俺は今、先輩に渡されたメモに書かれた住所のバーの前に来ている。いつも行っている居酒屋よりも少し小洒落た感じの外見をしている。
中に入ると、既に先輩と東条さんが既に席に着いて待っていた。
「よう後輩!待ってたぞ座れ座れ」
そう言いながら俺の方に来て、背中を叩きながら席につかせた。
「マスターこいつにも同じものを」
俺が席に着くと隣に居る東条さんの方から話しかけてくれた。
「私も話をある程度把握しているわ……サイレンススズカの現状もね」
東条さんは残念そうな顔をしながらそう言った。
天皇賞が終わってから、既に数日が経っている。注目をあびいたスズカの故障は、瞬く間にメディアに発信された。同じトレセン学園に居る先輩や東条さんにはスズカの現状を知っているらしい。
「スズカは誰よりも走ることに拘っていました……純粋に走ることが好きだったんです。でも、それだけじゃなかった」
そう……俺はスズカがレースに対する思いや目標。そういったものが昔から変化していることを身近で見てきたはずだった。
「日常生活には影響がない程には回復し、走れるようにもなると聞いて、スズカならこの事実を受け止めきれると俺は思っていました……」
俺はそこで言葉を飲んでしまった。自分からその事実を話すことを躊躇った。
「けど、サイレンススズカはそれに耐えられなかった」
俺の言葉に続けるように先輩が言った。スズカが精神的に追い込まれていることは世間的には広まっていない。ましてや、現状に至るまでの細かい経緯なんかは、俺とチームメンバーしかしらない。しかし、俺たちを知っている先輩たちには既にある程度はお見通しのようだ。
「走れるようになること……それだけじゃダメだったんです。今のスズカには、以前のように走り。レースで競走し勝利する……そして、観客やファン、自分に憧れるウマ娘みんなに夢を届けることがスズカの中で走ることの大事な楽しさの1つになっていたんです」
以前までは、自分の理想の走りをレースですること。その先頭の景色を見ることを、走ることを何よりも楽しんでいたスズカだった。しかし、勝利を重ね。みんなに夢を届けるという存在になり。自分自信の夢が叶うことによって、その楽しさと喜びを知った。
「なるほどね、貴方の中では彼女にとっては走れるという事実が絶対の安心になると思ったわけね」
「東条さんの言う通りです……だから、俺はスズカに正直に怪我のことを話しました。以前の様に走るのが難しいということも」
俺は、スズカならもう一度走ると思っていた。例え以前の様に走れなくても。まだ、走ることは出来るのだから。
「それで、お前はどうするんだ?サイレンススズカは以前の様に走れる様になるか分からない。怪我の内容が内容だリハビリでさえ想像以上に大変なことだ」
先輩の言いたいことは分かる……走れなくなったり、衰えたウマ娘は引退していく。スズカだって例外じゃない。
「スズカの意志を尊重しようと思います……俺は彼女のトレーナーです。俺の意志を押し付ける様なことはできません」
そう、俺にスズカを無理やり走らせる権利なんてない。俺の自己中に巻き込むことは出来ないんだ。
「そうは言うけどな……お前はそれでいいのか?」
それでいいかだって……?そんなの決まってる。
「良い訳ないじゃないですか!例え以前の様に走れなくたっていい!それでもスズカには走って欲しいって思いますよ!でも、そんな自己中許される訳が無いじゃないですか!」
スズカにその意志があれば幾らでもサポートする。新しい走り方も一緒に模索する!
「でも……スズカは折れてしまった!」
俺がそう言った直後に、先輩が立ち上がって俺の胸ぐらを掴んだ。
「お前が勝手に諦めてんじゃねえ!」
「……ッツ。先輩になにが分かるって言うんですか!」
お酒が入っていたからだろうか。それとも、先輩の言ってることを認めたくなかったからか。俺は先輩の手を強く弾いた。しかし、先輩は間髪入れずに俺に言い放った。
「あぁ!分かんねえな!俺はサイレンススズカのトレーナーじゃないからな!だけどな、お前のことは分かってたつもりだった!サイレンススズカがお前に一言でも諦めたと言ったのか!?」
俺はそう言われて、唖然とその場に立ち尽くした。
「でも……スズカはあれから面会謝絶で」
「そりゃサイレンススズカが悩んでるからだ!苦しんでるからだ!諦めなきゃいけないって現実を受け入れられなくて苦しんで……受け入れたくないから悩んでんだよ!!」
「なのにさっきから聞いてりゃ、まるで既に諦めた様に話やがって。てっきり俺は、これからどうやって復帰するか相談されると思ってたんだけどな」
「俺が諦めて……?」
スズカが目覚めて、スズカと話して……俺は1度でも本気で元に戻れると言ったか?安心させるため、説得する気休めを言っていただけで、俺は前の様に強敵たちと競い合うことを諦めていたのかもしれない。
「お前はウマ娘に寄り添える奴だ!ウマ娘の想いを汲み取ろうと……夢を叶えてやろうと、その為なら全力で考える。お前はそういうやつだろうが」
先輩は俺の胸ぐらを話して、ポンと拳を俺の胸に置いた。
復帰するためのプラン……元に戻るための手段を俺はしっかりと組み立てられていなかった。嫌な現実から目を逸らして、考えることを無意識に放棄していたんだ。
「すいません……俺はまだ考え尽くしていませんでした」
先輩に飲み会に誘われた時に安心していた。きっと、先輩たちの言葉を言い訳に諦めることが出来ると思ったから。
「スズカはまだ完全に諦めていない。いや!俺と一緒で諦めたくないはず!」
そう……俺は受け止めがたい辛い現実から逃げるために、諦める言い訳を探してたんだ。
「腑抜けた顔がちっとはマシになったんじゃねえか?」
「そのまま腑抜けたさせなかったこと後悔させてみせますよ」
言うじゃねえかコノヤロウと、俺の頭をワシワシとしてきた。
俺とスズカは一緒に歩き初めて。初めて一緒に夢を叶えた。そんな俺がスズカに話さないといけなかったのは未来の可能性だ。
「ここの支払いは私がするからさっさと帰りなさい。やるべきことがあるって顔に書いてあるわよ」
東条さんが呆れた顔をしながらシッシと手を振っている。
「すいません!ありがとうございます!」
俺はその厚意に甘えて、すぐに店を飛び出して携帯を取り出した。
「すまんマックイーン。頼みたいことがあるんだが」
俺は家に向かいながら色々なことを考えた……そう。もう一度スズカと夢を叶えるために。
「全く……世間もあんたも、たかがトレーナー歴3年の彼に期待しすぎなのよ。あそこまで強く言わなくても良かったんじゃない?あんただって分かってたでしょ」
オハナさんはため息をつきながらお酒に手を付けた。
「まぁ、新人では無くなったって言ったって歴はまだ短い。担当の大きな故障にパニックにもなるだろうな」
「あんたねぇ……そこまで分かってて」
「分かってるからこそだよ。俺はオハナさんが思ってる以上にアイツに期待してる。トレーナーを続けていれば今回みたいなことだって起こる。その時に道を見失わないようにガツンと誰かが言わなきゃダメだ。初心を忘れずにってやつだな」
昼間に後輩と会った時に、いつもみたいな熱意を感じなかった。スズカのために何かやろうという熱意が。
「それもそうだけどね。彼の気持ちも分からなくは無いわよ。普通のトレーナーなら引退を考えるレベルの怪我ではあるんだから」
「俺はアイツがそこで諦める様なトレーナーじゃないって思うし、これからもそうあって欲しいと思うからな。オハナさんだって、同じ状況になったらハイそうですかって諦めないでしょ?」
「そりゃ、出来る限りのことはするけど。それをトレーナー歴の短いトレーナーに求める?」
オハナさんの言う通り。トレーナー歴の浅いアイツにとっては、今回の件はあまりにも大きな出来事。メンタル的な疲弊、経験値不足からの不安。色んなプレッシャーもかかってくる。
「お気に入りの大事な後輩が、道を見失って行きたくない道に行こうとしてたら引き止めるでしょ」
「それもそうね」
「オハナさんが特定の後輩に肩入れするなんて珍しい」
「あんたのせいで付き合いも長いし。私だって思うところくらいあるわよ」
「んじゃ、その付き合いの長さに免じて俺の分も奢ってくれないかな……?」
「全く……本当にあんたはしょうがないわね」
色々なssを読んでて続きを読みたくなって。あ……続き書かなきゃってなりました。
久しぶりに手を取ったので矛盾や拙い文章があったら申し訳ないです。
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