「お願いします!私も担当ウマ娘にしてください!」
「いやぁ……そうは言ってもな……」
「私!日本一のウマ娘になるって、お母ちゃんと約束したんです!」
俺は今、担当になってくれとスペシャルウィークことスペに言い寄られてる。それを見てスカイもやれやれって顔をしている。なんでこうなったかと言うと、数時間前に時を遡る。
スペ、スカイ、グラスワンダー、エルコンドルパサーの4人で食事をしていた。同じクラスということもあって、この4人は基本的に一緒にいることが多い。
「そういえばさ、スペちゃんってどのチームに入るとかめぼしいトレーナーさんとかいるの?」
「っへ?チームですか?」
スペは転校してきて日が浅い。トゥインクルシリーズのことや、学園のことは少し疎い。
「トゥインクルシリーズは、担当のトレーナーさんかチームに所属してないと参加できないんですよ」
「えぇ!そうだったんですか!?」
スペちゃんの疑問にグラスちゃんが答える。授業でも少し言ってた気がするんだけど……スペちゃんって凄い頭いいって感じじゃないもんね〜……
「私は、明日行われるチームリギルの試験を受けようと思ってるんデース!だってチームリギルは学園内最強だから!」
「私もリギルに入るつもりだったんですけど、桐生院トレーナーに声をかけられて迷っているんですよね」
「桐生院って言ったら名門中の名門じゃん、グラスちゃんはすごいね〜」
そういえば、トレーナーさんって桐生院さんとも仲良かった気がする。よく考えたら新人なのに色んな人と知り合いだよな〜あの人。
「私はスズカさんと同じチームに入りたいです!レースで走ってるスズカさんすっごくかっこよかったんですよ!」
そういえば、スペちゃんはスズカさんの前のレースに来てたのを思い出した。でもトレーナーさんって新人だし、そんなにいっぱい担当の約束なんてできないよね〜……
「スズカさんはチームに所属してないよ。専属のトレーナーさんがついてるけど」
「えぇ!そうだったんですか!?てっきりあの時のトレーナーさんはチームを率いてるのかと……」
「あの人はまだ新人だからね〜チームはまだ持てないんだよ」
一応はダービーで勝てたら、私は担当ウマ娘になる予定なわけだけど。それは2人のウマ娘を担当しているだけでチームな訳じゃない。トレセン学園で認められるのは5人からだからね。
「そういえば、スカイさんはスズカさんのトレーナーさんと契約する予定でしたね」
「もっとベテランのトレーナーにつけばいいのに。スカイちゃんはもの好きデース!」
「ハハハ、そうかもね〜」
これでも私はクラシック3冠を目指してる。普通ならもっと強豪チームに所属するんだろうけど。あの日あの時、手を差し伸べてくれたあの人のために走りたいって思っちゃったから。
「だからあの日、スズカさんのレースを見に来てたんですね……お願いスカイちゃん!スズカさんのトレーナーさんに紹介して貰えませんか?」
「う〜ん……私は別にいいんだけど」
スペちゃんは悪い子じゃないし、いつも仲良くしてるから紹介するのはいいんだけど……大丈夫かな?
「あんまり期待はしない方がいいよ?トレーナーさんも今は手一杯みたいだし」
「それでもいいです!お願いします!」
うぅ……決意は固そう。一応連れていくだけ連れてってみようかな。あとのことはトレーナーさんに任せればいいや!
「分かった。じゃあ放課後にトレーナーさんのところに行こ」
「本当ですか!?ありがとうございます」
ということがあったらしく今に至る。逆指名で悩むとは贅沢な悩みだが……俺もまだ新人だ、そんな多くのウマ娘を担当に持つことは出来ないんだよな……
「なんで俺なんだ?日本一のウマ娘になりたいっていうなら、東条さんのところのリギルに入った方がいいだろうに」
「私、あの日のレースを見て、スズカさんと一緒のメンバーになりたいと思って……」
スズカの走りが、スペからは大分かっこよく見えたらしい。実際にかっこいいし綺麗だと思うけど。
「つまり、スズカと一緒に走って競い合いたいと。メンバー内でのライバル関係ってのは悪くはないが……」
「いや違うんです!その競い合うとか勝負するってのは恐れ多いというか。憧れなんです!あのキラキラした走りに憧れたんです!」
憧れ……スズカに憧れてチームに入りたいか。スズカが誰かに憧れてもらえるのは嬉しい話だ。けど、メンバーに入れるとなると話は別だ。
「憧れか、なら余計に君の担当をするわけにはいかないな」
「どうしてですか!?憧れの人と同じところでトレーニングしたいっておかしいことでしょうか……」
「憧れは憧れでしかないんだ。目標や目的とは違う、いずれ近づくことがあっても追いつくことや追い抜くことができないんだ」
憧れっていうのは1回抱いてしまうと中々消えないものだ。だからこそ、俺はスペを担当することはできない。
「どういうことなんですか……私にはわからないです」
「いずれ分かることになるよ。断ったのは申し訳ないと思ってる。お詫びと言ったらなんだが、リギルのトレーナーの東条さんとは付き合いがあるから、明日の試験に参加できるよう頼んでおくよ」
「分かりました……今日はありがとうございました」
去り際に耳を垂れさせながら結構落ち込んでいた。申し訳ないことをしたな……
「あれ、スペちゃんが来てたんですね。何かあったんですか?」
スペが去った直後にスズカが合流した。そういえば、スズカはスペと相部屋だって言ってたな。
「スペがメンバーに入れてくださいって頼みに来ててな。その話をしてたんだ。断ることにはなったけど」
「断っちゃったんですね……スペちゃん悪い子じゃないから私的には大丈夫だったんですけど。スカイちゃんは良くてスペちゃんがダメな理由ってなんですか?」
スカイはまだメンバーに入れれてないが、将来的に担当する約束だ。スペもそんなふうにすればいいんじゃないかとスズカは思ったんだろう。
「スカイって、スズカとレースすることになったらどう思う?」
「え〜今の私じゃスズカさんに勝てないと思うんですけど……でも簡単に負けるつもりもないですけどね〜」
スカイは割と闘争心むき出しだな。普段はホンワカとしているけど、いざ勝負となると結構燃えるタイプなんだよな。
「スペはスズカと競い合うって聞いて恐れ多いと答えた。スズカは憧れの存在だからと。それじゃあ、スズカ以上のウマ娘にはなれないんだよ」
彼女の夢は日本一のウマ娘だ。それを叶えるためには俺が担当じゃダメなんだ。
「スペちゃんのことを考えてのことなんですね……なら私もいうことはありませんね」
「さすがトレーナーさん。セイちゃん的にはポイント高いですよ」
明日はトレーニングは休みだし、リギルの試験レースを見に行ってみるか。さっき東条さんからスペの参加許可が出たし、お礼も兼ねて行こう。
「それじゃあ、トレーニング始めるぞ〜」
「「はい!」」
見に来たけど、やっぱり強豪チームは凄いな。試験を受けに来てるウマ娘の人数が尋常じゃない。この中で1着のウマ娘しか入れないんだから大変だ。
「東条さん、昨日はありがとうございます」
「こういうのはもうちょっと早く伝えて欲しいわ、あなたもあいつも。有望なウマ娘が試験を受けるのはいいんだけどね」
本当に東条さんは面倒見がいい。チームメンバーには結構厳しく接してる場面も見るが、ウマ娘たちのことを考えての発言だしな。少し不器用なところもあるようだが。
「スペシャルウィークは君の推薦か」
東条さんと話終えると、ルドルフに話しかけられた。彼女はリギル所属だし、ここにいてもなんらおかしくないか。
「そうだよ。俺の担当になりたいと昨日来たんだけど、色々あってな。彼女の夢を叶えるなら、リギルの試験を受けるべきだと考えたんだ」
「日本一のウマ娘だったか。たしかにリギルに入ればその夢には近づける。それに……もし入れなくてもこの試験は多くのトレーナーが目をつけている。自分をアピールするにはもってこいの場所だ」
ここに集まっているのは、まだ担当もいないしチームに所属してないウマ娘だけだ。だから、スカウト目的のトレーナー達が多く駆けつけるんだ。
「これ以上ここにいると邪魔になるし、俺は上の方で見させてもらうよ」
上の方に移動すると、沖野先輩に会った。ストップウォッチを1個だけ持ってるってことは、お目当てのウマ娘がいるらしい。
「どうも先輩、今日は誰がお目当てですか」
「後輩か、ちょっとスペシャルウィークに興味があってな。走りを見に来たんだよ」
そういえば、あの日気になるウマ娘が居て、足を触って蹴飛ばされてたな。スペの足だったのかもしれない。
「そろそろスタートらしいですよ」
試験を受けに来たウマ娘達がスタートラインに全員並び終え。そして、スタートした。
「スペが大分出遅れましたね……大丈夫なのか?」
「彼女は今まで訳あって、ウマ娘達とまともに走りあったことがないらしい。ここは経験値の問題だろうし多目ににみよう」
そういえば、スペの転校はタイミングが変だし。なんでこの時期に転校したかは聞いてなかったな。
「1位はぶっちぎりでエルコンドルパサーですね」
特徴的なマスクをつけてる先頭の彼女は、エルコンドルパサーだ。たしかスカイの同級生で、仲がいいらしい。
「いや、スペシャルウィークが一気に上がってきたぞ!」
スペが一瞬斜め上の方を見た後に、一気に加速していく。その視線の先にはスズカがいた。スズカも見に来てたのか、全く気づかなかった。スズカの存在が起爆剤となったんだろう。
その後はスペが後ろからグングンと伸びて行ったが、1着は大差でエルコンドルパサーだった。
「スペシャルウィーク……えげつない末脚だな。あれなら本当に日本一狙っていけるかもな」
「これからトレーニングを積んでいったら化けそうですね」
恐らくスペは、スカイと同じで来年デビューになりそうだな……どんどん強力なライバルが増えていく。
スペの末脚は驚異的だった。きっとこれから伸びていくだろう。相手にはしたくないもんだ。
そうして、俺はグラウンドを後にして自分の寮に戻って行った。今日は予定もないし、明日に備えてゆっくり休もう。