第2話:探せ!担当ウマ娘!
結果が届いてからしばらく経ち、初めて俺たちはトレーナーを名乗ることを許された。トレーナーと言っても頭に新人がついてはしまうが。
学園に到着して集合場所の体育館に向かっていると、見覚えのある人影を見かけた。試験の日に心配してくれた人だ。ここに居るということはトレーナーになれたんだろう。あの時は名前を名乗れなかったし、自己紹介ついでに挨拶をしておこう
「こんにちは」
「あっ試験の時にお会いした。無事に採用されたんですね。良かったです!」
話しかけてみると、どうやら相手もあの日のことを覚えていたみたいで俺も合格していることをとても喜んでくれた。コケたことは忘れて欲しいもんだが……
「あの時はお礼だけで、名前も名乗ることもできなかったから。お互いここにいるってことは同期になるわけだし、親睦の意味も込めて自己紹介させてください」
相手の方は同期という言葉に反応したあと、ニコニコしながらこちらを見ている。試験を受かる人は多くないからな、仲良くして貰えそうならこちらも助かる。
「同期……私は桐生院葵っていいます。よろしくお願いします!」
俺が自己紹介をしようとしたら、先に桐生院さんは自己紹介をされてしまった。というか、桐生院ってあのトレーナーの名門じゃないか……まさかそんな人物と知り合えるとは。
「俺は柴葉和也っていいます。これからよろしくお願いします。まさかあの名門の桐生院さんだったとは思わなかったです」
俺が自己紹介を終えると、桐生院さんはどこか恥ずかしそうな表情をしていた。
「たしかに私の実家はそう呼ばれていますし、実際に幼少から色々知識を仕込まれたりはしていますが……実際の経験はないですし、柴葉さんと同じ新人トレーナーですよ」
どうやらあまり名門名門と煽てられるのは好きではないらしい。期待されてるからこそ色々と大変だろうしな。
「とりあえず、理事長の話があるから集会場の方に向かいますか」
俺がそう提案すると彼女は快く承諾してくれた。どちらにせよ目的地は同じだし、せっかくの縁だと思って一緒に向かうことになった。
「柴葉さんはどうしてトレーナーに?」
集会場に向かう途中で桐生院さんが志望動機を聞いてきた。彼女は昔からトレーナーになることが当たり前と思いながら生活してきただろうし、他人がトレーナーになろうと思ったのかは気になるところのようだ。
「昔見たレースがとても印象的で、俺もこんなふうに輝く舞台で自分の育てたウマ娘を走らせて見たいと思ったんです。そして、そんな全力で走る彼女たちの夢を叶えたい……そんな夢を見たんです」
その時のレースの内容はもうあまり覚えていない。ただ、その時1着だったウマ娘と何か約束をしたような記憶が朧気に残っている。
「素敵ですね。私はトレーナーになるために育てられて来ましたから……あっ!でもウマ娘のことは本当に大好きですよ?レースを見るのも好きですし!」
家の使命とかそういったことを抜きにしても、桐生院さんはウマ娘やレースのことが大好きらしい。それが嘘でないのは話すテンションの高さで何となくわかった。
そんな風に話をしていると、集会場にたどり着いたので席へと着いた。学園の説明や理事長からの話があるらしい。
「歓迎!みなよく来てくれた!諸君らにはこれから、この学園の案内を行う。担当、サブトレーナー、チーム各々違った目標を目指す上で、この学園の施設のことを把握するのは大切なことだ」
サブトレーナー、チーム、担当。俺は専属のウマ娘を探すつもりだが、新人はスカウトが辛いと聞く。最悪サブトレーナーとして先輩達の知恵を蓄えるのも手かもしれない。
「それではたづな、案内の方は任せた」
理事長がそう言うと、たづなさんが出てきて学園内の案内を始めた。俺たちは先行する彼女のあとを追いかけて施設の説明を受ける。
(それにしても……相変わらずこの学園の土地は広すぎんか)
集会場らしき場所から出ると、広大な土地にある様々な建物や多くのトラックが目に映る。
「ここは体育館です。主に雨が降っている日に使われたり、筋肉トレーニングをする際に使用されることが多いです」
雨が降っても走ることはあるだろうが、主に筋トレするために使う施設のようだ。今日も何人かのウマ娘が筋トレを行っている様子だった。
「次はグラウンドです。走る練習は主にここで行われています。ちょうど今日はレースが行われる予定ですね」
俺たち新人は、きっとこの中からいずれ担当をきめることになるんだろうな。そう思うとなんだかワクワクする。
「担当をつけるつもりの新人さんは目をつけとくといいですよ。既に仮契約や契約を済ませてる娘も何人かは居ますが、していない娘が殆どですから」
ちらっと見た時に、ウォーミングアップ中の走りでとても惹かれる走りをしていた。栗毛のロングのウマ娘か、一応覚えておこう。
「次にここはプールです。泳いでスタミナなどを鍛えることができます」
確かに、遊泳はスタミナ作りにはもってこいだ。足に負担もかかりにくいしな。
そして、一通り案内が終了して、ここからは各自で学園内を見回るということで解散となった。
「柴葉さーん」
桐生院さんの方から俺に話しかけてきた。この後は各々自由時間だったはずだけど。
「柴葉さんはトレーナーとしてどうする予定なんですか?サブトレーナーとして先輩トレーナーについたりするんですか?」
トレーナーとしてか……桐生院さんは担当ウマ娘を取って育成していくんだろうか。実績を残せばチームを持つことも可能だしな。
「俺は担当の子を探す予定だよ、どうしてもスカウトできなそうならサブトレーナーになるつもりだけど……とりあえずはさっきのレースを見に行こうと思ってる」
「私もさっき、気になるウマ娘が居たのでちょうど見に行こうと思ってたんです。ご一緒してもいいですか?」
別にレースを見るだけだしな、一緒に行っても特に問題はないだろうし。何よりも断る理由もない。グランドに辿り着くと、レースがちょうどスタートした。危ない危ない、もう少しで見逃すところだったな。
レースの様子を見ると先頭を1人だけ駆け抜ける少女がいる。さっき俺が目をつけていた娘だ。大分ハイペースだが、あのペースで最後まで走りきれるのだろうか。
「あの娘結構掛かってしまってますね。緊張しているんでしょうかね?」
「分かりませんけど、中々面白い走りをしますね。大逃げするウマ娘なんて滅多にいませんし」
俺が大逃げを打つウマ娘に夢中になっていたように、桐生院さんも気になるウマ娘がいるようだった。
「わたし的にはあの白髪の娘が印象がいいです。少し先頭の子に引っ張られてペースは上がってますけど、堅実な走りをしていてかなり速いです」
その後は、白髪の娘が先頭の娘に食らいつこうとしたが、そのまま逃げ切られてレースが終わってしまった。
俺が目に着けていた子がぶっちぎりだったな。ラストこそスタミナ切れが目立ってペースは落ちてしまったが、しっかりと逃げ勝っていた。
桐生院さんは、白髪のウマ娘を探しにどこかに行ってしまった。俺も今逃げ勝った娘に話しかけてみよう。
「ねえ君。ちょっとだけ時間いいかな?」
「私になにか用でしょうか?」
話しかけると驚いた顔で俺の方を見ている。急に声をかけられたら誰でも驚くか。
「俺は新人のトレーナーの柴葉だ。担当ウマ娘を探してたら君が気持ちよさそうに先頭を走ってるもんだから、つい声をかけてしまったんだ」
あの逃げ足にはとても輝くものが見えた。スタミナなど課題はまだまだあるけど、俺はこの娘の担当をしたいと思った。レース場でこの娘の大逃げをするところを見てみたい。
「私はサイレンススズカっていいます。その、すいません……誘いは嬉しいんですけど、他の方と既に仮契約をしてしまっていて」
そういうと彼女は申し訳なそうに謝った。先に仮契約があるなら仕方ない。仮契約ってことはまだ本契約は交わしてない、いわばお試し期間ってことだ。もしもその仮トレーナーと上手くいかなかったらもう一度声をかけよう。
「そっか、そりゃ残念だ。もし機会があったらまた話しかけさせてもらうよ。時間を取らせて悪かったな」
ウマ娘側からすれば得体のしれない新人トレーナーよりもベテラントレーナーの方がいいに決まってるもんな。サイレンススズカは一礼してどこかに行ってしまった。
「柴葉さん!柴葉さん!」
そんなこと考えると、桐生院さんがさっきの白髪のウマ娘を連れて走ってきた。
「どうしたんですか?というか誰ですか?その娘は」
「さっき気になってた娘に話しかけてみて、この娘……ハッピーミークの担当になることにしました!」
この人は行動力の化身というかなんというか……トレーナー初日なのにそんな気軽に決めていいのか?いや……俺も人のこと言えないか。というか待てよ?捕まえたとか言ってなかったか。
「一応確認しておくけど、無理やりとかじゃないですよね?」
「ちゃんと私も納得してます……よろしくお願いします」
桐生院がハッピーミークを紹介すると小さな声で挨拶をしてきた。何故か本人も納得してるっぽいし問題はないだろう。桐生院のネームバリューってやつなのか?
俺も桐生院さんみたいに担当のウマ娘を探さないとな……在校生に対してトレーナーは足りてないって言うし大丈夫だよな?
そんな感じで2週間近くスカウトを続けるが 、まあ断られるわ。心折れそうになりながら、グランドで走るサイレンススズカを眺めていた。たまたまグランドをうろついてたら、練習してるところを見かけて気になった。
「どうだい、気になるウマ娘は見つかったかな?」
俺がグラウンドに座り込んでいると、後ろからシンボリルドルフが話しかけてきた。落ち込んで見える俺を見て、気遣ってくれたのかもしれない。
「一応、いるにはいるんですけどね……色々事情がありまして」
それを聞くと、シンボリルドルフは興味を持ったらしく俺の隣に腰掛けた。
「ほう、それはどんなウマ娘か聞いてもいいかな?」
「そこで左にグルグル回っているウマ娘です」
指を指した先ではサイレンススズカが左に回っている。さっきから、何か考えながらずっとグルグル回ってる。
「サイレンススズカか……彼女は一体何をしているんだ?」
どうやらシンボリルドルフもサイレンススズカのことを知っている感じだった。あれだけ目立つ走り方をすれば名前くらいは聞くのか?
「さっきまでは1人でランニングしてたんですけど、何か考えながら回り始めたんです」
なんか悩みでもあるのだろうか。こういう時に話かけていいのか分からないけど少し話しかけて見ることにしよう。
「なあ、サイレンススズカ何してんだ?」
話しかけると回るのをやめてこちらの方を振り向いた。
「柴葉さんでしたよね。実は少し悩みがあって……それについて考え事をしていたんです」
俺のことを覚えていてくれたみたいだ。やはり何か悩んでるっぽい。何に悩んでるのか分からないが、左に回る悩みってなんだろうか?
「悩み?俺で良ければ話聞くが……」
俺がそう言うと少し考え始めた。スカウトしたとは言え話したのはあの1回だけだからな、相談するか迷っている様子だった。
「私の仮トレーナーさんが言うんです、大逃げは勝ちの定石じゃないって。そして、私は今ずっと先行だったり差しのレースの練習をしてるんですけど、それで中々調子もでないし上手く走れなくて」
きっとそのトレーナーは、悪い人ではないんだろう。大逃げは勝ちの定石じゃない。さっきのレースで見たサイレンススズカの末脚は凄まじいものだった。先行や差しにしたがるのもわかる気がする。そこが上手く合わなくて正式な契約には至ってないのか。
「それで、サイレンススズカはどうしたいんだ」
俺がそう質問すると、サイレンススズカは遠い空を見ながら独り言のように話し始めた。
「私は……先頭の景色を見ていたいんです。前に誰もいないそんな景色を」
そうか、サイレンススズカは逃げたいんだ、大逃げをしたいんだな。無謀と言われるかもしれない、彼女の末脚ならどんな脚質でもある程度の結果は残せるだろう。それでも、彼女は逃げをしたいんだ。
「きっと辛い道になるだろう。もしかしたらレースで勝って行けないかもしれない」
俺が言おうと思ってたら、シンボリルドルフが先に言った。だが、その通りなのだ。大逃げは大きくスタミナを消耗するし、最後の競り合いで勝負にならないことが多い。
「お前は逃げ……大逃げがしたいんだな」
「はい」
質問に対しては即答か……この様子だと、諦める気はなさそうだ。サイレンススズカは大逃げでレースで1着を取っていくつもりなんだ。
「俺はお前のトレーナーになったら、お前が諦めない限り大逃げで勝つためのトレーニングを考え支えよう」
仮とはいえ担当のいるウマ娘にこういうことを言うのは良くないだろう……それでも、彼女の担当は大逃げをさせるつもりはないようだし、俺に出来ることはこんな提案をするくらいだ。
「どうする?サイレンススズカ、仮契約の契約破棄期間内ならトレーナーを変えることも可能だが」
俺に続くようにシンボリルドルフも言った。彼女は俺のことを手伝ってくれてるのだろうか?まるでサイレンススズカの担当を変えることを勧めているように見える。
「あなたは私に逃げさせてくれますか?先頭のその先の景色を見せてくれますか?」
サイレンススズカは真剣な顔で俺の目を見る。こんな才能をもったウマ娘を前に、断る理由がどこにあるというのだろうか。仮契約しているトレーナーには悪いが、俺はサイレンススズカのトレーナーになりたい。
「もちろん、できる限りのことをしよう」
そう答えるとサイレンススズカは少し悩んでからこう言った。
「わかりました。それじゃあ明日のレースを見てください。その後に返事をさせてもらいます」
レース場に来たがスタートまではもう少し時間があるようだ。サイレンススズカの様子を少し見てみたがどうやら調子はいいらしい。
「それではレースを開始します。各自ゲートに入ってください」
ウマ娘がゲートインを済ませてスタートした。サイレンススズカは序盤からトップを取っている。ペースもハイペースで走っている……大逃げするつもりだ。このレースは中距離で、終盤スタミナが持たないなんてことはあるが、それでも彼女がスピードを緩めることはない。
最終コーナー手前で後方のウマ娘も仕掛けていくが、それではもう遅い。最後の直線、スタミナが切れてきたのかスズカのペースがおちる。
「行け!サイレンススズカ走りきれ!!」
聞こえないとわかりつつ大声で応援した。そのままサイレンススズカは1着でゴールイン。ギリギリの勝負ではあったが先頭をキープしたままサイレンススズカが勝った。
「お疲れ様、いい走りだったよ」
「ありがとうございます。どうでしたか私の走り」
彼女はどこか不安そうだった。彼女の大逃げしたいという夢は多くのトレーナーに否定されてきた……俺にも否定されるんじゃないかって心配なんだろう。
「素晴らしい逃げだった、終始先頭をキープし続けてあのハイペース。大逃げ大成功だ」
後続と大差をつけて中盤までは1番だった。スタミナ切れがあり、終盤追いつかれるかとも思ったが。1着でしっかりと走りきった。
「もう一度聞かせてください。トレーナーさんは私に先頭の先の景色を見させてくれるんですか?」
レースであの走りを見せつけられたんだ、答えはもう決まっている。
「ああ!見させてみせる!そして、君は勝つことで俺の君を勝たせるって夢を叶えてくれ」
「ふふ、よろしくお願いします。トレーナーさん」
そう笑いながら、サイレンススズカは手を出してきたので、握手を交わした 。
「あと、私はスズカでいいですよ」
「そうか、じゃあよろしくなスズカ」
手を離すと、スズカは小走りで俺の先に立って校舎の方を指さす。
「そうと決まれば手続きをして走りましょう!せっかくこんなにいい天気ですし」
「それもそうだな」
ここから俺たちの本当のトレーニングが始まっていくんだな。
何人でもどんどん担当増やしたいけど増やすタイミング難しいいい!!