病院に到着すると、俺は診察室に案内された。スズカの状態は緊急事態なので、既に手術室に運ばれたとのこと。
俺が部屋で待っているとお医者さんが中に入ってきた。真剣な面持ちで俺の方を見る。そして、椅子に座ると口を開いた。
「結論からいいますと……サイレンススズカさんは非常の危ない状態にあります。足がどうとかではなく、生命的に危険な状態なのです」
つまり死んでしまう可能性もあるということだ……俺はそれを聞いた瞬間頭が真っ白になってしまった。
「体の過去の検査結果を見る感じ、レース直前でも体に異常はありませんでした。それで、レースに出走したのは分かります!ですが!なぜ止めなかったんですか!」
俺はそれに何にも言い返せなかった。
「幸いにもスタッフの素早い対応で一命は取り留めましたが、足の状態も重体です。ですが、これは奇跡と言ってもいいでしょう……かろうじて粉砕骨折にとどまっています」
粉砕骨折が奇跡という足の状況……全て俺が防げたかもしれなかった。それでも!
「俺はスズカを止めなかったことで後悔はしません!もちろん責任は負います。俺は最後の最後までスズカに夢を託し、スズカは最後まで夢を叶えようとしていました!」
俺たちは走るという覚悟をした。走りきると決意した。結果こうなってしまったが後悔はない。
「そうですか……医者としては褒められたことではありますが……お気持ちは分かります」
俺の想いに納得してくれたのか、先程よりも冷静に会話が進む。
「スズカは助かるんでしょうか……」
一命は取り留めたと言っていたが、未だに生命的に危険な状態であることには変わらない。
「申し訳にくいんですが……分からないのです」
分からない?それもそうか……そんな状態で走っていたスズカの体……蓄積したダメージは半端なものではないんだろう。
「サイレンススズカさんはあの状態であのペースで走りました。それがまず異常なんです。その上怪我は粉砕骨折のみ。普通なら起こりえない何かが起きました……それゆえ完全には判断しかねますが……」
先生は言葉に詰まる。粉砕骨折程の怪我をして、その上意識不明の重体。どうなるかが予測がつかない。
「助かりさえすれば日常生活には問題は無いと思います。走れるようにもなるとも思います」
良かった……助かりさえすればスズカはまだ走っていける。
「ですが!レースを今まで通り全力で走れるのは難しいと思います。絶望的と言ってもいいでしょう」
そうか……治っても元に戻るとは限らないか……
「とりあえず今は祈りましょう。手術が無事に成功することを」
廊下に出て数分経つと携帯がなり始めた。
「もしもし?」
「あ〜トレーナーさん?セイちゃんでーす。色々と片付けとか終わって病院向かってます」
スカイからの電話だった。そうだ、スカイとキングにレース場のことは全て丸投げして来ちゃったからな。
「あぁ……ありがとう。それでスズカのことなんだが」
俺は言い淀んでしまった。意識不明の重体。病院に来たらすぐにわかる事実だが……それをスカイたちに言うのがとても重く感じたんだ。
「大丈夫分かってる」
スカイの声はさっきと一変して真剣だった。
「スズカさんが危険な状態なのも分かるよ。キングちゃんもそれが分かってる。だから、さっきから気負っちゃってるみたいだけど」
実質的に俺の背中を押したのはキングだった……それを気にしているんだろう。だけど、あそこでキングが背中を押してくれなかったら、1番中途半端な結果で1番スズカが危なかったかもしれない。
「ありがとうスカイ。キングには俺は後悔してないって伝えてくれ」
「うん……私達もそのうち着くと思うから待っててね〜」
そう言うとスカイは電話を切った。
「責任……責任かぁ」
きっとチームメイトや周りの人間は俺の事を責めはしないだろう……しかし、スズカに怪我をさせたのは事実だし、止めるべき立場で止めなかった俺に責任はある。世間は許してくれやーせんってやつだな。
(気にしないと決めていてもやっぱ来るものはあるよなぁ)
そんなことを考えていると、再び電話がなった。
「もしもし」
「すいませんたづなです。今大丈夫ですか?」
「はい……大丈夫です」
たづなさんからの連絡となると……あまり良いお知らせは聞けそうにない。
「今現状トレーナーさんへの世間からの風当たりが強いです。あれだけの観客がいたレース場で、あんなことが起これば一瞬で拡散されますから……」
既にスズカの怪我はネットで拡散されているだろう。それに加えて、俺がスズカに走れと言ったことを知ってる人物もいるだろうしな……
「しばらくの間は控えてください……正直菊花賞の出走も私の立場からすればオススメできません」
「いえ……菊花賞には2人を出走させます。世間の目を気にして2人の夢を無下にすることはできないですから」
俺がスズカを最後まで応援し続けたのを見ていたファン見ただろう。1人いれば無数の知る人が増えていく。スズカの意識不明が世間に知れれば俺に対する風当たりは厳しくなる……
「分かりました。学園側も出来る限りサポートしますので……サイレンスズカさんの無事を祈ります」
そう言ってたづなさんは電話を切った。俺のことを気遣ってできる限り業務連絡を短く済ませてくれたんだ。
俺はスズカの手術を終えるのを待った。まるで無限に時間が止まっているような感覚だった。途中でスカイやキングも合流したが、お互いに言葉が出なかった。
何時間待ったかも分からないが、ついに手術室の扉が開いた。
「先生!スズカは!」
「手術は無事成功しました……成功したのですが」
先生が言い淀んだ。
「なにかあったんですか?」
「手術開始時は危険な状態でしたが、生命的に危険な状態は脱しました。しかし、意識を取り戻す様子が全く見られないんです」
俺はそれを聞いてとりあえず安心してしまった。スズカが生きている。その事実に安堵を隠せなかった。
「しかし、ウマ娘がレース後に意識を失うという事例は過去にもありまし。基本的には激しいレースの後なのですが、数日もすれば目を覚ますとは思います」
身体的に異常はない……しかし、意識は戻らない。その状態が異常とも言えるが、ウマ娘と言う存在自体が現代医療で理解しきれない面もある。
「そうですか……スズカを救ってくれてありがとうございました」
とりあえずは病院に入院することにはなる。先生に説明を受けて病院を後にすることになる。スズカの顔も見たがったが……時間も遅く状況も状況だったので仕方がない。
病院の帰り道。俺とスカイとキングの3人で行動していた。ほかのメンバーはレースが終わった後に寮に届けて貰ったらしい。
「キングありがとうな俺の背中を押してくれて」
キングには感謝している。中途半端だった俺の気持ちを正してくれたから。しかし、キング本人はそうは思っていない。
「いえ……私は未だに分からない。あの時あなたの背中を押したことが正しかったのか……本当は止めるべきだったんじゃないかと思いうわ」
やはりキング本人は自分のせいなんじゃないかと気に病んでいる。
「あれれ〜キングちゃんは一流のウマ娘なんじゃないの?だったらその判断も一流のはずだよね〜」
「ちょっとあなたね!私はこれでも真面目に」
「あの時点でスズカさんは故障してた。それでも1着を取るほどの走りをしたんだよ?だったら間違ってる訳ないじゃん」
そう、あの時点で恐らくスズカの足は……それでもスズカは走った。走り続けること自体が奇跡に近い。それなのに、スズカは過去1番のスピードで1着をもぎ取った。
「そうだキング。最終的に決断したのは俺だ。トレーナーである俺が責任を持つ。だから、あんま気にすんな。そういうのは俺ら大人の仕事だ」
そう言いながらキングの頭をワシワシと撫でる。
「もう……でもありがとう」
少しはキングもスッキリしただろう。
「スカイも色々とフォローしてくれてありがとうな」
そう言うとスカイは頭をこちらに突き出してきた。
「っん」
えーっと。つまりそう言うことですよね?俺はスカイの頭を撫でてやった。すると嬉しそうに尻尾を揺らしていた。
「しかし困ったな……流石に菊花賞で表立って動けないな……」
「「私たちは大丈夫」」
2人の目には何か力強いものが宿っているように感じた。考えることは多いが考えても仕方ないことも多い……とりあえず、目の前の菊花賞をサポートしてやらないと。
新生チームレグルスで1番好きなメンバーは?
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サイレンススズカ
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セイウンスカイ
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キングヘイロー
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メジロマックイーン
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ミホノブルボン
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スマートファルコン
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ナリタタイシン
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トレーナー