トレーナーはウマ娘に夢を見る【完結】   作:Tmouris_

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多量の誤字修正ありがとうございます……むしろここまで行くと添削していただいてる感じですが……本当に感謝しています。
自分の確認不足と国語力の無さを実感します。


第122話:不屈の衝突!有馬記念!

 有馬記念当日。2人とのミーティングの為に控え室に足を運んでいた。

 出走ウマ娘の情報などは既に共有したが、最後の調子確認と調子次第じゃ作戦の変更もしないといけないからな。

 今回の有馬記念には案の定グラスワンダーが出走してきた。他にはメジロ家からメジロドーベルにメジロブライトも出走。スズカとレースを繰り広げたエアグルーヴにマチカネフクキタルも出走するらしい。

 

「キング入るぞ」

 

「大丈夫よ」

 

 控え室の中に入ると、既に勝負服を着て準備万端のキングが座って待っていた。

 パッと見では落ち着いてるように見える。しかし、キングはああ見えて繊細な面がある。

 

「菊花賞程の距離じゃないけど、長距離を走るのは不安か?」

 

 そう言うと、キングは驚いたように目をパッチリ開けて俺を見ていた。が、直ぐにハッとしたように平常心を取り戻して普段の顔に戻った。

 

「不安じゃない!っと言いたいところなのだけどね。正直不安よ。菊花賞のスカイさんの走りが今も頭から離れない。長距離と言う分野においてスカイさんに勝てるのかどうか……」

 

 たしかに、今のスカイは長距離においては強敵だ。しかし、有馬記念の距離は2500m。菊花賞よりも500mも短い。そうなれば十二分に勝ち筋はある。

 そんな事を考えていると、キングは少し俯いたように下を向いていた。

 

「おい、キング」

 

「何よってイタッ!痛いじゃないの!」

 

 顔を上げたキングのおデコにデコピンを一発。キングはおデコを両手で抑えながら、涙目の上目遣いでこちらを見つめていた。

 

「相手に勝てるビジョンが見えないのは相手が格上だと認めてる証拠だ。自分は相手より格下と認めてるのと一緒。だったら一流のウマ娘がやるべき事は1つだろ」

 

「やるべき事……出来ることをやりきる」

 

 キングの顔からは、迷いや不安と言った感情が振り払われていた。しっかりと覚悟を決めた目だ。

 

「その通り。けど、敵はスカイだけじゃないぞ。グラスワンダーの実力は未知数。確実に力を付けて来ている事は確かだ」

 

「分かってる。あなたのお陰で現状がしっかりと整理出来ている。ヘッポコなあなたにしてはやるじゃない」

 

 グラスワンダーは毎日王冠でこそ振るわなかった……しかし、G1に出走するにあたって調整を怠るような彼女じゃない。それに、葵トレーナーが何もしないわけが無い

 

「今回のレースの最善は、キング自身の全てを使い切ることだ。惑わされるな。絶対にその時が来る」

 

「えぇ……分かったわ。キングの走り、見ていなさい?」

 

 これでキングは大丈夫そうだ。次はスカイの番だ。

 

 

「スカイ入るぞ」

 

「はーい。どぞどぞ〜」

 

 俺が中に入ると、スカイが手招きしてこっちこっちと言いながら手を差し出してきた。

 そして、その手のひらの上には菊の花の髪飾りがあった。

 

「えっと……スカイさん?」

 

「私じゃ上手く付けれないのでトレーナーさんがつけてくださーい」

 

 スカイは頭を向けて、花飾りを俺に押し付けた。まぁ、これが活気付けになるなら、これくらいならいいか。

 花飾り付けようと手が体に触れた時、スカイの体が少し震えていることに気付いた。

 菊花賞でのワールドレコード。それゆえのプレッシャーがあるのかもしれない。

 

「ほら付いたぞ。スカイ色々しんぱ」

 

 そう言いかけたところで、スカイが花飾りを付けてもらう体勢からお腹の辺りに抱きついてきた。

 

「ちょっ!スカイ!」

 

「よし……これで大丈夫」

 

 ボソッとスカイが何かを言った時には、既にスカイの体の震えが収まっていた。

 

「ほら!セイちゃんはこの通り元気なので!ほら行った行った!」

 

 俺はそのまま体を反転させられて、背中を押して部屋から追い出されてしまった。

 

 

「全く……トレーナーったら。乙女の顔にデコピンなんて酷いことするわね」

 

 でも、想いは固まった。全部を出し切る。レースの盤面をしっかりと読んで、最後のスパートで勝負をかける。敵は何もスカイさんだけじゃないのだから。

 

「それじゃあ、証明しに行きましょう。私と彼が一流であることを」

 

 

「いや〜思い切ったことしちゃったな。お陰様で顔が暑い暑い」

 

 でも、これで勇気が出た。周りからの期待がなんだ!目の前のレースに集中しないと。たとえ、このレースで期待に応えられなくても、トレーナーさんは傍にいてくれるから。

 

「さぁ、行くとしますか!セイちゃん頑張っちゃうぞ〜」

 

 

 観客席に向かって、マックイーンたちを探そうと思ったが……探すまでもなく一瞬で目に付いた。

 スカイブルーを基調としたユニフォームと拡声器を持った、マックイーンとキタサンがあまりにも目立っていたから……

 

「あのなマックイーン?それにキタサンも来てくれて嬉しいんだけど、チームメイトが2人走るんだから応援はびょうど……」

 

「それなら大丈夫です!!」

 

 俺の声を打ち消すように、マックイーンに奥から小さな人影が出てきた。

 

「ダイヤお前もか……」

 

 マックイーン達の奥には、緑のチアガール姿をしてボンボンを手に持っている、ダイヤとファルコとブルボンの姿があった。

 元々、ダイヤはキングの走りに惹かれていたらしい。そして、レースを追ってる間にキングの熱い走りに魅入ったとか。

 

「最初はマックイーンだけだったのに……」

 

 そんなことで頭を抱えていた俺だが、さらにその奥にはチームシリウスのメンバーが座っていた。

 

「柴葉さんたちのチームはいつも賑やかで楽しそうですね」

 

「私達も応援のために横断幕用意したんだよ!ねっライスちゃん!」

 

「うん!グラスさんを頑張って応援しようねウララちゃん」

 

 ハルウララとライスシャワーの手元には【不撓不屈】という勇ましい文字が書かれた横断幕があった。

 

「そうそう、グラスさんから言伝を預かりました」

 

「グラスワンダーが?俺にですか?」

 

 なんだろう。葵さんとの繋がりで交流はあるけど……そこまで深い付き合いという訳ではないんだが。

 

「『真剣なる勝負を所望する』だそうです」

 

 まぁ随分と武士道的な精神……

 この時は気合いが入ってるんだな〜くらいの軽い気持ちで葵さんの言葉を聞いていた。そう……パドック入場が始まるまで。

 

『本日出走するウマ娘がパドックに入場します!』

 

「いいな〜ファルコもこんな盛り上がるレースで走りたい!」

 

「ファルコは実力もあるし。いずれはこういうレースにも出走できるさ」

 

 1番のフクキタルを見ながらそんな話をしていたが……その余裕が一瞬で引っ込むことになった。

 

『1枠2番!グラスワンダー!秋に復帰してからイマイチの成績!このレースを制することが出来るのだろうか!4番人気です!』

 

「おいおい……嘘だろ」

 

 未だかつて、ここまで仕上がりを見せたウマ娘を見たことがあるだろうか。仕上がりだけじゃない……俺みたいな人間でも分かる圧を感じる。

 

「葵さん……やってくれましたね」

 

「グラスさんの肉体は既にスカイさんやキングさんに並んでいます。しかし、怪我の影響でクラシックを走っていない彼女には経験値が足りませんでした」

 

 レースで勝負を決めるのはフィジカルだけじゃない。メンタル面や作戦、今までのレース経験が大きく影響する。

 大きなレースへの出走経験が多いキングやスカイは、経験値という面ではグラスワンダーの上を行く。

 

「まさか、それを精神だけで補う……いや、超えようってことですか」

 

「レース経験というのは、レース中の展開を読んだり、レース勘という培うためにあります。しかし、極限状態まで集中していれば、レース中にそれら盤面を読むことは可能です」

 

「そんなのめちゃくちゃですわ!例え理論的にそれが可能だろうとしても、スカイさんとキングさんは盤面を読み動かすことに長けています!集中力だけで……」

 

 マックイーンの言う通り。理論上可能だとしても、一体どうやって……

 

「精神は肉体を超越すると思います」

 

 葵さんは胸を張ってそう言った。

 

「グラスさんには元々強靭的な精神力が備わっていました。ただ、繊細な肉体をしているので万全を期してトレーニングに望みました。そして、グラスさんはそれを乗り越えた」

 

 葵さんのトレーナーとしての手腕。そして、グラスワンダーがもつ圧倒的ポテンシャルがそれを実現したっていうのか……?

 俺が驚いている間もパドック入場は続き、刻一刻と有馬記念のスタートの時間が近づいていった。

 

 

「お2人共今日はよろしくお願いします」

 

「よろしくね〜」

 

「えぇ、よろしく」

 

 ゲートイン前に、グラスちゃんが私とキングのもとにやってきた。いつも通りお淑やかに、落ち着いて。そのせいかなぁ……余計にグラスちゃんが怖いのは。

 

「真剣勝負と行きましょう」

 

「「おっお手柔らかに」」

 

 その圧に私とキングは少し押された。キングがお手柔らかになんて言うの初めて聞いたよ。

 そんな私達に背中を向けてゲートに向かって行ったと思ったら、最後にこちらを向いて一言こう言った。

 

「すみませんが……今日はお手柔らかに出来そうにありません」

 

 もう……そりゃあ恐ろしかったよね。

 

 

『全てのウマ娘がゲートに入りました!中山レース場2500m有馬記念。バ場状態良。曇り空の下。有馬の栄光を掴むのはどのウマ娘か!今一斉に……スタートしました!』

 

 スカイは無事に先頭を取ったな。キングは後方から様子見か。

 

「頑張れー!スカイさーん!」

 

「頑張れー!キングさーん!」

 

 既に真横のメンバーはお祭りムードで応援してるし。

 真面目に考えると、有馬記念は2500mで、中山レース場は菊花賞の京都レース場よりも傾斜が浅く、距離も短い。

 そうなると、意外とキングにも充分に勝ち筋が見えてくる。スタミナ消費を抑えられる中山レース場で2500mならキングにも走り切れる。

 

『スタートしてから最初の直線!既に激しいポジション争いが繰り広げられる!先頭を走るのはセイウンスカイ!』

 

 スカイはしっかりと先頭をキープできた。けど、キングが大分後方に付いたな。ラスト200m手前までは平面が続く。カーブと直線で充分捲れる。

 

『第2コーナーを超えた直線。ここまで殆ど順位が動いていません!この直線で順位がどのように動くのか!』

 

 この直線で確実にレースが動く。このカーブさえ抜けてしまえば、ラスト200mまではほぼ平坦。

 だが、ここでキングは動かなかった。確実に脚を溜めている。最終コーナーを超えた直線で一気に勝負を仕掛ける気だな。

 そう思った直後の出来事だった。

 

 

『おぉっと!ここでグラスワンダーが動いた!』

 

 私は直ぐに反応出来なかった。このタイミングで仕掛けた?完全に見誤った!スカイさんは既に第3コーナーに差し掛かってる。どうする!ここで私もグラスさんの走りを追うべきか……

 しかし、その悩みも一瞬で掻き消えた。想像以上にグラスさんのペースが速い。そして、直感的にここで追わないと追いつけない気がする!

 

 

『セイウンスカイが第3コーナーに入った!』

 

 うっマズイ。内側が想像以上に荒れてる。流石にこの荒れ具合じゃ私は走れない。しょうがないから外側から回ってくしかない!

 

(あぁ!もう!さっきから後ろからピリピリと圧がすごいって!)

 

 確実にグラスちゃんが仕留めにきてる。末脚勝負じゃグラスちゃんには勝てない!ここで外側走ることになるなんて!

 

『第3コーナー抜けて最終コーナーに差しかかる!セイウンスカイが逃げるが後方からグラスワンダーが上がってくる!』

 

 

(このままじゃグラスさんに確実に追いつけない。最終直線で横に並ばない限り勝ち目は無い。けど、コーナーでそんなに距離を詰める方法なんて……)

 

 1周目にコーナーを通った時にいつも以上にバ場が荒れてたし……先を走る娘たちも内側を避けて外側を……外側?

 

(リスクは高い……けど、このままじゃ確実に先頭の2人には追いつけない……)

 

 ただでさえ私が後ろにいるのなら!やる以外の選択肢はないわよね!

 

 

 

『最終コーナーを抜けてセイウンスカイが未だに先頭を譲らない!そして、後方からグラスワンダーが迫って……キングヘイロー!?キングヘイローがグラスワンダーに並んでいる!』

 

「おいおいマジかよ。いや、流石と言うべきか」

 

 前を走るウマ娘を抜くには隙間を抜けるか、外側から追い越すしかない。しかし、今日は違った。

 

(今日の内側はバ場の荒れ方が激しい。荒れたターフを走るのはパワーがいるし、スタミナを消耗する。何より怪我のリスクだってある)

 

 それ故に基本的には外側を回って走る。だから、今の内側は完全にフリーな状態。しかも、ほかのウマ娘よりも距離を短縮して一気に追いつくチャンスでもある。

 

(キングがそこまでリスキーな択を取ったということは……そうでもしないと追いつけないと判断したか)

 

 事実、グラスワンダーに追いつき最終直線の末脚勝負に持ち込んだ。

 さぁ……ここからが本当の勝負だ。

 

 

『セイウンスカイが逃げる!しかし、後ろからグラスワンダーとキングヘイローが迫る迫る!』

 

(くぅ……グラスちゃんが想像以上に速いってのもあるけど、外回りでロスした分距離を稼げなかったのが辛かった)

 

 状況は絶望的。とてもじゃないけど、あの2人の末脚には勝てない……じゃあ諦める?

 

「諦める……分けないよねええええええ!」

 

 勝てないから諦める?勝てないかもしれない。けど!私はまだ負けてない!

 

『セイウンスカイが加速!しかし、グラスワンダーとキングヘイローが速い!徐々に距離を詰めて……並ぶ!いや並ばない!そのままセイウンスカイを追い抜いた!』

 

 

 パワーを使ったゴリ押しで脚は満身創痍。呼吸も苦しい。でも、勝ちたいと言うこの強い想いが弱まることは無いのよ!

 

(どきなさいグラスさん……この道はキングの道よ!)

 

【Road of king】

 

『キングヘイローが更に一気に加速した!グラスワンダーこれは堪らないか!?いや、グラスワンダー並んでいる!グラスワンダー離されない!』

 

(反応された!?)

 

 ここで僅かに前に出てそのままゴールするつもりだった。なのに、完璧に反応されて合わされた。

 

「キングは負けない!はあああぁぁぁあ!」

 

『キングヘイローとグラスワンダーがほぼ横一線!グラスワンダーか!キングヘイローか!今!ゴール!』

 

『勝者はグラスワンダー!有馬記念の激闘を制したのはグラスワンダー!』

 

「ギリギリの戦いでした。どちらが勝ってもおかしくない勝負でした」

 

「ふんっ。負けは負けよ。でも、次に勝利するのはキングであるこの私」

 

 そう言うと、グラスさんは一礼してその場を後にした。

 

「いや〜負けちゃったね」

 

「えぇ……全て出し切って負けた」

 

 ゴールしたスカイさんが私の元の訪れた。

 

「でもさ、今日のキングはめっちゃかっこよかったよ」

 

 そう言いながら、スカイさんはわたしの手を引いた。

 

「せっかくのかっこいい泥化粧がそれじゃあ台無しになっちゃうよ」

 

「分かってる……わがっでるわよ」

 

 私はスカイさんに手を引かれながら静かに涙を流した。




セイウンスカイの有馬記念のエピソードがwikiにほぼ記されていなかったので、スカイが何故有馬記念で勝てなかったのかと考えると同時に、キングはどうすればトップ争いに差し込めるか考えるのは大変でした……
競馬があまりに複雑なスポーツで。

新生チームレグルスで1番好きなメンバーは?

  • サイレンススズカ
  • セイウンスカイ
  • キングヘイロー
  • メジロマックイーン
  • ミホノブルボン
  • スマートファルコン
  • ナリタタイシン
  • トレーナー
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