トレーナールームで雑務をこなしていたら、こんこんと扉をノックする音が聞こえた。
こんな昼休みに来るなんて、スカイか?でも、昼寝の時にスカイはノックなんてしないからな……
「開いてるぞ」
そう言うと、ファルコが少し難しい顔をして俺の前まで歩いてきた。
「どうしたんだファルコ。お前らしくない」
「えー!それってどういうことトレーナーさん。ファルコだって悩むことくらいあるの!」
「冗談だよ冗談。それで?どうしたんだ」
「えっと、人気になるってどういうことなのかなーって」
ほっぺに指を添えて、可愛らしく笑っている。だけど、少し焦ってるように見える。
「ハルウララのことが気になるか?」
「うっ……トレーナーさんはストレートに言うんだから」
勝利を重ねてライブのセンターに多く立ってきたファルコとG1勝利経験のないハルウララの人気は意外にも離れてない。
「ファルコね、レースで勝ってライブでキラキラを届ければみんな喜んでくれると思ってたんだ。でも、ウララちゃんを見てるとね、なんだか分からなくなってきちゃって」
ライブでセンターに立てば人の目に触れる機会も増えるし知名度も上がる。そういう意味では勝ち続けることが人気に直結するのはあながち間違ってない。
「きっとファンってさ、ウマ娘の在り方に魅了されて応援してるんじゃないか?」
「私たちの在り方?」
全力でレースに向き合う姿勢、ライバルたちと競い合う気迫、最後まで諦めない気持ち――そして、楽しく走る姿。
「強いからファルコを応援してるわけじゃない。勝てないからハルウララを応援してるわけでもない。ファンのみんなは、その娘に勝ってほしいって思うからファンになるんじゃないか?」
俺の言葉を聞くと、ファルコは少しの時間をおいて満面の笑みで顔を上げた。
「……うん。うん!分かった気がする。次のレースでもファルコ頑張って走るからトレーナーさんも応援してね☆」
「もちろんだ。次の帝王賞……葵さんは本気で勝ちにきてる。絶対気を抜くなよ」
「しゃい☆」
ファルコとハルウララの実力差は大きい。ちょっとした付け焼刃じゃ埋まらないはずだ。
そう思いながらもスズカとハッピーミークの激闘を思い出す。
葵さんにはその差を埋める術がある。勝ちにくるとしたら勝算が必ずある……こっちも全力で相手をしよう。
―――
帝王賞当日のパドックで俺は息を呑んだ。ありえないとまで思った。
それだけ、壇上に立つハルウララの仕上がりは完璧で、今までとはくらべものにならない。
「ウララさんの体の丈夫さは私の想像以上のものでした」
そう語り始めたはの、隣に座った葵さんだった。
「それだけじゃありません。ファルコさんに勝ちたいという純粋な思いと、走ることが楽しい――そのモチベーションがあるからこそ、ウララさんはここまで追い込むことができました」
追い込むと言っても限界がある。一日に出来るトレーニング量は限られているし、過剰なトレーニングはケガにもつながる。疲労は調子に影響して、パフォーマンスに関わる。
それをぎりぎりまで調整するのが桐生院家のノウハウ。それに丈夫な体とすり減ることのないモチベーションが絡みあったのか。
(ファルコすまん……想像以上に厳しいレースになる)
実力は未だにファルコが優勢だ。動揺しないで、自分の力を絞り出せ。
***
(気迫……?とは違うかもだけど。目が離せないのはなんで?)
ウララちゃんはいつも通りあんなに笑ってるのに、脚がプルプル震えちゃう。
(ダメダメ!笑顔だよファルコ!ファンのみんなはファルコが一生懸命頑張って走るのを待ってるんだから)
自分に言い聞かせるようにぶんぶんと首を振る。顔を上げてレース場を見回せばたくさんのお客さんが歓声を上げながらターフを見てる。
私はめいっぱいの笑顔でファンのみんなに手を振った。
「みんなー!ファルコが逃げたら~?」
『おいかけろー!!!』
ファンの声援を聞いて体の奥から力が湧き出てくる。みんなに心の中で「ありがとう」を言って、ゲートに足を進める。
「ファルコちゃん!」
「ウララちゃ~ん!」
ウララちゃんが駆け寄ってきて、両手を握って思わずキャッキャとはしゃいじゃう。
「いいレースにしようね!!ファルコちゃん!」
「うん!一生懸命頑張るよ☆」
さっきの脚の震えはもうない。
ハルウララとスマートファルコンの真剣勝負が幕を開けた。
***
スタートと同時にレース場は震えるような歓声に包まれた。
「こんなこと言ったら失礼かもしれないけど……ダートのレースでここまでの賑わいは初めて見た」
「私もウララさんのレースで何度もダートレースは見てきましたけど……初めてです」
ファルコだけでも、ハルウララだけでも起こり得ないレースの盛り上がり。ニュースなんかでも芝のG1レースに負けず劣らずの大賑わいだとか。
(おっと、そんなことよりもレースに集中しないと)
レース展開はおおむね予想通り。ファルコが先頭を奪って、後方からハルウララがレースの動きを伺う感じだ。
(中間に挟まれてるウマ娘たちはたまったもんじゃないな……)
ファルコのペースは通常の逃げよりも速い。大逃げほどではないけど、ペースを乱すには十分な速度だ。
ハルウララは後ろから追い上げるタイプ。パドックの圧を受けてコンディションが乱れたウマ娘も少なくない。そこに常に後方から見られていたらたまったもんじゃない。
「レースは中盤戦……ファルコ、ここからが本番だぞ」
***
残り半分。そろそろラストスパートに備えないと。
じわじわとペースを上げて、後方を突き放していく。私の動きに反応してそれに合わせて前に出てくる娘。自分のペースを守り続ける娘。色々いたけど、ウララちゃんは少しペースを上げただけで仕掛けてはまだこない――そう思ってたのに。
まるで何か爆発するような音が聞こえて、一瞬振り返ったら、ウララちゃんが一気にペースを上げた。
(うそ!)
さっきまで何人も挟んで後ろにいたはずのウララちゃんはすぐ後方まで上がってきてる。
追い抜かれるかもしれない、ラストスパートで持たないかもしれない……そんな不安がよぎる。
(ううん。思い出してファルコ。トレーナーさんとスズカさんが私と見つけてくれた――)
ファルコだけの走り
スズカさんみたいな大逃げはできない。スカイちゃんみたいな器用な走り方もできない。
だけど、ファルコの走りはファルコだけにしかできない!
ハルウララが後ろから迫って、後ろに付こうとした直後――スマートファルコンはさらに加速した。
(トレーナーさんが言ってた。ファルコのパワーはすごいって!あのスズカさんよりも鋭い二度差しができるって!)
***
「……勝負ありましたね」
電光掲示板に映るのはクビ差で一着を取ったファルコの番号。僅差ではあったがハルウララに勝利した。
「ウララさんは全力を尽くしました。それでも……届きませんでしたか」
葵さんは顔を落とし立ち上がる。そして、前を見て観客席を後にした。
(正直予想外だった。ここまでギリギリの勝負になるなんて)
握っていた拳を緩めると、溜まっていた汗があふれてくるようだった。
負けてもおかしくなかった。それだけハルウララの末脚は恐ろしい。勝てたのはファルコが二度差しでタイミングをずらすことができたからこそだ。本来ならタイミングもドンピシャだ。
(反省会はあとにして、俺もファルコのところに行かないと)
―――
ノックをしてドアを開けると、ぼんやりとした顔でファルコは天井を見上げていた。
「どうしたんだファルコ。もっと喜んでると思ったけど」
あれだけの白熱したレース……しかもG1。俺だって嬉しくてしょうがない。
「あ、トレーナーさん。嬉しくないわけじゃないんだよ?ただね、ウララちゃんと真剣勝負して、レース場も見たことないくらい盛り上がってて……なんだか夢みたいなんだ」
「名レースと呼ばれるほど話題になってる。しかも、そのセンターでファルコがライブするんだもんな。たしかに夢みたいだ」
ダートのレースの中では過去最大の観客動員数。ファルコが昔、芝レースで夢見たことがダートレースで実現しようとしてる。
ファルコやハルウララの活躍によって、今ではダートレースも密かに人気を伸ばし始め、以前よりもダートレースのファンも増えている。
「みんなにきらきらを届ける最高の舞台だ!ファルコの最高の笑顔を皆に届けてこい!」
「しゃい!!☆」
ライブ会場は会場一帯がペンライトで輝きを放ち。芝のグランプリレースに決して劣ることのない盛り上がりを見せた。
しっかりとチームメンバー1人1人にスポットを当てて、最終レースを描いていきたい気持ちはありました。
しかし、このままでは中途半端なままに放置し、完結することができないと思い、駆け足な展開になってしまっています。
急展開になってしまい申し訳ありませんが、もしよければ最後までお付き合いください。
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