というわけで、チームとしての最初のトレーニングは山道ランニングだ。ダービーの前にスズカが走ってたあそこをキングにも走ってもらおう。
スズカは走る準備をしていて、スカイは憂鬱そうだ、キングは呆然としてる。
「どうしたキング、そんな呆然として」
「もしかして、今からここを走るのかしら?」
「そうだけど?」
「一体何キロあるのよ!」
「たしか、片道10kmだよ。平地2km上り1km下り1km上り下り5km大きな上り1kmこれが今日走るコースだ。
「こんなの走りきれるのかしら……」
「完走したのはスズカだけだ、スカイも往復はまだできてない」
今のスカイなら走り切れそうだけどな。あの時はスズカに引っ張られてたし。
「スズカとスカイは自分のペースで走ってくれ。キングはスカイの後ろで走る形でいこう。準備が出来たらスタートだ」
「スズカさん、今日はついて行かせてもらいますよ〜」
「あらスカイちゃん、私はあの時よりもっと速くなってるわよ?」
「とりあえず、キングの目標はスカイについて行くことだ」
「理由を聞いていいかしら」
「スカイはスタミナが多いからな、スピード的にもスカイの後ろがいい。多分だけど、キングは走りきれないだろうし」
スズカのときでわかったが山道を走るって言うのは結構疲れる。しかも片道10kmだ。スタミナを鍛えてないキングが完走できるわけがないんだ。
「ふん!そのくらい走りきって見せるわ!」
キングと俺の会話が終わったのでスタートすることにした。
「行くぞー位置について、よーいどん」
スタートした。最初はスズカが先頭に出た。スカイが最初はスズカについて行こうとしていたが、スズカのスピードについていけず断念していた。
キングは何とかついて行ってるな。最初の2kmの平地は問題なく走っていった。上り坂の1キロmでキングが遅れ始めた。
「あれ〜キングちゃん疲れて来てるんじゃない?トレーナーさんの車でゆっくりしててもいいんだよ?」
「冗談おっしゃい。私はまだ走れるわよ!」
と虚勢を張ったのはいいですけど……大分キツいわね。上り坂もかなり辛いけど、何よりも自分のスタミナの無さに驚くわ。
何とかスカイに食らいつき、1kmの上り坂はついて行けていたが下りに入ってスカイが動いた。
「悪いけど、私は先に行かせてもらうね〜」
下りに入ってからスカイさんのスピードが上がった。私も後に続こうとしたけれど、足が全然前に進まない……
スカイとキングの差はどんどん広がって行って、下り終わる頃にはスカイはキングからは見えなくなっていた。
「どうするキング、この辺で終わりにしとくか?」
「まだ走れるわ」
俺が車から声をかけると、一言そう返して走り続ける。まだ走れてるけどもう少ししたら止めなきゃまずいな。
案の定1km走ったところ辺りでキングがフラフラし始めた。流石に止めないとまずいな。
「キングここまでだ。これ以上は走ることは許可できない」
「分かったわ……私は何キロ走ったのかしら」
「6kmだ。半分とちょっとってところだな。本当は5km走ったところで止めようと思ったんだけどな」
とりあえず、車にキングを乗っけてスカイ達を追いかける。2人とも初めてじゃないし、大丈夫だとは思うんだけど一応な。
「まさか片道も走りきれないなんて。こんなんじゃダメダメね」
「これが一流の王者のスタートラインだ。まだスタートしたばかりだぞ、レースの途中だ諦めんなよ」
「そんなの当たり前じゃない。私はキング……キングヘイローなのよ!」
車でスカイを追いかけると、ラスト1kmの坂に差し掛かっていた。大分疲れが顔に出ているが、フォームはあまり崩れていない。最後はスピードこそ出ていなかったがしっかりと走りきった。
「スズカもスカイもお疲れ様。スカイはしっかりと最後まで走りきったし、スズカもその様子じゃ自分を追い込めたみたいだな」
スカイの疲れは目に見えて分かったが、スズカもかなり消耗しているな。前よりもスタミナが増えた分スピードも上がっていて負荷が大分かかってるな。
「スズカさんにはとても追いつけないですよ〜」
「ふふ、スカイちゃんももっと頑張りましょうね」
こいつらは相変わらず仲がいいな。まだライバルとまでは行かないけどいい関係だ。キングは2人から少し距離を置いてるな。
「キングは帰り俺と車で戻るぞ」
「じゃあ、私も〜」
「お前はスズカと一緒に走るんだよ。助手席に乗ろうとするな」
スカイはまだまだ走れるだろう。ほら、そんなことしようとするからスズカに引きずられるんだぞ。
「私はなんで走らないのか聞いてもいいかしら?」
「今のキングじゃあの距離を1日走るのが限界だ。これ以上走るのは負荷がかかりすぎる」
「でも、私はまだ走ることができるわよ」
「ダメだ、これ以上は怪我に繋がる。お前にはまだスタミナが足りてないんだ」
俺がそう指摘すると、キングも納得はしたのか悔しそうな顔をして車の中に乗り込んだ。
「スズカとスカイは水分補給をしっかりとしてくれよ」
「「はい」」
「それじゃあ休憩したらスタートするぞ」
休憩を挟み、俺とキングは車でスズカとスカイの後ろをついて行く。
「本当に私は大丈夫なのかしら」
「急にどうした、スカイについて行けなかったことでも気にしてるのか?」
「そうね……私はこの人達についていけるのかって不安になったわ」
不安にもなるか。同級生のスカイは今も目の前を走ってるのに、自分は車の中で見ていることしかできないんだから。
「大丈夫だよ、キングは今でこそスタミナはないけどそれ以外は全て高水準だ」
「っふ、そうね情けない所を見せたわ」
「そういえば、チームはどうだ?仲良くしていけそうか?」
傍から見ると割と上手く行ってそうだけど、当の本人がどう思ってるのかが大事だ。
「スズカさんは私を煙たがるような様子もないし、スカイさんは私を気遣って積極的に話しかけてくれるし大丈夫よ。ただ、どうしても打ち解けきれないの」
「なんか蟠りでもあるのか?」
「そんなことはないわ。さっき言った通り2人とも良くしてくれてる。私が勝手に距離を置いてしまうの」
「あのトレーナーの件を気にしてるのか……あれはお前のせいじゃないだろ」
あれは絶対にあのトレーナーが悪い。キングに落ち度はないじゃないか。でも、本人がそう思ってるならしょうがないか……解決策を考えないとな。
「そうかもしれないわね、でもスカイさんをそれで傷つけてしまったのも事実よ」
たしかにあの時のスカイは相当傷ついていた。信じているトレーナーに裏切られたのだからな。
「傷ついたのはお前も一緒だろうが、細かいことは気にすんな」
「そうは言うけど……まあいいわ」
とりあえず今はこれでいい。変に自分を追い込むほうが良くないからな。
「ところで、これからメンバーを増やす予定とかはあるのかしら」
新メンバーね……新人の俺にとっては今の3人で手一杯なんだけどな。それに来年はスカイもキングもデビューだしな……
「俺は新人だぞ、そんなポイポイとウマ娘が来るわけじゃないからな……」
「チームメンバー募集のポスターでも貼ればいいじゃない」
その考えはなかった……スカイもキングも俺が直接スカウトしたわけじゃないし、スカウトじゃなくて募集って形式があるとは。
「でも、俺みたいな無名新人のところに入ろうと思うやつがいるか?」
「何言ってるのかしら。あなたの担当であるスズカさんがG1……しかも日本ダービーを取ったのよ。ダービーを目指してるウマ娘は多いわ、募集をかければそれなりに集まるんじゃない?」
「そうかもな……ただ来年はスカイとキングのデビューがある。その為にレースは2人に注力したいからな。だから、来年にデビューの予定がないウマ娘限定だな」
「もう……おバカ…」
「なんか言ったか?」
「なんでもないわよ!」
俺たちがこんなやり取りをしてる間にスズカはゴールしていた。スカイはゴールの3km手前ぐらいで車に乗せた。スズカもスカイも息を切らしている。
「2人ともお疲れ様。スズカはしっかり走りきったし、スカイは前よりも長い距離走れるようになったな」
「頑張りましたよ〜お2人が楽しそうにお話してる間にね」
「なんのことスカイちゃん?詳しく聞かせてもらってもいい?」
待って待ってお二人さん?怖いよ?何もしていないよ?本当だからね。
「2人ともどうしたのかしら?私は別にトレーナーさんとこれからについて話していただけよ?」
「とっとりあえず、今日のトレーニングはここまでだ!また明日頑張ろう!」
俺はそこから超逃げた。全力で逃げた。後ろからキングの叫び声が聞こえた気がするけど、俺は振り向けなかった。何せ俺の生命に関わる気がするからだ。