トレーナーはウマ娘に夢を見る【完結】   作:Tmouris_

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第30話:模擬レース!皇帝シンボリルドルフ!

 模擬レースの日程が決まり。レース相手や目的をスズカに伝えることにした。

 

 ミーティングのためにトレーナールームに着いたんだが、何故か中でスカイが眠っていた。トレーニングサボるなら絶好な場所だしな、普段は誰も入ってこないし。

 

「ほら、スカイ起きろ。そして、トレーニングに参加してこい」

 

「ん〜……なんでトレーナーさんがここにいるんです?」

 

 ウトウトしながらもスカイが目を覚ました。完全に爆睡してやがったな。

 

「今日はスズカのミーティングがあるからな。ここを使う予定だったんだよ。そしたらお前が昼寝してるからびっくりしたわ」

 

「今日はトレーニングはお休みですよ〜ここのソファーって寝心地いいから、時々お昼寝に使ってるんです」

 

 トレーニングが休みなら別にいいんだけど……自分の部屋のベットで眠った方が良さそうだけどな。俺が散らかしてるせいでこの部屋結構汚いし。

 

 そんな話をしていると、スズカが部屋に入ってきた。スカイはとにかく置いといてスズカと話さないとな。

 

「おまたせしました。あれスカイちゃんも居たんですね」

 

「こいつのことは気にしないでくれ。今日は、来週に予定が決まった模擬レースの概要を伝える」

 

「模擬レースですか?もう少しでダービーですけど大丈夫でしょうか……」

 

 たしかに、ダービー前でのルドルフとの模擬レースはリスクが高い。調子を崩す恐れもある。だけど、ダービーで勝つためにはこのリスクをふまなくてはならないと俺は思う。

 

「リスクはある……だが俺は必要なことだと思っている」

 

「トレーナーさんがそこまで言うなら私は信じるだけです。それで、相手は誰なんですか?」

 

「相手は、ルドルフ……シンボリルドルフだ」

 

「シンボリルドルフって会長さんですよね。その……なんでシンボリルドルフさんなんですか?」

 

 ダービー前に何故わざわざルドルフとレースをさせるのかは流石に分からないか。かという俺も、まさかルドルフと模擬レースが組めると思ってなかったけど……

 

「会長さんって7冠とれて皇帝って言われるぐらい強いひとなんだよね。スズカさん勝てるの?」

 

「勝つのは厳しい……いや、正直に言うとほぼ無理だろうな。今のスズカじゃ実力差がありすぎる」

 

「トレーナーさんは、私に負けるレースをしろってそう言うんですか……?」

 

 スズカからすれば負けレースを無理やりやらされるようなもんだ。実力差は一目瞭然、勝ちの目はほぼない、それなのになんでって顔をしてる。

 

「今回の模擬レースで重要なのは勝敗じゃない。スズカに、勝負の中の緊張感を思い出して欲しいんだ」

 

「緊張感ですか?でも、緊張ってあんまりしない方がいいイメージがありますけど」

 

「緊張のし過ぎは確かに良くない。体が固まったり、思考が鈍ったりするからな。けどな、緊張感がないと逆に実力が上手く発揮出来ないんだ」

 

 スズカの走りにはリラックスしてレースを楽しむことが大切だ。だが、今はリラックスしすぎている。レースの中の負けたくない、勝ちたいという勝負の緊張感が今のスズカには足りてない。

 

「スズカも心当たりがないか、スタートが出遅れたり。レース中油断してしまったり」

 

「それは……たしかにあります。でも、なんで会長さんとの模擬レースなんでしょうか」

 

 スズカは速い。速いがあまりに勝ってきたレースは、最初出遅れても先頭をもぎ取れるし、ラストも圧勝できる。でもそれは油断に繋がる。前回のフクキタルとのレースはいい刺激になった。勝つか負けるかのギリギリでラストを競り合った、だからこそいつも以上の力が出たんだ。

 

「ルドルフのレースでの威圧感は異常だ。今のスズカにはちょうどいい緊張感になるだろう。何よりも、格上と戦うことで勝ちたい、負けたくないっていう勝負への想いを思い出せ。フクキタルと戦った時にも感じただろ」

 

 気付くんだスズカ。楽しく走るのはお前の原動力だ。だけど、お前のみんなに夢を届けるって目標は勝利無くして達成できない。勝ちたいっていう勝利への執着は忘れちゃいけないんだ。

 

「勝ちたいって想い……そうですよね、みんなレースに勝ちたくて出ているんですよね」

 

「そうだ、ダービーにはその想いが強い強者達が集まってくる。生半可な気持ちじゃ勝てないんだ」

 

「分かりました……私は戦います。全力でシンボリルドルフ会長とぶつかります」

 

 スズカの心に火がついたな。今回の模擬レース、スタートだけじゃなくて他にも何か得られるものがあるかもしれない。

 

「勝負は2000mだ頑張ろう!ところで、スカイのやついつの間に居なくなったんだ?」

 

「本当だ、てっきりずっと寝ていると思ってたんですけど……」

 

 ここでスカイを探さなかったことを、後で少しだけ後悔した。多分止めていても結局変わらなかったと思うが。

 

ーーー模擬レース当日ーーー

 

「今日はよろしく頼むよルドルフ」

 

「私も今日を楽しみにしていた。オハナさんから話は聞いているよ。サイレンススズカのためになるようなレースにしよう。けれど、勝ちを譲る気はないがね」

 

 いつもの雰囲気は割と柔らかいんだけどな。1度だけ俺もルドルフに軽く威圧されたことがあるからわかるけど、レースの時は別人だなこりゃ。

 

「スズカ、今日の作戦は逃げだ。一応ルドルフも最初から本気ってわけじゃないだろうが、スタート出遅れるなよ、少しの油断が命取りになるぞ」

 

「分かりました。何か走る上で気をつけることはありますか?」

 

 ルドルフの対策か……レースに絶対はないとされているが彼女にはそれがあるという。それだけの相手の対策……

 

「威圧感に潰されるな。自分の走りを信じて走れ。今できるのはそれが精一杯だ」

 

「自分を信じる……分かりました行ってきます」

 

 スズカを送り出して、東条さんと沖野先輩、たづなさんと合流する。

 

「東条さん今日はありがとうございます」

 

「いいのよ別に、可愛い後輩の頼みだし。何よりもルドルフも結構燃えてるみたいよ?」

 

 大丈夫かな……最初から全力で潰しに来るとかそういうことはないといいが。さっき会った時もああ言ってたし、大丈夫だとは思うけど。

 

「シンボリルドルフに火をつけたか、それだけスズカのことを認めてる証拠だ。良かったな後輩」

 

「光栄っちゃ光栄なんですけどね……今回は敵なので心臓に悪いです……」

 

「大丈夫ですよ。ルドルフ会長はしっかりとした方なので、スズカさんを潰すようなマネはしないでしょう」

 

 たづなさんが言うならそうなんだろう。というか、さっきから気になってたんだけどギャラリーが少し多すぎないか?

 

 グランドを見渡すと、ほとんどが生徒のウマ娘やトレーナー達で埋まっている。模擬レースのことは告知とかしてないんだけど。

 

「なんでこんなにギャラリー多いんですかね……」

 

「それは、セイウンスカイさんが言って回ってましたからね。あとは……」

 

 たづなさんがチラッと沖野先輩の方を見る。スカイのやつ話はしっかりと聞いてやがった。先輩も何か1枚噛んでるのか?

 

「いや!すまん!ついうちのメンバーに話しちまってな。他言無用とは言っておいたんだが、ゴルシのやつがな……」

 

 ゴルシか……じゃあ仕方ないな。ゴルシだから仕方ないって思えるのすごいな。

 

「広まったものは仕方ないです。俺のとこのスカイにも問題がありますし」

 

「全く……自分の担当の手綱くらいしっかりと握っておきなさいよね」

 

 そんな話をしていると、スズカとルドルフがゲート前に着いていた。何か話してるが、遠いせいで内容までは分からない。

 

 

「今日はよろしく頼むよ。互いに有意義な時間にしよう」

 

「よろしくお願いします。私……簡単に負ける気はありません」

 

 勝つのは難しいかもしれない。でも、簡単に負けたくない。全力でぶつかって私なりに走りきる。

 

「……そうか、なら私もそれに応えるとしよう!」

 

 凄い……さっきとはまるで別人みたい。凄い威圧感を感じる。少し油断しただけで、それに呑まれてしまいそう。

 

『時間になりました。ゲートインしてください』

 

 

「ルドルフはやっぱり凄いですね……威圧感がここまで来てピリピリしますよ」

 

「さすがは皇帝といったところか。並のウマ娘じゃスタート前に潰れちまうぞ」

 

「絶対と呼ばれるのはそれだけの理由があるのよ」

 

(頼むスズカ、潰されないでくれよ……)

 

 

 スタート直前、ルドルフとスズカの2人がゲートインをしてスタートを待つだけとなった。

 

(さっきより更に威圧感が増して空気がピリピリしてる……でもそれがなぜか心地よく感じてしまう)

 

 スズカも緊張していないわけではない。ルドルフの圧倒的な威圧感に緊張するなという方が無理なのだ。スズカはその緊張感すら楽しんでいる。

 

(ごめんなさいトレーナーさん。私は悪いウマ娘かもしれません。この威圧感、この状況を楽しいと感じてしまいます)

 

『それでは、ゲートインが完了したのでレースを始めます』

 

(…………今!)

 

 スズカがスタートとほぼ同時……いや、ゲートの解放がスズカのスタートに合わせたとさえ錯覚するほどのベストタイミング。レースを楽しむ心、負けたくないという気持ち、ルドルフの威圧感による緊張感。その極限的な状況がスズカに完璧なスタートをさせたのだ。

 

 

「ルドルフが出遅れた?」

 

「ルドルフが出遅れたりなんかすると思う?」

 

「スズカのスタートが早すぎたんだ。そのせいで、ルドルフのスタートがまるで出遅れたように見えたんだよ」

 

 凄いベストタイミングだ……想像以上だった。あれがコンセントレーション、スタートを完全に極めた最終形か……

 

 一緒に走っているルドルフでさえ一瞬だけ呆気に取られていた。あの皇帝シンボリルドルフが出遅れたのだ。

 

 前半の1000mはスズカが差をつけて先頭だった。しかし、じわじわとルドルフが距離をつめる。残り600m頃にはスズカのほぼ後ろに着く。

 

「スズカ……厳しいか。ルドルフはもう直ぐ後ろだぞ」

 

「何言ってんだ後輩!スズカはまだ諦めてなんかいねえぞ、見てみろあの顔。今の勝負を全力で楽しんでやがる。それなのにトレーナーがそんなんでどうすんだよ」

 

 先輩の言う通りだ。スズカはまだ勝つ気でいる。それなのに俺が弱気になっていてどうするんだ。

 

「でも、ここからはルドルフの番よ。スズカの逃げに対してルドルフは差し、ここからが本番」

 

 

「サイレンススズカ、スタートでは驚かされたがもうすぐゴールだ。ここからは……本気で行かせてもらう!」

 

 ルドルフが一気に加速する。残り400mにしてスズカの横に並ぶ。周りはルドルフがここでスズカを避けて、そのまま勝負は終わりだと誰もが思った。

 

(このままじゃ負けてしまう……負けたくない、抜かれたくない…………勝ちたい!)

 

「いっけぇ!スズカ!まだゴールしてないぞ!勝負はまだ続いてる!」

 

 スズカが加速し、ルドルフを一瞬引き剥がした。一瞬とはいえ加速力で本気のルドルフを少し上回ったのだ。

 

 

「なんだよ今の加速は……あのルドルフを一瞬とはいえ置いていった……?」

 

「サイレンススズカは逃げで走ってきた。それなのになんなの、あそこからのあの加速力は」

 

「これは凄いものを見ることができましたね」

 

「いけ!スズカ!そのまま走りきるんだ!」

 

 先輩も東条さんもたづなさんも各々とても驚いていた。俺は驚きながらも全力で応援する。

 

 結果はルドルフの勝利で終わった。一瞬は突き放したが、その後、残り200mでルドルフが抜かし返した。

 

「サイレンススズカ、いい勝負だった。最後の加速はまるで逃亡者だ、スタートの美しさといい私も危なかったな」

 

「会長さんが全力なら勝ち目はありませんでした。何よりも、会長さんが相手だったおかげであそこまで力を出せました」

 

「っふ、そうか日本ダービー楽しみにさせてもらおう」

 

 ルドルフがスズカの元を去ったので俺もスズカに話しかける。

 

「凄いぞスズカ!想像以上の結果を出してくれた。今日の感覚は体に覚えさせられたか」

 

「忘れません……いえ、あのスタートにあの走り。私も忘れられません」

 

「いや〜スズカさん凄かったですね。見ているこっちも驚いちゃいました」

 

 スカイも気づいたら俺の横にいた。勝負が終わるまで観客の中に隠れてやがったな。

 

「スカイちゃんも私のために色々してくれたのよね。お礼がしたいから、少し付き合ってくれる?」

 

「お礼ですか、いや〜頑張った甲斐がありましたね。クラスメイトに話し回ってよかったです」

 

 怒るかと思ったけどスズカは感謝してるようだ。スズカが怒らないなら俺も怒ることはしないけど。

 

「ところでトレーナーさん。この後まだ少し走ってもいいですよね?」

 

 ああ、そういうことか。怒ってないかと思ったけどそんなこともなかったらしい。スカイはさっきと違ってガクガク震えてるし。

 

「はぁ、今日はあんな走りをしたばかりだろ」

 

「ですよねトレーナーさん!スズカさんもゆっくり休みましょう!」

 

 スカイが生き生きし始めた。面白いな、自分が助かったと思って凄い喜んでる。

 

「少しだけだぞ?」

 

「はい!ありがとうございます!じゃあ行きましょうかスカイちゃん」

 

「えっちょっと待ってくださいよスズカさん。トレーナーさん助けて。トレーナーさああぁぁぁぁん!」

 

 スカイがスズカに引きずられてグランドに行った。スカイってイタズラ好きなんだけどスズカに関わると一気に空回るな。自業自得ってやつだ。

 

 

 

 

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