スズカに謝ろうと決意したのはいいけど、そもそもトレーニングに来てくれるだろうか……
「こんにちは……トレーナーさんいますか?」
トレーナー室で待っているとスズカが来てくれた。怒って来てくれなかったらどうしようかと思ってた。
「ああ居るぞ、入っても大丈夫だ」
スズカが入って来てから沈黙の時間が続く。やっぱり少し気まずい。いや、しっかりと謝るんだ。
「スズカ……昨日は悪かった!スズカは俺の期待に応えてくれようと頑張ったのに、怒るようなことをして」
「いえ……私も感情ばかり先行させて、勝手に走りすぎてしまってごめんなさい」
「俺もしっかり注意して見るが、スズカもいっぱい走りたい時は俺に言ってくれ。メニューも、それに合わせてできるだけ調整するから」
俺もスズカのことを、24時間監視し続けられるわけじゃない。スズカが直接俺に言ってきてくれた方が確実だ。
「今回はお互い様って事でいいですよね」
「そうだな……これからはお互い気をつけよう」
少し微笑みながらスズカがそう言う。その笑顔を見て俺も安心した。
「それでこれからの方針だが、弥生賞は出るか?これからしばらくは、足に負担がかかるハードなトレーニングは出来ないからな」
「私は弥生賞に出たいです……ダメかもしれないですけど、弥生賞も皐月賞も諦めたくありません!」
スズカもまだやる気満々だ。だったら俺にも諦める理由はないな。治るのが間に合うか分からないが、弥生賞に向けてトレーニングしないとな。
「分かった、怪我がよくなるまではプールトレーニングと、上半身を鍛えるために筋トレ、そして走り方を忘れないように軽いジョギングを行なう」
「分かりました!今できる限りで頑張ります」
「とりあえず今日は、プールでトレーニングするから準備してプールに来てくれ」
「それにしても、プールは久しぶりだな」
最近は外での走り込みだったり、坂ダッシュばっかだったからな。中での練習となると中々新鮮な気持ちだ。
「いくら私たちが魅力的でもいやらしい目で見ちゃダメですよ」
「いや見ねえよ!てか、なんでセイウンスカイがここに居るんだよ!」
ここで練習するなんて伝えてなかったんだがな、なんでいるのこの娘?
「たまたまトレーナーさんがプールに向かうのが見えたので、私も行こうかな〜って」
「『 私も行こうかな〜』じゃねえよ!トレーニングはどうしたんだトレーニングは」
「どうしたんですか?トレーナーさんそんなに大きな声出して。あら、スカイさんこんにちは」
スズカも準備が終わったのかプールに合流した。
「スズカ聞いてくれよ。こいつまたトレーニングすっぽかして、俺らのトレーニングについて来たんだよ。そのうち俺が怒られちまう」
「いや〜将来の自分のトレーナーさんのトレーニングを受けておこうかな〜って、抜け出してきちゃいました」
「ちょっとトレーナーさん、どういうことですか?」
そういえば、スズカにはセイウンスカイのことを話してなかったな。話そうと思ってスズカの方を見ると怖いくらい笑ってた。いや、笑ってはいるんだけど目が笑ってないんだよ。
「スズカさん聞いてなかったんですか?俺はお前を絶対離さないって、熱烈なスカウトを受けちゃったんですよ。さすがのセイちゃんも断れなくて」
いや、近いことは言ったけど色々捏造しすぎじゃない?スズカからの視線が痛いんだけど。
「いや違うんだスズカ、決して俺はそんなことは」
「酷いですよトレーナーさん、あそこまで言っといてそれは」
そんな事を言いながら、セイウンスカイが体をくっ付けてきた。いくら俺がトレーナーだと言っても、男なんだからやめて欲しい。嫌なわけじゃないけどね?
「今日のトレーニングはスカイさんも参加するんですよね」
「ああ、成り行きとはいえ、そういうことになる……」
「分かりました。じゃあ、スカイさん泳ぎましょうか」
「は〜い、よろしくお願いします」
セイウンスカイを連れて、スズカがプールに入っていく。
泳ぎ始めると、スズカが先にゴールする。その後セイウンスカイも泳ぎ終えて水から上がる。
「スズカさん速いですね。ちょっと休憩しますか?」
「もう一本行きましょう?」
スズカのやつやる気満々だな。怪我をして落ち込んでると思ったが。
もう1本泳ぎ始めた。またスズカが先にゴールする。
「スズカさん……さすがに休憩を」
「私の練習に付き合ってくれるんですよね?」
「はい……」
さすがに次のもう一本終わったら止めよう。さっきの仕返しに、ちょっと苦しんでもらおう。
プールから上がった2人の方に行くと、セイウンスカイが土下座している姿を見た。
「スズカさんお願いします。休憩しましょう。いや、させてください」
「スズカ、これ以上はお前に負担がかかる。1回休憩にしよう」
「分かりました。スカイさんまた泳ぎましょうね」
2人を連れてとりあえず休憩することにする。そのついでに、スズカに昨日の経緯を説明した。セイウンスカイもさっきので懲りたのか、しっかりと説明してくれた。
「事情はわかりました。私もスカイさんがメンバーに入ることは反対じゃありません。ただ、そういうことはしっかりと私に相談してからしてください」
「大変申し訳ございませんでした」
「それに、日本ダービーに勝つなんて勝手な約束までしちゃって……」
「いや……スズカならダービーもきっと勝てるって信じてるから、つい」
そうすると機嫌が治ったのか尻尾を振り始めた。セイウンスカイはこっちみてニヤニヤしてるし。
「ところで、2人とも私のこと呼ぶ時固くないですか?」
たしかに、俺はフルネームで呼んでるし、スズカもさん付けで呼んでるから固いっちゃ固いかもな。
「じゃあ、なんて呼んだらいい?」
「気軽にセイちゃんとお呼びください!」
「そっか、よろしくなスカイ」
「よろしくお願いしますね、スカイ……ちゃん」
「セイちゃんって呼んでくれてもいいのに……」
さすがにセイちゃんはキツい。スカイも呼びやすいしそれでいいだろう。
「まあ、当分は担当契約どころか、契約すら出来ないけどな」
「そこはお2人に頑張ってもらって」
「私も早く怪我が治るように頑張ります」
「無理はしすぎないようにな。焦りは禁物だ」
早く治そうと焦って、怪我を悪化させたら元も子もない。
「スカイもまだ俺の担当じゃないんだから、教官のトレーニングにしっかりと参加すること」
「はーい、了解です」
「スズカも、トレーニング外でのランニングは控えてくれ」
「わかりました。我慢します」
スズカもスカイもちゃんと理解してくれたようだ。スカイに関してはトレーニングをサボるくらいなら、こっちに顔を出して欲しいくらいだけど。
「それじゃあ、休憩は終了!また泳いできてくれ」
「行きましょうかスカイちゃん」
「えっと、お手やわらかにお願いしますね?え、無視しないでくださいよスズカさん。あれ、もしかしてまだ怒ってます?」
「ふふ、私は全然怒ったりしてないから安心して」
「待って、トレーナーさん助けて。助けてえええ!」
スズカとスカイも仲良くやってるようだし、問題はなさそうだな。このままトレーニングを頑張ってもらおう。
トレーニングが終わったあとに、スカイが死んだ魚のような目をしてダウンしてたので、話しかけることにした。
「おい、大丈夫かスカイ。生きてるかー」
「トレーナーさん……普段怒らない人って怒らせちゃダメなんですね……セイちゃん初めて知りました」
「それはなんというか、ご愁傷さま」
結局あの後もスズカにしごかれてたしな……自業自得にしても可哀想に見えた。
「スズカとは仲良くやれそうか?」
「スズカさんも、私のこと嫌ったりしてるわけじゃないみたいだし、私もスズカさんのこと嫌いじゃないので、仲良くなれると思います」
「なら良かった」
担当のウマ娘同士が仲悪くなるってのは割と最悪な状況だからな。
「俺のとこきたら練習はハードだから、しっかりと鍛えとくんだな」
「日本ダービー……勝ってくださいよね」
「もちろんだ、勝ってみせるさ」
トレーニングも終わって時間も遅くなってきたな。
「スズカー片付けしたら、解散にしよう。今日もしっかりと休んで、明日のトレーニングに備えてくれ」
「スカイお前も帰ったらゆっくり休め。今日は疲れただろう」
「はーい」
その後片付けを終えて解散となった。怪我がどのくらいで治りきるかが心配だけど、今はできることをしよう。
文章見ればバレるかもしれないけどセイウンスカイ大好きです