絢の軌跡   作:ゆーゆ

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故郷の未来は

帝国軍監視塔。

七陽暦が1201年を迎えた頃、ノルド高原南東部に設けられた帝国正規軍の軍事施設。

導力革命以降加速した時代の流れから取り残されたこの地には、余りにも似つかわしくない。

 

「こうして近くで見ると・・・・・・それ程大きくはないわね」

「そうですね。外見はいかにも軍の施設という感じですけど」

 

話に聞く限り、ここは正規軍直轄の施設とはいえ、必要最低限の人員と設備しか割かれていない。

こうして目の前に立っていても、軍特有の緊張感はさほど感じない。

私からすれば、既に風景の一部になりつつある。

張りぼて、は言い過ぎかもしれないが、目的は同じようなものだろう。

この監視塔よりも数年前に配備された、共和国側の軍事基地への牽制。

それ以上でも、以下でもない存在だ。

 

帝国と共和国という2大勢力が大陸を二分する現代で、目立った軍事的衝突は発生していない。

一方で領土問題や経済摩擦などの政治的衝突は悪化の一途を辿っている。

それは既に、二国間だけの問題では無くなりつつある。

 

(似てるのかな・・・・・・クロスベルに)

 

そういった意味では、ノルド高原とクロスベル自治州は似た者同士なのかもしれない。

どちらも私の故郷であると同時に、当の二大国はお父さんとお母さんの故郷でもある。

私の立ち位置はどこにあるのだろう。どう振る舞えばいいのか、時々分からなくなる。

 

「どうしたのよ、アヤ。難しい顔しちゃって」

「・・・・・・ん。何でもない」

 

いつの間にか、アリサが私の隣に立ち心配そうな色を浮かべていた。

考えても仕方がない。今は実習の課題に気持ちを向けるべき時間だ。

 

「とりあえず、中に入るか。ザッツっていう男性に渡せばいいんだよな」

「うん、いつも周辺の監視役をしてるから、すぐに見つかると思うよ」

「へぇ・・・・・・アヤ、もしかして君の知り合いなのか?」

「まぁね。3年ぐらい前からかな」

 

正確に言えば、3年と3ヶ月前。

もっと言えば―――ノルドに来るよりも前に、私は彼と出会っている。

ここで彼らにそれを口にしても仕方がない。

馴れ初めを説明するには、少々話がややこし過ぎる。

 

私達がお義父さんから課せられた課題は3つ。

1つ目のゼクス中将直々の魔獣討伐依頼は、既に達成している。

残り2つは、キルテおばさんから受けた届け物の依頼と、アムルさんの『エポナ草』採取の依頼。

 

エポナ草は高原の南東部全域に分布しており、見た目が目立つ分必ず目に付く植物の1つである。

だというのに、いざ集めようとすると中々見つからないのだから不思議だ。

今のところ私達が見つけたエポナ草は、3つ。

残り2つについては、走っていればそのうち見つかるだろうという私の意見が採用された。

こういう時は無理に探してもいい方向にはいかないというものだ。

 

「あ、いたいた。ザッツさーん」

「ん・・・・・・ああ、アヤじゃないか。それにガイウスも」

 

塔の入り口に続く階段を上ると、すぐに彼の姿が目に入った。

相変わらずのんびりしている。もう少し緊張感を持ってもいいだろうに。

 

「話には聞いてたけど、本当に帰ってきてたんだな。2人とも元気そうでなによりだ」

「ザッツさんも相変わらず眠そうだね」

「ナハハ、それだけ平和ってことさ」

 

彼とは積もる話もあるが、生憎と私達は行動時間が限られている。

一言二言挨拶を交わした後、ガイウスがキルテおばさんから預かった布袋を手渡した。

ザッツさんは歓喜の声を上げながらそれを受け取った後、念入りに中身を確認し始めた。

そう、念入りに。たっぷりと時間を掛けて。

 

「いやぁ、お前さんがつまみ食いしてないか気になってさ」

「フン、俺達を甘く見ないでもらおう」

「俺が肌身離さず持っていたから安心してくれ」

「抜かりはありません」

「狙うわよ、S評価」

「この勝利―――俺達A班全員の成果だ」

 

清々しいことこの上ない。

もう何とでも言え。この扱いにも大分慣れてきた。

 

遠い目で彼らを見詰める私を尻目にして、ホクホク顔のザッツさんが「せっかくの機会だから見張り台に上ってみないか」と提案してきた。

流石に私とガイウスも監視塔を上ったことはない。

というか、部外者とも言える私達を彼1人の判断で中に入れてもいいのだろうか。

私がザッツさんにそれとなく問いかけると、「だって平和だし」という職務放棄寸前の台詞が返ってきた。

・・・・・・大丈夫なのだろうか、この施設は。

 

_______________________________________

 

「凄い・・・・・・ねぇアヤ、これって全部手作り?」

「うん、その辺のはサンさん自慢の品だよ」

「これは選ぶのに時間が掛かりそうですね。目移りしてしまいます」

 

目を輝かせながら店先に並べられた品々を見渡す、アリサとエマ。

 

私達はザッツさんから預かったお返しの品をキルテおばさんに渡した後、土産探しに興じていた。

一度は実家に戻ったのだが、昼餉の用意までもうしばらく時間が掛かるため、それまで時間を潰してきてほしいというのがお義母さんの依頼だった。

とはいえ、集落内で時間を潰せる場所は限られている。

選択肢はここしかしか無かったのだ。

 

元々は帝国軍人向けに食料品や嗜好品を並べる程度でしかなかった交易所には、今や数々の工芸品で彩られている。

キッカケは「これがお店に売ってたら絶対買うのに」という観光客の一声らしい。

羊毛皮や馬の輸出業頼みだった外貨稼ぎは、今やこのように範囲を広げつつある。

2年前には帝国の観光会社から打診があった程だ。それは長老直々に拒否したのだが。

流石に「ノルド高原で自然と共に生きようツアー」は受け入れ難いものがある。

 

「んー・・・・・・」

 

アリサ達の横には、顎に手をやりながら考え込むリィン。

妹の機嫌取りと言っていたが、彼も彼で随分と時間を掛けて選んでいるようだ。

 

「リィン、まだ悩んでるの?」

「え?ああ、妹への贈り物は決まったよ」

 

リィンの手には、羊毛皮で作られた一枚のスカーフ。お義母さんが手掛けた一品だ。

いい選択だと思うのだが、リィンは相変わらず難しい顔で並んだ品々と睨めっこをしている。

1つだけでは気が済まないのだろうか。

 

「その、ラウラにも何か贈ろうと思ってさ」

「ラウラに?」

「いつも鍛錬に付き合ってもらったり、色々世話になってるからな」

 

そう語るリィンの顔は優しげで、どこか照れくさいような色が浮かんでいた。

 

「ふーん。でもさ、日頃お世話になってるのはラウラだけじゃないよね」

「・・・・・・それもそうだな。フィーもそうだし、トワ会長も・・・・・・あ、ヴィヴィに靴下のお返しをしないと。ミントとコレットには―――」

 

リィンの口から勢いよく溢れ出る女子生徒の名前。

彼はどういうわけか異性の知り合いが多い。同性のそれよりも多いのかもしれない。

 

(ていうか、靴下のお返しって何)

 

・・・・・・気にはなるが、触れないでおこう。

いずれにせよ真っ先にラウラのことを考えるあたり、リィンも少なからず意識しているのだろうか。

これには素直に驚かされた。もしかしたら―――もしかするのかもしれない。

 

「さてと。ユーシス、そっちはどう?」

「フン、この通りだ」

「え、もう買ったの?」

 

ユーシスの手元には、数点の装飾品。

羊毛皮で作られたポーチや、馬毛をあしらった髪飾りの類。

髪飾りについては、一目で女性用のそれと分かる品物だ。

 

「よしよし、ちゃんと買ってあげたみたいだね」

「選んだだけだ。部長以外にはお前が手渡すがいい」

「何でそうなるの。選んだ本人が渡しなよ」

 

そう言うであろうことは予想が付いていた。だがこちらも引く気は無い。

いざとなればまた力技で押し通すまでだ。

 

その後もゆっくりとお土産選びに興じた後、私達は再び実家を訪れていた。

昼餉の準備にはもう少し時間が掛かるそうで、それまでゲルの中で体を休めることになった。

乗馬は見た目以上に体力を使う。アリサはともかく、エマは大分疲労が溜まっているはずだ。

 

「母さん、焼き具合を見てくれないか」

「それぐらいでいいわ。竈から出してちょうだい」

 

台所には、竈に入ったナーンを見詰めるガイウスの姿があった。

交易所で私達が時間を潰している時から、彼は手伝いを買って出ていた。

久しぶりの帰郷とあって、少しでも家族と時間を共にしていたいのかもしれない。

 

「本当に、いい家族だよな」

「ええ、そうね・・・・・・あの、ラカンさん」

「どうした?」

「その、お二人の馴れ初め、なんかをお聞きしても・・・・・・」

「ふむ。俺とファトマのか」

 

アリサが問うと、お義父さんはお義母さんの背中を見詰めながら、思い出すように語り始めた。

 

「ファトマがこの集落にやって来たのは、もう20年近く前になるな」

「え・・・・・・初めからここで暮らしていたわけではないのですか?」

 

エマが私とお義父さんを交互に見ながら聞いてくる。

どうやら他のメンバーも、お義父さんの言葉の意味を理解できていないようだ。

そういえば、その辺のことについては深く説明していなかった気がする。

 

「言ったでしょ、この地で生活しているのは私達だけじゃないって。お義母さんは元々東で暮らす一族の出なんだよ」

「ああ。ちょうど今頃の季節に、向こうから縁談の話が来てな。白羽の矢が立ったのが俺だったというわけだ」

 

ノルドで暮らす遊牧民は、いくつかの集団単位で行動を共にしながら生活している。

その歴史は長く、他集団との融合や分裂を繰り返しながら、今に至るというわけだ。

東に存在する集落は、ここよりももっと規模が大きいそうだ。

ここ数年では、共和国人との交流を深めつつあるとも聞いている。

共和国側の軍事基地の存在も影響しているのだろう。

 

「成程な。そういった集落間の交流も、この地での生活には必要不可欠というわけか」

「そうみたいだな。アヤ、君は東に行ったことはあるのか?」

「ううん、会ったことがある人はいるけど・・・・・・私、少し嫌われてるみたいだし」

「え?」

 

事情を知らない彼らからすれば、突然こんなことを言われても理解できないだろう。

自分から言うのも気が引けるが、残念ながら事実だ。

同じノルドで暮らす遊牧民とはいえ、決して一枚岩ではない。

皆が皆、帝国と友好的な関係を築いてきたわけではないのだ。

 

私は正確に言えば帝国人ではないかもしれないが、彼らからすれば「外からやって来た人間」には違いない。

そんな得体の知れない人間を一族に迎えるなど、理解できないことなのだろう。

幸いにも集落同士の交流に支障は出ていないものの、少なくとも私という存在は受け入れられてはいない。

 

「そんな目をするな、アヤ。お前は俺達の立派な娘だ」

「お義父さん・・・・・・」

 

お義父さんが優しく笑いかけてくる。

もしかしたら、顔に出ていたのかもしれない。

 

「最近よく考えるのだ。このノルドという地の未来をな。ある意味でお前やガイウス、トーマのような存在は、新しい可能性なのかもしれん」

「可能性、ですか?」

「ああ。時代は変わる。守るべき伝統があると同時に、変わらなければいけない部分もあるのだろう」

 

それ以上、お義父さんは語らなかった。言葉は無くとも、意図は汲み取れる。

 

外の世界が加速度的に姿を変えていくこの時代に、ノルドが今の姿を保ち続けられる保証はどこにもない。

変えてはいけない信念もあれば、変わることを恐れない覚悟も必要になる時が来るのだろう。

既にこの集落も姿を変えつつあるはずだ。

今のところは生活が豊かになるような、穏やかな変化しか訪れていないのだが。

 

「あの、1つ宜しいでしょうか」

 

エマが遠慮気味に右手を上げ、お義父さんを見ながら口を開いた。

 

「ガイウスさんとアヤさんは、何となく理解できるのですが・・・・・・その『可能性』にトーマさんが含まれるのは、どういった理由があるのですか?」

 

言われてみれば、どうして―――そこまで考えて、すぐ答えに行き当たった。

今のところはそれこそ可能性に過ぎないが、簡単な話だ。

 

「それはあれだよ。外の世界との、架け橋的な意味」

「架け橋、ですか?」

「シャルちゃん」

 

名前を出した瞬間、リリの髪を結っていたトーマの手が止まった。

自分の名を呼ばれても反応しなかったくせに、彼女の名前を出した途端にこれだ。

トーマは目を泳がせながら、一度咳払いをして私に視線を向けてきた。

 

「アヤねーちゃん、何か言った?」

「言った言った。どう、最近。少しは進展あった?」

「何のことだよ・・・・・・言ってるでしょ、僕とシャルはそんなんじゃないって」

 

意味有り気な私達の会話に、すぐさまアリサとエマが食いついてきた。

シャルはゼンダー門の食堂で働く、帝国人の女の子だ。

トーマにとっては数少ない同年代の友達であると共に、異性でもある。

気が早いのは確かだが、お義父さんが言いたかったのは2人の未来についてなのだろう。

 

「まぁ・・・・・・ふふ、素敵な話ですね。これはレポートにしっかりまとめておかないと」

「え、エマさん?」

「そうね。古き良き伝統を守る一族と帝国人が築き合う絆、ノルド高原と帝国が目指すべき未来への姿・・・・・・時代背景も踏まえて書けば、立派なレポートになるわ!」

「えええっ!?」

 

そんなつもりではなかったのだが、既にアリサとエマの中では構想が練られ始めているようだ。

まぁ、2人に任せておけばそれなりの内容にはなってしまうのだろう。

それで実習の評価が上がるのなら、言うことは無い。

 

「はは・・・・・・でもトーマの年齢だと、少し気が早すぎる話だな」

「だが帝国とノルドでは概念や習慣も異なるだろう。婚約もこの地では10代後半が一般的と聞いているが」

「ああ。ガイウスにも縁談の話は来ているが、今は士官学院での生活に集中したいようだ」

 

ユーシスが言うように、帝国とノルドでは成人と見なされる年齢も違う。

帝国法では18歳で成人とされる一方で、ノルドでは―――

 

「―――お義父さん、今なんて言いました?」

「ん?ああ、気にするな。あいつも受ける気は無いと言っていたからな」

「・・・・・・えええっ!!?」

 

トーマを超える私の叫び声が、ゲルの中に響き渡った。

 

_____________________________________

 

再びお義母さんの御馳走でお腹を満たした私達は、午後一でゼンダー門と集落を行き来することになった。

目的はトーマの好みの色を、シャルに伝えるため。

・・・・・・こんなことのために貴重な時間を割いてもいいのだろうか。

そう感じていたのは私だけではなかったようだが、アリサとエマの力強い意見が尊重された。

シャルの満更でもない態度を目にしてから、2人の目は心なしか輝いて見える。

どうやらこの件もレポートに書き加える気のようだ。

 

「頑張って下さいね、シャルちゃん」

「私達応援してるから!」

「ちょっと2人とも、シャルが引いてるってば」

「あはは。アヤさんのお友達、面白い人ばかりですね」

 

とはいえトーマとシャルの仲が進展するのは喜ばしい限りだ。

2人を応援するアリサ達の好意は素直にありがたい。

 

一旦集落に戻った私達は、長老の依頼で高原の北部に足を運んだ。

長老の話では、『帝国時報』のカメラマンであるノートンさんが、写真撮影のために単身集落を出て行ってしまったらしい。

北部には南西部以上に手強い魔獣が生息している。

腕に自信のある人間ならともかく、ノートンさんのように戦う術を持たない人間にとっては余りにも危険すぎる。

 

「どうやら予想通りのようだな」

「うん、無事そうで何よりだね」

 

ユーシスが睨んでいた通り、ノートンさんは『守護者』の遺跡周辺で写真撮影に勤しんでいた。

完全に無防備だ。よくあれで無事でいられたものだ。

 

「ふむ。集落の人達には心配を掛けてしまったな」

「当たり前ですよ。この辺は魔獣も多いから危険なんです」

「そうか・・・・・・だが君達が来てくれたということは、もう安心だな」

「え?」

 

ノートンさんは私達に背中を任せ、再びカメラのシャッターを切り始めてしまった。

仕事半分遊び半分と言っていたが、これはどちらに入るのだろう。

 

「どうする?リィン」

「仕方ないさ。周辺に気を配りながら、少し休憩にしよう。時間には大分余裕があるからな」

 

私達はリィンに従い、2人ずつに分かれて魔獣が近寄らないよう見張りをすることになった。

リィンとアリサが東、ユーシスとエマが西、私とガイウスが南だ。

 

「ああもう。ノートンさんはもう少し理解がある人だと思ってたのに」

「そう言うな。無闇にここを訪れる観光客に比べればマシな方だろう」

「・・・・・・それもそうか」

 

ノルドを訪れる観光客が増加する近年、問題となりつつあるのが一部の無計画な人々の存在だ。

開けた高原とはいえ、気軽に訪れることができる程この地は生易しいものではない。

魔獣の存在は当然として、昼夜の寒暖差や方向感覚を惑わす似通った風景。

街道に出る感覚で来られては、道に迷うのも当然だ。

ゼクス中将がゼンダー門に赴任してからは大分規制が強まったようだが、以前は私達に保護される観光客も少なくなかった。

 

「それにしても、こんな遺跡がノルド以外にも存在しているとはな。ブリオニア島、といったか」

「うん。B班が今滞在しているところだね」

 

私達を見下ろすようにそびえ立つ『守護者』の遺跡。

私も初めて目の当たりにした時は、開いた口が塞がらなかった。

どう考えても、人の手で作り出すことは到底不可能だ。

こんな岩の巨像が風化もせずに原型を留めていること自体、おかしな話だろう。

 

「『巨いなる騎士』かぁ。何か関係があるのかな」

「誰にも分からないさ。ただ・・・・・・嫌な予感がする」

「予感?どんな?」

「いや、何となくそんな気がするだけだ。気にしないでくれ」

 

そう言われても気になってしまう。

ガイウスの第六感めいた発言は的中することが多い。

それに、彼がここまで勘に頼った曖昧な発言をすることも珍しいことだ。

 

「ふーん・・・・・・まぁいいや。ねぇ、さっきの話なんだけどさ」

「『巨いなる騎士』の話か?」

「そうじゃなくって。その、縁談の話」

 

私の言葉に、ガイウスが「その話か」と大きな溜息をしながら言った。

 

「言っただろう、その話は断った。今は士官学院のことだけを考えたい」

「それは分かるけど・・・・・・じゃあ、士官学院に入学してなかったら受けてたの?」

「答えは同じだ」

 

首を横に振りながら、少しだけ肩をすくめるガイウス。

どうやら彼はこの話には余り乗り気ではない様子だった。

 

「彼らが君を認めないように、そんな人間を俺は受け入れることができない」

「あ・・・・・・」

 

縁談の話は、お義父さんの時と同様、東に住む一族から持ちかけられたものだった。

ガイウスが言いたいことは、そういうことなのだろう。

 

彼の気遣いを嬉しいと思う反面、どこか納得できていない自分がいる。

感情は首を縦に振ってはくれない。

いずれにせよ―――やっぱり、私の欲しい言葉ではない。

似ているようで、全く違う言葉を私は欲している。

 

「・・・・・・何か、ずるいな。それって」

「ん、どういう意味だ?」

「さあ。分かんない」

 

ずるいのは、多分私の方だ。

それは自覚できるのに、この感情の名前が分からなかった。


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