トレーナーはウマ娘に夢を見る【完結】   作:Tmouris_

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来週までには多分更新ペースを戻すと思います。


第53話:挑戦!キングの中距離レース!

 今日はキングのG3レースだ、キングからすれば初の中距離レースだけど大丈夫だろうか。マイル以下のレースならジュニアクラスのレースで今のキングが負けるところを想像できないんだけど中距離になると話は別だ。

 

「今日の作戦なんだけど、先行策で行こうと思うんだけど……キングの意見を聞いておきたい」

 

 走るのは結局はキングだからな、それにキングの走りは繊細だ。無理にキングの意見を捻じ曲げるよりも彼女自身の意見を取り込んだほうがいいだろう。

 

「私も同じことを考えていたところよ。悔しいけど、中距離のレースで差しでいける自信がまだないわ」

 

 先行策ならば前に出て、ある程度臨機応変に対応できる。後方ならばレース全体を見ることができるからこそ、仕掛けるタイミングを伺えるし。最後のスパートまで力を溜めることもできるんだけど、タイミングをミスった時のリスクがでかいからな。

 

「勝敗はどうなるかは分からない。だけど本番のレースはトレーニングより多くの事を学べるから、今できる限りの全力でぶつかってこい!」

 

「えぇ!」

 

 俺はキングを送り出して、観客席にいるスズカたちと合流する。今日のキングのレースは俺たちチームレグルスにとって今年最後のレースだから、どうしても緊張もする、けれどそれ以上に気合が入ってる。

 

「キングちゃん大丈夫かな……あの日のレース以来少しだけ自信が無いようだったけど」

 

「心配しなくても大丈夫よスカイちゃん。キングちゃんは誰よりも自信家だもの」

 

「自信を持つのはいいことだ、自分の走りを信じてその時の最大のパフォーマンスを出しやすい。ただ、時にそれは諸刃の剣になる」

 

 自信家っていうのはいいことだが、それを支えになっていることがある。ただ、それを支えに強く依存することもある。もしも自信を破られた時、そういった人間は非常に弱くなるんだ。

 

「それって大丈夫なんですの……?心配する要素しかないのですが」

 

「なんだ?マックイーンもキングのこと心配してくれるのか」

 

「私も入ったばかりとはいえチームの一員ですのよ?チームメンバーの心配くらいしますわ」

 

「なに~マックイーンちゃんクールぶってるけど優しいところあるじゃ~ん」

 

「っわ!スカイさんなんですの!くっつかないでくださいませ!」

 

 最初はマックイーンの事をあまり良く見ていなかったスカイもうまくやってるみたいだな。マックイーンは典型的なお嬢様ってやつだからな、スカイがあまり好きなタイプではない。まぁ、マックイーンの場合時折お嬢様にあるまじき言動をすることもあるからな……

 

『本日出走するウマ娘がパドックに入場します』

 

 スカイたちがじゃれ合っている間にパドック入場が始まった。途中まではキングでも負けないと思えるウマ娘ばかりだったんだけど。

 

『4枠6番ロードアックスです。彼女は早い段階でのデビューを果たし、良い結果を残せずにいましたがかなり調子がよさそうです。二番人気です!』

 

 彼女はレース経験が豊富な分周りよりもアドバンテージがある。それだけならよかったんだが、パドックの様子を見る感じ仕上りはいい。これは厳しい勝負になるかもしれないな。

 

『そして6枠9番キングヘイロー!彼女はデビューから今日まで3つのレースを勝利しています!今日はどんな走りをみせるのか!一番人気です!』

 

『中距離以上のレースに出走するのは初めてですからね。中距離レースでも彼女の実力が通用するのか、注目が集まりますね』

 

「さっきまでしてた心配も問題なさそうだな」

 

「そうですね、キングちゃんやる気に満ち溢れた顔してます」

 

 パドックでのキングはいつも以上に闘志にあふれていた。先日の模擬レースで少し自信を失っていたと思ったが、さすがはキング。現状の実力をしっかり理解したうえで全力を尽くす、その自分を保つ精神力と分析能力は素晴らしいな。

 

「キングさん大丈夫なんでしょうか……3200mを走った時スカイさんとスズカさんはすごかったのですが、キングさんはその……」

 

「あまり速くなかったか?」

 

「そっそういう意味ではないのですが……」

 

 模擬レースでキングはマックイーンに僅差で敗れた。その結果だけ見れば心配になる気持ちもよくわかる。マックイーンは自分に負けたキングが勝てるのかって話だろう。

 

「マックイーンはキングの適正距離がどのくらいだと思う?」

 

「キングさんの適正距離ですの?やはりマイルが得意で中距離も少々と言ったところでしょうか……」

 

「違うな、キングは元々は生粋のスプリンターとして育てられていたし、その才能もスプリンターに寄っていると俺も思ってる。マイルでさえギリギリの勝負だった」

 

 キングの担当になった当時はスタミナの無さが問題だった。クラシック路線を目指しているのに中距離を走り切るには、あまりにもスタミナ不足が目立ちすぎた。

 

「スカイはどう思う?キングはこのレースを走り切れると思うか?」

 

「勝てるかは分かんないけど……走り切れるよ、キングちゃんはそれだけ頑張ってきたんだし」

 

 キングの根性はすさまじいものだ。最後まであきらめないその姿勢が彼女のスタミナを鍛える上で大きなアドバンテージとなった。まだ、スカイほどのスタミナを持っているわけではないが、マックイーンはステイヤーとしては彼女の世代では最強と言えるだろう。そのマックイーンとギリギリの勝負ができる程彼女は成長した。中距離レースくらいなら走り切ってみせるだろう。

 

「というわけだけどマックイーン、これでもまだ心配か?」

 

「いえ……そこまで言われて信じられない私じゃありませんわ。本当にこのチームは素晴らしいですわね」

 

 マックイーンが改めてこのチームを認めてるわけだけど、理由を聞こうと思ったところでゲートインが完了した。さぁキング、お前が中距離でも戦っていけるってことを見せつけてやれ!

 

『2000m芝天気にも恵まれ、本日のバ場状態は良となります。晴れ渡る空の下、2000m先のゴールを目指し今……スタートしました!』

 

 キングのスタートは悪くなかった。出遅れるこはなく、かつ中段に飲まれることもなく走り出せたな。このまま良い位置に付けそうだが。

 

「二個目の集団の二番手についたな」

 

「キングちゃん良い位置につきましたね~」

 

「そうなんですの?先頭集団からも離れてますし、後ろの集団の二番手ですのよ?」

 

「いや、あれはキングの得意な位置だよ。位置取りは決して悪くない」

 

 先頭集団は逃げウマ娘か、それに引っ張られて掛かってしまってるウマ娘だけだし、第二集団の二番手ってのは差しウマ娘のキングにとっては理想の位置といってもいい。いつでも仕掛けて抜かせる位置にいるし、ペースは先頭のウマ娘が作ってくれるから仕掛けるタイミングに集中できる。

 

「先頭ってのは自分でペースを作らないといけないから意外と負担かかるんだよ、差しウマ娘のキングは余計そうだろう」

 

 勿論スズカみたいな例外もいるし、自分でレースをコントロールしたがるスカイなんかは先頭で走るのが得意だけどな。まぁ、これに関しては相性と経験が物をいうから、いつかはキングもできるようになるとは思うんだけどな。

 

『1000mを通過し先頭集団が後方集団をさらに引きはがします!後方集団のロードアックスはまだ仕掛けません!』

 

「先頭集団が明らかに掛かってハイペースになっているな」

 

「そうですね~でもレース中のみんなは気づいてないかもしれないですね」

 

「大丈夫よキングちゃんはしっかりと分かってるから」

 

 そろそろ、レースが動くころかな。後方集団が少しずつしびれを切らしてきている。ロードアックスも終盤に備えて少しずつペースをあげてはいるけど、その後ろにいるウマ娘たちはじれったくてしょうがないだろう。

 

『おぉっと!後方集団がしかけ始めました!集団を率いていたロードアックスとキングヘイローはいまだに動きません!』

 

「みなさん前に出始めたけど大丈夫ですの!?キングさんはまだ前に行きませんわ!?」

 

「まぁまぁ~マックイーンちゃん落ち着いて落ち着いて」ペシ

 

「いってぇですわ!」

 

 全くこいつらはレース中になにやってんだか……スカイはマックイーンへのあたりが少し強い。今だってスカイのチョップを受けてマックイーンうずくまってんじゃねーか。

 

「お前ら!遊んでないでレースに集中しろ!」

 

「ごめんなさい……」

 

「私は悪くないじゃないですの!」

 

「キングちゃんたち動きますよ!」

 

『レースは残り600m!ここに来てロードアックスとキングヘイローの二人が仕掛けます!グングンとスピードを伸ばし!1人また1人と追い抜いていきます!』

 

 ロードアックスとキングの二人の勝負になりそうだな。他のウマ娘はスタミナもギリギリでラストスパートについてこれないか、二人のスピードにそもそもついてこられない。

 

 

(仕掛けるタイミングを間違えば確実にレースに負ける……早く仕掛けても差し返される。仕掛けるのが遅くても差し切れない!)

 

 私たちはそれだけ実力が拮抗していた。一瞬の迷いが、判断の遅れが勝敗を決する。絶対に見逃しちゃいけない、その一瞬を!そう考えていると前にいるロードアックスがペースをぐっと落とした。

 

(なんでこのタイミングにペースを?いや!そんなことを考えている暇じゃない!ここで差さないと!)

 

 一瞬だけ相手のペースダウンを疑問に思ったが、すぐにキングは差し切る体勢に切り替えた。その判断の早さはキングの強さがでた……しかし、その一瞬の疑問を抱いた時間も相手は見逃してなかった。

 

『ロードアックスが仕掛けた!一気にスピードを上げていきます!その後ろから少し遅れてキングヘイローもスピードを上げていきます!』

 

 

「くそ!やられた!」

 

「どうしたんですの!?」

 

「キングちゃんまんまとはめられちゃったね……」

 

 キングは真後ろにいたせいで気づかなかったかもしれない、いや真後ろにいて良く観察してたからこそ引っかかったのか。ロードアックスは加速のための踏み込みをあえて大きくすることで減速してるように見せかけたんだな。その減速にキングは騙されたんだ、そのままロードアックスは強い踏み込みのまま加速した。

 

 

(出遅れた!私としたことがハメられましたわ……)

 

 どうすればいい!ここから逆転する方法を考えるの!諦めちゃダメよキング!まだレースは終わってないんだから!……違う。

 

(落ち着きなさい……確かに出遅れたけど、まだ差し返せない距離じゃない!冷静になるのよキングヘイロー!)

 

 スタミナもギリギリで足も重いのになぜか私は力が湧きだすような感覚があった。冷静になることで余計な力が抜けたのかもしれない。これならいけるわ!

 

『おっと!残り200mでキングヘイローが一気にスピードが上がっていく!ここから差すかキングヘイロー!ロードアックスも負けじとラストスパートをかけている!』

 

『キングヘイローの方がスピードが速いですね、ゴールするまでまだ勝負はわかりませんよ!』

 

(このままいけば……いける!)

 

『残り100mでキングヘイローがロードアックスに並んだ!このまま追い抜くことができるか!』

 

 キングはこのまま差し切ろうとしたけど、そこでもう一歩前に足が出なかった。極限状態で気づかなかったが、彼女の足はもう限界を迎えていたのだ。むしろラスト100mまでスピードを出し切れたのが凄いくらいだ。

 

『キングヘイローがここで減速!ロードアックスが前に出てそのままゴールイン!ロードアックスが一着でゴールインしました!2着は1馬身差でキングヘイローです!』

 

 

「俺はキングのところに行ってくるから、みんなは帰る準備をしといてくれ」

 

「私たちはキングさんのところに行きませんの?」

 

「いいからいいから~マックイーンちゃんも片付けの手伝いしてね~」

 

 ありがとうスカイ、キングもみんながいたら嫌がるだろうしな。スズカも分かっているようで笑顔で俺のことを見送った。スズカも走ることしか考えてないようで、チームができてからはチームメンバーをよく見ている。

 

「キングお疲れ様、惜しいレースだったな。最後のスピードは俺も驚かされた」

 

 最後のスパートは今までに見せたこと程速いスピードだった。あのまま走り切れていたなら、仕掛けるタイミングを間違えなければ……いや、やめよう。今回は完全に実力で敗れたんだ。

 

「そうね……でも私は負けてしまったわ。全てを上回られた気がするわ」

 

 キングは今回の敗因を自分で理解していた。なら俺からこれ以上いうことはない、自分が良く分かっていることをさらに言われてもイライラするだけだろうしな。

 

「それよりも、スカイさんたちは来ていないのかしら?」

 

「あぁ、片付けを頼んできたからな。呼んできたほうがよかったか?」

 

「いえ……いいわ」

 

 そういうと、キングは俺の袖を掴んで俺の胸に顔をうずめてきた。顔は見えない、だけどわかる。キングはここまで負けなしだった、初めての敗北って言うのは辛いものだ。キングは俺の胸の中で泣いていた。

 

「勝ちたかった!でも勝てなかったわ!私の実力が足りなかったから!最後にスタミナが残っていれば確実に差し切れていたわ!」

 

 キングは賢いウマ娘だ。自分の敗因がわかっているってことは自分の実力不足も強く実感しているんだろう。元々負けず嫌いでプライドが高いのもあるだろうが。

 

「そうだ、今日は負けた。実力が足りなかった。だったら、俺たちがやるべきことはわかるなキング」

 

「えぇ、私はもっと強くなるわ。スカイさんやスズカさんにマックイーンさんにも負けないぐらい強くなる!こんなところで諦めてたまるもんですか。私はキング、いずれ一流のウマ娘になるキングヘイローなのだから!」

 

 キングは強いな。レースが終わったばかりでレースの最後の瞬間が脳裏に残っているだろうに、彼女はそれをもう乗り越えようとしているんだ。これから、キングはまだまだ強くなれるはずだ。

 

「もういいわ、ありがとう。私はウイニングライブの準備をするから、スカイさん達のところに戻って観客席をとりなさい。私が出るウイニングライブを盛り上げてもらわないといけないわ!」

 

 キングは俺から離れれると高笑いして、ウイニングライブの準備をし始めた。俺はキングの元を後にしてスカイたちに合流した。すでに観客席も抑えていて準備万端と言ったところだ。一番最初に俺のところに来たのはスズカだった。

 

「キングちゃん大丈夫そうでしたか?」

 

「あぁ、キングの心は強いよ。俺なんかよりも立派なもんだ。それよりも、キングのこと心配してくれてありがとうな。お前は本当にチームメンバーのことを大事に思ってくれてる」

 

 俺はスズカにそう言いそのまま彼女の頭を撫でた。ちょっと前までは人と関わるのが苦手で走ることにしか興味がないような彼女も、仲間を大事に思って心配してくれてるのが何だか嬉しかった。

 

「いえ、キングちゃんは私にとって大切なチームメンバーでチームの後輩ですから!」

 

 レグルスはできたばかりだけど、メンバー同士の絆はしっかりと出来上がってきているんだな。元々仲が良かったスカイとキングだけじゃない。スズカやマックイーンもしっかりと互いの事を気にしてる。

 

「そうだな、それじゃあキングのウイニングライブをしっかりと盛り上げないとな!」

 

「はい!」

 

 ウイニングライブに出てきたキングは少し疲れを見せながらも、終始笑顔を振りまきウイニングライブを無事に終え、チームレグルスの今年最後のレースを終えた。来年はスカイもデビューして二人のクラシック戦が始まるし、スズカも宝塚記念を目指す。来年は忙しい1年になりそうだ。

 

 

チームレグルスで1番好きなメンバーは?

  • サイレンススズカ
  • セイウンスカイ
  • キングヘイロー
  • メジロマックイーン
  • トレーナー
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