「スカイ、準備は出来てるな」
「もちろん。セイちゃんはいつでも準備万端で~す」
いつも通りに軽口を叩くスカイだったが、表情は強張り、落ち着かない様子だ。
「スペのことが気になるか?」
俺の質問に、ピクリと尻尾が動きを止めた。
「そりゃ、最近のスペちゃん見てたらねぇ」
菊花賞でスカイに敗北をしたが、次走のジャパンカップでは善戦を見せ、今年に入ってからは、強者相手に二回も重賞を制した。
「スぺの成長は俺から見ても著しい。けど、3000を越えるレースを走るのはスぺも同じだ。長距離が得意な分、スカイのフィールドで戦えるはずだよ」
さっきよりも少しだけ、スカイの肩の力が抜けたように見える。
「そうですね……トレーナーさんは安心して応援してくださいな」
軽く最後の打ち合わせをして、俺は観客席に向かった。
―――
(さぁて。今日の天皇賞は大荒れの予感ですなぁ)
菊花賞は理想的な走りができたと思ってる。でも、今回はその走り方もみんなにばれてる。特にクラシックでずっと一緒だったスぺちゃんが対応してこないと思えない。
(ポジション取りは大前提として)
単純なフィジカル勝負になったら、今のスぺちゃんには勝てないと思う。絶対にレース運びはミスできない。
私は緊張を抱えつつも、ゲートへと足を進める。そして、出走時間になり天皇賞が幕を開けた。
―――
レースは序盤から大変な状況……
他の娘と完全に作戦が被った。レースを作っていく上で、先頭争いは負けられない……でも、この娘が全然諦めてくれない!普通ならどこかで折り合いをつけて後ろに着いたりするのに。
(しかも、スぺちゃんは後ろから私を完全にマークしてる)
レースの主導権を他の娘に取られれば、突き放すタイミングもずれるし、絶対にスペちゃんには勝てない。だから、ここで完全に主導権を握る!
レース中盤に入ったところで、私は一気に先頭に躍り出た。隣の娘も少し張り合ってきたけど、さすがに私の後ろに付いた。
(これで、作戦通り動ける。あとはタイミングを待つだけ)
同じ位置からよーいドンなら、私はスペちゃんよりスピードで劣る。だけど、私が前の位置でスタートすれば、初速が早速い分、ラストスパートで逃げ切れる。
いつもより、スペちゃんは前目の位置についてる。でも、まだ許容範囲。スパートのタイミングを見逃さなければ……勝てる!
レースは中盤から終盤へ。レース全体に大きな動きはない。後ろの娘が定期的にアタックをかけてきて、それを捌くくらい。
すると、後ろから叩きつけられるような感覚がはしった。
(スペちゃん……隠す気なんてない。正面から私をねじ伏せる気!?)
私は、少し早めにペースを上げた。小細工なしの真っ向勝負を挑んでくるってことは、それ相応の根拠と自信があるんだ!
ついに、後方から地面を強く踏みしめる音が聞こえる。私も、それに合わせるように駆け出した。
じわじわと、距離が詰められていく。それでも、ゴールするまでには十分な距離。
(最後のラストスパートで確実に勝負を決める!)
菊花賞で走った3000mを超えた。ここからは、私もスぺちゃんも未知の世界……だけど、仕掛けるならここだ!
ペースを上げようと力を入れて踏み込む。それなのに、ペースが全く上がらない。
(道中スタミナを使いすぎちゃったか……)
序盤の先頭争い、中盤の主導権の握り合い。ここまでのレース展開で、私のスタミナが想像以上に消費されてた。
でも、一着を守るならこのペースをキープできれば……
そう思った刹那――私の隣にはスぺちゃんの顔が並んでいた。
(まだ、スピード上げるつもりなの!?)
若干の作戦の狂いはあった。スタミナも想定以上に使っちゃったけど、全部最後はスぺちゃんに勝つためだった。それなのに、どうしてスぺちゃんが前を走ってるのさ!
私は長距離なら負けないって思ってた。スタミナは誰よりもあるって思ってた。作戦を立てる知恵は他の娘よりも優れてるって思ってた。
その、どこかで思っていた慢心……この終盤で私よりもスタミナが残っているなんて思わなかった。
―――
「お疲れ様スカイ」
控え室で、トレーナーさんがそっとタオルを頭にのせてくれた。
レース結果は三着。G1で三着に入るなんてすごいことなのに、私は顔を下げたままで……トレーナーさんの顔が見れない。
「すまん。まさか、スカイと戦略が被るウマ娘がいるとは思わなかった……スぺのスタミナも正直想像以上だった」
なんで、謝るのトレーナーさん。悪いのは私なのに、全部自分が悪いみたいに。
これならいっそ、怒られたほうが――
「でも、スカイも自分の作戦に拘り過ぎたな。勝ち筋が多くて、いつものスタイルを通したいのは分かるけどさ。ちょっと今日は視野が狭かったな」
怒られたのに、辛くない。冷たさよりむしろ暖かくて、自然と視線がトレーナーさんに向いた。
涙は止まらないのに、なぜか笑みが零れちゃう。
「あはは~さすがにてんぱっちゃいました。だって、ほとんど作戦まる被りですよ?スぺちゃんの末脚もすごいのなんのって」
「そうだな……クラシックからさらに一つ成長したって感じだった」
「む~それじゃ、セイちゃんが成長してないみたいじゃないですか」
慌てて、弁明しようとするトレーナーさんは面白くって、気付いた時には涙も止まってた。
「大丈夫ですよ。天皇賞春のリベンジは来年にして……次のレースはスぺちゃんには絶対に負けませんから」
今日の負けには言い訳なんてしない。
だけど、次のレースは慢心も妥協もしないで勝負しよう。
これからは駆け足になりますが、出来る限り完結に向かっていこうと思います。
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