トレーナーはウマ娘に夢を見る【完結】   作:Tmouris_

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第127.5話:全力!皐月賞!後編

『全てのウマ娘がゲートに入りました。クラシック第一冠皐月賞。その栄光を得るのはどのウマ娘か……今!一斉にスタートしました!』

 

 逃げをする上で、レース序盤の先頭争いは勝ち取りたいところだ。芝というファルコにとって不利なフィールドで、少しでも勝ち筋を広げるなら、有利なポジションを確保したい。

 

「ファルコちゃん……頑張って」

 

「ファルコちゃん頑張れー!」

 

「ファルコさん気張りなさい!」

 

「ファルコさーん!頑張ってくださいませ!」

 

「ファルコさんッ!」

 

「頑張れ!ファルコー!」

 

 開幕の先頭争いはファルコを含めた四人。最悪頭を取れなくても先頭集団に貼り付ければいい!最初の正念場だぞファルコ……!

 

 

(やっぱり足が重い!)

 

 トレーナーさんと、芝を克服することに今日まで集中してきたけど、最後まで克服しきることはできなかったから。

 

(それでも、なんとか先頭にはついて行けてる。ここから離れちゃダメ)

 

 先頭争いだけでこんなに疲れるとは思ってなかったけど、スタミナはまだ残ってるもん。前の娘の真後ろに入って少しでもスタミナを温存しないと。

 

(スカイちゃんが言ってた。プラン通りに行かなくても、その時々の状況をちゃんと利用しないとって)

 

 先頭は取れなかったけど、前の娘を壁にして風を受けないようにしよう。ペースメイクを今は先頭の娘に任せて自分の走りに集中できる。

 スカイちゃんの言ってることはファルコには難しかったけど……スカイちゃんが私でも分かりやすく説明してくれて、今日まで頑張って良かった。

 

(キングちゃんが教えてくれた。スタミナを温存する手段がレース中にはいっぱいあるってこと)

 

 聞くだけなら簡単そうなのに、やってみたら難しいことばかりだった。意識するだけでも違うって、だからいっぱい練習した。

 

(まだ負けない!)

 

 

「スリップストリームを上手く使ってるな。それにコーナーも上手く走れてる」

 

 本来ファルコはスズカのように先頭を走るタイプだ。誰かの後ろを走ったり、それを活かして走るといった経験がほとんどなかった。何よりも、この舞台であの臨機応変な対応は凄い。

 

「二人が自分のトレーニングの合間合間にファルコを鍛えてくれたおかげだ」

 

「私たちが直接鍛えたのだから!これくらいやってくれないと困るわ」

 

「私だって、ちょこーっと助言してあげただけですよ~」

 

 二人は少し照れ臭そうにそう言った。そして、一呼吸置くと。

 

「ファルコさんは私たちの後輩だもの」

「ファルコちゃんは私たちの後輩だからね~」

 

 どこか誇らしげにファルコを見る二人を見て、スズカはフフっと微笑んだ。

 

「二人もすっかりと先輩ですね。トレーナーさん」

 

「あぁ、キングは元々面倒見の良い方だったし、スカイも他人を良く見てる」

 

 レースは中盤に差し掛かる。一着争いをするためにはここからが正念場だぞ……ファルコ!

 

 

(うっ……ついていくのが辛くなってきちゃった)

 

 最初の先頭争いと、ここまでついて来るのに結構無理しちゃった。どこかで一息入れたいけど……

 

「ッキャ!」

 

(なんで急にこんな風……)

 

 理由を考えてる暇もなく、前の娘に距離を広げられてる。

 

(なんで急に……それよりどうしよう!離されちゃった!)

 

 追うべきなのかな?一回ここで一息入れちゃう?どうしよう。どうしよう!

 

『焦った時こそ周りを見なさい』

『焦っちゃったら現状を冷静に確認するといいよ』

 

(そうだ!こういう時こそ周りを見ないと!)

 

 前の娘にはまだ追いつける距離ではある。でも、ここで無理にスピードを上げたら、ただでさえギリギリのスタミナを使い切っちゃう。後ろの集団まで下がれば脚を温存出来る。けど、ラストスパートで先頭まで追い付く必要もあるし、埋もれちゃうのが怖いかも。

 

(少しでも勝てる可能性が高いほうはこっち!)

 

 

「おぉ……」

 

 初めてのG1という大舞台で、プランも作戦も上手くいかずにここまで冷静な対応が出来るなんて……

 ファルコは先頭の逃げ集団から離れるという選択を取った。前を走っている娘が自分を風の壁にされていることに気が付いたな。急な風との衝突はファルコのスピードを奪うには十分すぎる。しかも、自分がペースを上げることによって、一気にファルコとの差を作ったな。

 

「ここでその判断は英断よファルコさん」

 

「いや~二人とも良い駆け引き見せつけてくれるね~」

 

「ここで、下がる判断が出来るのは凄いですわファルコさん」

 

 マックイーンの言う通り、下がるっていう判断をするのは難しい。追い込まれて焦るほど、元のプランに執着してしまうものだ。だが、ファルコは少しでも勝率の高い選択をした。

 

「先行の先頭集団まで下がりつつ脚を温存してラストスパートに備える。集団を先頭でコントロールしつつ、自分の行きたいタイミングで上手く集団を切り離せば……」

 

 この作戦が通れば、ファルコにとって有利にこのレースが進んでいく。だが、それを実行する難易度とリスクも大きい。

 

「のまれちゃだめよ……ファルコちゃん」

 

 この作戦の大前提は、後方の集団の先頭に立つこと。下がるファルコと迫る後方集団とではスピードが違う。上手く合わせないと、集団にのまれて完全に終わりだ。

 

 

 私じゃ多分、完璧なタイミングで集団を引っ張ることなんてできない。今までこんなことやったことないし、完璧なタイミングを狙っても、タイミングが前後にズレちゃうと思う。

 

(タイミングが早いだけなら疲れるだけで済むけど……後ろにズレちゃったらどうにもできない)

 

 だったら、負担覚悟で早いタイミングで合わせ始めよう。悔しいけど……確実にファルコが前をキープできるのはそれしかないから!

 

(少しずつ、少しずつ引き寄せて……今だ!)

 

 スピード上げすぎちゃった。もう少し落とさないと……これじゃ遅過ぎちゃうし!スピードの調整に時間はかかったけど、なんとか先頭を確保できた。

 

 

「ファルコさんが先頭を確保しましたわ!頑張ってくださいませー!」

 

「う~ん……さすがに消耗しちゃってるね。早い段階でスピードを調整し始めたのは花丸だけど」

 

 完全なアドリブ作戦。しかも、初めての試みとなると、スピードの調整が難しく、スピード増減時のスタミナ消費が激しい。

 

「だが、準備は整った。あとは、ラストスパートのタイミングと……単純なフィジカルバトル」

 

「頑張ってください……ファルコさん」

 

 レースはいよいよ終盤に差し掛かろうとしている。狙うタイミングは早め。加速もできる限り早い方が好ましい……後方と前方の反応と対応が遅れる程、有利にレースが進む。

 

 

(末脚勝負じゃ先行の娘たちとよーいドンで勝負したら勝てない……ファルコはみんなよりも早くスパートを掛けなくちゃ!)

 

 私は力を振り絞って一気に加速した……つもりだった。

 

(なんで!?もっとスピードを上げないと!)

 

 私は必死に脚を動かした。それでも、後ろとの差は十分と言えるほど開けなかった。

 

(ここで上がらないとダメなのに!)

 

 後ろと開いた差はジワジワと詰まって来てる。一回スピードを上げてから、ファルコが伸びてない……けど、後ろの娘たちはどんどんスピードを上げてきてる。

 

 

「マズいマズい!ここで追い抜かれたら抜き返せない!」

 

 スタミナ的に抜き返すのが難しいというのが一番の理由だが……この盤面で抜かれるっていうのはメンタル的ダメージが大きい。張りつめた緊張の糸が切れて即復帰ってのは無理だ。

 

「既に結構きてるわね」

 

「自分の状況が分かってるからこそだけど……」

 

 恐らくキングとスカイの言う通り、ファルコは自分の厳しい状況を理解しているだろう。それ故にメンタルに掛かる負担も大きい。

 

「少しずつペースも落ちてきていますわ……」

 

 ファルコ!気持ちで負けちゃだめだ!今のファルコに俺たちが出来るのは声援を送ることだけだ。大きな声援を送ろうとしたその時だった。

 

 

 ダメだ……このままファルコ抜かれて終わっちゃうのかな。後ろからは、他の娘たちの走る音がどんどんと近づいてる。

 

(あぁ……ファルコ頑張ったんだけどな)

 

 脚の力が抜けて、踏み込みが浅くなりそうになった。

 

【がんばれー!!スマートファルコン!!!】

 

 一つじゃなかった。レース場の色々なところからファルコの事を応援する声が聞こえてくる。ゲリラライブをした時に来てくれたファンの人の声。デビューの時に声をかけてくれた人の声。色々な人がファルコを応援してくれてる。

 

『諦めるな!レースはまだ終わってないぞファルコー!!!』

 

 そして、ずっと側で応援してくれたトレーナーさん。

 

『頑張れー!ファルコちゃん!』

『諦めるなんて私が許さないわ!』

 

 私のために色々なことを教えてくれた、スカイちゃんにキングちゃん。

 

『『頑張ってください!ファルコさん!』』

『頑張って!ファルコちゃん!』

 

 チームメイトとして一緒に頑張った、マックイーンちゃん、ブルボンちゃん、スズカちゃん。

 

(みんながファルコを応援してくれてる。ファルコを見に来てくれてる)

 

 ファンのみんなが頑張って応援してくれてるんだから、ファルコが諦めちゃだめだ!

 ファルコは緩みかけた力を入れ直して、思いっきり地面を蹴る。1人、また1人私のことを追い越していく。それでも、ファルコは走りを緩めない。

 

 最後の力を振り絞って、ファルコはゴールラインを超えた。結果は11着。

 全部を出し切って、立ってるのもやっと。顔を上げるのも辛かった。それでも、応援してくれたみんなにお礼を言わないと。

 顔を上げて、笑顔で観客席に向かって手を振る。不安だった。なにも返ってこないんじゃないかって。

 

『ファルコかっこよかったー!』

『よく頑張ったー!』

『ふぁるこちゃんすごーい!』

『スマートファルコンカッコいいぞー!』

 

 顔は見えなかったけど、声は聞こえた。ファンの人たちの声。

 

「ファルコは可愛いのー!!」

 

 私はもう一度手を振って控室に向かった。

 

「ファルコ。お疲れ様」

 

 控室に入るとトレーナーさんが待ってた。

 

「うん……ファルコ頑張った」

 

 トレーナーさんの胸にもたれかかる。

 

「けど、やっぱり悔しいなぁ……」

 

「すごいかっこよかったぞ」

 

 ファルコはトレーナーさんの胸の中で静かに涙を流した。

 

「だから、ファルコは可愛いんだってばぁ……」

 

 

 

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