トレーナーはウマ娘に夢を見る   作:しゃなたそ

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第107話:休日!夏祭り!

 夏合宿の休日初日。3人のトレーナーで話し合った結果、俺たちトレーナーも今日は休みにすることになった。

 

(かと言って、やることも特別にないんだけどなぁ……)

 

 そう思いながらも一日中寝てるのも勿体ないと思い、俺は散歩をするために昼頃外に出た。

 

(それにしても今日はいい天気だな)

 

 空を見上げること雲ひとつない晴天だった。かと言って湿度が高いわけでもなく、そよ風も吹いている。スズカがいたら。

 

「「今日は走るのには絶好の日」」

 

 俺と同じセリフを言う声が後ろから聞こえた。振り向くとランニング姿をしたスズカがちょうど宿舎から出てきたところだった。

 

「スズカか。随分と珍しい格好してるじゃないか」

 

 いつもストレートに下げてる髪は纏められてポニーテールになっていた。服装も学校指定のものではない薄めのランニングウェアに短めのランニングパンツを履いている。

 

「あっトレーナーさんに見せるのは初めてですね。休日のランニングの時とかは気分転換に格好を変えて走ったりするんです」

 

「そうなんだな。良く似合ってるじゃないか」

 

 俺もチームメイトと四六時中いるわけじゃないからな。こういったラフな格好をしてるスズカを見ると新鮮な感じがする。

 

「ふふ、ありがとうございます。それにしても、昼間なのに人通りが少し多いですね」

 

「そうだな。たしか、今晩夏祭りがこの辺であるらしいからその準備だろう。花火もやるらしいぞ」

 

 大荷物を持ってる人や、車も軽トラとかの行き来が多い。恐らく夜の縁日の準備が始まっているんだろう。

 

「いいなあ……そうだせっかく綺麗な夜空を期待できそうなんだ。チームで夜の縁日行かないか?」

 

「あ、いいですね!」

 

 スズカはそのまま宿舎の方に戻って行ってしまった。

 

「ちょっとスズカさん!?ランニングは?」

 

「ちょっと用事を思い出しました!」

 

 俺はその場に1人取り残された。まぁ、とりあえず予定通り散歩でもするか。

 

 

「というわけでみなさんお願いします。私トレーナーさんと2人で縁日回りたいの!オシャレとかもよくわかんないし……」

 

 私がみんなにそうお願いすると。スカイちゃん、キングちゃん、ファルコちゃんが携帯を鳴らした。

 

「トレーナ~?スズカさんから話聞いたんだけど、今日マックイーンと行く予定だったからさ、他の子連れてってあげてよ」

 

「あらトレーナーさん?私はウララさんと行く予定でして……申し訳ないけど残りのメンバー行ってあげなさい」

 

「もしもしトレーナーさん!ごめんねー私ブルボンちゃんと予定があって」

 

 トルゥントルゥンと私の携帯が鳴り始めた。私はとっさにその電話を手に取った。

 

「もしもし、スズカか?なんかみんなに連絡したんだが都合が合わないっぽい。2人で行くか?」

 

「もちろんです!楽しみにしておきますね!」

 

 トレーナーさんからすれば私の目の前で起こってる光景なんて予想できるわけもないわよね。騙してるみたいで申し訳ないけど。

 

「皆ありがとう!」

 

 周りのみんなは笑顔だそれだけのはずなのになんでこんなに圧力をかんじるのかな?

 

「ブルボンさんは腕を。スカイさんは足を抑えきってください。さて、残ったのはあたしと、ファルコさんにマックイーンさんね。道具は持ってきているかしら?」

 

「流石に浴衣なんて持ってきてないけど必要最低限のものは持ってるよ」

 

「私も最低限のものは持っていますわ」

 

 キングちゃんとファルコちゃんとマックイーンちゃんの三人が、見たことが無い量の化粧品らしきものをいっぱい取り出した。

 

「それじゃあ始めるよ!スズカさん美人化計画!キングちゃんとファルコさんはメイクの方をお願いします!服装の方はマックイーン。夏祭りの開始前に仕上げるよ!」

 

「「「「おおおおおお!」」」」」「おお?」

 

 みんなハイテンションだけどブルボンちゃんはテンションについていけてないし……

 

 

 時間が過ぎて夕方になった。スズカがチームメンバーに夏祭りの事を伝えてくれたっぽいが、既にみんな知っていて各々が予定が決まっているようだった。チーム全員でゆっくりするのもいいと思ったが、せっかくの機会だし居たい相手と居るのが良いだろう。

 

「トレーナーさんお待たせしました」

 

 宿舎の外で待っていると、後ろからスズカの声が聞こえた。振り向くと夕焼けで朱く照らされるスズカがいた。白ベースの服に緑色のリボン。そして、碧色のスカートを履いていた。髪は昼間のようにポニーテールになっていて。その結われた髪の隙間から見えるうなじが妙に色っぽく感じた。

 

(おいおい、落ち着け相手は担当の子供だぞ)

 

 俺は喉が詰まったように声を出せずにいた。それに違和感を感じたスズカが俺のすぐ側まで寄って来て顔を覗き込ませた。

 

「どうしましたかトレーナーさん。もしかして、あまりに会ってないでしょうか……」

 

「いや、すまん!似合ってると思うぞスズカ」

 

 顔が近くに寄ってきたことで、スズカが化粧をしているのに気が付いた。あまり派手すぎずにスズカの素の顔の良さを活かすような感じだ。

 

「ふふ、そう言ってもらえるなら頑張ったかいがありました」

 

 最初は褒められたことを喜んで笑っているように見えたが、後半はどこか遠い方を見るような目で空を見ていた。

 

「とりあえず、いい時間だしそろそろ会場に向かおうか」

 

「そうですね……そろそろ日も暮れるころですし」

 

 スズカは俺に歩幅を合わせながら横を歩いた。こうして、俺たちは夏祭りの縁日へと向かった。

 

 俺たちが会場にたどり着くと、既に縁日が始まっており人も多く集まっていた。

 

「いやぁ……予想はしてたけどかなりの人数がいるな。人に飲み込まれそうだ」

 

 そう言いながらスズカの方を向くが、スズカは何かを考え込むように下を向いていた。「どうかしたのか?」と声をかけようとした瞬間、スズカが俺の手を握った。

 

「これでもし飲み込まれちゃっても離れないですね」

 

 スズカは笑顔で俺の方に向き直した。俺はなんだか照れくさくなって視線を逸らしてしまった。俺の反応が面白かったのか、スズカがふふっと笑っていた。

 

 その後、2人で縁日を回った。何個かの屋台の店員の人にカップルとお間違えられることがあった。

 

「俺ってそんなに幼く見えるか?」

 

「私はそんなことないと思いますよ?」

 

 どっちかと言えば親と子くらいに見えないものだろうか。そう思いながらスズカの方を向くと、スズカの顔が目線の少し下にあった。

 

「スズカ身長伸びたか?」

 

 俺が初めてスズカに会った時、身長はもう少し小さくて幼い感じだったが……こうしてよく見ると顔から幼さは消えて身長も伸びている。

 

「トレーナーさんはずっといるから気づけなかったのかも知れませんね。これでも結構大きくなったんですよ?」

 

 スズカはもう子供じゃないってことか……いや、スズカだけじゃない。スカイやキングだって子供じゃないんだ。完全に大人ってわけではないから支えてやらないといけないが。

 俺はそんな事を考えながら呆然と空を見上げた。そこには大量の星々が輝いていた。

 

「それにしても、本当に綺麗な星空だな」

 

「そうですね……」

 

 スズカも星空を見上げた。雲ひとつかかっておらず綺麗に空を一望できる。

 

「こんな夜空の下じゃ走りたくなるか?」

 

 俺がそう聞くとスズカは少し考え込んだ。しかし、すぐに顔をこちらに向けた。

 

「確かに、この夜空の下で走れたら気持ちいいのかもしれません……でも、こういう日にこうやって歩幅を合わせて誰かの隣を歩くのもいいなって最近は思います」

 

 そう言いながらスズカの手を握る力が少しだけ強くなった。俺は返答に困った。どう返答したらいいか分からなかったのもある。けど、それ以上に返答してはいけないと思ったからだ。

 直後大きな花火が空に打ち上げられた。俺とスズカの意識は自然と空の花火へと向けられた。

 

「おぉ……大きな花火だ」

 

 俺が花火のことに話を切り替えると、スズカはムスっとした顔で俺の背中しっぽで叩いてきた。でも、これでよかったんだ。

 スズカは誰の隣とは言わなかった。それは言っちゃいけないことだと分かっていたからだろう。だからこそ、本人の前で位は気づかないフリをしよう。




今回は描写を丁寧に書こうと意識したんですけど、中々難しいですね……

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