トレーナーはウマ娘に夢を見る【完結】   作:Tmouris_

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第131話:菊花賞!ミホノブルボンの刺客!

ブルボンは自身の力と可能性を証明するように皐月賞と日本ダービーに勝利し、菊花賞へと足を進めた。

同世代の中では唯一無二の実力を示し。ここまで無敗敵なしといったところだが……

 

「スカイ的にはどう思う」

 

隣に座るスカイに声をかけると、難しい表情であごに指をあてる。

 

「うーん……正直な話。フィジカルだけで言えばブルボンちゃんの勝ちは確実だとセイちゃんは思うんですけどね~」

 

意味ありげにそう言うスカイの視線はターフに立つ一人のウマ娘に釘付けになっていた。

 

「ライスシャワーだよな」

 

皐月賞までは戦績が揮わなかったが、日本ダービーではたしかな成長を見せてブルボンに次ぐ二着。着実に実力を伸ばし、ブルボンに最も近いウマ娘だと俺も思っている。

 

「夏合宿を挟んで明らかに一皮剝けてる。一着こそ取れてはないけど、今日のライスちゃんは明らかにおかしいと思うな。それこそ、グラスちゃんの宝塚記念を思い出す気迫だよ……」

 

顔を青ざめながらスカイが思い出すのは今年にあった宝塚記念。キングとスぺを含む三人の激戦となったが、最終的にはグラスワンダーの圧勝といってもいいレースだった。

 

「葵さんのことだ、菊花賞に向けて準備は確実に進めてきたはず。そのことはブルボンにも伝えておいたけど……どうなるか」

 

***

 

(これが闘志というものなのでしょうか)

 

マスターがライスさんには気をつけろとの命令を受けはしました。ですがなるほど、命令の意図は理解できました。

 

(ですが、私自身が出しうる限りの全力を出すことに変わりはありません。マスターの設定タイムに従い、レースに挑みます)

 

一呼吸置いて、私は一歩ゲートに足を進めた。

 

―――

 

スタートと同時に先頭を奪い取り自分のペースを作り始める。

レースによる逃げの懸念点は後方から走りを見られることや、プレッシャーをまじかに受けること。

 

(ペースメイカーがいない分かかる負担も大きくなりますが、私には関係ありません――そう思っていたのですが)

 

今まで感じてきたことのない気迫が後ろから迫って来る。それに気圧されてか、私は今にもペースを上げそうになった。

 

(ですが……私は負けません)

 

ペースを一定に保ち、予定通りのレース展開を繰り広げる。

いくら気迫で追い込まれようとも、タイムさえ一定に保てばスタミナを温存し、ラストスパートに備えることが出来る。

 

(タイムでは私はライスさんに負けていない。夏合宿を経てスタミナも菊花賞を走るために十分なトレーニングを重ねてきました)

 

一歩、また一歩。私たちはゴールに足を進めていく。クラシック最後の冠を賭けて。

 

***

 

『このレースが終わった時に、ライスさん……あなたが祝福を受けることはありません』

 

ダービーが終わった時から桐生院さんに言われてた言葉が再び突き刺さった。

 

『あらゆる話題性で世間はブルボンさんの勝利を望んでいます。むしろ、ヒールになることだってありえます』

 

想像もつかなかった。だって、ブルボンさんに勝ったことが一度もなかったから。

 

『ですが!ライスさんあなたは私にとってはヒーローです。いいえ、私の担当全員が私からすればヒーローなんです』

 

思わず首をかしげてしまう。桐生院さんの言っていることがいまいちライスにはわからなかったから。

 

『……余計なことを言いましたね。全ては数時間後には分かることです。全力を尽くして、ミホノブルボンに勝ってきてください!』

 

『うん……ライス頑張る』

 

ライスね。ずっとブルボンさんと並んで勝負したかった。その背中にいつか追いつきたいって思って、今日まで一生懸命トレーニングしてきたんだ――今いくから。

 

黒い刺客、蒼い炎、青い花びら……全てが舞い上がりミホノブルボンに牙を向く。

 

***

 

すぐ後方で爆音が響き渡る。そして、その音が私の耳に届くまで時間を必要とはしなかった。

ゴールまで残り500mもない。

 

(このままでは並ばれて――)

 

直後、私はライスさんの背中を追っていた。隣に並ぶことなく、躱して前に出た?

 

(負けられ……いえ、あなたに勝ちます!ライスさん!)

 

この時初めてライバルという存在が出来たのだと思う。この相手に負けたくない。この相手に勝ちたい。その強い想いが私の足をさらに前に踏み出させる。

 

想定を超えた状況、プランから外れたペース配分。しかし、私はたしかに想定を超えた力を振り絞ったのだろう――

 

しかし、ライスさんの背中に届くことは最後までできなかった。

 

***

 

「マスター申し訳ありません」

 

控室に入ると、ブルボンが深々と頭を下げた。

 

「頭を上げてくれ。タイムは想定タイム以上。レース展開も申し分ない」

 

そうだ、例年なら確実に勝てるタイムだった……例年なら。

 

「私は感情というものを軽視していたのかもしれません。正確なラップタイム。自身の実力。それさえあれば勝利は揺るがないものだと思っていました」

 

彼女は頭を上げるとさらに続けて口を開く。

 

「ライバルの存在……ライスさんに追い抜かれた時に私が感じたのは負けたくない、勝ちたいという勝利への強い執着でした。その想いが本来の私のパフォーマンスを大きく上回らせた。精神は肉体を超越する……私はその意味を理解していなかったのかもしれません」

 

ここまで負け知らずでここまで来て、初めて知った感覚だっただろう。レースでの感情の揺らぎは時に自身を弱く……だが、それ以上に強くすることもあるんだ。

 

「ライスシャワーのブルボンを追い抜きたいという強い気持ちと、勝利への貪欲な想いに俺たちは負けた」

 

その結果がレコードタイム。未だ菊花賞というレースで出たことのないタイム。

……そして、今回の結果だ。

 

「次は私がライスさんに勝ちます――ライバルとして」

 

どうやら心配は杞憂に終わったみたいだ。夢への残り一歩というところで負けたんだ。燃え尽きてしまうウマ娘も少なくはないが……良いライバルが見つかったみたいだな。

 

「その意気だ!ほら、そろそろライブの準備をしないとな。ライブが終わるまでがレースなんだからな」

 

そうして、俺は控室を後にしてライブ会場に向かった。

 

―――

 

「マックイーン準備はいいか?」

 

「ええ!チーム一同準備万端ですわ!!」

 

俺は八本のペンライトを受け取り両手にはめる。

右には青のペンライトを。左にはピンクのペンライトを四本ずつ。

 

「ほら、みんなも準備しろ~」

 

チームメイト全員が同じようにペンライトを握る。正直な話、異質な光景ではあるがマックイーンの影響か俺たちのチームでは当たり前に使われてる技術だ。ほら、葵さんとかが少しひいてる。

 

「では、約束通り」

 

そう言って葵さんにペンライトを二本手渡す。

俺たちの約束……どちらが勝ってもその勝利を分かち合うこと。

 

ブルボンの三冠をかけたレースは世間的に大いに騒がれていた。去年のトウカイテイオーの話題もあったし、同じく無敗での三冠への挑戦だった。

ライブ会場からは暗い雰囲気が感じ取れて、ブルボンのことを悲しんでくれる人は多い。

それ自体は嬉しいんだ。けど、それはライスシャワーが祝福されない理由にはならない。彼女の勝利はみんなに祝福されるべき功績だ。

 

「全力でライブを盛り上げましょう!」

 

ブルボンを合わせた三人がライブを始めた瞬間はピンク一色だった会場にも、たしかに青い花は咲き。その花にライスシャワーは涙を浮かべた。

 

 




レースの内容やその他もろもろ短縮して描いている部分は多いですが、個人的に書きたいことは書くことができているかと思います。
完走まで頑張ります。

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