・・っ・・・」

 

私達のアヤになってくれないかしら。

今でも覚えている。それが、全ての始まりだった。

紛れもない、アヤ・ウォーゼルの生みの親だ。

 

私は何て幸せ者なのだろう。

特別実習の最中に、こんないい思いをしてもいいのだろうか。

 

「・・・・・・これが、家族なのよね」

 

アリサの呟きが、心に刺さる。

昼間にあんな体験をした彼女からすれば、今の私の姿に思うところがあるのだろう。

だからといって、遠慮する気は起きない。

アリサが言うように、これが家族だ。

彼女もきっと、いつか分かり合える時がくる。

少なくとも―――私はそう信じたい。

 

______________________________________

 

お義母さんが振る舞ってくれた御馳走を堪能した後、私達は小休憩を取りながらお義父さんの話に耳を傾けていた。

このノルドが現在置かれている状況は、知識としてリィン達も知っている。

帝国史や政治経済の教科書にも載っている事情なのだから、当然だ。

それでもこうして現地で生の声を耳にするのとでは、大きな違いがあるのだろう。

 

「ねぇねぇ、あのヘンテコな杖はなーに?」

「あれは魔導杖っていって、導力式の杖なんだよ」

「まどーじょー?」

 

一方の私は一緒になってお義父さんの話を聞きながら、リリの話し相手をしていた。

リリは私の膝の上に乗りながら、好奇な目をリィン達に向けている。

集落から出た経験が少ない彼女にとって、帝国人である彼らは何もかもが新鮮なのだろう。

 

シーダとトーマは、離れにリィン達の寝床を準備している最中だ。

お義母さんは食材の下ごしらえに勤しんでいる。

これだけの人数だ。後で手伝ってあげた方がいいかもしれない。

 

「では、ラカンさんが実習の内容を?」

「ああ。明日の午前はその課題に取り組んでもらう。残りは午後に渡すとしよう」

 

リリの頭を撫でながら、お義父さんの話の内容を頭の中で整理する。

明日は朝から昼にかけて、南西部を中心として実習の課題に取り組むことになる。

午後からは、北部を含めた範囲で新しい課題が渡されるそうだ。

とはいえ、当然日帰りで戻って来れる範囲に限られるだろう。

 

「今日はもう遅い。ゆっくりと休んで疲れを取るといい。トーマ?」

「うん、寝床の準備はできてるよ」

「あ、じゃあ私とガイウスが案内するよ。ほらリリ、挨拶は?」

「みんな、おやすみなさーい!」

 

リリの元気すぎる挨拶に返しながら、リィン達は私達のゲルを後にし、離れへと足を運んだ。

私がノルドに来た時から、来客用のゲルは常時準備されていた。

ここ数年はノルドを訪れる観光客が多いため、組み立て式のベッドの数も年々増える一方だ。

 

「さてと。男共は少しその辺を散歩してきてよ」

「え?」

 

ゲルの入り口で、ガイウスを含めた男性陣にそう提案する。

ユーシスはすぐに察しがついたようで、疑問符を浮かべるリィンとガイウスを連れて夜の散歩へと出掛けてくれた。

 

アリサとエマをゲルの中に案内すると、お湯が入った小さな桶が置かれていた。

私がシーダに言って用意してもらったものだ。

 

「ごめんね。これぐらいしか用意できなくて」

「いえ、湯を沸かしていただいただけで十分です」

「そうね・・・・・・体を拭けるだけでもありがたいわ」

 

クタクタに疲れ切っているとはいえ、汗ぐらい拭いておきたいところだろう。

一応布で仕切られているとはいえ、異性と同室の中で裸体を晒せというのも酷な話だ。

 

「ふふ、みんな素敵なご家族ですね。少し羨ましいです」

「まあね。私には勿体無いぐらい」

 

体を拭きながら、エマが優しい笑みを浮かべて言った。

実際にその通りだと思う。

家族関係に限って言えば、私とガイウスは《Ⅶ組》の中では最も恵まれているのかもしれない。

エマの家族については、お祖母ちゃんの話を少し聞いたことがあるぐらいだ。

もしかしたら、彼女も何かを抱えているのかもしれない。

 

一方のアリサは、何かを口に出しかけた後、言葉を飲み込むようにして俯いてしまった。

何か気になることでもあるのだろうか。

 

「どうしたの、アリサ」

「ううん、その・・・・・・訊いていいか、分からなくって」

「何を?」

「・・・・・・あなたが、ここに来た理由よ」

 

俯いたまま、アリサが呟くように言った。

エマも体を拭く手を止めて、恐る恐る私に視線を向けてくる。

 

「話すよ」

「え?」

「私も、同じことを考えてたんだ」

 

いずれにせよ、いつかそんな時が来るとは思っていた。

私が今日流した、2つの涙。故郷と家族への想い。

同じ時を過ごす仲間に私という人間を知ってもらうためには、避けては通れない道だ。

それが今なのかどうかは分からない。

ただ、今回の実習が一歩踏み出すいいキッカケになるのだと思う。

 

「今日はもう遅いから、ゆっくり休みなよ。明日からが本番でしょ?」

「そうですね。アヤさんはご家族と一緒に?」

「うん、寝床はあっちにしかないから。じゃあ、また明日ね」

 

―――クロスベルの件といい、少し宿題が多すぎやしないだろうか。

そう心の中で一人ごちながら、私はゲルを後にした。

 

_____________________________________

 

ガイウスと一緒にウォーゼル家のゲルに戻ると、弟と妹達は既に寝床に入っていた。

お義父さんは暖炉の前に座りながら、狩りに使う弓の手入れをしている最中のようだった。

お義母さんはベッドに腰を下ろし、裁縫中だ。あれはリリの新しい衣装だろうか。

 

「手伝うよ、父さん」

「構わん。お前達も疲れているだろう、ゆっくりするといい」

 

お義父さんの言葉に従い、私とガイウスは暖炉の前に腰を下ろした。

本当の意味での、3ヶ月振りの光景だ。

導力式の駆動音など一切聞こえない、深い静寂に包まれた静かな夜。

耳に入ってくるのは、パチパチという薪がはぜる音だけだ。

 

「2人とも、いい顔になったな」

「え?」

「どうだ、ガイウス。士官学院での生活は」

 

改まった口調で、お義父さんが私達の目を見ながら言った。

お義母さんも布地を縫う手を止め、こちらに視線を向けてくる。

 

「・・・・・・日常の全てが、そのまま学びに繋がる。その度に、俺の知る世界がどれだけ狭かったのかを思い知らされる感覚だよ」

「ふふ、帝国での生活にはもう慣れた?」

「ああ。初めは戸惑いも多かったけど、アヤが色々教えてくれたおかげもあるな」

「みんな親切だからね。私だけじゃないよ」

 

客観的に見て、ガイウスの順応力が高かったことも要因の1つだろう。

入学してから1ヶ月が経つ頃には、既に身の回りのことは自分自身で面倒を見ていたぐらいだ。

 

「充実した生活を送っているようだな。アヤ、お前の方はどうだ」

「私、ですか?」

「まだ3ヶ月程度しか経っていないが―――見つけられそうか?」

「・・・っ・・・・・・」

 

言葉に詰まった。

この場合、どう答えればいいのだろう。

最近は色々と考えるところは多いが、言葉にするには今の心境は少々複雑すぎる。

とはいえ曖昧な言葉で濁すのは、入学を認めてくれた2人にとって失礼だ。

 

「少なくとも・・・・・・軍に進む気はありません」

 

だから私は、できるだけ明確な言葉を選ぶことにした。

元々思いを言葉にするのは苦手だ。どれだけ伝えることができるかは怪しいところだが。

 

「この3ヶ月間、色々な経験と、出会いがありました。自分自身が信じる道を歩む人もいれば、思い悩んで足踏みをする人もいる。私はまだ、後者なんだと思います」

「ほう」

「でも、きっと見つかると思います。今は、可能性を広げるだけ広げておきたいんです。どれだけ時間が掛かるかは分からないけど・・・・・・みんなと一緒なら、きっと見つかるはずですから」

 

_________________________________

 

こうしてガイウスと故郷の星空を見上るのも、3ヶ月振りだ。

明日の朝も早いというのに、不思議と目が冴えている。

そろそろ睡魔が襲ってきてくれないと、流石に実習に支障をきたしそうだ。

 

「不思議だ」

「ん?」

「星に心を動かされるなんて、いつ以来だろうな」

「3ヶ月振りだもんね」

 

セントアークの大学から見上げた夜景も見事なものだったが、やはりこの光景には遠く及ばない。

リィン達にも、明日にはこの星空を見せてあげよう。

これを知らないで帰るのは、勿体無いという言葉だけでは済まされない。

 

「ねぇガイウス。私が言ったこと、覚えてる?」

「何のことだ?」

「最近考えるんだ。生きる道を見つけるって、どういうことなんだろうって」

 

哲学的な意味合いで言っているわけではない。現実的なことだ。

生きる道を見つける。

この先どんな道を歩むことになろうとも、いずれ選択を迫られることになる。

その現実からは、逃れられそうにない。

 

「私、ノルドからいなくなっちゃうかもしれないよね」

 

ガイウスが士官学院に入学したのは、外の世界を知るため。

それ以上でも以下でもない。

士官学院を出た後、彼はウォーゼル家の長男としてこの地に戻ってくる。

長老や婆様のような年長者を除けば、実質的にこの集落の船頭に立っているのはお義父さんだ。

ガイウスはいずれ、その意志を継ぐ立場にある。

 

「・・・・・・そうだな。君が選ぶ道によっては、そうなるだろう」

「うん、そうなるね」

 

言ってから気付いた。そうじゃない。

今でも私は、士官学院があるトリスタで暮らしている。

既にノルドにはいない。2年間もノルドから離れることになる。

私が考えているのは―――

 

「―――ガイウスは、それでもいいの?」

 

私がこの地を離れれば、必然的に私の隣から彼はいなくなる。

多分、そういうことなのだろう。

自分でも何を言っているのか分からない。

それでも私の思考の先は、彼に向いている。それだけは自覚できた。

 

「君の人生だ。俺がとやかく言うことじゃないだろう」

「そうだけど・・・・・・あはは、それもそうだね。ごめん、変なこと聞いて」

 

ガイウスらしい答えだ。

彼がそう言うであろうことは、容易に想像が付いた。

でも、私が望んでいる言葉ではない。

 

「そろそろ戻るか。明日の朝も早いことだし―――」

「待って」

 

腰を上げようとしていたガイウスの右腕を掴み、強引に引き戻す。

 

「もう少しだけ隣にいてよ」

 

私の言葉に、ガイウスは唯々目を丸くするだけだった。

 

______________________________________

 

草原に腰を下ろしながら、夜空を見上げる姉弟。

そんな2人を後方から遠目で見守る、2人の男女の姿があった。

 

「ふふ、お互い無自覚すぎてやきもきしてしまいますね」

「・・・・・・あー、ファトマ。お前は気付いていたのか?」

「当然です。あなたが鈍すぎるんですよ」

 

狩りを生業の1つとする彼らは、帝国人や共和国人に比べ優れた五感を持っている。

気配を感じさせない距離からでも、会話を聞き取ることは容易いの一言で済まされる。

 

「ガイウスがアヤを貰ってくれたら、私達一族も安泰なんですけど」

「む。よくできた息子だとは思うが・・・・・・そう簡単に娘はやれんぞ」

「あなた、逆ですよ、逆」

「ん?」

 

彼らの未来は、彼らだけのものだ。

親が口出しすることではないが、やはり想わずにはいられない。

願わくば―――愛する息子と娘に、いい風の導きがあらんことを。

そう女神に願いを込めながら、2人は我が子を温かく見守っていた。


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