トレーナーはウマ娘に夢を見る【完結】   作:Tmouris_

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第127話:全力!皐月賞!前編

 皐月賞当日。ファルコの初めてのG1レース。スカイは先日の日経賞で無事勝利し、順調に天皇賞春へと駒を進めた。今月のレース出走者はファルコのみということで、チームメンバー全員での応援となる。

 

「それにしても、まさかスズカも応援に参加できるとはな」

 

「はい。メジロ家のみなさんには良くしてもらって、リハビリに集中することが出来ましたから」

 

 スズカは想像以上のスピードで回復を果たした。まだ、昔のように全力で走ることは叶わないが、少し走るくらいは出来るようになっていた。

 

「でも、転んだりしたら危ないのでその時はトレーナーさんがちゃんとかばってくださいね?」

 

 そう言いながら、スズカは俺の左手に肩をピトっと寄せた。

 

「大丈夫ですよ~スズカさんは後輩である私たちが責任をもって見守っていますから~」

 

「私たちって!私を巻き込まないでくださる!?」

 

 スカイがスズカの左腕を引っ張って、その右側にキングが入った。両サイドからしっかりと挟みこむ形になったわけだが。

 

「大丈夫よスカイちゃん?こうやって普通に歩けるんだからそこまでしなくても」

 

「いえいえ、せっかく元気になったスズカさんが怪我をしたら、トレーナーさんもスぺちゃんも悲しむじゃないですか。ねっキング」

 

「えっええ!それもそうね。スズカさんのことは私たちに任せて、トレーナーさんはファルコさんのことに集中しなさい」

 

「どちらにせよ、俺もファルコの様子を見に行かないといけないからな。スズカのことは頼んだぞ」

 

 俺はそう言って、ファルコの待機室へと向かった。

 

「ファルコ入るぞ」

 

 扉をノックすると、中からファルコの元気な返事が返ってきた。中に入ると、既に勝負服には着替え終わっていて、想像よりも落ち着いた様子だった。

 

「トレーナーさんどうかな?ファルコの衣装可愛いでしょ☆」

 

「あぁ、可愛くてキラキラしてるよ」

 

 うちのチームでは、可愛い系の勝負服を着ているのはスカイだけだった。本人の要望でフリルを増やしたり、スカートの丈をいじったりと色々あったが、元々のデザインは結構シンプルなものだった。

 スズカとキングはクールよりの勝負服だから、ここまで【かわいい】に重きを置いた勝負服は初めてだ。

 

「ねぇ、トレーナーさん。今日のレースちゃんと走れるかな……」

 

 落ち着いたように見えたファルコの顔には不安が見える。緊張ではなく不安。芝のG1という大きな舞台で、自分がしっかりと周りと競い合えるかという不安がファルコの中にあるんだろう。

 

「今日までのトレーニングをファルコがどんな気持ちで走っていたか分からない。けど、俺は今日のレースで一着でゴールできるように全力でトレーニングメニューを組んできたつもりだ。そして、ファルコはそれを耐えきった」

 

 並みのトレーニング量じゃない。バ場適正を覆すためにはそれ相応の努力が必要だった。何よりも、適正が高くないものを伸ばすというノウハウが俺には足りていなかった。それでも、ファルコは俺を信じてトレーニングに打ち込んだ。

 

「今日のレースを走れるようにじゃない。レースに勝てるようなトレーニングをしたんだ。だから、ファルコはファンのみんなに見せたい走りをすればいい」

 

 フィジカルは十分。いや、フィジカルだけで言えば同世代から頭一つ以上抜けている。逃げもクラシックの中ではかなり上手い。ここまで来ると、あとは蓋を開けるまで分からない。

 

「うん……そうだね!ファルコの走りをみんなに見せてあげる!」

 

 ファルコも覚悟が決まった。俺も……覚悟を決めよう。

 

 

「実際に今日のレースはどうなのでしょうか」

 

 私は少しファルコさんと自分を照らし合わせて考えてしまうことがある。ファルコさんはバ場適正、私は距離適性。実力ではなく、適正の問題。

 

「キングさんはどう思いますか?」

 

「ブルボンさんの言いたいことは分かる。けれどね、ファルコさんは今日の為に誰よりも努力を重ねてきた。だから、ファルコさんが勝つ……」

 

 そこまで言うと、キングさんは少しだけ悲しそうな顔をして一旦口を止めた。

 

「と言いたいところなのだけどね」

 

 再度口を開いて、スカイさんの方に視線を向ける。その視線に気が付いたのか、スカイさんが言葉を続ける。

 

「それは、他の娘にも言えること。みんなが今日の為、クラシック路線の三つのレースの為に全力を尽くしてきた」

 

 それは、実際にクラシック路線を最後まで競い抜いてきたからこその言葉だからだろうか。その言葉が私に深く突き刺さる。

 

「ブルボンちゃんはさ、菊花賞で私がキングに勝てたのは何でだと思う?」

 

 いつものふわふわとした雰囲気とは一転して、真面目な顔をしたスカイさんが私に問いかける。

 

「やはり距離適性とスタミナでしょうか。スピードとパワーに関してはキングさんがスカイさんに負けているとは思えません」

 

「半分正解で半分不正解」

 

 私にはそれ以上の解答が思い浮かばなかった。総合的な能力はクラシックレースを通して見ると、二人はほとんど同じように見えた。なら、残りの差はそこにあるとしか思えなかった。

 

「キングもファルコちゃんも一緒だよ。まずは、出走レースで勝負出来る土台を作らないといけないの。それとプラスで自分の課題とも向き合わないといけない。そうなると必然的にトレーニング量も増えていく。ブルボンちゃんだって、来年……いや、再来年くらいかな?そこからは今よりもトレーニングはハードになっていくはずだよ」

 

 たしかに、自分にとって苦手な舞台で勝負する以上は人一倍の努力が必要なのでしょう。

 

「トレーニング量が増えれば怪我のリスクだって高くなってく。怪我したらレースに出れないから、怪我だけはしちゃいけない。そうなると、自然に二つの課題に掛けられる労力も限られていく。菊花賞で勝つためのトレーニングを続けてた私と、菊花賞で勝負するためのトレーニングと勝つためのトレーニング両方しないといけないキングとじゃ勝ちに掛けられる時間が違うんだよ」

 

 スカイさんのあまりにも現実的な発言にキングさんの方に視線が行ってしまった。しかし、キングさんは私の視線に気が付くと無言で頷いた。当事者であるキングさんが、その不利有利を一番理解した上で菊花賞に挑み……そして、敗れた。

 

「ですが、キングさんは皐月賞で……」

 

 スカイさんとキングさんの皐月賞は私は今でも忘れられない。スプリンターかマイラーだと世間で言われていたキングさんが、スカイさんとの激闘の末に同着。

 

「そこが、キングとファルコちゃんの違うところなんだよね~」

 

 さっきの真面目な雰囲気と違い、いつものようなふわふわとした口調で言った。

 

「そうね。私のクラシックでの問題は距離適性とスタミナ。どちらかと言えば近しい課題ではあったもの」

 

「キングは元々マイルを走るだけのスタミナもあったし、中距離適正が無いわけではなかったから。スタミナを付けるのと並列して距離適性を伸ばしていったんだよ。何よりも、クラシックは2000m、2400m、3000、と距離が伸びていくから、そのステップアップもキングには都合がよかった。皐月賞の後のダービーと菊花賞も勝負できたのはそれが大きいね」

 

 キングさんは、スタミナを付けるために長い距離を走るトレーニングが多い。長い距離を走り続けることによって、距離適性とスタミナという欠点を克服していったということでしょうか。

 

「ファルコちゃんのフィジカルだけなら、クラシックの歴代の中でも上位の方なんだよね。ただ、慣れないバ場は踏み込みに大きく影響するし、思ったように走れない。そうなると、無理やりスピードを出すためにパワーが必要になってくる」

 

「ですが、スカイさんの言う通りなら、フィジカルの強さでどうにかならないのですか?」

 

 黄金の世代と言われるスカイさんたちが認めるほどのフィジカル。たしかに不利ではあるでしょうが、ファルコさんにはスピードがとても速い。スタミナも十分あると私は思う。そうなれば、パワー的な面はカバーできるのでは?

 

「トレーナーさんは私たちの長所を伸ばすようにトレーニングを考えてくれてるんだよ。私ならスタミナだし、キングならスピードとパワーかな。それでも、私はスピードトレーニングもパワートレーニングもしっかり組み込まれてるし、キングならスタミナトレーニングがある。クラシックの時はそれが足りなかったから克服するためにそれ中心のトレーニングをしてたけど、今でもそういうトレーニングをしてる」

 

 たしかに、キングさんは菊花賞を走り切れるだけのスタミナを持っていますし、スカイさんもスピードとパワー共に高水準。

 

「全部伸びるならそれに越したことはないけど、そう上手くはいかないからねぇ。それでも、他のトレーニングをおろそかにしないのは、全部の能力が繋がりあってるから。スピードがあってもパワーがなきゃそのスピードを出すのにスタミナを使っちゃうし、スタミナがあってもスピードが無ければ余るだけ、パワーがあってもスタミナが無ければちゃんと走れない」

 

 私は強くなりたいと思った。そのためにはスタミナを付ければどうにかなると思っていた。スカイさんの話を聞いて、強くなるという事、トレーニングメニューがどれだけ大切で綿密に組まれているかという事を思い知った。

 そんな、驚いた私を見てか、スカイさんは笑顔にで私の背中に手を添えた。

 

「大丈夫大丈夫。ブルボンちゃんはまだ時間あるし。理解するのも中々難しいからね~」

 

「なんとなく分かっていても、そういう積み重ねの繋がりって気付けないものよ」

 

(あぁ、私はなんて良い環境でトレーニングが出来ているんでしょうか)

 

 自分を導き支えてくれるマスター。自分の知らないことに気付かせてくれる先輩方。

 

「慣れないバ場でスピードを出すにはいつも以上にパワーが必要でさ、これだけならファルコちゃんは問題なんだよね。なんなら、不利を背負ってもスピードパワーは負けないね。ただ、いつも以上にパワーを使うとなると、消費するスタミナは想像以上だよ。だから、ファルコちゃんにとっては相当厳しいレースになる」

 

「でも、勝てる。勝つ可能性はある。ファルコさんは諦めず皐月賞に挑む。今日のレースに出走して全力を尽くすはずよ。だから、勝つ可能性はある」

 

 そう言ってキングさんは一呼吸おいてもう一度口を開いた。

 

「だって、勝利するのはいつだってレースに出走して諦めず全力で走った娘だもの」

 

 

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