トレーナーはウマ娘に夢を見る【完結】   作:Tmouris_

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チーム結成
第34話:対決!選抜レース!


 日本ダービーが終わってからしばらくは、インタビューに追われることになっていた。今までもちょくちょくインタビュー依頼は来ていたけど、ここまでのことはなかったな……

 

 新聞にもでかでかと『異次元の逃亡者サイレンススズカ!日本ダービーを制す!』なんて書いてあった。異次元の逃亡者とかかっこいいじゃん。

 

 1人だけ凄い印象に残ってる記者がいたな。乙名史記者だったか、あの人は凄かった。

 

「ズバリ!次の目標レースはなんですか!」

 

「まだ決めかねています。スズカはマイルから中距離まではスピードが持ちますけど、長距離は苦手ですから。本人と話し合ってこれからの方針を決めていく予定です」

 

 俺がそういうと彼女はプルプルと震えている。彼女が望んだような答えは出せなかったか。

 

素晴らしい!目の前の名誉や名声のことを考えずにあくまで担当のことを考えるその姿勢。本当に素晴らしいです!」

 

 あれは本当にびっくりしたな、急にあんな大声出すんだもの。

 

 インタビューが落ち着いてきた頃に、俺はスカイをトレーナールームに呼び出した。日本ダービーを勝つというスズカとの約束は果たした。次はスカイとの約束を果たさないとな。

 

「スカイ、俺はスズカがダービーを勝った功績によって実績が認められて、複数のウマ娘を担当することを許されるだろう」

 

「私もやっとトレーナーさんの担当になれるんですね」

 

 俺が担当になれると分かったスカイは、嬉しそうに笑って尻尾をユラユラと揺らしている。

 

「でも〜明日まで待ってくれませんか?」

 

「明日?俺は別に構わないけどなんでだ?」

 

 明日……なんかあったっけかな。それとも今日だとなにか都合が悪いのだろうか。

 

「明日は選抜レースがあるんですよ。そのレースをトレーナーさんに見てもらいたいんです」

 

 スカイなりのケジメなのだろうか。今更スカイの才能を疑うまでもない。スズカとトレーニングをすることもあったから、彼女の凄さはよく分かってる。

 

「分かったよ。スカイがそう言うなら、明日のレースを終えてから契約をしに行こうか」

 

「ありがとうございます。それじゃあ私はこれで失礼しますね〜」

 

 俺はまだスカイのトレーナーじゃない。だからこそ、明日のレースのアドバイスはしない。スカイもそれを望んではないだろうしな。今のスカイの実力を見せてもらおう

 

ーーー翌日ーーー

 

「悪いなスズカ、付き合わせちまって」

 

 レース当日は、スズカと俺の2人で見にいていた。スカイの話をスズカにしたら、自分も見に行きたいと言うので連れてきた。

 

「いえ、私もスカイちゃんの本気の走りを見てみたいですし」

 

 さてと、今日のレースにはめぼしいウマ娘は……あれはキングヘイローか……スカイが負けたくない相手、スカイ負けるなよ。

 

 

「スカイさん、今日はよろしくお願いしますわ。それでも勝つのは、このキングヘイローですけど!」

 

「ははは、そうだね〜よろしくねキングちゃん」

 

 あんなことがあったのに、よくそんな気軽に話かけれるねキングちゃん。それとも皮肉のつもりなのかな?

 

「キングちゃんは今のトレーナーさんとどうやって出会ったの?」

 

「あの方は入学直後の私に声をかけて来たんです。まだ私があの人の娘という噂が広がる前に。しっかりと自分のことを、キングヘイローとして見てくれたんだと思い、当時はトレーナー候補として契約しましたの」

 

 おかしい……あのトレーナーが、私と契約を結んだよりも早くキングちゃんが声をかけられてる?

 

「私もトレーナーさんが着いてくれるんだよね〜」

 

「噂に聞きましたわ。日本ダービーを見事に勝利したサイレンススズカさんの新人トレーナーさんですわよね。さすがはスカイさんです」

 

 このキングちゃんの様子、トレーナーさんと契約するまでにあったことを知らない様子だ。私も1回も問いただしたりしてないで確認をしなかったせいか……冷静に考えればキングちゃんが人のトレーナーを取ったりするわけが無い。これはなにかありそうですね〜

 

「まあいいや〜私はいつも通り走るだけだし」

 

 

 遠目で見てると、キングヘイローとスカイが話終えたようだ。ゲートの前に立つとスカイが欠伸をしている。気が抜けてるなとも思ったが、それを見た他のウマ娘も少し気が抜けているように見えた。

 

「スズカはスカイが勝てるか心配してないのか?」

 

「私はこれでもスカイちゃんのことを信用してるんですよ?今日の相手なら余裕で勝てると思います」

 

 凄い信用だな。俺はキングヘイローが少し怖いと思ったけど、そんなことはないのだろうか……なんか自分が見る目ないんじゃないかと不安になってきた。

 

 俺たちが話しているとウマ娘達がゲートインが完了し、スタートした。

 

 最初に先頭に出たのはスカイだ。さっきの反応を見て、油断していた周りはスカイを捉えられなかった。

 

 スカイが大きく先頭に出てペースを上げている。序盤にしちゃハイペースだがスカイにも考えがありそうだな。警戒していなかったスカイが先頭を駆け抜けているのを見て、後方のウマ娘達がペースを上げている……1人を除いてだが。

 

 スカイは周りが掛かっていることを確認すると、少しペースを落とした。追いかけてた相手のペースが下がって、後方のウマ娘達が今だと言わんばかりにペースを上げた。

 

「すごいな……スカイもスズカと同じ逃げウマ娘だけど、スタイルが全然違う」

 

「私にはあんな走りはできないですよ。さすがスカイちゃん」

 

 スズカは自分のペースで後ろを突き放し、最後にもう一度加速して脅威のスピードで勝利する言わば力技。それに対してスカイは、先頭を取りレースを掌握して相手のペースを乱す技量派ってところか。

 

 レースも残り600mだ。さっきまでスカイを追っていたウマ娘達は、無理なオーバーペースでスタミナが尽きてしまっていた。本人達はオーバーペースで走っていた自覚はないだろうが。そんな中でキングヘイローが後方から上がってくる。

 

「キングヘイローが上がってきたな。周りと違って、スカイに惑わされずにスタミナが残ってる」

 

「スカイちゃんのことを警戒していなかったんでしょうか」

 

「いや違うな。自分の走りとその判断を信じているんだ。自分を信じる自信と、それを揺るがされない根性。大したもんだ」

 

 残り400mでスカイとキングヘイロー以外のウマ娘はかなり後方の方にいて、2人の勝負となった。

 

「キングヘイローが伸びないな……本人の望み通りの走りはしていたはずだが」

 

「違いますよトレーナーさん、伸びないんじゃないです。伸ばせないんですよスタミナが足りなくて」

 

 キングヘイローの顔をよく見ると、かなり苦しそうな顔をしていた。スタミナが切れるような走りはしてなかった気がするが……いや、そういうことか。

 

「よく仕上がった足だと思ったけど……あれはスプリンターよりの足だな」

 

「彼女はクラシック3冠を狙っていると聞いていたんですけど……」

 

 スズカがスカイが勝つと言った理由がわかった。キングヘイローはそもそも中距離を走る肉体をしていないんだ。トレーナーが付いてから時間が経つが……どういうことだ?

 

 その後結局キングヘイローはスピードが伸びずラストスパートをかけたスカイが圧勝した。レース後に直ぐ、キングヘイローはそのままトラックを去っていった

 

「スカイのところに誰か行ったな。誰かのトレーナーっぽいけど」

 

「あれってキングヘイローさんのトレーナーじゃないですか?」

 

 今更スカイに何の用だ?何か文句でも言いに行ったのだろうか。そう思っていたが、何か話を終えると2人でこちらの方に歩いてくる。

 

「あなたが柴葉トレーナーですね。初めまして」

 

「初めまして、何か私の御用ですか?」

 

「いや、スカイが元々はあなたと契約する予定だったと聞きましてね。一応挨拶をと思いまして」

 

 なんだ?どういうことだ、スカイと契約する予定だった?もしかしてスカイはこのトレーナーと契約するのか?でも、あなたの後ろでスカイのことを呼び捨てした瞬間に、めっちゃ嫌そうな顔してますよ。直ぐに笑顔に戻ったけど。

 

「いや〜ごめんなさいトレーナーさん。このトレーナーさんにもう一度再スカウトされちゃって、キングちゃんとの契約を切ることを条件に、再契約することにしたんです」

 

 その発言に俺もスズカも唖然とする。キングヘイローのトレーナーが、彼女との契約を切ってスカイと契約する?1回契約を無下にしたスカイと?意味が分からない。

 

 俺が唖然していると、スカイが俺に歩み寄って来て何かを押し付けてきた。

 

「これは私からの餞別です。頑張ってくださいねトレーナーさん」

 

「あのトレーナーは何かやってると思います……あとはお願いしますねトレーナーさん」

 

 最後にそう耳元で呟くと、録音ボタンがONになって通話が開始している携帯を押し付けられた。たしかに……キングヘイローの件も今回のスカイの件もこのトレーナーは怪しすぎる。

 

「申し訳ないですが、こちらもはいそうですかと言うわけにはいきません。少し2人でお話しませんか?スズカちょっと席を外してくれ」

 

「いいでしょう、彼女を手放すのはあなたもそう簡単に首を縦に振れないですよね」

 

 スカイとスズカがその場を離れて、相手と俺の2人だけになった。ここからが本番だな。

 

「なんで今更スカイと契約をしようと思ったんですか?キングヘイローも十分に才能のあるウマ娘だと思いますが」

 

「彼女はダメだよ、才能はまあまああるがプライドが高すぎる。ツテを使って彼女があのウマ娘の娘という情報を掴んだのに、才能がズバ抜けてるわけではなかった」

 

「じゃあ、何故1度はスカイと契約を切ったのですか!」

 

「彼女は保険だったんだよ。もしもキングヘイローに才能がなかった時の、しかし彼女はキングヘイローに敗れた。保険にするには心もと無かった。仕方がないからキングヘイローに適当にクラシック路線を挑ませて、ある程度才能があるスプリンターとしてトレーニングしていたのさ」

 

 なるほど……だからキングヘイローは今日のレースで負けたのか。スプリンターとして育てられてるのに、中距離レースで勝てるわけが無い。

 

「キングヘイローはそのこと知っているのですか?」

 

「言うわけないさ。プライドの高い彼女のことだ、直ぐに中距離長距離のトレーニングをしろというだろうからね」

 

「あんたは一体!ウマ娘をなんだと思ってるんだ!」

 

「そんなの商売道具に決まってるじゃないか!俺は本当に運がいい。今日のレースでスカイを見て、このウマ娘ならクラシックで戦えることを確信したよ。そして、声をかけてみれば快くスカウトを受けてくれたよ。相当君に不満があったんだろうね」

 

 なんて考えだ……ウマ娘のことなんかなんにも考えてない。自分の利益のことしか考えてないんだ。自分が契約を切ったウマ娘のことなんか考えてない。

 

「そんなにペラペラと色々喋っていいんですか?学園側にバレたら色々まずそうですけど」

 

「新人トレーナーの君が騒ぎ立てたところで、ベテランの俺の言葉と、君の言葉を信じるかなんて言うまでもないだろ?」

 

 腐ってもベテラントレーナーか……ここまで色々やって問題になっていないんだし。一応は周りからある程度の信用はあるのかもしれない。

 

 まぁ、俺の仕事はここまでだ。あとは当の本人達に任せるとしようか。

 

「だそうだけど、君たちはどう思う?」

 

 俺が振り向くと、怒りのあまりに震えているキングヘイローと、目も顔も笑ってないスズカとスカイ、そして威圧感丸出しのルドルフがいた。俺がこのメンバーと対面したら失神しそうだ。

 

「馬鹿な!なんで生徒会長までがこんなところに!」

 

「私たちが呼びに行ったんですよ?」

 

 そう言って、通話中の画面の携帯をスカイが取り出した。なるほど、ここまでの会話はルドルフにも筒抜けってわけだ。

 

「俺の方でも録音はしっかりとさせてもらいました。どうですか?自分が貶めたウマ娘達に嵌められた気分は」

 

 相手のトレーナーが呆然としていると、キングヘイローが駆け足で歩み寄って思いっきりトレーナーのことをひっぱたいた。痛そう……ウマ娘の力であんなことされたら大怪我は確定だな。一応は手加減してるだろうけど。

 

「あなたみたいなトレーナーを信じて、努力してきた私自身に反吐が出ますわ!」

 

「すみません……お礼は今度またさせていただきますが、今は1人にしてください」

 

 俺にそう言い残してキングヘイローは去っていった。信頼していたトレーナーにあんな裏切られ方をしたんだ、相当ショックだろう。

 

「彼の処罰は私に任せてくれ。それ相応の措置がされるはずだ」

 

 ルドルフはトレーナーを連れてどこかに行ってしまった。ルドルフはしっかりとしているが、ウマ娘のことになるとたまに冷静さを欠く時があるけど……あのトレーナー大丈夫なのか……

 

「私たちは契約をしに理事長室に行きましょう!」

 

 スカイは切り替えが早いな……それとも元々この予定だったのだろうか。スカイ……恐ろしい子!

 

「俺たちは用を済ませてくる。スズカはここで解散になるけどいいか?」

 

「はい、早く行ってあげてください」

 

 俺はスカイと一緒に理事長室に向かう。あそこに行くのはスズカとの契約の時以来だな。

 

「失礼します」

 

「どうぞ入ってください」

 

 俺がノックするとたづなさんから返事があった。理事長は業務中だろうか。

 

「おぉ!柴葉トレーナーか、先日の日本ダービーは見事だったぞ!ところで今日は何の用だ?」

 

「今日はウマ娘との契約をするために訪れました。入ってきてくれ」

 

 俺は入口で待たせておいたスカイを呼び込む。

 

「こちらはセイウンスカイです。彼女とは前々から担当契約を結ぶことを約束していたのですが、問題ないでしょうか」

 

「ふむ、君は新人ながらもG1レース、しかも日本ダービーで見事な勝利を収めるほどにサイレンススズカを鍛え上げた。その功績もある、問題はない」

 

 良かった……これでダメですなんて言われたらどうしようかと思った。

 

「こちらの方である程度の処理は済ませてありますので、あとはセイウンスカイさんと柴葉トレーナーの承認があればいつでも契約できます」

 

 さすがはたづなさん仕事が早い……というよりかは前の飲み会の時から準備を進めてくれてたのか。信頼されてるみたいで結構うれしいな。

 

「私はトレーナーさんと一緒にクラシック3冠を取りたいです!契約をお願いします!」

 

「分かりました。今日からセイウンスカイさん、あなたは柴葉トレーナーの担当ウマ娘です」

 

 やっとだ……なんだかここまでとても長かった気がする。スカイにとってはこれからがスタートなんだけどな。

 

「話は変わるが柴葉トレーナー、チームを持つつもりはないか?」

 

「チームですか?俺なんかがですか?」

 

 チームって5人以上からじゃないと認められないんじゃなかったっけ。俺なんかがいいのだろうか。

 

「実は学園のルールを1部改変してな。3名から小規模のチームを持つことができるようになる。サイレンススズカの走りを見れば君がどれほど優秀なのかはよく分かる。引き受けてはくれないか?」

 

「すいません……今はまだ想像できないので1度考える時間を頂けませんか?」

 

 スカイの担当になると決まったばかりで、もう1人スカウトしろと言われてもな……スカウトも簡単なことじゃないし。

 

「承認!急ぐ必要はない。もしもその気になったら是非とも声をかけてくれ」

 

 そうして、俺たちは理事長室を退室した。チームか……メンバーが見つかれば持つのも悪くないかもな。俺みたいな新人でも認められてる証拠だし。

 

「トレーナーさん、改めてましてよろしくお願いしますね」

 

「あぁ、こちらこそよろしく頼む。全力でサポートさせてもらうよ」

 

 こうして俺たちの短いようで長いような1日が終わった。明日からはスカイとスズカ2人の担当トレーナーだ。

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