トレーナーはウマ娘に夢を見る【完結】   作:Tmouris_

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第44話:見せつけろ!キングのレース!

 10月に入って、今日はキングのデビュー戦だ。スズカ以外のウマ娘と待機場に来るのは初めてだから、なんだか新鮮な感じがする。

 

「どうだキング緊張してるか?」

 

「さっきまではしてたけど、今はそうでもないわね。スズカさんに相談したら『せっかくのデビュー戦なんだから楽しんできてね』なんて言うのよ。でも、その通りだわ。今日このレースでキングヘイローの走りを見せつけてやるわ!」

 

 キングはそう言うと余裕そうに高笑いして見せた。スズカもしっかりと先輩らしいことしてるんだな。

 

「とりあえず、今日のレースは差しで行こう。特別に警戒するウマ娘はいないが、キングの走りなら確実に勝ちに行ける」

 

「分かったわ。仕掛けるタイミングはどうするの?」

 

「それはキングに任せるよ。キングが行けるって思ったタイミングで差しに行っていい」

 

 キングのレースの流れを認識する力は中々にいい。そして、仕掛ける判断の早さそのタイミングが素晴らしい。

 

「全く、デビュー戦で初めてのレースをするウマ娘にする作戦じゃないわ……でも、いいわ。勝ってくるわね」

 

「ああ、キングの走りってやつを見せつけてやれ」

 

「えぇ!あなたにはキングのデビュー戦の勝利を見る権利をあげるわ!」

 

 俺はキングを激励して観客席に向かう。スズカとスカイと合流しないといけない。

 

「キングちゃんの様子はどうでしたかトレーナーさん」

 

 俺が観客席に戻るとスズカが聞いてきた。スカイの方が聞いてくるかと思ったけど、スズカもキングのことをしっかりと気にかけてるからな。

 

「スズカのおかげで緊張してなかったよ、ありがとうなスズカ」

 

「いえいえ、私たちはチームメイトですから」

 

「キングちゃんが勝ってスズカさんと私にバトンを回してくれるといいですね〜」

 

 

 このメンバーもチームとしてまとまってきているんだな。互いを思って高め合うのはいいことだ。

 

『本日出走するウマ娘達がパドックに入場します』

 

 デビュー戦ということもあってか、特別注目するウマ娘はいなそうだな。デビューするということだけあって体は出来上がってるけど、キングほどじゃない。

 

『6枠10番キングヘイロー!母親が過去に世界で活躍したウマ娘たちの娘ということもあり注目が集まります!2番人気です』

 

『彼女はダービーを制したサイレンススズカの所属するチームレグルスからの出走となります。キングヘイローの実力、そして、チームレグルスのトレーナーの手腕にも注目が集まってますよ』

 

 2番人気ということに少し不満そうな顔をしたが、調子の方は問題なさそうだな。それにしても、トレーナーの俺の方にも注目が集まってるのか……キングの家族が凄いってことが関係してそうだけど、一応調べておこう。

 

「キングちゃん調子良さそうですね〜」

 

「あぁ、デビュー戦ってのはいくら自信があっても緊張するもんだけどな。キングは冷静そうだし」

 

「そうですか?私はデビュー戦とっても楽しかったですよ?」

 

 それはお前くらいなもんだ。普通のウマ娘はデビュー戦はガッチガチな娘だっているくらいだぞ。

 

「本番レースで普段のトレーニングとの違いを感じてくれればいいんだがな」

 

 パドックの入場が終わって、あとはゲート入場を待つだけだ。

 

 

(凄いピリピリとした空気ね)

 

 パドック入場を終えたあとから明らかに空気が変わった。周りからの視線も感じるし警戒されてるのかしら?

 

(まぁ、これは私が出走したからじゃなくてあの人たちの娘が出走したからでしょうけどね)

 

 私の母親は世界的に活躍したウマ娘だった。その娘が出走するから警戒してるんでしょ。私はキングヘイローじゃなくてあの人の娘というイメージしかないのよ。

 

 だからこそ、このデビュー戦から負けてる場合じゃないのよ。あの人の娘じゃなくてキングヘイローが来たと見せつけてやるわ。

 

『出走ウマ娘達がゲートインします』

 

 とりあえず、目の前のレースに集中しなくちゃね。油断して負けましたなんて言えないわ。

 

 

『1600m芝右回り、バ場状態良です』

 

「デビュー戦の勝利を勝ち取るのはどのウマ娘か。1600m先のゴールを目指して……今スタートです!」

 

 スタートは悪くない……スズカと違ってキングは差しを得意とするウマ娘だ、最初は力を温存して最後に一気に追い抜く。

 

『先頭は4番ラインザクラです』

 

『少し掛かってしまっていますが大丈夫でしょうか』

 

『注目のキングヘイローは後方からのスタートとなります!後ろからレースの流れを把握します!』

 

「キングちゃんいい位置につきましたね」

 

「あそこからなら上手く先頭を確認できるからな、仕掛け遅れることはないだろ」

 

「頑張れキングちゃーん!」

 

 

(前よりも格段について行きやすくなってる……これなら最後のスパートで一気に抜ける!)

 

 このコースには第3コーナーに高低差の激しい上り坂がある。そこまでは平地だからスタミナを溜めて、坂を登りきったところで一気に差し切る!

 

 先頭では、掛かってしまったウマ娘達が先頭争いをしている。そのせいでレースペースが全体的に引き上げられて、キングが少しずつ遅れていく。

 

(まだ大丈夫よ……落ち着きなさいキングヘイロー、勝者は最初にゴールしたものよ。レース中に後方に居たってかまわない)

 

『第2コーナー回って向こう正面、未だに先頭の奪い合いだ!キングヘイローは後方でまだ待機している!』

 

『周りが焦っているなか落ち着いていますね。直線を超えた先には淀の坂もありますから勝負はここからですよ』

 

 

「トレーナーさん!キングちゃん遅れ始めちゃったけど大丈夫なの?」

 

「大丈夫だ。先頭のハイペース組はここまでにスタミナを消耗してるからな、第3コーナーをすぎたあとの坂を耐えられない」

 

「それに、キングちゃんが強いのはここからでしょ?」

 

 前まではスタミナが足りなかったせいで、距離が伸びると最後に差し切るスタミナが残っていなかった。でも、今のキングは前とは違う。マイル程度の距離ならあのスピードを活かして十分差し切れる!

 

『第3コーナーに入り坂を登り始めます!』

 

『おぉっと!ここでキングヘイローが前に出始めます!』

 

「キングちゃん坂でペースをあげたの?」

 

「キングがペースをあげたんじゃない。周りのペースが落ち始めたんだ」

 

 ここまでにハイペースで走ってきた先頭組は、坂に耐えられなかったんだ。キングは後方で足を溜めてたからな、その分スタミナが残っている。

 

 

(レース終盤のこの坂……苦しいし辛い……でも、今までしてきたトレーニングに比べればなんてことないわ!)

 

『坂を登りきり最後の直線に入ります!ここらはゴールまで平地のコースです!誰が仕掛けるか!』

 

『坂でペースが落ちるなか、キングヘイローはペースを落とさずに前に出てきていますからね。ここからが勝負どころですよ』

 

(上り坂が終わったばっかりで周りは息を整えるのに時間がかかるはず。だったら、準備が整う前に今ここで仕掛ける!)

 

『キングヘイローが仕掛けた!キングヘイローが一気に前に出ます!』

 

『ほかのウマ娘たちも負けじとペースを上げて行きますが、キングヘイローのスピードについて行けませんね』

 

 

「行けるぞ!行け!走りきれキング!」

 

「「頑張れ!キングちゃん!」」

 

 

「私はキング……キングヘイロー!こんなところで負けていられないの!」

 

『キングヘイローが前に出た!残り100mを切った!キングヘイロー!キングヘイローが先頭を捉えた!』

 

 スズカさんみたいに、終始先頭を取って圧勝するような輝きのある走りじゃないかもしれない。それでも、私は1着を取るのよ!

 

『キングヘイローが1着でゴールイン!最後に差し切りました!1着はキングヘイローです!』

 

(勝った!勝ったわ!私はやったのね)

 

 私は観客に軽くて振って、待機場に向かう。このことをお母様に報告しないと!

 

「もしもしお母様!私勝ったわよ!」

 

「そうなの」

 

 母親から返ってきて言葉は私が想像していたよりも冷たかった。もっと褒めてくれないの?私頑張ったのに。

 

「勝てて、いい思い出もできたでしょう?そろそろ帰って来たらどう?」

 

「私は勝ったのよ?来年にはクラシック路線で戦って行くのよ?」

 

「勝ったわね、でも所詮はデビュー戦でギリギリの勝利。そんなんでクラシック路線を戦って行けると思うの?」

 

 返答できなかった。家を出る前にトレセン学園に行くことは反対されていた。でも、レースで勝てばきっとお母様も認めてくれると思っていた。

 

「用はそれだけ?私はやらないといけないことがあるからもう切るわね」

 

 そう言うとお母様は電話を切った。せっかくの娘の勝利を祝ってもくれなかった……

 

「キングお疲れ様」

 

「あら、トレーナーさん。わざわざありがとう」

 

「見事な勝利だった。周りにも引っ張られずに仕掛けるタイミングもよかった。さすがはキングだな」

 

 あなたはそうやって私を認めてくれるのね……私を褒めてくれる。担当のトレーナーとして当たり前のことと分かっても、何故かとても嬉しかった。

 

「もうおバカ……」

 

「うお、どうしたキング足でももつれたか?」

 

 私はそのままトレーナーさんに抱きつく形で、胸に顔を埋めた。

 

「今はこうさせてちょうだい。少しだけでいいの」

 

 トレーナーさんは私の言葉を聞くと無言で頭を撫でてくれた。何があったかは言及はされなかった。

 

「大丈夫かキング」

 

「ええ、私の初めてのウイニングライブ見ていてちょうだい」

 

 

 俺はキングを見送ってからスズカたちのところに戻った。ちょっと時間が掛かってしまったな。

 

「トレーナーさん遅いよ〜」

 

「ちょっと色々あってな遅れちまった」

 

 キングのことは黙っておくか……言わない方がいいよな多分。

 

「キングちゃんがステージに上がりましたよ!」

 

 キングのウイニングライブは何かを訴えかけるような力強さを感じた。強者感をも感じさせるそのライブに圧倒されてしまった。

 

「キングは勝った……次はお前たちの番だぞ」

 

「「はい!」」

 

 スズカの今年のG1レースと来年のスカイのデビュー戦。キングも今年中にレースにいくつか出る予定だ。立ち止まってられないな。

チームレグルスで1番好きなメンバーは?

  • サイレンススズカ
  • セイウンスカイ
  • キングヘイロー
  • メジロマックイーン
  • トレーナー
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