今日は菊花賞当日。いつもならこの時間はトレーナーさんと最後のミーティングをしてる……でも、今日このレース場にはトレーナーさんはいない。
(天皇賞秋……色んなことが重なったからなぁ……)
スズカさんが連覇を達成した。でも、その代わりに今も原因不明の意識不明。素人目に見ても限界を超えた走りを見せたスズカさん。それに発破をかけたトレーナーさん。世間からの目はとても冷たいものだった。
(トレーナーがハード過ぎるトレーニングを課していたんじゃないかとか、ドーピングなんて疑惑も出たくらい)
もちろん2人の功績とその努力を素直に賞賛してくれる人もいた。でも、それでも2人の努力も気持ちも知らないでいい加減なことを言ってる人たちが大勢いる。私が怒りを覚えるのには十分過ぎる理由だった。
(せっかく新しい勝負服のお披露目なのにな〜トレーナーさんにも見て欲しかった……)
前よりもスカートの丈が若干伸びてフリルが少し増えた。デザインは基本的に前と同じだけど……自分の想いとか理想がしっかりと詰まってる。
(今日のレース勝つから見ててね……トレーナーさん)
私は控え室から出てパドックに向かった。
『続いては2番人気!セイウンスカイです!先日の天皇賞秋ではチームメイトのサイレンススズカが連覇を達成し勢いに乗っているチームレグルスの1人!日本ダービーでの借りを返せるか!?』
パドックに立った。いつもなら清々しい気分……高揚、喜び色んな感情が溢れてくる……けど今日は違った。ウマ娘は耳が良いから聞こうと思えば観客の声も聞こえてくる。感情や雰囲気といったものにも敏感だから分かる。私にはトレーナーさんがトレーナーであることを哀れまれてる。そこにいるのに耐えられずいつもよりも早くパドックを後にした。
しばらく時間が経ってパドック入場が終わった。ゲートインを済ませるために私はターフに向かった。そして、スペちゃんとキングちゃんと向かい合った。
「スカイちゃん!今日はいいレースにしようね!」
スペちゃんは無邪気に私に話しかけてきた。スズカさんの状態はスペちゃんには正確に伝えられた無い。スペちゃんところの沖野トレーナーさんが、菊花賞のことを考えて本人がスズカさんの現状を知ることを避けたようだ。怪我をしたーくらいのことは聞いてるだろうけど。
「うん……っていつもなら言うところだけど。ごめんねスペちゃん。今日は勝たせてもらうよ」
そう言ってキングちゃんの方に足を進めると、スペちゃんは自然と道を譲ってくれた。
(なっ何今の……背筋がまるで凍りつくような……)
スペはスカイに威圧されたと感じた、スカイからしたらそのつもりは微塵もなかったわけだが。
「ねぇキングちゃん……」
「あら、本番前に雑談をする余裕があるのね」
キングちゃんも少しピリピリしていた。でも、キングちゃんは落ち着いてた。天皇賞のことや観客の反応があっても、しっかりと目の前のレースを見据えてる。
「感情的に走ったら勝てないって昨日まで思ってたんだ……でも、どうしようもないほど感情が膨れ上がるとこんなにも冷静になっちゃうんだね」
観客や世間に対する怒りはある……でも、それが一定より大きくなった時、自然と冷静に周りが見えた。
「キングちゃんも負けられない理由とか冷静でいられる何かがあるんだと思うけど……今日は勝たせてもらうね」
「ふん!キングである私がそんなに易々と敗れるとでも?でもそうね……挑ませて貰うわ。セイウンスカイというライバルに」
あぁ……キングちゃんは本当に凄いなぁ。でも、私が今日取るのは勝利じゃない。圧倒的な勝利。
『全てのウマ娘がゲートに入りました。3000m京都レース場菊花賞。天候は晴れ。バ場状態良。クラシック3冠。菊の華を手にするのはどのウマ娘か……今……スタートしました!』
今回のレースで警戒しないといけいないのはキングちゃんとスペちゃんの2人。そして、その対策と作戦はシンプルだ。
『おぉっとセイウンスカイが大きく前に出た!』
レースの状況をしっかりと見定めて、勝負を仕掛けに来た2人から逃げ切るだけ!
『セイウンスカイの力強い大胆な走り!』
『彼女はトリックスターと言われるほどに作戦や駆け引きを重視するウマ娘ですからね。今回のレースでも目を離せませんよ』
後方は引き付けない。一定の距離を保つように意識して走る。そして、2人のポジションをしっかりと把握する。ラストスパートが始まるその時まで。
『レースは中盤の折り返し1500m。先頭は未だにセイウンスカイ。キングヘイローは中段の5番手をキープ。そしてダービーウマ娘のスペシャルウィークは後方10番に控えています』
キングちゃんが先行でスペちゃんは差しで脚を溜めてる。そして、先に仕掛けて来るのは私のことを知ってるキングちゃんのはず。その2人のタイムラグが有利にレースを進めてくれる。
『セイウンスカイが2000mを通過!そして、後方からキングヘイローが動きを見せる!残り1000mでレースが動きます!』
キングちゃんが私を見据えてる。スペちゃんは後方からラストスパートの準備してる。まだ、まだ引き付けても大丈夫。
『レース展開はかなりのハイペース!セイウンスカイのスタミナが持つか!?レースは残り800m!おぉっと!スペシャルウィークが仕掛けた!スペシャルウィークが後方からぐんぐんと上がっていく!』
まだ!もう少し!もう少しだけ!ゴールに向かって2人とも集中してる。その集中を私は切らせる!
『セイウンスカイが一気に飛び出した!すごい加速だ!キングヘイローも負けずと追いかける!スペシャルウィークは急な加速に反応が遅れた!』
キングちゃんもスペちゃんも末脚が凄い。でも、キングちゃんは元々スプリンターのスピードを持ってる。長い距離もスパートなら後半にスピードが落ちる。スペちゃんも先頭争いには強いけど、今回は加速の反応に遅れた。
(あぁ……2人とも、私の餌に食いついたね!)
【アングリング×スキーミング】
『セイウンスカイが凄いスピードで駆け抜けて行く!スタミナをまだ残していたのか!セイウンスカイが更にスピードを上げていきます!』
さっきまで感じてた2人の圧みたいなものは、私の加速と同時に離散していった。それでも、流石に2人ともそんなに甘くない。私のことを追い抜こうと後ろから追ってきてる。
『スペシャルウィークとキングヘイローがセイウンスカイを追いかける!しかし、ゴールまであと少し!セイウンスカイ落ちない!セイウンスカイ!セイウンスカイが今ゴールしました!』
「はぁ……はぁ。勝った……勝てた」
レース運びは自分が思う以上に完璧だった。最後も自分のスタミナを全部振り絞って走りきれた。あまりの疲労感に私は地面に膝を着いた。
「スカイさんお疲れ様」
「ありがとうキングちゃん」
ゴールしたキングちゃんが手を差し伸べてくれた。私はその手を取って立ち上がった。
『1着はセイウンスカイ!タイムは……3分1秒!?さっ3000mのワールドレコードを大きく塗り替えた!セイウンスカイが3000mワールドレコードです!』
掲示板を見るとワールドレコードの文字。自分がそのタイムを出したのは分かってる。でも、何故か理解が追いつかなかった。それだけの大きな出来事に心が追いついていなかった。
「あはは……こりゃトレーナーさん私と会うの気まずそうだなぁ」
その瞬間に急に意識が遠くなる感覚がする。私はたまらずにフラついて倒れそうになった。
「その時はちゃんと私も弁解してあげるわよ……だから、まだ倒れるのは早いわ。キングが肩を貸すんだから……最後までやり切りなさい」
倒れそうになった私をキングが支えてくれた。そのおかげで何とか意識を留めることが出来た。たしかに、今回のレースは今まで以上に自分を追い込んで走った。けど、それ以上の心身的な疲労が体に襲いかかってきた。
(あぁ……スズカさんもこんな感じだったのかな)
そんなことを考えながら、私は何とか控え室まで戻ってウイニングライブまで休憩することにした。
そして、時間が経ってウイニングライブの時間になった。私が今日のレースを1着でゴールすることに固執した理由……センターにどうしても立たなきゃいけなかった。
ステージでは、司会の人がライブの前に1着のウマ娘に軽いインタビューをする。その時は私以外のファンの人もここにいる全員の人が私に注目する。
『という訳で!本日1着だったセイウンスカイさんなにか一言お願いします!』
司会の人が私の口元にマイクを差し出した。私はすかさずにそのマイクを奪い取ってステージの前に出た。
「誰がなんと言おうと!チームレグルスは最高のチームだから!それを今日私は証明したつもりです!」
高らかにそう宣言し、唖然としている司会の人にマイクを返した。
「ちょっちょっとスカイちゃん!?さすがに今のはマズイんじゃぁ……」
「何言ってるのよスペさん。スカイさんは当然のことを言っただけよ」
レースの後に、私たちのチームの事情をしっかりと知ったスペちゃんは困惑して、キングちゃんはどこか誇らしげに胸を張っていた。
(あーあ。ちょっと好き勝手しすぎちゃったかな?)
まぁいいや……今はこの記録と菊花賞で勝てたことを喜ぼう。
新生チームレグルスで1番好きなメンバーは?
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サイレンススズカ
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セイウンスカイ
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キングヘイロー
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メジロマックイーン
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ミホノブルボン
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スマートファルコン
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ナリタタイシン
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トレーナー