スズカも大丈夫って言ってたし、スカイからも連絡来たから大丈夫さと思うんだけど。あいつは本当に来るのだろうか。
「だ〜れだ」
そんな不安をかき消すように声が聞こえた。今どき珍しいイタズラをされてる気がする。
「スカイか、よく来てくれたな」
「バレちゃいましたか〜。しっかりとトレーニングに参加しに来ました」
バレるも何も、ここにはスズカと俺とスカイしかいないし、スズカはこういうことするタイプじゃないからな。
「今日は、お前にとってはかなりハードなトレーニングになるけど、覚悟はできてるな」
「本当はごめんこうむりたいんですけどね〜。そういう約束ですし」
「スカイちゃん、今日は一緒に頑張りましょ」
休日に俺を連れ回せる代わりに、トレーニング参加するって約束をスズカが勝手に取り付けたらしい……
「それに、このまま何もしないのは癪ですからね〜……」
ジト目で凄いこっち見てくるんだけど。俺ってスカイになんかしたっけか。なんでスズカは微笑みながらこっち見てるの?あなたまたなんかしたの?
「とりあえず!今日のトレーニング、スズカは4割から5割近くで走ってくれ。スカイはその背中を全力で追いかけろ!」
「「はい!」」
「それじゃあ、位置についてくれ〜。いくぞ、よーいどん!」
スタートした。最初は平地の道が続く。スズカは5割近くの力で走ってるからスカイも突き放されることは無い。
平地の道が終わり、ここからは長い登り坂が続く。スズカは辛そうに走ってるけど、スカイは割かし余裕そうな顔で走ってるな。
「スズカさんキツそうですね。私が先頭代わりましょうか?」
「大丈夫よ……スカイちゃんは私の後ろで楽にしてて」
私は傾斜を登るのがとっても苦手なのに……スカイちゃんはなんでこんなにスイスイと走れるの?
「それならいいんですけど……今は平地じゃなくて傾斜を走ってるのを忘れないでくださいね」
傾斜を走ってる?それはわかってる。だから足が前に出なくて困ってるのに……
(スズカが結構辛そうだな。昨日の疲労もあるか……)
坂はなんとか耐えきったな。ただスズカの方の消耗が激しい。この後の下り坂でどうなるかだな。
「ねえ、スズカさん」
「なにかしら?スカイちゃん」
「トレーナーさんは背中に付いていけっていったけどさ。別に抜かしちゃってもいいんだよね?」
下り坂で前に出たのはスカイだった。傾斜を利用して、上手くスピードに乗ってるな……ブレーキを掛けながら走ってるスズカじゃ、追いつけていない。
何が違うんだ……スカイはあんなにスイスイと前に進んで行くのに、何故スズカはブレーキが掛かってしまうんだ……
(なんで……なんでスカイちゃんに追いつけないないの!スピードもスタミナも私の方があるはずなのに。なんで追いつけないの!)
「そんなにスピードを抑えてるスズカさんになら、私でも負けません」
スズカはスピードが速い。それ故に、無意識に下り坂でスピードにブレーキをかけてしまう。そのせいで余計なスタミナを消耗し、スピードも殺してしまっていた。
「ウマ娘には度胸が大事ですから!」
そう言い残すと、スカイちゃんはそのまま私を突き放していく。
度胸が大事……そうか、私怖がってたんだ。下り坂でスピードを出して、また怪我をしてしまうんじゃないかって。すぐ近くにはトレーナーさんもいる。怖がってたら前に進めない。だから大丈夫!私はもっと速く走れる!
スズカが1回力を抜いたと思ったら、一気に加速した。速い!ブレーキが全くかかってない。
スズカは一気にスピードを出して、スカイにそのまま追いつき、抜かしていく。
(何があったかは分かんないけど、なにか吹っ切れたみたいだな)
その後の5kmは、登りに苦戦しながらもスズカが先頭をキープしていた。そして、最後の登りに差し掛かる。
2人ともここまでの道のりでかなりスタミナを消耗しているな……どっちが先にゴールしてもおかしくない状況だ。
スズカが少しスピード出したな。あのまま走りきれるだろうか……
「スズカさん!ラスト抜かさせてもらいます!」
「負けないわ!スカイちゃんも置いてかれないでね」
(そう言ったのはいいけど、スタミナももう限界に近い……逃げ切れるかしら)
(スズカさんペース上げましたね。それで最後スタミナ持つんですかね?)
スズカは煽られてスピードを無理に上げている。それに対してスカイは、自分のペースで落ち着いて走っている。
ラスト200mでスズカのペースがガクッと落ちた。スタミナがほぼ底を尽きたんだ。そこをスカイは見逃さなかった。
(いつものスズカさんなら、こんな簡単な挑発は効かなかった。でも昨日と今日の疲労が溜まったこの状態で、正常な判断が出来なくなってた)
「今回は勝たせてもらいますよ!スズカさん!」
残り100mでスカイがスズカに並ぶ。スカイは完全に勝利を確信していたが、並んでから抜ききれない。
(負けたくない……トレーニングだって分かってるけど、それでも抜かれたくないの!)
2人が完全に横に並んでる。どっちが前に出てもおかしくない状況だ。だが、根性で最後の力を振り絞るスズカと、スタミナを使って全力で走るスカイとでは分が悪かった。
「やったぁあああ!」
スカイが先にゴールした。最後の最後でスカイがスズカよりも1歩前に出た。スズカがスカイの挑発に乗っていなかったらどうなっていたか分からない。でも、スズカを挑発に乗せたのもスカイの実力だ。
「やった!やりましたよトレーナーさん!」
ここまで感情を表に出すスカイは珍しいな。それだけ、スズカに勝てたことが嬉しかったんだろうな。
「よく頑張ったな。下りといい登りといい、上手く走ったもんだ」
そう褒めながら頭を撫でる。この動作も最近は慣れ始めた。
スズカの方を見ると、耳を垂れさせて落ち込んでいる。疲労があったとはいえ、スカイに初めて負けたんだ。悔しかったんだろうな。
「スズカもお疲れ様。昨日の疲労を残してる中で、最後よくあそこまで勝負した」
「最後にスカイちゃんの挑発に乗って、スタミナを切らせて負けました……レースで負けた気分です……」
「そうだな……スカイは登りも上手くてそこでも差が出たな。次は負けないようにしないとな」
スズカには慰めの意味も込めて頭を撫でる。そうすると、少し元気が出たのか耳がピンとした。
「それにしても、スカイの登りは上手かったな。なんか練習とかしたのか?」
「いや〜特別なことはしてないですよ。寧ろ私はスズカさんが、登りの傾斜を平地を走るのと同じ方法で走ってるのに驚きですよ」
たしかに平地と登りじゃ走り方は違うけど……目立って変なところはなかった気がするんだが。
「何がいけなかったのか教えてくれない?スカイちゃん。私はダービーに勝つためにもそれを知りたいの」
「平地なら足を平に着地しますよね?でも傾斜は足を斜めに着地するじゃないですか」
「それはそうだな。そうしないと足に負担がかかっちゃうしな」
「そうですよね。でもスズカさんって傾斜でも同じように着地してませんか?」
スカイに言われてまさかとは思ったが……隣で走ったスカイの方が、スズカの走りをよく見れただろうしな。試す価値は十分にあるだろう。
「スズカ、足の接地をもう少し斜めにつけるイメージで1回走って見てくれないか?」
そうして走ってもらうが、パッと見ではさっきまでの違いが分からない。それでもスズカは少し驚いた表情をしていた。
「凄いです……さっきより走り易くなりました。スカイちゃんありがとう!」
「いえいえ〜それほどでも……あるかも?」
スカイを無理やり引っ張り出てきた甲斐があったな。これで登りと下りの問題も時間が解決するだろう。
「それじゃあ、帰りも頑張ろう!」
「えっと〜セイちゃんはもう体力ないから、車に乗せてもらおうかな〜」
「スカイちゃん?帰りも一緒に頑張りましょ?」
「……はい」
逃げようとしたスカイをスズカが捕まえた。スズカも手馴れて来てるな。
「ヤバそうなら俺が途中で車で拾うから安心して走ってくれ」
帰りの走りはスズカが圧倒的だった。登りの走りもコツを掴んだのか、さっきよりスイスイと進んでいく。5kmを過ぎた所でスカイがダウンしたので車に乗せて連れていった。
スズカはラストスタミナギリギリになりながらも無事完走した。昨日の疲れも残っている中でよくやる。
「今日は2人ともお疲れ様。スカイもよくあそこまで走ったな。スズカは坂のコツを掴んだみたいだし、今日はいいトレーニングになった」
今日スズカが得た物は多かった。スカイを引きずりだした成果が出たな。
「それよりトレーナーさん。私疲れちゃって怪我してないか心配だな〜ちょっと見てくれません?」
そうしてスカイが足を前に突き出す。昨日のこともあるし、スカイの足も一応しっかりと見ておくか。
そうして、足を触るとスカイの体が一瞬飛び跳ねた。アワアワとした顔をしている。
(え?スズカさん足を見てもらったって言ってたけど、触るの!?)
「特に怪我とかはなさそうだけど……大分足に疲労は溜まってるな。帰ったらストレッチを忘れるなよ」
「分かりました!それじゃ私は帰りますね!」
そう言うと、スカイは早足で寮の方へ向かって行く。
「そうだ、明日の集合場所は校門の前ですから!忘れないで来てくださいよ」
(すっごい恥ずかしい思いした……足を触られるってなんか変な感じがする。まぁ、嫌な感じではなかったけどさ……)
「スズカも疲れただろ。今日は帰ってゆっくり休もう。明日も休日だしな、疲労をしっかりと抜いてくれ」
「はい。分かりました」
別れ際に何やらスズカが微笑んでいたけど、なにかいいことでもあったのだろうか?