トレーナーはウマ娘に夢を見る【完結】   作:Tmouris_

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ワタシ チャンミ ツライ


第111話:秋レース!チームレグルスの快進撃!

 チームルームで俺はかつてない程に歯がゆい思いをしていた。と言うのも、今日はスズカとキングのレース当日なのだ。スズカが毎日王冠、キングが京都新聞杯に出走している。

 2人のレースは開催日が同じだったから、俺はどうしたらいいか悩んでいたところ、2人からテレビで見ていてくれと言われた。

 

「はぁ……現地でちゃんと応援したいなぁ」

 

「私も現地に行きたかったです」

 

 この部屋にいるのは俺とブルボンだけ。スズカとキングはレースでもちろんいないし、マックイーンとファルコには2人のサポートを任せてある。スカイはレースのための調整だし。

 

「本当はブルボンも行かせてやりたかったんだがな。俺が行けない以上は、もしもがあると困る」

 

「いえ、マスターの判断が正しいと思います」

 

 ブルボンは良くも悪くも従順だ。俺があれをこうしろと言えばそうする。それ故に説明をしっかりとすれば飲み込みが早い。しかし、その応用の効かなさがレースに響かないといいが。

 

「ブルボンはチームに馴染めそうか?うちは良くも悪くも個性派揃いだからな」

 

 走ることが大好きすぎるスズカにマイペースでフワっとしたスカイ。誰よりもストイックなキングにメジロ家の令嬢のマックイーン。

 

(まぁ、ファルコもブルボンもどちらかと言えば個性派なんだが……)

 

 少し悩んでからブルボンは口を開いた。

 

「馴染めていると思います。ファルコさんは良く話しかけて来てくれますし、他のメンバーの方とも話すことはあります」

 

 ファルコは妙にブルボンのことを気に入ってるし、スカイなんかはあれでも面倒見が良いからな。

 世間話はこれくらいにして、本題に入るとするか。ほかのメンバーがいるとブルボンも答えにくいだろうし。

 

「そういや、答えにくいなら答えなくてもいいんだが……ブルボンはクラシック三冠に挑戦できると思うか?」

 

 ブルボンは俺の唐突な質問に?マークを浮かべて困惑していた。

 

「チームに入ってからそこそこ経ったし、スズカやスカイ、キングとかの実力はなんとなく分かるだろ?」

 

 質問に対して、ブルボンは首を縦に振った。

 

「スズカはダービーを勝ったし、スカイとキングは皐月賞を同着ながらも勝利した。それを評価した上でお前がうちに来たのもわかってる」

 

 俺とスズカたちで残した実績を評価してもらえるのは正直に嬉しい。ブルボンの三冠挑戦にも否定的な感情はない。

 

「それでも、スズカは皐月賞に怪我で出走出来てない。スカイやキングもダービーを逃した」

 

 ブルボンも俺の話が読めて来たらしく真面目な顔で考えていた。3人の実力を近くで感じているからこそ分かるはずだ。あの3人の才能と実力を持ってしても三冠は取れなかった。

 

「もちろん俺はブルボンに三冠を取って欲しい……けど、三冠を取れなかった時に後悔を感じないか?あの時スプリンターになっていればとか。それだけ、クラシック路線の相手は強い。そして、時には実力や才能が上回っていても1着では無い時もある」

 

 怪我やトラブル。レース中には何が起こるか分からない。何よりも、1年という期間を大きな怪我をしないということが大前提だ。俺たちの間には長い沈黙が流れた。

 

「おっと、スズカたちのレースが始まっちゃうな。とりあえずはレースを観よう」

 

 まずはスズカの毎日王冠からだ。実はこのレースかなりやばいんだよな……葵さんのところのグラスの復帰戦でもあり、東条さんのエルコンドルパサーの出走している。

 

「スズカさん。なんだかいつもより凛々しく見えます」

 

 パドックでのスズカを見たブルボンの感想だ。たしかに、いつもよりも顔が引き締まっている気がする。気合いが入っているというか。もしかしたら、俺に心配かけないようにしてくれてるのかもしれない。

 グラスは調整はたしかに出来ている感じだが……仕上がりきってないな。まぁ……復帰戦でしっかりG2に調整出来たのは葵さんとグラスの力か。

 

「1番の問題はこっちだよなぁ……」

 

 エルコンドルパサーがパドックに入場した。その足の仕上がりは素晴らしいと言わざる負えない。東条さんがトレーナーとして優秀なのは分かる。しかし、エルコンドルパサーのその才能と実力も並外れている。

 

 パドック入場とゲートインが終了して、いよいよレースが始まった。

 序盤から先頭に立ったのはスズカだ。先行集団にエルコンドルパサーが控えて、グラスは後方で待機している。

 

「とりあえずはレースの流れは掴めたな」

 

 俺がボソッっと口に出してしまったが、ブルボンはそれに反応する様子もなく画面に魅入っている。

 レースは進み中盤でグラスが仕掛けた。仕掛けたと言うよりかは、スズカを明らかに意識して動き始めた。他の面々は自分のタイミングを狙っていたり、スズカの減速を待っていた。

 

(減速を待つ……いや待ちたい気持ちは分かるが。そんなに甘くないこともみんな分かってるよな)

 

 恐らくレースに出走してるウマ娘なら分かると思うが……スズカのスピードにはさらに磨きがかかっている。減速を待っているウマ娘は減速してくれとお祈り状態だろうな。

 そのままスズカの減速はなく、レース終盤にさしかかろうとした時に早い段階でグラスが仕掛けた。

 

(上手い……恐らく1番絶好なタイミングだ。スズカの走りをまじかで見た葵さんとグラスだからこそ立てられた綿密な作戦か……)

 

 夏合宿で完全に実力測られてるなぁ……それはこっちも同じことではあるんだが。それでも、1番仕掛けられたら不味いタイミングを導き出したのはあの二人の研鑽あってこそか……本当にいい友人である前に怖いライバルだと思う。

 

 少ししてエルコンドルパサーもしかけたが……あれじゃあ遅い。グラスもタイミングこそ良かったが、その作戦に体が追いついてない。

 

(いや……本気で勝ちに来てるんだ。これが復帰戦とか関係なく)

 

 グラスは減速して、エルコンドルパサーがそのまま前に出てきた。そして、スズカの背後を捉えた瞬間。エルコンドルパサーの表情が僅かに揺らいだ。レースで隙を見せた。

 

(エルコンドルパサーの実力は本物だ……けど、精神力と経験が足りなかったな)

 

 その瞬間エルコンドルパサーに抜かれたグラスと、前方のスズカがほぼ同時に加速した。しかし、一瞬テレビに映ったグラスは悔しそうな顔をしていた。

 

(スズカの加速はエルコンドルパサーの油断を突いたものだろう。だからこそ、グラスもそのタイミングを読んだ。スズカに勝つために)

 

 俺はその精神力に度肝を抜かれた。自分の実力は加味してない。作戦に耐えて、ここで攻めないと負けると判断した。グラスはこの復帰戦を本気で勝つつもりだ。

 しかし、レースは残酷だ。加速こそしたが、すぐに減速してしまった。既にグラスは出し尽くしていたんだろう。それでもなお食らいつこうとした。

 

 そして、レースはスズカが2バ身以上差をつけてエルコンドルパサーに勝利した。

 

(このレース……得たものは大きいが。相手に与えたものが大きすぎるなぁ……)

 

 エルコンドルパサーとグラスは、この敗北をバネに確実に強くなるだろう。それがいずれ自分達に帰って来ると思うと末恐ろしい。

 

「スズカさん……流石です。私もあのように走れるようになるのでしょうか」

 

 ブルボンは憧れの目でスズカを見つめていた。誰しもが憧れ夢に見た走り。それを実現したのがスズカだ。

 

「ブルボンには無理だろうなぁ……」

 

 失言だった。本音ではあったが、言葉選びが良くなくてブルボンをしょんぼりとさせてしまった。

 

「ブルボンの実力不足とかを言いたいわけじゃないぞ!?スズカの走りには馬鹿みたいにスタミナを使うし長距離とかは走れない。ブルボンにはブルボンに合った逃げ方があるってことだよ」

 

「私の逃げ方……」

 

 ブルボンは再び悩みこんでしまった。今日は悩ませてばかりで申し訳ないが……俺も知りたいんだ。ブルボンのことをもっと。そして、その覚悟を。

 

「おっと、次はキングのレースが始まる」

 

 キングのレースにはスペも出走する。正直ここでは戦いたくない相手ではあるが……このレースは2200mで菊花賞3000mとは程遠い。しかも、2200mなら皐月賞よりは長くなってしまうがダービーよりも短い。勝てたら相手の勢いを奪いつつこちらも勢いずこうと考えている。

 

「スペとキングの関係はライバルだ。お互いが相手を強敵認識しての真剣勝負。そんな競走を続けてきた」

 

 そう言った直後レースはスタートした。キングの作戦は先行策。激烈なポジション争いを制して、なんとか良いポジションを取ることが出来た。

 スペは今回は後方から仕掛けるつもりだな。正直なところ結果は読めてない。ダービー時点ではスペとキングの2人の実力は互角だった。

 

(レースが中々動かないな……)

 

 レースが始まって既に中盤に差し掛かっている。前方集団での順位の入れ替わりはほとんどない。後方ではポジション取り争いで少しづつ順位の変動はあったが……

 しかし、ラストスパートで一気にレースが動き始めた。スペ、キングの順でラストスパートを掛けていき、後方との距離を離し2人のタイマン勝負。

 

「行け……行けキング!」

 

 残り数十m。キングとスペはほぼ横一線……そして、直後に1着が決まった。

 

『1着はスペシャルウィーク!スペシャルウィークです!キングヘイローはクビ差で2着です!』

 

 実況の声だけが部屋に鳴り響いた。勝たなきゃ行けないレースではなかった。それでも、勝たせてやれなかったことに変わりは無い。

 

「三冠に……レースに挑んで行くって言うのはこういうことだ」

 

 残酷なことを言っているかもしれない。

 

「どれだけ研鑽を積んでも負けることもある」

 

 夢を応援はしたい。

 

「それでも走る覚悟があるか?」

 

 だからこそ、現実を見せないといけない。

 

「今日のスズカさんはかっこいいと思いました」

 

 ブルボンは今日のレースの感想を語り始めた。

 

「キングさんが負けたのは残念です……でも、いつものキングさんを見ているからこそかっこいいと思えました!」

 

 身を乗り出して俺に言葉を飛ばす。

 

「もちろんレースには負けたくないです。ですが、キングさんのように負けるのなら、私は後悔はしないと思います。スプリンターになっても負ける可能性もあります……それなら、自分の走りたいレース、マスターが走って欲しいレースで全力を尽くした上で負けたいんです」

 

 三冠を目指して尚負ける覚悟も出来てるか……どうせやるなら自分のやりたいことに全力を尽くしたい。あぁ……類は友を呼ぶってこういうことを言うんだな。

 

「なら、負けて後悔しないように全力を尽くそう。俺も全面的にしっかりとサポートするよ」

 

「はい!」

 

 この日、ブルボンとの心の距離が近くなった気がする。チームメンバーに後悔のあるレースをさせたくなんてない。悔しい思いもして欲しくない。何よりも、負けたら俺も悔しいからな!

 

 10月初めのレースはスズカの1着とキングの2着という上々の滑り出し。あとは、スカイのG2とついにファルコのデビュー戦だ。

 

 

新生チームレグルスで1番好きなメンバーは?

  • サイレンススズカ
  • セイウンスカイ
  • キングヘイロー
  • メジロマックイーン
  • ミホノブルボン
  • スマートファルコン
  • ナリタタイシン
  • トレーナー
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