第101話:始動!夏合宿!
宝塚記念をスズカが勝利を収めて、チーム全体は活気づいていた。その高いモチベーションを保ったまま夏合宿に挑めるのは理想的な事だ。
「今から夏合宿のために移動するわけだが。その前に紹介しなきゃいけない人が何人かいるから紹介していく」
今回夏合宿に参加するメンバーはここに全員集まっている。何となく皆が誰のことかは分かっている。
「まずは、新しい仲間として迎えるスマートファルコン。そして、仮契約をしたミホノブルボンだ」
「よろしくお願いします」
「みんなーよろしくね☆ファルコって呼んでね!」
ブルボンはスカイとキングを顔を合わせてたし、何ならスカイにトレーニングを見てもらっていた。しかし、ファルコは皆名前こそ知っているが会ったのは今日が初だ。
「次に今回の夏合宿は合同合宿だ。チームシリウスと南坂トレーナーと一緒にトレーニングを行う」
葵さんたちと南坂さんたちが軽く挨拶をする。ミーク、グラス、ライス、ウララ、ネイチャを加えた計11人のウマ娘たちでの合宿だ。違うチームのメンバーと一緒にトレーニングすることで良い刺激を受けるはずだ。
荷物を積み込んでバスに乗り込んだ。各々が好きな席に座ってワイワイと騒いでいる。
「よろしくねブルボンちゃん!新参同士一緒にがんばろー!」
「よろしくお願いしますファルコさん……睡眠不足によるスリープモードに移行します」
「キングちゃん合宿一緒に頑張ろうね!」
「ウララさん落ち着いて。朝早くの出発で寝不足の娘もいるんだから」
「ミークさん……ってもう寝てる。ウソでしょ……」
「ぐーぐー」
「いや〜海辺での合宿って言ってたし、いい釣り場あるかな〜」
「スカイさん?釣りしに行くわけじゃないんですわよ?」
「グラスちゃん頑張ろうね!」
「そうですねライスさん」
「いや〜青春ですね〜」
みんな随分と楽しそうだ。詳しくは合宿の内容は発表してないしな。
「本当に最初の5日間はあのトレーニングをするんですか?」
南坂さんがみんなに聞こえない声で囁いてきた。トレーナー3人でトレーニング内容は考えたので、もちろん南坂さんもトレーニング内容走っている。
「はい。それに、オープンキャンパスの丁度いい催しにもなります」
トレセン学園では丁度今日からオープンキャンパスを開いている。勿論その時にチームの様子を見に来るウマ娘も大勢いる。
「それなんですけど、よく学園側の了承を得られましたね」
「たづなさんに相談したら快く了承してくれました。理事長も今後のウマ娘の成長に良い影響を与えるということで」
今回、学園側に頼んでちょっとした準備をしておいた。これはトレーナー側の俺らにもメリットのある事だし。
「お前らー着いたらトレーニング始めるんだからゆっくり休んどけよ」
俺も少し休もう。トレーナーも最初の5日間は忙しくなる。主にサポート面でだけどな。
眠りについて数時間後目を覚ますと合宿所のすぐ近くまで来ていた。そして、ポツポツとウマ娘達がいるのが見える。
「お前らーそろそろ到着だ。荷物を宿に下ろしたらトレーニング始めるぞ!」
掛け声をかけると、各々が降りる準備を始めた。しかし、まだまだ寝起きでダルいのもいるな。
「あ"〜トレーナーさん。着いたら少しだけ休みませんか?」
スカイが這い出でるように席から顔を出した。あいつ寝起きあんまり強く無さそうだしな……
「それは各々に任せることになるが……少し人を待たせてるからな。説明を聞くまでは頑張ってくれ」
そして、荷降ろしを終えて。補給用のスポーツドリンクと携帯食を用意して集合場所に向かった。俺は準備を初めて、あとの事は葵さんに任せることにした。
「トレセン学園の、チームレグルスとシリウスの合同合宿に参加するウマ娘さんは集合してくださーい!」
葵さんの呼び声で近くのウマ娘達が集まって来た。うちのメンバーはと言うと、そんな事聞いてないと言わんとばかりに俺の方に視線を送ってきた。
「今回の合同合宿の最初の5日間は私たちのメンバーと同じトレーニングをしていただきます」
その言葉に反応して場がザワついた。参加する側もまさかトレセン学園のチーム同じトレーニングをするとは思わなかっただろう。
「すいませんが質問いいでしょうか」
参加者の1人が手を上げた。白髪でロングヘアーのウマ娘だ。
「どうぞ」
「私たちは小等部で、先輩方のように体が出来上がっているわけではありません。その辺は配慮していただけるのでしょうか」
たしかに、鍛え上げられたスズカやミークたちと同じトレーニングをこなせるわけが無い。
「それについては俺が説明する。チームレグルスに柴葉トレーナーだよろしく頼む」
俺は葵さんと場所を交代して壇上に立つ。その時ふと見かけたことのある顔を見た。
「今回最初のトレーニングは簡単だ。個人差が出ても問題ない内容になっている。ペースも各々に任せるし休憩も各自好きなだけ取るといい」
そう、個人差は関係ない。これは自分との勝負でもあるからな。
「それで、そのトレーニングって言うのは……」
「今日含めずの明日からの5日間で1000kmを走りきることだ」
合計で約6日間走り続ける。それが最初のトレーニング。1000kmと言う異常な距離を聞いてみんながザワつく。
「ルールは特にない。さっき言ったように休憩の間隔もペースも全て自分たちで決めるんだ。誰かと一緒に走るのも構わない」
葵さんや南坂さんは元々知っていたので驚いてない。うちのチームはスズカが嬉しそうにしていて、他のメンバーはやれやれと言った感じか。ファルコは口を丸く開けてポカーンとしてる。
「そして、俺は来年スカウトするウマ娘をこの5日間で決める予定だ」
俺のその発言で場の雰囲気が一気に変わった。葵さんたちは唖然とした表情で、うちのチームはもう呆れ果てて走る準備を始めている。問題は小等部のウマ娘たちだ。
「俺が提示する条件は3つある。1つは怪我をしないこと。2つ目に無茶のし過ぎで倒れないこと……そして最後に、この5日間を耐えきることだ」
うちのチームに興味があったであろうウマ娘たちの士気は一気に上がった。それに釣られて全体的にトレーニングへのモチベーションを上げている。
「コースはここをスタートして1周10kmのコースを走ってもらう。上りもあるし下りもある。皆よく考えて走るように。以上!」
「トレーニング開始は10分後なので各々準備を開始してください」
全く……トレーナーさんは無茶なことを言いますわ。5日間で1000km走破だなんて。しかし、いつもとは違って与えられた時間は多い。早朝から夜まで1日の殆どを使えるのだから。そんなことを考えていると2人のウマ娘が私の元にやってきた。
「「マックイーンさんお久しぶりです!」」
「お久しぶりですわ。キタサンにダイヤさん」
レースの時にたまたま顔を合わせて仲良くなった2人だった。ダイヤさんは家の都合で顔を合わせる事は何度かありましたが。
「お2人はまだ来年も小等部でしたわよね?どうして合宿に参加出来るのです?」
「今回の募集条件がトレセン学園志望の小等部。今年度卒業って条件はないんです!」
そう言ってダイヤさんがリュックから募集要項の紙を取り出した。たしかに、学年の決まりはないようですわね。
「きっと辛い5日間になるでしょう。私も自分のことで手一杯でしょう……なので予め言っておきますわ。怪我だけはしないで……できる限りで全力で挑みなさい!」
「「はい!」」
そう言って私はその場を去った。いつもは後輩の立場ですが……先輩としてちゃんと励ませたでしょうか。そんな私を見てニヤニヤしてたスカイさんに弄られないはずもなく、先輩としての尊厳は一瞬で消え去った。
最初はスタートを待って小等部の娘たちと話すつもりは無かった。しかし、待ってる間で不快な発言が聞こえたものだからつい口が出てしまった。
「あんたトレセン学園本気で行くつもりだったんだw冗談かと思ってた」
どこかのウマ娘が小柄のウマ娘に対してそんなことを言っていた。小柄の娘の方はそんな事に耳を貸さずに準備に取り組んでいる。
「どうにか言ったらどうなのさ!そんなちっこくて才能も無いんだし入学出来るわけないじゃん!」
「そんなの……アンタに決められることじゃない」
少し手は震えながらだけど言い返した。そして、それが気に入らなかったのか、小言を言っていた娘がカッとなって手を出そうとしていた。
「おやめなさい」
私は咄嗟にその手を掴んだ。
「キ……キングさん」
「才能の有無なんてあなたが決めることじゃないわ。力を示したいなら走りで示しなさい。そんな野蛮な方法は一流じゃないわ。今回は見逃してあげるから、あなたも準備をしなさい」
少し威圧すると、その娘はあっという間にどこかに行ってしまった。
「別に助けてなんて言ってない……」
「勘違いしないでくださる?私があなたを気に入ったから助けただけ。私が勝手にしたことよ」
例え自分が弱くても自分を曲げないその姿勢……頑固だけど私は嫌いじゃないわ。
「あなた名前は?」
「ナリタタイシン」
「そう。合宿中に困ったことがあったら声をかけなさい。力になってあげるわタイシンさん」
そう言って私はその場を後にした。少しカッコつけすぎたかしら?これで1000km走破出来なかったら笑いものね。
「時間だ!今から夏合宿1000km走開始!」
こうして地獄の夏合宿が開始された。キタサンブラックにサトノダイヤモンド、ナリタタイシンの3人の走りは見ておきたい。タイシンには前に会ったが、実力と才能がなければ俺は切らなきゃいけない。誰がどうやって走りきるか期待だな。