とある日のトレーニング開始前。俺はトレーニングの内容を考えながら、少し散歩をしていた。
(今日は長めのランニングにするか……その間何しよう)
スズカは走るのが好きだ。それ故に、長いランニングなどのトレーニングは特に監視する必要は無い。サボることなんてないだろうし。
今日のことを考えていたら、学園内に見覚えのないテントが貼ってあった。看板を見る感じでは占い屋っぽいんだが……どうにも胡散臭いな。
(一応誰がやってるのか確認するついでに入ってみるか)
とりあえず中に入ってみると、2人のウマ娘が中にいた。どっかで見たことあるんだよな。
「お客さん来ましたよ!ドトウさん!」
「救いはあったんですね!」
2人とも凄い盛り上がってるし……客ってそんなに来ないのかな。入りたく無くなる気持ちはわからなくないけど。
「こほん……よく来てくれました。私はマチカネフクキタルといいます。こちらは助手のメイショウドトウです」
この娘がフクキタルかぁ……スズカから聞いたことある話だと、とんでもない娘なイメージしかないんだよな。
「君がフクキタルか。俺はスズカのトレーナーをしてる柴葉だ。よろしく頼むよ」
「あなたがスズカさんの!お話には聞いてます。今日はサービスで無料でいいですよ」
お金はしっかりと取るのか。まぁ、占いをタダでやってるところなんてほぼ無いだろうからな。
「それで、一体何を占ってくれるんだ?」
「金運、恋愛運、対人運、仕事運なんでも占えます!」
テント張って、結構本格的な雰囲気も出してるだけあって、しっかり占ってくれるんだな。
「せっかくだし、仕事運を占ってもらおうかな」
「分かりました。それじゃあ少し待ってくださいね。ムムムムム……」
占いを始めると、水晶玉に手を添えてそれっぽい動きを始めた。なんだか胡散臭いなぁ……
「見えました!凶です!」
「よりにもよって凶かよ……」
ていうか、こういう占いって凶とか吉とかで出るものなの?何何が起こるから気を付けましょうみたいなのじゃないの?
「救いはないんですか〜?ラッキーアイテムとか……」
「ラッキーアイテムはズバリ!ケーキです!」
「ケーキ……?嫌いではないけど。食べ物かぁ……」
どうしようか。スズカが外でランニングしてる間に差し入れついでに買ってこようかな。でも所詮占いだしなぁ……
「結果はどうであれありがとう。一応気に止めて置くよ」
「そうしておいて下さい!そして、今度も是非お越しください!」
俺はそのまま占い屋を後にしようとしたが、一言言い忘れてたことがあったな。
「そうそう、今度のレース。うちのスズカは負けないからな」
「ふっふっふ、私も負けるつもりはありません。何より私には、シラオキ様がついていますから!」
「そうか、それは楽しみにしてるよ」
そして、俺は占い屋を後にした。さりげなく聞き流しちゃったけど、シラオキ様って誰だ?神様かなにかだろうか。
その後、トレーニングのためにスズカと合流し、ことの経緯を話してみた。フクキタルとは仲良いって言ってたしな。
「フクキタルの占いって、クラス内だと結構当たるって有名なんです……基本的には凶しかでないんですけど」
「今日のトレーニングメニューはロングのランニングだしな。スズカが走ってる内に買ってくるか」
そういえばスズカって甘いものって好きなのかな。なんか体型とか気にしてるとこはあんま見ないけど。
「スズカって甘いものって大丈夫か?差し入れ代わりに買ってこようと思うんだけど」
「甘いものですか?私も甘いものは結構好きですよ。いっぱい食べるわけではないですけど」
「それじゃあついでに買ってくるよ。最近学園の近くに新しいケーキ屋が出来たって聞いたし」
俺も結構甘いもの好きなんだよな。トレーナーになってからあまり食ってないしな。流石にスズカの目の前で食べる訳にはいかないし。
「ありがとうございます。楽しみにしてますね」
「私も楽しみだな〜」
「お前の分も買うんかい!というか、なんでここにいるんだよ!」
なんでスカイがこんなところに……トレーニング中だと思ったんだけど。
「いやですね。私も今日は、こっちのトレーニングに参加させてもらおうと思ってやってきたらですね。ケーキがなんだとか、甘いものがどうとか聞こえて来たのでつい」
「はぁ〜分かったよお前の分も買ってきてやる。代わりにトレーニングはしっかりとやれよ?」
「は〜い」
スカイもちょうどいいタイミングで来るな。実は狙ったりしてるんじゃないかって錯覚しそうになる。
「じゃあ、俺はいってくるわ。トレーニングの方はスズカに任せて大丈夫か?」
「はい、大丈夫ですよ。頑張りましょ、スカイちゃん」
「ガンバリマスネ、トレーナーさんケーキ楽しみにしてます」
スズカとスカイをグランドに残して、俺はケーキ屋に向かう。ケーキ買いに行って何がいい事あるんだろう。
ケーキ屋にたどり着くと、入口付近の窓に1人のウマ娘が張り付いていた。あれはメジロ家の令嬢メジロマックイーンじゃねーか。
「メジロマックイーンだよな……?こんなところで何やってるんだ?」
「っは!お見苦しいところをお見せ致しましたわ。なんでもないので気にしないでくださる?」
あんなにマジマジとケーキを見てたのに何も無いなんてことは無いだろう。なんか悩みでもあるのだろうか。
「悩みでもあるなら中で話さないか。ケーキ奢るぞ」
「本当ですの!?……コホン、奢ってくださるなら、そのご好意に甘えさせていただきたいのですが。その……どちら様でして?」
そうか、俺はメジロマックイーンのことを知ってるけど、相手は俺のことを知らないもんな。これじゃあナンパしてるヤバいやつだ。
「俺は柴葉って言うんだ。トレセン学園でトレーナーをやってる」
「柴葉トレーナー……サイレンススズカさんのトレーナーさんですね。噂は聞いております」
名前だけでスズカのトレーナーってわかるのか。スズカも結構有名になってるんだな。
「私のことは知っているみたいですが、一応自己紹介を。私メジロマックイーンといいます。名前の通りメジロ家からやってきましたわ」
「よろしくなメジロマックイーン。とりあえず外じゃなんだ、中に入ろう」
俺たちはケーキ屋の中に入っていった。イートインスペースがあるようなので、ケーキを買ってとりあえず席に着いて話を聞くことにした。
「それで?一体ケーキ屋の前で何をそんなに悩んでたんだ」
「実は私、甘いものには目がないんですの……」
実はって言うが……そんな目をキラキラさせながら、イチゴのショートケーキをパクパク食ってたら丸わかりなんだが。令嬢に有るまじき顔してるけど大丈夫?
「甘いものが好きなのは珍しくないんじゃないか?うちのスズカだって甘いもの好きらしいし」
「それだけならいいんですの。ただ私はその体質というか、その……」
そこまで言うと、メジロマックイーンがどもってしまった。体質的にそんなに糖分を取れない病気とかそういうものがあるのか?
「ああ!体型に出やすいんですの!」
「ああ、太りやすい体質ってことか。なるほど、そりゃ甘いもの好きには辛い体質だな」
ウマ娘は、走る上でウェイト管理は大切だからな。スズカなんかはその辺全く問題はないから楽なんだが。
メジロマックイーンの方を見直すと凄いプルプル震えている。まずい、女の子に体重の話はしちゃいけないってよく聞く。地雷踏んだか?
「なんてこと言いやがりますの!?言いましたわね?言ってはいけないことを言いましたわね!?」
お嬢様!?口調がブレブレだけど大丈夫!?やっぱり言っちゃダメなこと言ったよな……トレーナーになるまで、ろくに異性と話さなかった弊害が……
「悪い悪い!悪意は無かったんだよ。でも我慢のし過ぎは減量とかなら逆効果だぞ。世の中にはチートデイなるものもあるらしいし」
「そうなんですの?初めて知りましたわ……」
俺の話を聞くと、メジロマックイーンはポカンとしていた。もしかして、素人知識で無理な食事制限とかやって無いだろうな……ウマ娘は肉体が大事なのに、体を作る食事を疎かにしてはいけない。
「ついでに減量のために何をしてるか聞いてもいいか?」
「はっはい、主には食事制限をしていますわ。スイーツもできる限り控えています」
やっぱりか……減量のための食事制限は悪いことではないんだが、制限しすぎるのは良くない。リバウンドとかもあるしな。
「無理な食事制限は逆効果だ。体がしっかりとご飯を食べてないの錯覚して、食欲が溢れることもある。他にもトレーニングで力が出なかったりな。心当たりないか?」
「あります……ありますわ!」
「食事は運動するためのエネルギーになる。バランスのいい食事を心がければ太りにくくなるし。効率よくトレーニングができる。体が出来上がっていけば代謝も上がって行くしな」
年齢的にメジロマックイーンはまだまだ成長期だろう。減量を考えるのはまだ時期早々というものだ。
「そうだったんですのね……私はてっきり量はできる限り減らす方がいいものかと」
「メジロマックイーンはまだ減量を考えるべきじゃない。今はバランスのいい食事を取ってよく運動することが大事だろ」
それに、食事を多く取れるってのも立派な才能だしな。
「メジロマックイーン、スポーツの種類によるがアスリートが1番苦痛だったって言ったものはなんだと思う?」
「やっぱり強度なトレーニングでしょうか?それともやっぱりウェイト管理ですか?」
強度なトレーニングたしかに辛いだろう。ウェイト管理は半分正解で半分不正解だな。
「違うな、食べることって答えたんだよ。肉体作りに食事はそれだけ大切なんだ。食べて運動した分だけ体ができていくからな。時にはとんでもない量の食事をとることもある」
メジロマックイーンはきっと消化がとてもいいんだろう。だから体がすぐに吸収し、太りやすく感じてしまうんだ。だが、それはとても強い力だ。運動をしなければ毒にしかならないかもしれないが、ウマ娘は走る量が凄い。しっかりとした管理と運動で薬になるだろう。
「そうなんですのね……1回食事内容を見直して、これからはしっかりと食事をとってトレーニングに取り組もうと思いますわ」
「そうしてくれ。あとそれでもスイーツは食べ過ぎは良くないからな。かと言って好きな物を抑えすぎてもストレスになるだろうから、低カロリーのスイーツを売りにしてる店を教えてやる」
材料に気を使えば、ケーキなども低カロリーで作ることは難しくないらしい。俺はその辺のプロじゃないから詳しいことは分からないが。
「そんなお店がございますの!?本当に何から何まで……感謝致します」
「まぁ、気分を害したお詫びだ。俺はそろそろ学園に戻る。スズカも帰って来るだろうしな」
ケーキ屋でのんびりしてて遅れましたなんて、スズカには言えないしな。
「今度会ったら、気軽にマックイーンとお呼びください。フルネームで毎回呼んでいたら大変でしょうし」
「ああ、分かったよじゃあな」
そして、俺は学園に戻った。予定よりちょっと早く着いちゃったな。どうしようかと悩みながらグランドに向かっていると。野良ライブ?をしているウマ娘を見かけた。
観客は誰もいなかったが、それでも笑顔で一生懸命に歌って踊っている。その姿になんだか目を奪われて遠目からライブを見ていた。
ライブが終わって拍手をすると、ライブをしていたウマ娘が凄く嬉しそうな表情で手を振ってた。
俺も手を振り返そうかと思ったが、ちょうどその時にスズカから連絡が入って、急いでグランドに戻った。
これは余談だが。戻って合流したスズカに何故かウマ娘と会ってたことがバレて、遅れたこともあってすごい怒られた。ケーキを出してご機嫌を治すのがとても大変だった。
たしかにラッキーアイテムはケーキだったけどケーキ買いに行かなきゃ怒られなかったな……そんなことをふと思った。