トレーナーはウマ娘に夢を見る【完結】   作:Tmouris_

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いつもよりも2000文字程度多い文章になっています。


第33話:挑戦!東京優駿日本ダービー!

 今日はついに日本ダービー当日だ。出走ウマ娘の待機場に来るまでに、いつもより多くの観客が居たのが見えた。さすがはG1レースだ、規模がちがうな。

 

「スズカ大丈夫か?緊張とかしてないか?」

 

「不思議と体は軽いんです。緊張はしているんですけど、それ以上に、早くこの舞台で走りたい、勝負したいって気持ちが溢れてきます」

 

 今日のスズカは闘志に溢れてるな、俺はこんな緊張して押し潰されそうなのに。勝つって信じてはいるけど、この規模の大きさに少しやられてしまった。

 

「今日のレースには、前回トップ争いをしたフクキタルもいるしランニングゲイルもいる。そしてなにより、今回のレースにはハッピーミークが出走する」

 

「フクキタルもミークちゃんもランニングゲイルも強敵だと思います。でも、私がやることは一つだけです。全力で走ってゴールを目指します」

 

 数ヶ月前のスズカからは想像もできないな……弥生賞やフクキタルとの勝負、そしてルドルフとの模擬レース。その勝負を経て成長してるんだよな。

 

「なら、俺から言うことはない。お前の走りを観客達に見せつけてやれ!」

 

「はい!」

 

 スズカに言うことを言い終えると、ガチャっとドアが開く音がした。待機室は関係者以外立ち入り禁止だったはずだけど……

 

「あはは〜来ちゃいました」

 

「ここは関係者以外立ち入り禁止でスカイはまだ入れないはずだけど?」

 

「警備員さんの目を盗んでちょっと頑張っちゃいました」

 

 もし見つかったらどうするつもりだったんだ……俺の名前を出してどうにかするのか。

 

「こんなところまで来てどうしたのスカイちゃん」

 

「実は、スタート前にスズカさんに言っておきたいことがありまして」

 

 スカイもスズカを応援しに来たのか。結構いいところもあるんだな、普段は人のことおちょくってばかりなのに。

 

「このレースの結果で、私がトレーナーさんの担当になれるか決まるんですよ」

 

 って自分のことを気にしてきたんかい。聞いててそう思ったがそんなこともないようだ。スカイが珍しく真剣な顔をしてる。

 

「負けないでください……いや勝ってきてくださいね。応援してますから」

 

「ええ、もちろんよ。観客席で見ててね私の走りを」

 

 最初から、応援してるから頑張ってくださいって言えばいいのに。スカイも不器用なやつだな。

 

「そろそろ俺たちは観客席に行くよ。せっかくの大舞台に数多い強敵たち、全力でこのレースを楽しんでこい!」

 

「はい!」

 

 スズカを見送って、俺たちは観客席に向かう。葵さんと沖野先輩に東条さんと合流する予定だ。

 

「葵さん、久しぶりですね。今日はいい勝負にしましょう」

 

「よろしくお願いします。今日は負けませんよ」

 

 観客席で合流すると、葵さん、東条さん、沖野先輩、スペの順番で座っていた。

 

「スペも来てたのか、ありがとうな」

 

「スズカさんの初めてのG1ですから。見ないわけにはいかないです」

 

 スペが俺の元を訪れてからは、俺には素っ気ない対応しかしない。本人が納得しきらない形で逆指名を断ったからな……苦手意識を持たれてもしかたない。あとスカイさんはスペちゃんのことそんな目で見ないであげて?お友達でしょ。

 

「先輩と東条さんもありがとうございます」

 

「まぁ、スズカの走りが気になるのもあるな。でも、クラシックの中では最高峰のレースを見逃すわけにはいかない」

 

「私も同じよ。あとルドルフがこのレースを見たいって言ってたしね」

 

 ルドルフも見に来てるのか。できる限りはレースを見に来てるのか。ただでさえ忙しいだろうに。

 

『出走するウマ娘達がパドックに入場します』

 

 日本ダービーに出走するウマ娘が1人1人紹介されていき、今日1番の難敵になりであろうハッピーミークが入場した。

 

『3枠5番ハッピーミーク!皐月賞を見事勝利した勢いで今日も勝利できるのか!3番人気です』

 

『彼女は皐月賞を取ったので、今回は2冠目の挑戦になりますね。彼女の堅実ながらも力強い走りに注目ですよ』

 

「凄い仕上がりだ……例年に比べて平均的にレベルも高いが、その中でも1つ抜けてるな」

 

「ミークと私は3冠を取ると約束しました。絶対に負けません」

 

「そういうのはスズカさんを見てから言って欲しいですね〜」

 

 スカイ……頼むから煽らないでくれ。俺から見ても、ハッピーミークの仕上がりは素晴らしいものだった。皐月賞をテレビで確認してはいたが、あの時よりも更に強くなっているな……

 

『4枠8番サイレンススズカ!G1レース初出走ということもあり4番人気です』

 

『彼女はG1レース出走は初めてですが、彼女の走りは世間では逃亡者と言われる程の逃げ足です。彼女が初のG1でどのような走りを見せるのか注目が集まります』

 

 スズカはパドックに立つと、観客席に手を振って笑顔を振りまいている。

 

「サイレンススズカも負けず劣らずね。でもあんな調子で大丈夫かしら、緊張感足りてないんじゃない?」

 

「スズカはその緊張感すら楽しんでるんですよ。それに、今日のスズカはいつも以上に燃えてますよ」

 

「はぁ……スズカさんかっこいいです」

 

 俺たちがスズカの話をしている横で、スペはスズカに見とれていた。本当にスズカのことが好きなんだな……

 

『7枠14番マチカネフクキタルです!先日のレースではサイレンススズカとトップを競い合いました、今日はそのリベンジを果たせるのか!?11番人気です』

 

『なんだか調子があまり良くないようですね。大丈夫でしょうか』

 

 フクキタルはあまり調子が良くなさそうだ。噂ではシラオキ様の声が最近あまり聞こえないとかなんとか。

 

「柴葉さん、今日のミークは今までで1番調子がいいです。前の勝負ではサイレンススズカさんの不調で不完全燃焼でしたけど、今日こそ決着をつけましょう」

 

「もちろんです。スズカもあのレースでは悔しい思いをしました。あの時とはもう違う、リベンジさせてもらいますよ」

 

 葵さんも燃えている、かくいう俺も興奮が収まらないんだけどな。さっきの緊張が嘘のようだ。

 

「トレーナーになって、たった2年でここまで上りつめるだけはあるわね。初めてのG1、しかも日本ダービーでそこまで堂々といられるなんて」

 

「全く嫌になっちまうよ、仲のいい後輩達がここまで優秀だとな」

 

 

「スズカさん大丈夫でしょうか……なんか他の人達もとっても強そうです」

 

「なになにスペちゃん、スズカさんが勝てないと思ってるの〜?」

 

「いや……そうではないですけど。もしもがあるかもしれないじゃないですか。なんでスカイちゃんはそんなに余裕そうなの?」

 

 私も別に余裕なわけじゃない。これだけの観客がいて、自分の知り合いが走るんだ。緊張していないわけではない。

 

「私はスズカさんを信じてるからね〜隣で走ることがあるけどスズカさんは勝つよ。そう約束したしね」

 

「スカイちゃんはいいな……このレースでスズカさんが勝てば同じメンバーだもんね」

 

「スペちゃんと一緒にトレーニングしたいけどね〜トレーナーさんにも考えがあるみたいだし、それを尊重するよ」

 

 私は、スズカさんと同じチームに入りたくてトレーナーさんの下に行くわけじゃない。スズカさんのことはもちろん好きだけどね。

 

 スペちゃんは少しつまらなそうな顔をしてトラックの方を向く。気がつけば、ゲート前まで出走メンバーが集合していた。

 

 

「スズカさん今日は負けませんよ!」

 

「あらフクキタル、最近はあまり調子が良くないって聞いてたけど」

 

 シラオキ様が誰かは分からないけど、フクキタルにとっては力の源と言ってもいい存在らしい。力の源無しでも大丈夫なのかしら?

 

「これもきっとシラオキ様が私に強いる試練……負けるわけにはいかないのです!」

 

「そうなのね……いい勝負にしましょうね」

 

 宣戦布告を終えたようで、フクキタルは私のところを去っていった。そうするともう1人のウマ娘に声をかけられた。

 

「私はあの日のレースで勝ったと思ってない……今日こそ決着をつけます」

 

「ミークさん……私も負けないわ。そのためにトレーナーさんと今日まで頑張って来たんだもの」

 

 お互いに言葉を交わしてゲートインの準備をする。そして直ぐにゲートインすることになる。

 

 

『ウマ娘達がゲートインしました。芝2400mバ場状態は良となっております』

 

『東京優駿日本ダービー……それぞれの想いを胸に2400m先のゴールを目指します。そして今……スタートしました!』

 

 スタートはスズカが先頭を取った。ルドルフとの模擬レースで得たコンセントレーションを完璧にものにしているな。あのスタートに付いていけるウマ娘はそういないだろう。

 

『サイレンススズカが先頭を取ります!美しいスタートです』

 

『周りが出遅れてるのではないかと錯覚するほど綺麗なスタートですね』

 

「コンセントレーション……ルドルフの模擬レースで完璧にものにしたのね……凄いセンスね」

 

「東条さんのおかげですよ。本当に感謝してます」

 

「おいおい後輩よ、レースはまだ始まったばっかりだぜ?」

 

『400mを通過しました。先頭は変わらずサイレンススズカ。2番は距離を置いてハッピーミークです』

 

「よし……ミークそのペースです。1回突き放されたらサイレンススズカさんの一人旅です。それだけは阻止しないと」

 

 ハッピーミークは少し前めな先行策か。スズカのことをかなり意識した作戦だな。他のウマ娘達の多くは、スズカとミークが掛かっていると判断したのかスピードを落とす。

 

 その後はしばらくレースに動きは無かった。しかし、1800mをすぎたところでレースは一気に動き出す。

 

『おおっと!残り600mのところでハッピーミークがペースを上げていく!後方に控えていたマチカネフクキタルとランニングゲイルも前に出ていきます』

 

 ハッピーミークを初めとしたウマ娘が勝負を仕掛け始めた。スズカのペースがここから落ちないことを知ってるウマ娘と、そう判断したウマ娘達だ。

 

「大変ですよスカイちゃん!周りも一気に前に出てきましたよ!」

 

「大丈夫だよスペちゃん。スズカさんの本領はここからなんだから」

 

『レースは終盤、残り400mの看板にさし掛かろうとしているが……ハッピーミークが一気にペースを上げてきた!このままサイレンススズカに並ぶか!?』

 

(スズカ……今日は最高の場所、最高の環境、そして何よりも最高の相手がいる)

 

「いけぇぇえ!スズカァァァア!お前の走りを見せつけてやれ!」

 

『ハッピーミーク追いつくか……いや追いつけない!サイレンススズカがハッピーミークよりも更に速い加速を見せる!』

 

 

(ミークさんが後ろから追ってくる……でも、私もここからよ。あの日の走りが体に染み付いてるんだもの)

 

『残り200m!ハッピーミーク!サイレンススズカを差し切れるか!?』

 

(苦しいはずなのになんだか楽しい……この先頭の景色を見ていると力が湧き出てくる。何よりもこの景色を見させてくれたトレーナーさんのためにも、スカイちゃんのためにも……そして私自身のためにも勝つ!)

 

【先頭の景色は……譲れない!】

 

『おぉっとなんてことだ!残り200mでサイレンススズカが更にスピードを上げていきます!そのままスピードを上げて行きます!』

 

「ミーク頑張ってぇぇ!」

 

『ハッピーミークもペースを上げて行きます!他のウマ娘達は2人のペースに追いつけません!しかしハッピーミークも追いつけません!』

 

『今サイレンススズカが1着でゴールしました!3バ身差をつけてハッピーミークが2着でゴールします!』

 

 スズカがゴールした瞬間、観客席が一瞬静まりかえった。しかし、それは直ぐに歓声へと変わる。

 

『これは凄い!サイレンススズカレコードタイムです!サイレンススズカがレコードタイムを更新して日本ダービーを制しました!』

 

 俺と葵さんは立ち上がり、2人のもとに向かって観客席を去った。

 

 

「スズカさん……凄かったです。全然追いつけなかった」

 

「ミークさん……私はあなたが相手だったからここまで走れた気がするの」

 

 支えてくれたトレーナーさんの力もある。でも、相手がミークさん程の強敵だったからこそここまで速く走ることができた気がする。

 

「次は負けない」

 

「私も負けません」

 

 ミークさんと話しているとトレーナーさんが私のところまで駆け寄って、そのまま抱きしめた。

 

「えっと、そのトレーナーさん……?どうしたんですか?」

 

「すっすまん。嬉しすぎて勢いで……」

 

 私も急に抱きつかれて混乱してしまった。別に嫌ってわけじゃないんだけど……

 

「抱きつくのはダメです。だから代わりに頭を撫でてください」

 

「おう?本当によくやってくれた勝利してくれただけで嬉しいけど……まさかレコードで勝つとはな」

 

「私達は先に戻りますね。行こうミーク」

 

「はい……トレーナー」

 

 葵さんとハッピーミークは去り際に涙を流していた。俺たちのことを気遣って戻って行ったんだ……今すぐにでも泣き出したい気持ちを抑えて。

 

「今日のレース……上手く言えないけど運命を変えるような走りだった」

 

「運命ってトレーナーさんって、結構ロマンチストなんですね」

 

 俺の発言にスズカは笑みを洩らす。結構真面目に言ったんだけどなぁ……

 

「ほら、この後はウイニングライブだ。しっかりとしめるぞ!」

 

「はい!」

 

 

 ウイニングライブの観客席では、俺と沖野先輩、スカイとスペの4人で並んで見ていた。東条さんと葵さんは別のところで見るそうだ

 

「オハナさんは相変わらず優しいんだから」

 

 先輩がこう言ってるてことは、葵さんのことを気にかけて東条さんは葵さんに付き添ったのだろう。本当にあの人は面倒見がいいんだな。

 

 俺たちが待っているとライブが始まった。今日のライブ曲は【Special Record】だ。レコード勝利を収めたスズカにはちょうどいい曲だ。

 

「スズカさんとっても綺麗です……私もあの舞台でライブしてみたいな。スカイちゃんもそう思いませんか?」

 

「そうだね〜私もこの舞台でライブしたいね」

 

 まぁ、このレースで日本ダービーでセンターを取れるのはどちらか1人だけだよスペちゃん。私はスペちゃんと戦うことになる相手なんだから。

 

「なんだ後輩泣いてるのか?」

 

「いやぁ……この歳になって泣くとは思わなかったんですけど。喜びが抑えられなくて」

 

 胸の中から喜びの感情が溢れ出てくる。ついに勝ったんだなスズカとG1、しかも日本ダービーで。

 

「いいじゃねえか別に。担当ウマ娘が喜んでるんだ、見ろよあの笑顔。お前だって泣くほど喜んだっていいじゃねえか」

 

 勝負服で踊るスズカは今まで以上に輝いていた。何よりもライブに気持ちがこもっていた。

 

 その後無事にライブは終わってスズカと一緒に学園に戻るために一緒にいた。スカイは『いや〜私もそこまで野暮じゃないですよ』と言って先に帰ってしまった。

 

「トレーナーさん」

 

「どうした、スズカ」

 

「私はトレーナーさんの夢を叶えることができましたか?」

 

 夢か……スズカはG1で勝ったんだ。夢を達成したと言っても過言ではない。でもそれは過去の話だ。

 

「そうだな、自分の担当がG1に勝つことは夢だった。でも今はスズカもスカイもいる、もっと先に行きたいと思ったよ」

 

 夢を叶えたらそれで終わりじゃなかった。また新しい夢ができた、そうやって夢は紡がれていくんだ。

 

「今日の勝利は大きなものだ。でも、スズカはまだクラシックでシニア級がこれから待ってる。いわば今日のレースはその通過点だ。もっと上を俺と目指してくれるか?」

 

「もちろんです!私も、もっと色んな娘と走りたいです。色んな人にもっと夢を届けたいです!」

 

「それじゃあ、またトレーニングに向けて、今はゆっくり休もう」

 

「はい!」

 

 こうしてお互いの寮に戻って行った。これからのレースはもっと厳しい戦いが待ってるだろう……そのためには今は休まなきゃ。

 

 こうして俺たちの日本ダービーは幕を降ろした。この日のレースで確かに運命を変えた、俺はそんな気がした。




スズカとトレーナーは運命を変えました。これからのレース結果はどうなっていくのでしょうかね。

レコード勝利についてなんですけど、その辺の知識がないので詳しいことは書けませんでした申し訳ないです。
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