絢の軌跡   作:ゆーゆ

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明日への鼓動

耳に入ってくるのは、暖炉の中で薪が爆ぜる音。

それにトーマ達の穏やかな寝息と、ゲルの外から聞こえてくる虫の鳴き声。

それだけだ。ここでは導力式の駆動音など一切聞こえない。

遠出する時以外、導力車はただの鉄の塊に過ぎない。

 

暖炉を囲うのは、私とラカン、ファトマの3人。トーマ達は既に夢の中だ。

ガイウスは今、ワタリのゲルにいる。毛皮の加工を手伝うと言っていた。

 

「今何本だ?」

「9本です」

 

ラカンが器用に削り出した石の鏃を、私が矢柄に紐で縛り付ける。

鉄を流用した鏃も使うが、基本的には原石から取り出したそれだ。

鉄は耐久性に優れているが、洗練された石鏃なら貫通力は鉄のそれに勝る。

理屈は分からないが、経験則だけで言うなら正しいのだろう。

 

ファトマは暖炉の様子を窺いながら、私達を静かに見守っていた。

先程までは台所で作業をしていたが、それも終えたようだ。

 

「ふむ。顔色が優れないように見えるが」

「・・・・・・いえ。体調はいいです」

 

胸の内とは裏腹に、身体は至って健康体に思えた。

喫煙と飲酒を止めてから、体内に溜まった毒素が吐き出された気分だ。

 

「そうか。お前がここへ来てから、もう2ヶ月近くになるな」

「はい」

 

石鏃を削る手をそのままにして、ラカンは続けた。

 

「アヤ。お前はここでの生活を、どう思う」

「・・・・・・どういう、意味ですか」

「どう、と言われてもな。そのままの意味なのだが」

 

頭を掻きながら、ラカンが僅かに戸惑いの色を浮かべた。

彼がこんな表情を見せることは珍しかった。

 

「あなた」

「ああ。分かっている」

 

ファトマに声を掛けられたラカンは石鏃を置き、腰を浮かせてから私へと向き直る。

コホンと1つ咳払いをするラカンと、小さな笑みを浮かべるファトマ。

そこで漸く思い出した。2人は今日、私に話があると言っていた。

 

「率直に言う。この地に腰を据える気はないか」

「え―――」

 

腰を据える。その言葉の意味は、勿論知っていた。

知っていても、感情が追いつかない。

 

「お前さえよければ、俺達はお前を迎え入れる。1人の家族としてな」

「か、家族って」

「ふふ、驚くのも無理はないけど・・・・・・ずっと考えてきたことよ」

 

ラカンに続くようにして、ファトマが私の隣に座った。

 

「ガイウス達も、あなたを慕っているわ。まだ2ヶ月しか経っていないけど、もうあなた抜きの生活は考えられないの」

「・・・・・・そんな。私は、何も」

「だから、これは私達からのお願い―――」

 

私達のアヤになってくれないかしら。彼女はそう言った。

 

到底理解できなかった。

自分で言っていただろう。たったの2ヶ月間だ。

2ヶ月間生活を共にしただけの赤の他人に、どうしてそんなことが言えるのだろう。

戸惑うばかりの私に対して、2人は本気だった。それは目を見れば分かる。

 

「とはいえ、お前にも思うところはあるだろう。孤独の身とはいえ、お前自身が決めることだ。じっくり考えてみるといい」

 

私は首を縦に振りながら腰を浮かせ、入り口へと歩を進めた。

逃げているだけと分かりつつも、一刻も早くここから離れたかった。

 

「・・・・・・今日は、離れで寝ます。1人で考えさせて下さい」

「待って、アヤ」

 

外に出ようとしていた私の身体を、ファトマの両腕が引き止めた。

勢いをそのままにして―――彼女はそっと、その腕の中に私を抱いた。

 

「あなたは優しい子よ。とっても優しくて、元気な女の子。ガイウス達と何も変わらないわ。それだけは・・・・・・分かってちょうだい、アヤ」

 

背中から、ファトマの体温が伝わってくる。

私は身を預けて、その温もりを体に刻んだ。

 

これが―――最後だ。

そう胸の中で一人ごちながら、私は彼女の腕を握っていた。

 

______________________________________

 

一睡もしなかった。

眠れなかったわけではない。一度眠れば、この時間に起きる自信が無かったからだ。

まだ日も昇っていない。朝の4時ぐらいだろうか。

 

「誰も・・・・・・いるわけないか」

 

周囲に人影は無い。あるのは家畜の姿だけ。

日が昇れば、一斉に家畜達の鳴き声が集落中に響き渡る。

家畜の種類に、感情の数を掛ける。まさに大合唱だ。

馬の鳴き声だけでも、3種類は区別できるようになっていた。

 

「イルファ」

 

小屋の中に佇む愛娘に、そっと声を掛ける。

最近になって、漸く彼女の感情を汲み取れるようになってきた。

こんな時間に私が姿を見せることは今までに無かった。

今はおそらく、首を傾げているのだろう。

 

「ごめんね。私、ここにはいられない」

 

夢物語と、男は言っていた。

その通りだと思う。私はきっと、夢を見ていた。

 

ラカンとファトマ。シーダにリリ、トーマ。集落のみんな。ザッツにイルファ。

それと―――彼。

 

長いようで、あっという間の2ヶ月間。満ち足りた日々だったと思う。

私には到底叶わない夢を、見させてもらった。

私は―――彼らとは違う。

ファトマは何も変わらないと言っていたが、そんなはずがない。

埋めようがない溝がある。夢には、終わりがある。

 

「ごめん、イルファ・・・・・・もう行くね」

 

踵を返して、集落の入り口に歩を進める。

別れの言葉は掛けなかった。口にしたら、自分がどうなるか分からなかった。

 

帝国に戻れば、これまでと同じ時間が流れ始める。

ミラを稼ぐには中規模の街がもってこいだが、流石に飽き飽きしていた。

西に向かうのがいいかもしれない。まだ足を運んでいない都市がある。

セントアーク、といったか。今度はそこに行ってみよう。

切符代だけで路銀が吹き飛ぶ気がするが、それは道中で稼げばいい。

 

入り口の門をくぐったところで、無意識の内に足を止めた。

振り返りたい衝動に駆られたが、気が引けた。

 

「・・・・・・夢は、終わり。さようなら」

「どこに行くんだ」

 

決意を込めて別れの言葉を口にした瞬間、背後から声が聞こえた。

2ヶ月間、耳にし続けた声。期待を裏切り、予想を裏切らない彼。

分かっていた。驚きも無かった。

 

「別に。帰るだけ」

「なら方向が逆だろう。君の帰る場所はここだ」

 

背後から彼の足音が近づくのが分かる。

敢えて振り返らなかった。振り返ったら、私は多分普通ではいられなくなる。

 

「勝手なこと言わないで」

「それはこちらの台詞だ。見過ごせるはずないだろう」

「もうここにはいられない」

「どうしてそう思うんだ」

「関係無い」

「言えないのか?」

 

思わずため息が出る。

ああ言えばこう言う。ガイウスとの会話の大半はこうだ。

そしてその大半は、私が手を出して終わる。

 

「アヤ・・・・・・何があったんだ?夕刻から様子がおかしいとは思っていたが」

 

当然のことながら、彼に白装束の男の話はしていない。

できるはずもなかった。説明のしようがない。

あれを理解してもらうには、私は全てを明かさなければならないのだ。

 

「関係無いって言ってるでしょ」

「なら逆に訊く。君はどうしたいんだ?」

 

足音が止んだ。背後から彼の息遣いが聞こえてくる。

 

「言ってるでしょ。もうここにはいられない」

「もう一度言うぞ。君はどうしたいんだ」

「何度も言わせないで」

「答えになっていない。君自身はどうしたいんだ?」

「だから―――」

 

思わず振り返ってしまった。

日が昇り始めていた。薄明るい朝日のおかげで、表情も読み取れた。

怒りと焦り、戸惑い。悲しみ。

彼のそんな顔を見たくは無かった。翡翠色の瞳が揺らいでいた。

私のせいだというのに。全部―――私のせいだ。

 

「黙っていないで答えてくれ」

 

そう言われても、言葉が出ない。

喉が引き攣っているし、言葉自体が見つからない。

 

だから私は、腰の帯を解いた。

上着を脱ぎ捨て、下着替わりの帯も解き、半身を露わにした。

 

「見てよ。これが私」

 

胸元の傷痕。決して消えることはない、傷痕。

これが全てだ。言葉にならないなら、見せればいい。

 

「何の、つもりだ」

「ガイウス。私は・・・・・・一度死んだんだよ。心も、身体も」

 

私も、化け物かもしれない。

あの男の事を人外の存在と言っておきながら、私も十分人から外れている。

深々と切った傷が、1週間で塞がったりはしない。人は生き返ったりはしない。

 

「・・・・・・よく分からないが。君は何が言いたいんだ」

「言えない。言えるわけない」

「怖いだけだろう」

「怖い?」

 

ガイウスはそう言うと、上着を私の肩にそっと被せた。

 

「俺の目に映るのは・・・・・・何かに怯えている、普通の少女だ。俺達と何も変わらない」

 

途端に、頭に血が上った。

だから私は、渾身の『力』を長巻に込めて、地面を叩きつけた。

 

「―――っ!!」

 

鈍い衝撃音と共に、周囲に地響きが鳴り渡る。

木々に止まっていた小鳥が一斉に飛び立ち、家畜達の鳴き声が増した。

全身を一気に気怠さが襲ってくる。一日分の体力を使い切った証拠だ。

 

「・・・っ・・・・・・これのどこが普通なの」

 

地面に刻まれた斬撃の痕。

氷山のクレバスを思わせる、巨大な私の爪痕。

普通の少女に、こんな真似ができるはずがない。

こんなものが―――普通なわけがない。

 

「人を殺して殺されて、生き返って・・・・・・わけ分かんない。どうしろっていうの」

「アヤ」

「力なんて欲しくなかった。殺したくなんてなかった!生きてどうしろって言うの!?どうせならあのまま―――」

「アヤっ!」

 

吐き捨てるように言う私の肩の上に、ガイウスの手が置かれた。

 

「聞いている。全部聞いている。それでいい、何も恐れる必要なんてないんだ」

 

いつの間にか、彼の表情がハッキリと分かる程に日が昇っていた。

まただ。彼の目を見る度に、全てが吸い込まれそうな感覚に陥る。

 

「私は―――」

 

その感覚に身を任せるようにして、私は言葉を並べた。

 

全てを語った。私が体験した4年間の記憶。

人を斬った感触。心臓が止まる感覚。お母さんの最期。

人外の存在との出会い。与えられた力。

帝国中を流れ歩く日々。堕落した生活。

私が歩んだ4年間の軌跡と、ノルドとの出会い。

 

白装束の男は、私の全てを見てきたと言っていた。

認めたくなかった。あんな男に私の何が分かるというのだ。

だから私は、在りのままの私を語った。

捨てたはずの感情。安堵に愛しさ、感謝と幸福。

この地への想いと、集落への想い。

 

「―――もう、分かんない。分かんないよ。アヤって誰?私は何なの。どうすればいいの」

 

所詮借りただけの名前だ。仮初の2つ目の人生に、取って付けた名前。

捲し立てるうちに、いつしか私は自分を見失っていた。

想いを口にすればする程、自分という存在が分からなくなっていく。

どうして私は、苦しんでいるのだろう。何がしたいのだろう。

 

「誰か・・・・・・助けてよ」

「アヤ、俺を見ろ」

 

口にしてから気付いた。

初めてだ。あれから一度も発したことがなかった、救いを求める言葉。

 

「俺の目を見ろ、アヤ」

 

朦朧とする意識の中で、彼の声が聞こえる。

頬が温かい。彼の手から伝わってくる、人肌の温もり。

 

「2ヶ月間・・・・・・ずっと君を見てきた。夢だなんて言わないでくれ。過去がなんだっていうんだ?ここで暮らす君は、笑っていたはずだ。表情に出なくとも、俺には分かる」

「じゃあ何で苦しいの。嫌だよ、こんなの」

「ならそれは、俺がもらう」

 

頬から伝わっていた彼の体温が、私の身体を包み込んだ。

厚い胸板から、心臓の音が聞こてくる。

 

「忘れろとは言わない。だから俺にも、俺達にも君が抱えるものを背負わせてほしい」

「ガイウス・・・・・・」

「父さん達が言っていただろう。俺からもお願いだ。君は人間だ、幸せになっていいんだ。だから・・・・・・共に生きてくれ、アヤ。どこにもいかないでくれ」

 

気付いた時には、視界が歪んでいた。

あの日以来、涙を流したことはなかった。枯れ果てたと思っていたのに。

 

「アヤ、もう一度だけ訊くぞ。君は―――どうしたいんだ」

「・・・っ・・・私、私は・・・・・・」

 

傍にいたい。彼の隣に。

生きていたい。彼らと一緒に。

トーマと言葉を交わしたい。シーダの髪を結ってあげたい。リリの寝顔を見ていたい。

もっと多くの時間を共有したい。昨日までの毎日を、これからも迎えたい。

私は―――生きていたい。

 

分かっていた。分かり切っていた。

過去がどうあれ、今の私はそれを望んでいる。

思い出してしまった。家族の温もりが、こんなにも心地よいことを。

知らなかったわけじゃない。思い出しただけだ。

 

「うぅ・・・っ・・・みんなっ・・・・・・」

 

流し続けるはずだった4年分の涙が、滝のように流れ出して行く。

それと同時に、身体が浄化されていく感覚だった。

血に塗れた手も、体に掛けられた呪いも、過去の呪縛も。

4年前に捨てたはずの感情が現在に追いついた時―――私は漸く、本物のアヤになっていた。

 

_____________________________________

 

どれぐらいそうしていただろうか。

体中の水分が枯れそうな程に涙を流した私は、集落の入り口に腰を下ろし、朝日を眺めていた。

 

「気が済んだか」

「・・・・・・ん。少し、眠い」

 

泣き疲れたせいもあるが、昨晩は一睡もしていないのだ。

こうして座っているだけで、深い微睡の中に落ちそうになる。

 

「そろそろ実家に戻ろう。父さん達も心配しているはずだ」

 

目を擦りながら、ガイウスと一緒に集落の実家へと足を運ぶ。

もう何度も目にした光景だというのに、集落の姿がとても新鮮に感じられた。

 

「あ」

「ん、どうした?」

 

実家の前に来たところで、私は足を止めた。

 

「・・・・・・あはは、何でもない」

 

どうせなら、久しぶりに言ってみよう。

まだ2人には返事をしていなかったが、それが代わりになるはずだ。

 

一旦深呼吸をしてから、目の前のゲルを見据える。

ここが私の帰る場所だ。今までの、そしてこれからの新しい居場所。

 

(お母さんは・・・・・・分かっていたんだね)

 

長巻から声が聞こえなくなった理由が、漸く理解できた。

お母さんは、きっと知っていたのだ。

もう大丈夫だということを。私が行き付く先、私の選ぶ道を。

 

生きていこう。明日へ向かって、皆と一緒に。堂々と胸を張って。

これが私の、新しい一歩だ。

 

「―――ただいま。お義父さん、お義母さん」

 

____________________________________

 

「・・・・・・そうして、私はウォーゼル家の一員になったんだ」

 

随分と話し込んでしまった。

アリサ達には明かすことができない部分もあったため、多少は省いたつもりだった。

 

足し加えるとすれば、あれから私は『力』を使うことを止めた。

そんなものが無くとも、生きていけるという思いがあったからだ。

今思えば、あれは過去から目を背けていただけなのかもしれない。

そしてご隠居と、ゼクス中将との出会い。

まぁこの辺りは機会があれば、また話すとしよう。

 

「それからも色々あったけど、また・・・・・・え?」

 

星空へ向けていた視線をアリサ達に戻して、驚いた。

泣いていた。アリサもエマも、嗚咽を堪えるかのように身を震わせながら涙を流していた。

 

「ちょ、ちょっと。どうしたの?」

「どうしたも、こうしたも、ない、わよ」

「ええ。よかった・・・・・・本当によかったです」

 

2人はそう言うと、私の胸に身を預けるようにして抱きついてきた。

何なんだ、これは。私は何故彼女達に抱かれている。

 

「途中から、アヤが、いなくなっちゃいそうで。怖かったんだから」

「何でそうなるの。私はここにいるじゃん」

「でも、本当によかったです。アヤさんがガイウスさん達と出会ってくれて・・・・・・本当によかった」

 

まぁ、それなりに波乱万丈な道のりだったという自覚はある。

ああやって話している間にも、よく生き延びられたものだと自分自身感心してしまう。

 

「あー、コホン」

 

不意に、背後から咳払いが聞こえた。

ユーシスかと思ったが、声が違った。

 

「あ、ガイウス」

 

そこに立っていたのは、私が語った物語のもう1人の主人公だった。

視線を私達に合わせないようにして、気まずそうに頭を掻いていた。

 

「その、帰りが遅いから様子を―――」

「ガイウス!」

「ガイウスさん!」

 

その存在に気付いたアリサとエマは、声を上げながらガイウスの下に駆け寄った。

2人は彼の手を取りながら、「よくやったわ」「素敵です」と思い思いの感想を口にしていた。

「責任をとりなさい」「幸せになって下さいね」は全く意味が分からなかった。

戸惑うばかりの彼の表情が、何となく嬉しかった。

 

その後、アリサ達は私達を残し、先に離れへと戻っていった。

ガイウスが言うには、リィンとユーシスも既にベッドの中に入っているそうだ。

酔っ払いの大人達の相手をして、疲労し切っているに違いない。

 

「で、いつからここにいたの?」

「君が黙って集落を出ようとしていた頃からだ」

「・・・・・・あー、はいはい」

 

今度は私が気まずくなる出番だった。

あの時のガイウスの台詞を、私は一字一句逃さず覚えていた。

私はそれを、アリサ達に話したのだ。

・・・・・・逆の立場だったら、殴っていたかもしれない。

 

「俺はあんなことを言った覚えは無いんだが・・・・・・」

「言ったよ。絶対に言った」

 

言った、言ってない、を何度も繰り返した。

あれだけのことを口にしておいて、本当に覚えていないのだろうか。

 

「・・・・・・言った気がする」

 

結局、先にガイウスが折れた。

当たり前だ。もし忘れていたら、それはそれで少し寂しいと感じてしまう。

 

「あれからもう3年も経つんだな」

「うん。あっという間だったね」

 

そこで、ふと気付いた。

本当に今更かもしれないが、私はまだそれを言っていない。

私がここに立っているのは、このノルド高原の、皆のおかげだ。

それでも、一番はやっぱり彼なのだろう。

私の隣に立つ、そこにいるのが当たり前の存在。

私を支えてくれる、掛け替えのない弟。

 

「そろそろ戻ろう。明日も高原中を走り回ることになる」

「ん。ねぇ、ガイウス」

「何だ?」

「ありがとう」

 

3年越しとなるお礼を言った後、私達は実家へと向かった。

 

この時の私には、想像も付かなかった。

私を救ってくれた愛する故郷に、あんなことが起きるなんて。

運命の歯車は、少しずつ狂い始めていた。


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