トレーナーはウマ娘に夢を見る【完結】   作:Tmouris_

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色々な視点からのシーンを描いてたらまた長く……


第103話本番!夏合宿

 朝起きてスタートラインに向かうと1人のウマ娘がいた。まさか、朝のあの筋肉痛を乗り越えて来たのか!

 

「どうしたんだタイシン」

 

 そこに居たのは想像もしていなかったウマ娘だ。今までに走ったことの無い距離。それにより疲労の蓄積。しかも体にエンジンがかかりにくい早朝に……その倦怠感の中スタートに立ったか。

 

「別に……昨日他の娘に差をつけられちゃったから。早くから走っちゃダメって書いてなかったし」

 

 たしかに、早朝から走っても夜中に走っても走行距離はカウントされる。むしろこのトレーニングのキモの1つと言ってもいい。

 俺は悩んでいた。個人的にタイシンには期待していた。しかし、まだチーム未加入の上に小等部。1人だけ贔屓していいものかと。

 

(確実に伸び代はある……)

 

 そうだ、伸び代はあるんだ。だったら、それを伸ばしてやらないとトレーナーとしてダメじゃないか。

 

「なら、今朝はローペースで走るんだな。自分でも分かってるだろう?自分の体に負荷がかかってることくらい」

 

 並の精神じゃこのスタートに立てない。何か自分を支えてくれる高いモチベーション。それがあるからこそタイシンは走ってる。

 

「追いつきたいやつが居るなら距離を埋める為に朝の時間を使え。追い抜かれたくないならそのためのアドバンテージを作るんだ」

 

 俺はタイシンに助言をしたが、プイっとそっぽを向いてスタートした。そう、ゆっくりと軽くこちらに手をあげながら。

 次にスタートに来たのはスズカだった。まぁ、想像通りと言えば想像通りだ。せっかく早朝から走ることが許されてるんだから、その機会を逃さないとは思ってた。でも……それだけじゃないだろう?

 

「スズカ随分と早いじゃないか」

 

「トレーナーさんおはようございます」

 

 スズカは昨日の疲労を感じさせない程涼しげな顔で早朝の空気を楽しんでいた。

 実際に早朝の気温は昼間よりも低く、長い距離を走るのには適した環境ではある。日も余り出てないから余計にな。

 

「どうしたんだ。スズカは昨日のペースを見る感じ朝に走るとしてもここまで早朝じゃなくてもいいだろうに」

 

 俺の言っていることは事実だ。昨日の昼と夕方だけで100kmスズカは走っている、ここまで早い時間から走らなくても1000km走破は問題ないはずだ。

 

「たしかに……このまま行けば私は1000kmという距離を走りきれると思います。けど、今日からはミークちゃんと走行距離に差がで始めます」

 

 ミークは短距離から長距離まで全ての距離に置いて適正があると聞いた。スズカには長距離の適性がない。そうなると、いずれミークとの走行距離に差が出る。

 

「トレーニングだから勝負に拘る必要なんて無いかもしれない……でも私負けたくないんです!このミークちゃんと一緒に走れるトレーニングを全力で楽しみたい!」

 

 その瞬間スズカから威圧感とはまた違った圧を感じた。強者から感じる圧……勝負するウマ娘から感じる圧。

 宝塚記念からその兆候は見られた。今までのスズカは走ることを楽しんでレースに挑んでいた。レースの空気感、会場。しかし、今のスズカはライバルと共にその大舞台で走ることにも楽しさを見出している。

 

「そうか……なら走れ!その分だけお前は強くなれる!」

 

「はい!」

 

 スズカがスタートしてから少ししてスカイとキングの2人がやってきた。初日には言ってなかったが、この2人には1000km走破だけじゃなくてもう1つの目標があるからな。

 

「2人とも良く来たな」

 

「私は問題ないわ。どちらにせよこのくらいから走るつもりではいたもの」

 

「いや〜キングはやる気満々だね」

 

 キングはやる気満々だし、スカイも何だかんだ言って体のスイッチはついているな。

 

「いいか。お前ら2人はダービーでスペに負けた」

 

 2人の雰囲気が一気に締まった。ダービーでスペは2人を上回った。完全な実力差で敗北したんだ。スピード、パワーのどちたもスカイとキングを上回ってた。

 

「スカイも次は長距離で有利だと思って油断するなよ。スペは恐らく長距離にも適正がある。2500mとかじゃなく、3000mや3200mも走れるだろうな」

 

 クラシックの夏は重要な時期だ。ここで一気に成長して秋から冬にかけて頭角を表しだすウマ娘も少なくない。

 

「この1000km走破するまでにスズカとミークに追いつけ。それがお前たちの目標だ。それが出来ないなら……菊花賞厳しいぞ」

 

 スズカの長距離適正は高くない。その上ミークもトレーニングの範疇のスピードで走っている。それに追いつけないなら菊花賞負ける可能性は十分にある。

 

「この夏で成長しろ!お前たちにはまだまだポテンシャルが残っている!」

 

「「はい!」」

 

 気合いを入れ直して2人もスタートした。しばらくしてから続々とほかのウマ娘達も目を覚ましランニングを始めた。

 

「おはようございます。チームの様子はどうですか柴葉さん」

 

 起床した葵さんもスタート地点の様子を見に来ていた。南坂さんはもしもの為に車でコースを回っている。

 

「スズカもやる気十分ですし、スカイとキングも目標を設定しました。それでもダメなようなら……厳しいでしょうね」

 

「サイレンススズカさんのかげでミークもやる気が上がってます。グラスさんもセイウンスカイさんとキングヘイローさんに刺激されてます」

 

 スズカのライバルと走る事への想いが刺激されていいトレーニングになる。その2人を追いかけるスカイとキング。スズカとミークも油断してると追いつかれるぞ。

 

「それにしても、スマートファルコンさんは想像以上に走れますね。まだチームに入ったばっかりと聞いてたのに」

 

「ファルコの実力は高いです。それに、ポテンシャルもある。長距離こそ今は苦手ですが短距離から中距離まで走れる……スピード、スタミナ、パワー申し分無しです」

 

 ウマドルを目指して何をしていたのか前に聞いたことがある。センターに立つ為には1着を取らないといけないから!走るトレーニングも怠ってないとのことだ。

 その後は特に動きもなく早朝トレーニングは終わった。流石に初日の早朝に大きな動きは無い。そのまま朝食のために食堂に向かった。

 

「朝食は今日1日動くために必要なエネルギー源だ!早朝トレーニングに参加した者は特にしっかり食べるように!」

 

 朝食は各々量を調整出来るようにバイキング形式だ。朝食の過剰摂取は昼のトレーニングに関わるからな。各々が適切な量を食べるのがいい。

 

「葵さんのチームの娘って結構な量食べますよね……」

 

「えっそうですか?」

 

 そういう葵さん本人も結構食べてるしな。ライスに関してはスペ程では無いにしろ凄い量だ。ハルウララもライスに釣られて凄い食べてるし。グラスもスペと昼食を食べてるせいか並のウマ娘よりも食べている。

 

「それに比べてうちのチームは控えめだな」

 

 恐らくはいつもの朝食よりは食べてる方だとは思う。しかし、ライスなんかの量が多すぎるが故に少なく見える。

 

「メジロマックイーンさんなんかはもっと食べると思っていました」

 

 そう言いながら南坂トレーナーが俺の横に座ったが……彼の朝食の量も凄かった。葵さんと南坂さんに挟まれて肩身が狭い。

 

「マックイーンは普通よりは食べますけど……あくまでマックイーンが好きなのは甘いものですからね。別腹というやつらしいです」

 

 そして、昼トレーニングから展開が変わった。スカイは昨日よりもペースを上げて、キングは1回の走行距離を伸ばした。マックイーンもライスとの差を広げ始めていた。

 

「合宿も本番って感じですね。全員がコースに慣れ始めてペースを上げ始めました」

 

 南坂さんの言う通り、全体的に目立つウマ娘はペースを上げた。だが、昨日よりもペースが落ちてるウマ娘も多い。1部は昨日の披露から立ち直れていないもの。そして、残り少数は合宿を耐え抜くという言葉を履き違えてるものだ

 

(耐えろって言うのは何も走ってればいいと言うもんじゃない)

 

 元よりこのトレーニングは楽をしようと思えば楽が出来る。スカイとキングなんかは目標を設定しているから別だが、スズカなんかは早朝から走らなくても問題ないからな。

 

「今日からは自分を如何に追い詰め耐えられるかの勝負です」

 

 

 昼は何の問題もなかった……だけど、昼食を食べた後くらいからチケットとハヤヒデに追い付けなくなり始めた。

 

(2人とも全くペースが落ちてない……私はペースに合わせるので精一杯だけど、2人にとってはこれが自分の走りやすいペースなんだから当たり前か……)

 

 コースの中間に差し掛かろうとするところで私は2人から遅れ、スタミナ的にも結構きていた。

 

「ハヤヒデ!タイシンが!もう少しペース落とさないと!」

 

 チケットはハヤヒデに訴えかけるが後ろを振り向く事はなかった。

 

「タイシンは追い付けないなら見捨てても良いと言っていた。だから……置いていく」

 

 そう……この共走の条件は私も引っ張って、もしもついて行けない時は切り捨てても良いということ。それが満たせないなら置いてかれても仕方ない。

 

(今は休もう……これ以上無理について行っても、その後に倒れてちゃうから)

 

 いくらついて行っても倒れてしまったら本末転倒だ。無茶だけはしちゃダメ……

 私はその周の中間で次に2人が来るのを待った。今は確実に2人の背中を追うんだ!

 

 

 私はスマートファルコン!今は夏合宿で走ってる真っ最中!最初はグラスちゃんの後ろを走ってたんだけど、気がついたらあっという間に置いてかれちゃった。

 

(もう少し頑張れば距離を走れるかもしれないけど……)

 

 汗をダラダラ垂らしてダラしない顔で走るのはウマドル的にNGな気がするし……どうすればいいかなぁ。

 私は一旦休憩するためにコースから離れた。ドリンクを飲みながらタオルで汗を拭き取って日陰で休むことにした。

 

「ファルコお疲れ様。どうだ調子は」

 

 休憩中にトレーナーさんが私の横に座った。

 

「見てる感じ足には余裕ありそうだけど。どっか調子悪かったりするか?」

 

 どうしよう……トレーナーさんには本当のこと言った方がいいのかな。でも、理由が理由だし怒られちゃうかな。

 

「うーんファルコ普通に疲れちゃって……調子は絶好調だよ!」

 

 流石に騙せないかなぁ……トレーナーも呆れた顔でため息ついてるし。

 

「お前を担当し始めたのはつい先日のことだ。でもな、昨日の走り見てればグラスワンダーについて行けなくてもペース落として走れるのは分かる」

 

「怒らない?」

 

「サボりとかなら怒るが……理由があるなら怒りはしないさ」

 

 怒らないって言ってるし大丈夫だよね?でも、サボりって言われてもおかしくないよね。

 

「えっとね……ファルコ的にはウマドルが笑顔をやめて、崩れた顔でぐしゃぐしゃになるのはngかなって……ほら、周りに人がいっぱい居るから」

 

 怒られるかと思った。けど、トレーナーさんは私の頭に手を乗っけた。

 

「気にするな。それがお前の想いなんだろ?」

 

 トレーナーさんはそう言うと腕を組んで考え事を始めた。

 

「だけど、トレーニングの量を減らす訳にはいかない」

 

 そうだよね……周りのみんなは頑張ってるのに私だけっていう訳にははいかないよね……

 

「本当は余り良いことじゃないが……夜走ることも出来る」

 

 えっこんな理由なのに。それでもトレーナーさんはそこまで考えてくれるの?

 

「早朝はみんな走りに出てるからな……いや、気温も低いし日も昇ってないから大丈夫か」

 

「いいの?自分で言っておいてだけど……トレーナーさん的には怒るところじゃないの?」

 

 すると、トレーナーさんは少し難しい顔をしていた。何かを伝えようとはしてるけど上手く言葉にできないみたいな感じ?

 

 

「俺はな、走る信念って言うのは大事なことだと思ってる。スズカなんかは走ることに楽しさを強く見い出してる。だからこそ俺はスズカに好きな走りをさせられる……」

 

 走る信念……私がレースで勝ってウマドルになりたい!みたいなものかな。

 

「ファルコは走ることで人気になってウマドルという目標に向かって努力してる。なら、それを否定しちゃだめだ。そうすると、ファルコ自信が何の為に走ってるか分からなくなるだろ」

 

 なんの為に走ってるか……私はレースで勝ちたい。そして、ライブでみんなに笑顔になって欲しい。私がキラキラしてそのキラキラで少しでも元気になって貰えたらな。もちろん!ウマドルっていう存在に憧れてるのが大きいかもだけど!

 

「だからお前は早朝と夜に誰よりも努力しろ。昼間に必死な姿を見られたくないって言う想いがお前にあるならそれでもいい。けど、今はみんなが必死に努力してる……必死じゃないやつにそういう奴らと競い合うのは難しい。だから、みんなが見てないところで必死に努力するんだ」

 

 それを聞いて私はなんだか嬉しい気分だった。自分の事じゃないのに、まるで自分のことみたいに考えてくれて……あっ!ファン1号さんだから当然だよね!

 

 

 ファルコにアドバイスをしてから、特に何か起こることも無く昼トレーニングと夕方のトレーニングを終えた。夕食も食べ終えて夜のトレーニングが始まった。

 

「そう言えばこのトレーニングが終わってから2日ほど休みを取るんでしたっけ」

 

「そうですね。流石にこれだけハードなトレーニングの後に休み無しは厳しいでしょうし」

 

 葵さんの言った通り、このトレーニングのあとは2日間という少し長めの休日を入れる。疲労が完全に抜けきるかは分からないが……それ以上長い休みを取ると、せっかくの集中力が途切れてしまうかもしれない。

 

「その休日中に近くで縁日が開かれるそうですよ?折角ですし誰かと行ってみるのもいいかもですね」

 

「そうですね……でも、ハードトレーニングのあとの休日くらいトレーナーとじゃなくって友達とかと一緒に居たくないですか?」

 

 合宿中は朝から晩までトレーニングで俺が居る。それなのに、休日まで一緒だと気が休まないだろう。しかし、何故か俺を見て葵さんはため息をついていた。

 理由を聞こうと思ったが、ちょうど時計が9時を回ったのでトレーニング終了のアナウンスを始めた。

 

「これ以上暗くなると怪我のリスクもある!明日に備えて休むように」

 

 そして、もう1つのアナウンスも忘れないようにしないとな。

 

「もう1つ小等部メンバーには連絡だ。明日の朝に南坂トレーナーに頼んで車を出してもらう予定なんだが。リタイアするものはその車に乗ってくれ。明日リタイアしない者は、残りの4日間も参加する者と判断する!」

 

 流石に辺りがザワついた。一応はオープンキャンパスの一環として合宿参加を行っている。それを途中でリタイアというのは入学時に影響があると思ってる娘もいるだろう。

 

「明日リタイアしたものを俺たちは責めたりしない。もちろん、学園入学試験などの時に影響もでないし、オープンキャンパスには参加したことにする……明日の朝までよく考えておくように!」

 

 そして、ほとんどのメンバーが解散した。俺を除いた3人以外は。

 

「ファルコには事前に伝えてはいたが……キングとタイシンも残るとはな」

 

 タイシンはビワハヤヒデとウイニングチケットに距離を離された。キングはスズカ達に追いつかなきゃ行けない……そして、スカイに付けられた差を無くさなければならない。

 

「私はスカイさんほどのスタミナがない……それは、明日以降から顕著に出るでしょうね。だからこそ、私は走らなきゃいけないのよ。その力の差を埋めるために」

 

「元々の距離差もあったし……今日は結局着いてけなかった。そのためには走るしかない」

 

 キングとタイシンの言うことはもっともだ。トレーナーとしてその意図を汲んでやりたいとも思う。だけど……

 

「キングは条件付きで許可をしてもいい。ただ、タイシン。お前には許可を出せない」

 

「なんで!私が小等部だから!?」

 

「そうだ」

 

 俺の返答にタイシンは押し黙った。正確には年齢が問題ないわけじゃないんだけど。

 

「夜は明かりが少なくて危険も多い。俺が車を出してライトを焚いて後方から追うが……見られるのは1人だけだ。何よりもタイシン。ここで走ったとして、お前は明日のトレーニングを耐えられるか?」

 

 実力不足とオーバーワークが重なればどんな無茶をするか分からない。タイシンは早朝からも走ってるから、夜は睡眠を取って疲労回復を優先するべきなんだ。

 

「それは……」

 

 タイシンは悔しそうな顔をしつつも納得しきれずにいる。自分の実力不足もオーバーワークも分かってるはずだ……それでも、速くなりたいという強い意志がそれを納得させてくれない。

 

「なら、タイシンにも条件を出す。2人から少しでも遅れ始めるか、無理をしていると俺が判断したら直ぐに回収する。これが最大限の譲歩だ」

 

 とりあえず、タイシンはその条件で納得してくれた。正直あまりしたくはなかった。これがタイシンに良い影響を与えるか悪い影響を与えるか分からないからだ。けど、今のモヤモヤを抱えたままじゃタイシンはこの合宿で成長出来ない……俺はタイシンというウマ娘を深くは知らないが、彼女の情熱的な想いを信じることにした。

 

「次にキング。お前にも本当は走って欲しくないんだぞ?」

 

「分かってるわ……本当は疲労回復に努めるべきだって。でも、菊花賞でスカイさんたちに勝つためにはここで壁を超えないといけないのよ」

 

 キングの覚悟も決まってるか……ただ、彼女の言うことも正しい。今のままじゃ菊花賞の3000mという距離でスカイやスペには勝てない。

 

「先頭を走るのはファルコだ。キングがファルコを追い抜くことは禁止する」

 

 これはあくまで、昼間にスタミナを温存しているファルコのためのトレーニング。キングがしっかりと走ればファルコが追いつけないのは分かってる。だから、ファルコを追い抜かないことが条件だ。

 

「あと、これは条件とは少し違うが。夜の走りでは軽いステップを意識して走れ」

 

 さっきの条件にはあっさりと納得した様子だったが、こっちの方はあまり理解できない様子だ。

 

「キングの走りは極端に言えばスピード特化の走りをしてる。何よりも、お前のそのパワーによる踏み込みの強さは、爆発的なスピードを生むと同時に足に疲労も蓄積される。中距離までなら体力だけでどうにかなるかもしれないが、長距離以降は何か技が必要だ」

 

 キングの今の走りじゃ長距離を走る上では負担がかかりすぎる。キングにスカイみたいな長距離適性やスタミナがあれば話は別だがキングはそうじゃない。なら、その走りに長距離用の何かしらの工夫が必要だ。

 

「ファルコの後ろを走るならペースをセーブすることになるだろう。だから、ステップを軽くするイメージで走るんだ」

 

「全く……フォームを変えたり走りを変えたり忙しいわね」

 

 キングは呆れ混じりにため息をついた。それに釣られて俺も苦笑いしてしまった。普通ならここまでフォームを弄ったり走り方を変えたりすることは無い。

 

「そりゃ、全距離G1で1着なんて取るんだから……これくらいはやらないとな」

 

「っふ……その通りね」

 

 キングの目にはやる気が満ち溢れていた。そのくらい直ぐに出来るようになってやるわと言わんばかりの態度でスタートに立った。

 

 

 スタートした直後から私は驚愕してた。スマートファルコンさんのことは詳しく知らない……だけど、これがトレセン学園の実力なんだって。

 ほぼ自分の全力を出てた。それでも付いて行くのが精一杯だった。そして、疲れた体で全力で走れば力尽きるのもあっという間だ。

 

「タイシン……ここまでだ」

 

 スタートからたった4km。コースの半分を走ることも無く距離を離された。

 

「やっぱり私には無理なのかな」

 

 つい弱音を吐いてしまった。実力不足は自覚してたけど、まさかここまでの差が出るなんて思わなかった。

 

「キングは元々長距離だったら今のタイシンよりも遅かった」

 

 私が俯いていると、トレーナーが語り出した。

 

「まさか……お世辞はやめてよ」

 

「これはお世辞を言ってるんじゃない。言い方が悪かったか。キングが遅かったんだ」

 

 キングヘイローさんが遅かった?そんなバカな。皐月賞では1着を取って、ダービーでは僅差で2着……菊花賞でも1着を狙ってるような人なのに。

 

「中距離なんか走れないって言われた。最強に皐月賞では勝てないと評価されていた……だけど、キングは成長した。そして、追い抜いて証明したんだ自分の実力を」

 

 私はキングヘイローさんの実績は知ってるけど、あの人の過去を知ってるわけじゃない。だから、トレーナーの言ってることは本当なのかもしれない。

 

「タイシンも今成長しているんだ。無理をするのは良くない」

 

「でも……今日追い付けなかった。負けたんだよ?」

 

 悔しかった。自分の実力が2人よりも劣っていると明白になった。認めざる負えないから。

 

「負けたのはレースじゃない。トレーニングだ」

 

 分かってる。でも、悔しいものは悔しい。例えそれがトレーニングでも負けたんだから。

 

「それでも負けたことが悔しいなら……最終日までに2人を追い抜いてやれ!今勝てなくたっていい。最初負けてても最後に追い抜けばお前の勝ちなんだから」

 

 最初に負けてても最後に追い抜けば……そっか、これはトレーニングだからそのチャンスがあるんだ。

 

「お前は今成長しようとしてる。デビューはおろかトレセン学園に入学もしてない歳だ。周りを追い抜くチャンスなんてこれからいくらでもあるんだ。今は焦る時じゃない。自分の実力にあったトレーニングで着実に地盤を固めることだ」

 

「分かった……あのさ、ありがとう」

 

 これを伝える為に私に走ることを許可したんだ。しかも、私がトレセン学園に入ることを確信しちゃってるし。

 私は思わず笑ってしまった。そこまで自分のことを評価して貰えて嬉しかったのもあるけど……なんでかな、この人がトレーナーっていうのに違和感を感じない。

 

「いいんだ。この経験もお前の力になる。だから来いよトレセン学園」

 

 こうして、来年の新たな蕾は芽吹き始めた。各々が自分の目標を再設定し、その目標に向かって歩んで行く。

 

 

夏祭りに一緒に行きたいウマ娘

  • スズカ
  • スカイ
  • キング
  • マックイーン
  • ブルボン
  • ファルコ
  • タイシン
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