さぁ、合宿四日目。最終日の明日に向けて各々が準備を整える頃だ。スカイとキングは今日中にスズカ達に追いつかないといけないし。タイシンはチケットとハヤヒデから離されたらダメだ。
「「トレーナーさんお願いがあります!」」
俺の横にはキタサンとダイヤの2人がいた。2人は今朝リタイアで送られたはずだったけど。
「私たちは確かに走りきれずリタイアしてしまいました!でも、この空気を少しでも多く味わっていたい!この感覚を忘れたくないんです!」
「私もです!この環境でどうにかまだ強くなりたいんです!お願いします!」
キタサンとダイヤの意思は強いな……2人とも走るとは一言も行ってないから大丈夫か……
「分かった!俺が2人の筋トレを見てやる。少しでも強くなれ!」
「「はい!」」
2人には特製の筋トレメニューを言い渡した。もちろん足に負荷がかからない物を選んだ。
「おいブルボン止まれ!」
俺はスタートラインを、そのまま通り過ぎようとするブルボンを呼び止めた。ブルボンはまだ15kmや20km連続で走ることは厳しい。今なんか10kmも厳しいはずだ。
「足を見せてみろ」
「マスター。私の足には異常はありません」
ほう?異常なしか……そう言うブルボンの足を触ると明らかに熱を持っていた。
「無理はするなと言っただろう……」
「しかし……私は周りと差があります」
1度は取り戻した冷静さ。しかし、この環境がブルボンに熱を付けたか。
「気持ちは分かるが……これ以上やってたら怪我をしていた。今は基盤を作る時だ。分かってくれブルボン」
怪我をしたら元も子もない。頑張るのは才能だ。けど、頑張り過ぎれるのも困りものだな……
「今日怪我したらこれからあるトレーニングにも影響が出るだろ?」
「マスター……それはつまり」
そう、俺はもうブルボンのことを認めている。認めているからこそ裏切らないで欲しいとも思ってる。
「今からは5km事に休憩を取れ。それを守ることが出来れば晴れてチームメンバーだ」
彼女はこれから確実に強くなるだろう。ブルボンのスピード力は天性のものだ。ここからスタミナを中心に伸ばしていけばデビュー頃にはかなりの実力者になる。
「今回の休憩時間は少し長めに取るようにしてくれ」
この4日間タイシンとチケットと共に走り続けてきた。今朝、走行距離を見たらタイシンは私たちに追いついていた。彼女たちと長く関わってきたわけじゃない……たった4日間の関わりかもしれないが、分かったことが一つだけある。
(彼女たちは本気だという事)
チケットは初日から私から離れることはなかった。タイシンに至っては追いついて来るとも思っていなかった……しかし、結果はどうだろう。チケットは未だに私の後ろに着いてきているし、タイシンは追いついてきた。
そして、その本気に私も応えなくてはならないといけない。最終日前日の今日。1度でも突き放されれば追いつくチャンスはもう無い!
「ちょっと!ハヤヒデペース上げすぎじゃない!?」
そう言いながらもチケットは私の後ろに付いてくる。タイシンも無言でその後ろを追う。
「私はお前たちを戦うべきライバルだと思った……それと同時に負けたくないと思ったのさ!」
私はもう一段階ペースを上げた。彼女たちを突き放すためのペースアップのつもりだった……それなのに私の横に2人が飛び出した。
「面白いじゃん……突き放せるもんなら突き放してみな!」
「私はまだハヤヒデとタイシンと走ってたい!」
次にあの2人の背中が見えたら……やっと追いつける!ここまでかなり無理してペース上げて来たけど、1回くっついちゃえばかなり楽になるはずだ。
カーブを超えると2人の影が見えた。私はそのまま2人の後ろに付いた。
「スズカさんにミークさん!おまたせしました!ちょ〜っと天気が良かったのでセイちゃんお昼寝しちゃってましたよ」
「ふふ、待ってたわよスカイちゃん」
「これで後はキングさんだけ」
ミークさんはキングちゃんが来ると思っている。夜も走って距離を縮めているとは聞いてるけど……このままのペースだとキングちゃんはギリギリ明日までに追いつけない。
昼のトレーニングを終えて時間は夕方に差し掛かっていた。そのタイミングでグラスが休憩に入った。
「グラスさん」
「はい……」
そこへ葵さんが歩み寄り名前を呼んだ。グラスはそれで耳をショボンとさせていた。
「分かりますよね」
「っツ……分かり……ました」
グラスはとても悔しそうな顔で俯いてしまった。彼女は怪我明けでまだ本調子ではない……リタイアということだ。
「焦る気持ちは分かります。ですが、夏合宿はまだほぼ2ヶ月残っています。今は休みましょう」
「スカイちゃんやキングちゃんに距離を離されれば離されるほど実力の差を思い知らされます……もう追いつけないんじゃないかって……!」
グラスは泣いていた。同期に大事な時期に差を付けられたという悔しさ。そして何よりも、もう追いつけないかもという不安に押し潰ぶされそうなんだ。
俺は葵さんとアイコンタクトを取り、無言で頷いた。葵さんも意図を理解してグラスの方を向き直した。
「ほら行きましょう。宿舎までついて行きますから」
グラスは賢いウマ娘だ。だが、心はまだ少女。大人である俺たちがしっかりとケアをしてあげないといけない。
そして、それと同時に俺たちは言うべき事も言わないとならない。
「昔より明るくなったんじゃないか?ライス」
俺は休憩中のライスに話しかけた。ハルウララが葵さんのチームに入ってから、彼女はかなり明るくなった。ハルウララが彼女にとって心の太陽的存在になっているんだろう。
「うん……ウララちゃんと一緒に居ると元気が貰えて笑顔になれるの!」
トレーニング中、学園生活ではウララとライスはお互いを支え合っているんだろう。だが、レース中は孤独だ。
「みんなを幸せに出来るような走りか……ならライスが1着を取ったら1番幸せそうな顔をしてやれ。それが、夢のためファンのため……何よりもライバルの為になる」
俺の言っていることが理解できなかったらしく、ライスは首を傾げている。
「レースで幸せを掴むってことは……夢を叶えるってことは誰かの夢が叶わないってことなんだ」
その言葉にライスは同様していた。彼女はまだデビュー前のウマ娘だ。負けた相手のことなんて考えたことは無かっただろう。だが、勝者がいるということは敗者もいるということ……優しい彼女なら必ずいつか対面する問題だろう。
「じゃあライスどうしたらいいの……?ライスの走りじゃ誰も幸せに出来ないんだ……」
ライスは今にも泣き出しそうな顔をしていた。自分が走ること、自分が勝つことは誰かを傷付けてしまうと知ったから。
「だから、幸せであれ。そういう時は全力で喜べばいい。その姿がファンを喜ばせるし。ライバルへの最低限の礼儀みたいなもんだ」
彼女は頭に?マークを浮かべて悩んでいる。これは実際に体験してみないと分かりにくいか……
「全力で頑張って全力で喜べばいいんだ。その姿で元気づけられる人がいるってことさ。今は難しく考えなくていい……いつか分かるさ」
「分かった!ライス頑張るね!」
これは俺が詰めるべきことじゃないな。彼女のトレーナーは俺じゃなくて葵さんなのだから。だけど、一応このことは葵さんに話さないといけないな。
「……というわけなんですけど」
俺はライスに話した事を一通り葵さんに話した。
「いえ、いつかは話さないといけない内容ですから。ライスさんは優しさ、ウララさんは楽しみ。どちらも彼女たちの立派な長所です。しかし、それ故に気付けないことや対面する問題があります」
ライスはその優しさ故に自分の幸せよりも他人の幸せを願ってしまう。それは良いことでもある。だが、それによってレースでぶつかる問題がある。
「ウララさんは走る事を楽しんでいます……体も丈夫ですしやる気もあります。ただ、勝利への執着がありません」
勝利への執着か……スズカも走りを楽しむという根本的な面は同じだ。だけど、スズカは先頭でゴールしたいという勝ちへの意識があった。
「ですが……彼女たちはまだ成長途中です。これからのレースやトレーニング、そういった経験で必ず乗り越えるはずです」
葵さんは2人の事を信頼している。2人を見るその瞳に迷いなんてものは感じなかったから。
「ところで、キングさんは大丈夫なんですか?スカイさんは先頭2人に追いつきましたが……」
キングの走行距離は3人には少し及ばない。このままいけば追いつけないだろう……
「こればかりはキングが乗り越えなければならない問題です。どうにかできるならしてやりたいですが……」
結局夕方のトレーニングでキングが追いつくことは無かった。夜はファルコのペースに依存する関係上厳しい……何か策はあるのか?
最終日前日の夜にトレーニングでキングちゃんはピリピリしてた。トレーナーさんからキングちゃんの今回のトレーニングの目標は聞いてたから、何となく理由は想像はつくけど……
(私が速く走ればキングちゃんの目標に近づく……)
そんな事を考えていたらキングちゃんの方から私の方に歩み寄ってきた。
「ちょっといいかしらファルコさん」
「どうしたの?」
「あなたまだ全力で走っていないわよね?」
核心を突かれて困惑してしまった。
「どっどうしてそう思うの?」
「だって、あなたの必死な姿をまだ見ていないもの……理由があるのかしら?」
どうやら全部丸分かりの様だった。私は諦めてトレーナーさんに話したよう、全部を正直に話した。
「可愛さ……ね」
「あはは……ごめんね?キングちゃんとかは立派な理由があって走ってるのに」
怒られるかな……と思ったらキングちゃんは笑い始めた。
「オーホッホッホ!可愛くある……というのがどういうものかは分からないわ。だったら必死な時こそ笑えば良いじゃない。誰かに笑顔を届けたいと思うあなたの笑顔はきっと素敵なもののはずよ」
必死な時こそ笑う……そして、キングちゃんは「それに」と付け加え。
「必死に走っているウマ娘は可愛らしいものでは無いかもしれない。でも、どんな時よりも尊く素晴らしいものでは無いかしら?」
ウマドルとして……何よりも競技者としてファンの人達に元気を届ける。私のそんな姿でも元気を上げられるかな。
「周りは違うかもしれない。でも、ここにいるみんなはそう考えているはずよ……だから、走りなさい。それが私のためでもあり、あなた自身のためでもあるんだから」
キングちゃんは自分のことで精一杯のハズなのに。それでも私の事を気づかってくれてる。もしかしたら自分のためなのかもしれない……それでも、その姿を私は応援したいと思っちゃったんだ。
「うん……!ファルコ頑張るね!」
さっきのキングとファルコの話を聞いた。俺には気付けなかったことにキングは気付いた……スズカやスカイ、キングはチームのことをよく見ている。トレーナーとしては不甲斐ないが……このチームは纏まっていっている。
(それにしてもいいスピードだな……)
ファルコのスピードは想像以上だった。このままのペースで行けばキングはスズカ達に追いつくことが出来るだろう……このまま行けばだが。
(やっぱりスタミナ的に厳しいか)
ファルコの適正距離は大体キングと同じだ。しかし、スタミナ量と技術の差がある。スピードを維持するのにスタミナは消費するし、維持出来る距離は短い。
「キング!ファルコ!ここからはローテーションを許可する!ただし、無理に付いて来させるようなことはするなよ!」
そのセリフを待ってたと言わんばかりにキングが前に出た。落ちていたペースも戻りファルコも呼吸を整えていた。
「ファルコさん。キングの一流の背中を見せてあげるわ!着いてきなさい!」
「うん!」
凄い走りやすい。なんでだろう、今はキングちゃんの背中がすごく大きく感じる。風が全然来ないからすっごく走りやすい!
その後は基本的にキングちゃんが前を引いて、私がたまに前に出て走った。時間いっぱいまで力を振り絞って走りきる。
「2人ともお疲れ様。キングは先頭集団にギリギリ追いついた。ファルコも今までで1番の走りだったぞ」
私たちはゴール地点で倒れ込んでた。全力で走ったハズなのにまだ走れそうな気がして、それがなんだか面白くて笑ちゃった。キングちゃんもそれにつられて笑い始めて、トレーナーさんは何がなんだか分からなくて困惑してた。
「トレーナーさん。最後の1日もファルコ頑張るね!」
「あぁ!」
私はその後、お風呂で汗を流してお布団に入るとすぐに眠りについた。明日の為に少しでも体の疲れを取ろうとしようとばかりに。
明日は最終日。みんなが身体からアドレナリンがドバドバ出て極限状態で迎える事になる。その状態で何人が殻を破れるか。
スズカとミーク、スカイとキング4人の大勝負。マックイーンもギリギリ完走圏内。小等部3人の競り合い。どうなるか楽しみだ。
夏祭りに一緒に行きたいウマ娘
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スズカ
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スカイ
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キング
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マックイーン
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ブルボン
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ファルコ
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タイシン