レースの最高峰G1レース。学園に所属している全ウマ娘の目標だろう。G1はG2やG3と違って、体育着では走らない。それ専用の勝負服を各々で用意するのだ。
「スズカって好きな色とかあるか?勝負服のオーダーメイドを頼むのに必要なんだけど」
「うーん……私は白と緑色が好きですね。なんだか見てると落ち着くというか」
緑と白か、配色も良くなるだろうし特に問題は無いな。私服も緑がベースの服を着ていて似合ってたしな。
「私は薄い水色がいいです〜セイウンスカイって感じじゃないですか?」
「お前はまだまだ先の話だろ」ペシ
「ちぇ〜私も早く勝負服とか作りたいな〜」
スカイは実力者だし、デビューしたらG1に出走するだろう。いずれスカイの分の勝負服も作るんだよな。
「お前ならそのうち着れるから安心しろ」
「えへへ〜」
頭を軽く叩いて、そのまま頭を撫でてやる。俺なんかに撫でられて何がいいんだか……ウマ娘って撫でられるの好きなのかな?
「スカイちゃん?今は私の勝負服を考えてるんですよ。トレーナーさんもしっかりとしてくださいね」
「「はい……気をつけます……」」
なんでこうもスカイと絡むとスズカに怒られるんだ。スカイ単体だけでも怒られることは多いけど……
「そういえば、勝負服って他にどんな要望が通るんですか?」
「基本的にはなんでも通るらしい。装飾にデザインも要望を出せばできる限りは配慮してくれるらしい」
どんな要望でも受け付けるって、ウマ娘の勝負服職人って相当の腕前なんだろうな。勝負服が似合わないウマ娘を今まで見たことがない。
「それじゃあ、あまり走るのに邪魔にならない程度でいいので……その、少しだけ可愛らしいデザインにしてもらえますか……?」
「可愛らしいデザインか……意外だな、スズカは機能性重視でシンプルなデザインを好むと思ったけど」
装飾って結構邪魔になりそうだしな……いや、邪魔にならないように出来てるのかもしれない。たまに凄い装飾の勝負服とかあるし。
「え〜いいじゃないですか。私も可愛くてフワフワとした勝負服着たいですよ。そうですよね!スズカさん」
「ええ、それもあるんだけど。色んな人に夢を届けるためには、やっぱり勝負服も大事だと思ったんです」
可愛らしいデザインの方が老若男女共にウケはいいだろうしな。ウケ狙いというか、本当に色んな人に夢を届けたいんだろうな。
「分かったよ、要望をしっかりと出しておくよ」
「ありがとうございます」
「今から楽しみですね〜スズカさんの勝負服姿」
とりあえずはこれで問題ないな。俺はデザインとかは出来ないから、後は職人さんに任せるとしよう。
そんな感じで話を終えると、急にトレーナールームの扉が勢いよく開かれ、1人のウマ娘がそのまま俺の机の後ろに隠れた。
「すいませんが少し匿ってくださいませんか!?」
「マックイーン?急にどうしたんだそんなに急いで」
「ちょっと静かにしてくださいませ!彼女がきますわ」
誰かに追われているのだろう。マックイーンを追っかけるやつって誰だろう。この状況にスズカとスカイは唖然としてるし。
「おーい!ここにマックちゃん来なかったか?」
誰から逃げてると思ったらゴルシか……あんまり関わりとかなさそうだけど。ゴルシが一方的に絡んでるパターンかな?
「急に入って来るなよゴルシ!一応他のトレーナールームなんだから」
「いや〜マックちゃんを将来はうちのチームに入れようと思って追いかけ回してたんだけどな。そっか、お前か。お前なら大丈夫だろうな」
俺なら大丈夫ってなんのことだ?妙にしんみりとした顔をしてる。ゴルシにしては珍しいな。
「とりあえずマックイーンなら来てないぞ、他をあたってくれ」
「おう!じゃあな」
マックイーンがいないと判断したのか、速攻で部屋を出ていった。全く人騒がせなやつだな……
「相変わらず凄いですね、ゴールドシップさんは……」
「本当に嵐みたいな人だよね〜見てて面白いんだけど被害には遭いたくないかな」
「全くだ。ほら、ゴルシはどっか行ったから、もう大丈夫だぞマックイーン」
俺がゴルシが去ったのを確認して、マックイーンにそれを伝えると机の後ろから出てきた。
「唐突に部屋に入ってしまったこと謝罪致しますわ。何故か彼女に気に入られてしまったらしくて、よくちょっかいをかけられますの」
「そりゃ大変だな……あんな破天荒なやつに捕まったら何されるかわかんねえ」
沖野先輩が無人島に連れてかれたとか、ゴルゴル星に行ってくるとか、トレーニング中に雀卓を掃除したり1人の将棋してるとか。色々な話を聞かされたからな……
「全くですわ……そういえば、あなたと会うのもあの時以来ですわね」
「そういえばそうだな。どうだ?あの後から調子の方は」
「栄養バランスを考えて、食事の量を増やしましたの。最初の方は不安でしたが、少しずつ体のキレが良くなってきて体重が増えることも減りましたわ」
増えることは減った……つまりまだ増えることがあるということか。きっとスイーツを食べた時とかだろうな。でもそれを無くすともっと増えそうだし問題ない。
「そりゃ良かった。アドバイスが余計なお世話にならなくて良かったよ」
「あの〜私とスズカさんが置いてけぼりなんですけど、メジロマックイーンさんとトレーナーさんって知り合いなんですか?」
「私は何も聞いてないんですが、トレーナーさん?どういうことですか?」
そういえば、スズカにはあの日マックイーンに会ったこと隠してたんだった……スカイに関しては他のウマ娘とケーキ食べてたなんて言ってないし……
「いや……別に隠してたわけじゃなくてですね?」
トレーニング中に別のウマ娘と会ってたってバレただけでスズカに怒られたんだ。それなのに、ケーキ屋でケーキ食いながら担当じゃないウマ娘にアドバイスにしたことまでバレたら……
「あそこまで色々お世話してくださったんです。本当に感謝していますのよ」
「おい待てマックイーン……」
「「トレーナーさん?ちょっといいですか?」」
俺……死ぬの?
「大丈夫ですの?生きてます?」
「あぁ……辛うじてな……」
スズカとスカイはそのまま寮に帰ってしまった。なんで2人とも関節技をあんなに上手く決められるんだ……
「あの、2人とも帰ってしまいましたけど大丈夫ですの?トレーニングとかこの後あるでしょうに」
「今日は勝負服の要望決めだけだったからな。この後のトレーニングはないんだ。スカイはまだ俺の担当じゃないしな」
今日がトレーニング日じゃなくて良かった……後で2人には謝罪するとしよう。許してくれるよね?
「勝負服ですか……私も早く袖を通したいですわね」
「マックイーンにも夢ってあるのか?」
「私はメジロ家の者として天皇賞春の連覇を目指していますの」
天皇賞春か……長距離レースの中でも距離が長いG1レースだ。集まるのは並々ならぬ強者達だろう。それを連覇か……それにしてもメジロ家の者としてねぇ……
「っは!私はまだトレーナーを決める気はありませんので、スカウトしてもダメですわ!」
「いや、そんなつもりは無かったけどどうしたんだ急に」
「メジロ家は名の知れた名家ですので、私の目標を聞いて私のトレーナーになりたいと言った人物は多くいますの」
桐生院と同じでネームバリューってやつか。名家の出だから才能があり実力者だと思われる。だからそれを狙って声をかけてくるトレーナーも多いか。
「マックイーンの才能は確かなものだろう。テイオーと並ぶ天才だって噂で聞いたよ。でも、自分の夢を持ってないウマ娘を担当する気はないよ」
「だから、私には天皇賞春を連覇するという夢が……」
「それはあくまでもメジロ家の夢だろ?俺はメジロマックイーンの夢が聞きたかったんだが」
マックイーンの夢は使命によるものであって本人の物ではない。自分の為じゃなくて、メジロ家という看板のために走ってるんだ。
「私はお祖母様と約束したんですわ……メジロ家に恥じぬ走りをすると」
「まぁ、今はいいか。お前もそろそろ戻らないといけないだろ。また自分の夢と言える物が出来たら教えてくれよ。スカウトとか関係なく、ウマ娘の夢ってのは聞いてて心躍るからな」
ウマ娘の夢ってのはみんなキラキラしていて、聞いて気分の悪いものじゃないからな。
「そうですか……今日はありがとうございましたわ、それでは」
「そうだ、最後に聞きたいんだけどマックイーンってどんな走りが好きなんだ?」
「今は基本的に先行策で走ることが多いですけど、こう見えて逃げで先頭を走るのも結構好きですのよ」
最後にそう笑いながら言って部屋を出ていった。意外と大胆なところもあるんだな。
そんなことを考えながらスズカとスカイに謝罪の連絡を入れる。スカイは弄ってくるくらいでそんな怒ってなかったが、スズカは少し不機嫌そうだった。
「スズカ!勝負服が届いたぞ!」
「本当ですか!早く見てみたいです」
「どんな勝負服なんですかね〜セイちゃんも楽しみです」
2週間で勝負服仕上げる職人って何者なんだろうか。中々に末恐ろしいな。
「これが勝負服だ。着てみてくれ」
勝負服をスズカに渡してウキウキで俺も待っていた。担当ウマ娘の勝負服だからな、楽しみでしょうがないんだ。
「いや!トレーナーさんは出ていかないと!ほら早く早く」
あっ俺は男だからな、流石に俺がここにいたら問題になるな。スカイが押すように俺を部屋を追い出したので、そのまま部屋の外で待つ。
「トレーナーさん!スズカさん着替え終わりましたよ」
スカイが、スズカの着替えが終わったことを知らせてくれたので部屋の中に戻った。
「おぉ……これは凄いな」
「似合ってますか?トレーナーさん。可愛すぎたりしないでしょうか」
スズカの勝負服は白と緑をベースにした落ち着いたカラーリングだが、スカートタイプの勝負服で派手過ぎはしないけど結構フリフリしたデザインになっていた。
落ち着きつつも可愛い勝負服だが、スズカが着るとなんだか綺麗にも見えてくる。勝負服職人……恐ろしい人!
「とっても似合ってるよ!色もスズカに合ってるし、フリルも付いてるけど派手すぎず可愛さを引き立ててると思う」
「いいな〜私も早く着てみたいな〜」
「これでダービーへの準備は整った。クラシックのうちの一冠、取りに行くぞ!」
「はい!」
後はダービーに挑むだけだ。勝負服も届いたし、ライブも前回のレースから完璧だ。肉体の仕上がりもいい、今のスズカなら、どんな運命でもねじ曲げて勝ってしまいそうだ。
それじゃあ乗り込んで行くとしよう、俺たちのダービーに、見せつけてやるサイレンススズカの輝きを。
マックイーンと話す時間が意外と伸びてしまった。