トレーナーはウマ娘に夢を見る【完結】   作:Tmouris_

136 / 138
第132話:有馬記念!頂点に向かって!

控室にいるのはキングと俺の二人だけ。キングの集中力と気迫に固唾を飲み、呼吸音だけが響き渡る。

 

「いよいよ始まるわね」

 

キングの一声で、絞まるような感覚が解けて肩から力が抜けていく。

 

「そうだな……全距離制覇最後の挑戦。キングヘイローのラストランだ」

 

この二年を通して短距離、マイルのG1を制し、皐月賞を合わせて残りは長距離だけだ。

現実的な話。キングのピークは終わりかけている。今のパフォーマンスで走ることができるのも数度が限界だろう。だからこそ、今日の有馬記念に残りのレース人生全てをこの一年捧げてきた。

 

「覇王と呼ばれるテイエムオペラ―にその世代の猛者たち……世間じゃ世代交代なんて言われてるそうじゃない」

 

ため息をつきながら傍に置いてあった新聞を指でなぞる。

 

「私の前で王を名乗るなんていい度胸ね。どちらが真の王者か見届ける権利をあなたにあげるわ!」

 

俺を指さすキングの手は震えていた。

それはそうだろう。相手は歴代でも屈指の実力者。自分が背負っているのはレース人生の集大成とその全て。

 

「キングヘイロー……それが今日の頂点に立つウマ娘だ。それをみんなにも見せつけてやれ」

 

差し出された手を両手で握り、体を乗り出す。

キングは一瞬目を見開いたが、手の震えは消えて、鋭い目つきで勝利を見据えていた。

 

***

 

「はーはっはっは!」

 

ターフに上がればその中心でテイエムオペラオーが高らかに笑っていた。

 

「ついに王者と覇王の勝負がここに幕を開ける!そして、共に身を削り合おうじゃないか、我がライバルたちよ!」

 

不敵な笑みが私に直接突き刺さる。

だからこそ、私は腕を組んで堂々と――

 

「いいわ。あなたには私が一着でゴールする瞬間を見る権利を上げる」

 

そう宣言した。

 

―――

 

キングヘイローは長距離レースに適正がない……それが世間の評価なのよね。人気は九番。私がこのレースを制すると思う人は少ない。

これが私のラストランだというのに?

いいわ。キングヘイローの走りを目に焼き付けてあげる。

 

スタートからのポジション取りほとんど同じ。いや、明らかなマークで前に出られていないだけね。

 

(それなのに何なのこの威圧感は)

 

マークされて動きにくいのは自分のはずなのに。私をマークしてる娘たちなんてほとんどいないのに、ひしひしと気配を感じる。

 

(いいわ。あなたとの真っ向勝負……受けてたとうじゃない!)

 

彼女は囲まれて上手く動けない状態にいるけれど、確実にあの集団から抜け出してくるはず。

――ならこのタイミングで仕掛けられるのはきついんじゃない?

 

作戦では後方からのラストスパートでの末脚勝負だったけれど、ここでできる限り距離を離すわ!

 

(ただ、相手はテイエムオペラオーさんだけじゃない)

 

ナリタトップロードさんやメイショウドトウさんも警戒しない訳にはいかない。このレースを走っているのは私と彼女だけではないのだから。

 

他の娘たちの動きにも対応できる程度にスタミナを残し、予定よりも早い段階で前に出る。

そのことを察して彼女も後方から抜け出そうとしたけれど、このタイミングでは集団から抜け出せていない。

 

(末脚勝負なら間違いなくこちら側が有利だけれど……)

 

2500mという距離のラストスパート。スピードだけじゃなく、スタミナとパワーも必要になる。

 

(大丈夫。自分のスタミナとレース展開を考えればこのポジションがベスト)

 

レースは激しい動きを見せることなくそのまま終盤戦に持ち込まれた。

 

(仕掛けるなら……今!)

 

地面を力いっぱい踏みしめて、全力で一歩を踏みだす。

加速と共に一人、二人と追い抜いていきレース場がざわめく。

 

けれど……もっと大きい歓声が響き渡る。

 

(来たわね!)

 

あのマークを抜けてきただけじゃない、そのままの勢いで先頭を奪いに来ているのが伝わってくる。

私も対抗するようにさらにスピードを上げて後方を突き放し、最後の1人も追い抜く。

 

(突き放すつもりが……それどころか距離を詰められているのは私の方!)

 

じわじわと距離を詰められてそのまま背中に張り付いてきた。

 

(たとえあなたがどれだけ速くても!私は負けるわけにはいかない!このラストランに全てを賭けているのだから!)

 

このレースが終われば私は引退。次のチャンスなんてものはない。

有馬記念のためにこの一年、今までの全てを注いできた。生活や食事。レースプランやトレーニングメニュー――そして、私たちの夢。

 

全距離制覇という私とトレーナーの夢。これまでしてきた努力。様々なものを背負ってここで走っているのよ!

 

一歩。また一歩。使い果たしたスタミナを搾り取るように踏み出していく。

 

(今までの王者が誰であろうと、これからの王者が誰であろうと!この瞬間、今日だけは私が王者!)

 

テイエムオペラオーが横に並ぼうとした瞬間――轟音と共に地面をえぐり取るように蹴りだした。

 

(足が重い、肺が痛い、飲み込もうとするプレッシャーが背後からずっと遅いかかってくる……でも、そんなの関係ないわ!)

 

この後、私が調子を崩そうと、怪我をすることになろうと。これが私のラストランなのだから。

 

――ついにこのレースの決着がついた。

 

一瞬の静寂のあとに割れんばかりの大歓声がレース場を包み込む。

力の入らない体を何とか支えて、私は腕を高らかに上げる。

 

「目に焼き付けてもらえたかしら?真の王者はこの私!キングヘイローよ!」

 

キング!キング!と大勢の声が聞こえる中で、意識が途絶えそうになり体から力がスッと抜けていく。

しかし、近づいていくはずの地面は目の前で止まって、それ以上私が倒れることはなかった。

 

「立ち上がってくれたまえよ。主役のいない舞台は盛り上がりに欠けるからね」

 

テイエムオペラオーに体を支えられながら、観客席に向かって再び視線を向けると、再び大きな歓声がレース場に響き渡る。

 

レースの王者の誕生の一日でもあり――王者が玉座を降りたその日でもあった。

新生チームレグルスで1番好きなメンバーは?

  • サイレンススズカ
  • セイウンスカイ
  • キングヘイロー
  • メジロマックイーン
  • ミホノブルボン
  • スマートファルコン
  • ナリタタイシン
  • トレーナー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。