病院に辿り着き、スズカの診断が終わるのを待っていると、医者に呼ばれたので診察室に入っていく。
「先生、スズカはなんで急に倒れたんでしょうか」
スズカは何も言ってなかったし、走りの方も昨日まで異常はなかった。
「今回倒れたのは睡眠不足からでしょうね。レースが終わって安心して、そのまま倒れてしまったんでしょう」
「睡眠不足ですか?でも1日ぐらいで倒れるほどには……昨日なんかはしっかりと走れてましたし」
「レース前日は、興奮してアドレナリンが分泌されていつもより元気なウマ娘はよく居ます」
でも、睡眠不足になるような心辺りはない。深夜遅くまでトレーニングをすることなんてないからな。
「じゃあ、スズカは昨日よりも前からあまり寝ていないということですか?」
「サイレンススズカさんは、先日に怪我が完治したばかりだと聞きました。中々怪我が治らなかったことで焦ってしまい、ストレス性睡眠障害になっていた可能性があります。こればかりは本人に聞いてみないと分かりませんが」
「そうですか……スズカが目を覚ますのを待つしかないんですね」
「はい、サイレンススズカさんも今は眠りについてるだけなので、時間が経てば目を覚ますはずです」
「分かりました……目が覚めるまで病室で待たせてもらいます」
今俺に出来るのは、目が覚めた時に1人で不安にならないよう傍にいることだけだ。
部屋に入ると、綺麗な少女がポツンと1人眠っていた。ウマ娘は起きている時こそ人間よりも高い身体能力を誇っているが、眠っていればどこにでもいるただの少女と同じだ
(そうだよな……大人しくて大人っぽく感じてたけど、スズカはまだ年相応の女の子なんだ)
怪我をして中々治らず、焦ってプレッシャーに感じてたのかもしれない。俺に心配をかけまいと、1人で抱え込んでしまったんだ。
レース前も、走ることより勝つことに執着してた気もする。今スズカに必要なのは走る事じゃなくて、気分転換だろう。
そんな事を考えてると、スズカが目を覚ました。
「トレーナーさん?」
「スズカ!起きたか!体は大丈夫か?どこも痛くないか?」
「体は大丈夫です……そうだ!レースはどうなったんですか!?」
ゴール直後に倒れたせいで、記憶が少し曖昧になってるらしい。
「レースは8着だった……ハッピーミーク達に中盤までついて行ったが、終盤に伸びず抜かれていったんだ」
「そんな……ごめんなさいトレーナーさん……私勝てなくて」
スズカは謝りながら泣き始めてしまった。
「いいんだスズカ、お前が無事にゴールしてくれてよかった」
あの状態で走って、レース途中で倒れでもしたら大変なことになっていただろう。
「何があったか、俺に話してくれにないか」
「寝つきが悪くなったのは、2週間くらい前からでした。最初はいつもより眠れないなくらいだったんです。ただ1週間前になっても怪我が完治しなくて、寝る前にレースの事ばかり考えるようになって、全く眠れなくなってしまったんです」
やっぱり……怪我によるレースへの不安のせいだったか……俺が気づいてやらなきゃいけなかった。
「ただ、レース前日は不思議と力が湧いてきて、速く走れたんです。これならレースも大丈夫だと思ったんですけど……」
「今日は朝からなんだか集中力が続かなくて、上の空になっていたんです。ゲートに入ったあと一瞬だけ眠ちゃって、目を開けたら自分がレース中だって思い出して、早くスタートしなきゃって思ってゲートを潜ってしまったんです……」
なるほど、スタートと直前のあのアクシデントはそういう理由があったわけか。
「本当にごめんなさい、トレーナーさんが頑張ってくれたのに」
「いいんだ、俺もお前の不調に気づけなかった」
沈黙が流れる。レースの反省は今じゃなくてまた今度すればいい。
「なあスズカ」
「なんですか?」
「明日はいい天気になるそうだ、俺もたまには体を動かそうと思ったんだが。スズカも一緒にどうだ?どうせならスカイとかも誘ってさ」
「分かりました……明日ですね」
「走れる格好で学園前に集合だ。今日はもう帰って休もう」
そして、医者の話を聞いて、帰宅しても問題ないということなので、スズカを連れて学園に帰った。
「スズカおはよう」
「おはようございます」
学園の前で待っているとスズカがやってきた。昨日最後会った時よりは元気そうだ。
「セイちゃんも来ましたよ〜」
「スカイも悪いな、急に呼び出しちまって」
「今日はトレーニングおやすみですから。それにしても、休養でやる事がランニングですか」
スカイには昨晩事情を説明して誘ってみたら、快く誘いを受けてくれた。
「それじゃあ行くか」
「「はい」」
そうして走り始めたのはよかったんだが、改めてウマ娘の凄さを実感した。ある程度2人とも俺にペースを合わせてくれてるんだが、速いのなんのって。
「ちょっと休憩しないか?」
「あれ〜トレーナーさんもうバテちゃったんですか〜?」
「うるせえ!俺は普段動かないから長く走ってられないだけだ!」
「それならそこで休憩しましょうか」
俺たちは近くにあった河川敷で一旦休憩することにした。スズカが居てくれてよかった……
「いや〜それにしてもいい天気ですね今日は」
「ああ、こんなに晴れることも珍しいな」
雲1つない空っていうのも滅多に見ないからな。今日は晴天だ。
「やっぱりこういう日に走ると清々しいか?」
「私も走るのは好きですからね〜」
寝っ転がって伸びているスカイがそう言う。やっぱりスカイも走るのが好きなんだな。
「なんでスカイは走るんだ?」
「私は走るのが好きですし。なによりレースでも勝ちたいですから。私だけじゃないと思いますよ?ねっスズカさん」
「ええそうね、私も走るのが好きよ。レースも勝ちたいと思うし、何より先頭を走るあの景色が好き。走ってて楽しいの」
走ってて楽しいか。スズカの力の源は走るのが好き、楽しいというその気持ちなのかもしれないな。
「スズカは昨日のレース楽しく走れたか」
「っそれは、その……」
少し意地悪な質問をしてしまったか。この質問はやめておこう。
「スズカとスカイ、こっからあの辺まで俺とかけっこで勝負しないか?勝ったら好きなスイーツを1つ奢ってやる」
そう言って河川敷の突き当たりの方を指さす。
「へ〜セイちゃんと勝負するんですか?今ならスズカさんにも負ける気がしないですよ」
「私も構わないですけど……トレーナーさん本気ですか?」
「本気も本気だ。俺に負けて泣いちまうお前たちの姿が目に浮かぶぜ」
本当にそんぐらい速く走れたらいいんだがな……そう思いつつ煽りを入れる。
「それじゃあ行くぞ。位置について、よーいどん!」
スタートの合図のタイミングをズラして、俺が1番早くスタートすることに成功した。
「トレーナーさんズルい!」
後ろからスカイの訴えが聞こえてきた。
「俺にはこんくらいのハンデがあって丁度いいだろう!」
スタートこそ俺が1番にたったが直ぐに2人に抜かされてしまう。そして、スカイとスズカが2人が横並びだ。
(スカイちゃんが出し抜かれてるのを見るのって、なんだか新鮮ね)
そんなことを思っていたら、スズカは気づいたら笑っていた。
(楽しい。走るのってとっても楽しい。今日はこんなにもいい景色なんだから、先頭を走ったらきっともっと綺麗な景色が見えるんだろうな)
「スズカさん、私が先に行っちゃいますよ?」
「私はこうなってからが強いのよ?」
なにかやり取りを終えて2人が一気に加速していき、スズカが前に出た。
(やっぱり、先頭の景色はとっても綺麗。私が出るレースでこの景色は誰にも譲らない)
【先頭の景色は譲らない……!】
スズカが前に出たと思ったら、更に一気にスピードが伸びる。あんなスピードみたことねえぞ!スカイも追いつけず離されてしまった。
2人がゴールしてからしばらくして、俺もゴールした。そうするとスズカが駆け寄って来る。
「トレーナーさん!走るのとても楽しいです!先頭を走るのはとても気持ちいいです!」
「そっか、それは良かったな」
こんな余興で楽しんでもらえてよかった。ズルまでして負けたけど……
「はい!」
「お2人さんいい雰囲気なところ悪いんだけど……トレーナーさんズルはダメでしょう!」
スカイがそう言って俺を捕まえ、頭をグリグリしてきた。痛い痛い!ウマ娘の力でやられたら頭割れちゃう!スズカは笑ってこっちみてるし。
「スズカ!笑ってないで助けてくれよ!」
「これはトレーナーさんの自業自得だと思います」
プイッとそっぽ向かれてしまった。そんな殺生な……
その後結局助けても貰えず、負けた罰ゲームでスイーツを奢ることになった。スカイのやつ、ちゃっかり1番高いやつ買いやがった。
「そろそろいい時間だし、今日はもう帰るか」
「もうこんな時間でしたか……楽しい時間はあっという間ですね」
「私は美味しいスイーツを食べられて満足満足」
「一応明日までトレーニングは休みだ。明後日からまた頑張ろうスズカ」
「はい!」
スズカも元気が出たようだし、明日のことも伝えて、学園の前に着いたのでそこで解散となった。
スズカに微笑んで欲しい人生だった