選抜レース当日の選抜レース開始前に、これからのレースプランについてのミーティングを行っていた。
「スズカは11月に行われるマイルチャンピオンシップに出走してもらう、スズカの今のスピードなら十分勝利を狙える」
「マイルチャンピオンシップですか?中距離レースじゃないんですか?」
「マイルチャンピオンシップはマイルG1の最高峰のレースだ。勝算はあるから出走しておきたい」
「わかりました……」
スズカは中距離レースでは最強クラスだがマイルレースはそうじゃない。苦手なわけじゃないけど中距離程じゃない。それでマイルチャンピオンシップで勝利すれば、周りも俺を認めるに違いない。
「次はキングだ。キングには11月に行われるG3レースの東京スポーツ杯に出走してもらう。出走条件がジュニア級に絞られてはいるが、それでも重賞レースでレベルは高い……いけるな?」
「私はキングなのよ?どれだけレベルが高いレースでも勝ってみせるわ!」
キングの実力ならジュニア級の重賞レースでもマイル以下なら十分戦っていける。レース経験を積む意味でも出走するべきだ、クラシック路線を見据えて、トレーニングはスタミナ強化が主になるだろうけど。
「スカイのデビューは先だからな、トレーニングで鍛えるだけ鍛えるぞ」
「は~い」
俺はミーティングを済ませて、選抜レースに向かった。流石に遅れるわけにはいかないから急がないと。
「いや〜意外と応募するウマ娘達が集まったな」
「そうですね、これだけ居れば1人くらい強いウマ娘が見つかりそうです。レースに勝てるウマ娘が居ればいいんですけど」
俺の発言に葵さんは黙り込んでいた。俺がなんか変なこと言ったか?
「お前にしちゃ珍しいこと言うじゃねえか、なんかあったか?」
「別に何もないですよ……そんなことより気になるウマ娘がいたので少し声をかけてきます」
1人だけ知り合いがいたから会いに行く。メジロ家の令嬢なら相当の実力の持ち主なはずだし、マックイーンとは面識があるから誘いやすい。
「マックイーン来てたんだな。まさかマックイーンみたいなウマ娘が参加するとは思ってなかったよ」
「私もそろそろチームに所属しようと思ってまして。そうしたら、丁度あなたが主催する選抜レースが開催されると聞きまして参加させてもらいましたわ」
「マックイーンみたいなウマ娘を迎えられるなら大歓迎だ。前あった時は新しいメンバーを加える余裕なんてなかったからな……ところでリギルとかに入ろうとは思わなかったのか?」
「もちろん考えましたわ。でも、リギルは体調管理が厳しくてですね……」
「あぁ、大好きなスイーツが食べられないもんな」
「何てこと言いやがりますの!?」
まさかマックイーンの方からチームに入る意思があるとは思ってなかったけど、それなら話が早い。あとは選抜レースが終わるのを待って声をかけるだけだからな。
「コホン……私の走りを見ていてくださいませ、期待に応えて見せますわ」
俺はマックイーンとの話を終えて沖野先輩達の元に戻ることにした。他に強そうなウマ娘も見当たらないしな。
「あの、私まだ朧気ですけど夢を見つけました!私なんかが抱いていいものかわからないんですけど……」
俺が戻ろうとすると、さっき先輩と見ていた背の低いウマ娘が俺の元を訪れた。近くで見て思い出したけど、ライスシャワーだったか。俺が選抜レースに誘ったんだったけど……なんで誘ったんだろうか、体つきを見ても足を見ても実力者には見えない。
「夢を抱くのはいいけど……もう少し実力をつけたらどうだ?」
「えっ……だって、トレーナーさんが想いは力になるって……」
「そんなこと言ったっけ……悪いそろそろ戻らないといけないんでな」
ポカンとしていたライスシャワーをそこに残して、俺は先輩たちの元に戻った。あまり待たせるのも悪いだろう。
「お待たせしました先輩。用事が済んだのでこちらは準備OKです」
「そうか、それじゃあウマ娘1人1人の意気込みを聞いていこうとしよう」
意気込み?そんなの聞いてどうするんだろうか、結局は選抜レースでの実力でスカウトは決めるはずだ。それなのに、わざわざ1人1人から意気込みを聞くのか?
「そうですよね!私も気になります、実力も確かに気になるんですけど目標とかを聞くいい機会ですもんね」
葵さんも乗り気みたいだし、とりあえずは俺も合せておこう。そして、参加するウマ娘たちを整列させて1人1人に意気込みを聞くことになった。
『私は3冠ウマ娘になりたいです』とか『私がレースで勝ってみんなに祝福を届けたいだとか』そんなことを言うウマ娘もいたが、どちらも実力は大したことはなさそうだし、声をかけることはないだろうな。
ただ、あの二人は別だ。『私は日本一のウマ娘になりたいです!』スぺは今でこそトレーナーがついてなくて伸び悩んでいるが、その才能は図り切れないものがある。『私は天皇賞春を制したいですわ!』マックイーンはあのメジロ家の令嬢だ。しかも、その実力と才能は噂で聞く限り相当の物だと思える。
「本命はスぺとマックイーンですかね、他のウマ娘はなんというか微妙ですね」
「そうか?途中の黒髪のちっこいやつとか、他にも何人かお前好みそうなウマ娘は居た気がするけど」
「そうですか?彼女は小心者ですし……マックイーンとかに比べると大した実力者じゃないと思うんですけど」
俺がそういうと先輩は無言でウマ娘たちの方を見た。葵さんも参加者のウマ娘をじっくりと見ている感じだったし、俺が気づいていないだけで強いウマ娘が混じっているのだろうか?なんで俺はライスシャワーに可能性を見出していたんだろう。
そして、その予想はほとんど的中していた。スタート直後にマックイーンが先頭を取ってレースを引っ張る。それからレースは殆ど動かずにいたが最後の直線で後ろからスぺが一気に上がってきて、マックイーンが逃げ切れず差される形となった。ライスシャワーは結局後ろのほうから前に上がれずに他のウマ娘たちに埋まってたからな。
「それで、お前らはスカウトするウマ娘は決まったか?」
俺たちはレースに参加したウマ娘たちを待機させて、各々で今回スカウトすることに決めたウマ娘の名前を出していく。3人とも1人しかスカウトする気はないから多分被ることは無いと思うんだけどな。
「俺は予定通りにマックイーンをスカウトするつもりでいます」
「私は……ライスシャワーさんをスカウトするつもりです」
ライスシャワー?あぁ、走りを見たけど結局は大したことなかったな。実力はマックイーンの方が上、前のような走りの力強さも感じられない。
「俺はスペシャルウィークをスカウトする予定だ。各々スカウト先に被りはないから、結果発表するぞ」
先輩が話を取りまとめて、結果発表をする。そして、スカウトに選ばれた3人のウマ娘が俺たちの元にやってきた。
「わっ私ライスシャワーっていいます……今回はスカウトありがとうございます!できる限り頑張ります!」
「あなたの普段からは想像出来ない勝利への執着と、あなたの想いをレースから感じました。これからよろしくお願いしますね」
ライスシャワーが葵さんにぎこちない挨拶をしていた。想いか……確かに重要かもしれないけど、結局は実力がものをいうだろうに。今の俺には理解できなかった。
「前にも会ったことがありますけど、私スペシャルウィークです!よろしくお願いします!」
沖野先輩の方も問題ないみたいだな。スズカに聞く限りだと、スぺは結構人懐っこい性格みたいだし。先輩ともその内うまくやるだろう。
「よろしくお願いしますわトレーナーさん、私はメジロマックイーンと申しますわ……本当に今回声をかけていただけるとは思いませんでしたわ」
「なんでだ?俺がマックイーンみたいな実力者をほっておくわけないじゃないか」
「ほら、意気込みの時に前と同じようなことを言ったでしょう?あの時から色々考えましたけど、まだ自分の中の目標という物が見えていないんですの」
あぁ、そんな事言ったな。俺も何を考えていたんだろうか、マックイーン程の実力者に声をかけなかったのか。当時はスズカとスカイの事で頭がいっぱいになっていたから仕方がないか。
「そんなことか、気にしなくてもいいぞ。マックイーンは自分の才能と実力を俺に見せてくれた。なら、スカウトしない理由はないだろ」
俺の発言にマックイーンは少しだけ唖然とした。葵さんなんか度肝抜かれたような顔をしていたし、沖野先輩は少し厳しい顔をしてた。葵さんの横にいるライスシャワーも悲しそうな顔をしていた。
「そのスカウト待った!」
そんな中で俺とマックイーンの間に突然とゴルシが現れた。なんでゴルシがこんなところにいる、どうしてマックイーンをお嬢様抱っこして拉致ろうとしてるんだ。
「今のお前の言動を見てマックちゃんを預けるわけにはいかない!というわけで後は任せたぜトレーナー!」
「おい待てゴルシ!」
そのままゴルシはマックイーンを抱えて逃げて行ってしまった。追いかけようとも思ったけど、人間の俺じゃあウマ娘のゴルシを追いかけることがとてもじゃないけどできなかった。
「どういうことですか先輩。ゴルシは先輩の差し金ですか?」
「いや、ゴルシの独断だろうな。俺はあんなことをお願いしたつもりはない。でも、ちょうどよかったかもな」
丁度よかった?どういうことだ……先輩の言ってることが俺には理解できない。
「最近のお前少しおかしいぞ?何があったかは知らないけど、今のお前にはメジロマックイーンのことは任せられないと思ったんだよ。本当はお前のチームをまとめて一時的にでも面倒みてやりたいくらいだ」
「そんなこと……先輩が決めることじゃないじゃないですか!」
何をもって先輩にそんな権利があるっていうんだ。マックイーンは俺がスカウトして俺のチームに入るはずだったのに!
「あぁ、俺の決めれることじゃないな。どっちにしろお前はメジロマックイーンの方から捨てられていたと思うけどな」
「なんでそんなこと言うんですか……」
「それはお前が俺の友人で俺の後輩だからだ。後輩が道を踏み外しそうになったら、それを正すのが先輩の役割だろ」
「あんたも俺の邪魔をするのか……なんで!なんで!」
先輩は俺のことを邪魔するような人じゃないと思ってた。ネットで騒いでるやつらや、俺のことを妬んでる一部のトレーナーとは違うって信じていたのに。
「1か月後もう一度話をしようじゃねえか、その時なんも問題がねえようならメジロマックイーンは普通に返すよ。そして俺も、そうなることを祈ってるよ」
先輩は俺にそう言うと、葵さんと一緒に去って行ってしまった。どうしてこんなことするんだ……俺が間違ったことを言ったのか?強くて勝てるウマ娘をスカウトしたいって考えるのは間違ってるか!?
「沖野さんよかったんですか……?紫葉さんをほっといても。明らかになにかありましたよね」
「もしもの時はお前が手を差し伸べてやれ。あれはあいつ自身が乗り越えないといけない問題だからな……だから、できるだけ待ってやってくれ」
俺は帰宅際に病院に寄って行った。最近中々睡眠をとれなくなっていたから、どうにかしないといけないと思っていたところだ。先生にはストレス性の物だと言われて、睡眠導入剤とストレスを緩和する薬を貰って寮に戻った。薬は管理しやすいチームルームの俺の引き出しにしまっておくことにした。
俺は選抜レースでの出来事以来、先輩を見返す為にキングとスズカのトレーニングに力を入れた。キングはいつも以上にやる気を出してトレーニングに励んでいたし、そのあとのG3のレースでも、見事1着を取った。しかし、スズカとスカイはどこか心配そうな顔をしてどこか上の空だった気がする。
そして、スズカのマイルチャンピオンシップ……結果は惨敗だった。
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