今日はスカイのデビュー戦当日だ。先日こそキングが倒れるなんてアクシデントが発生したけど、そのあとのトレーニングは順調でスカイはレースで十分に戦っていけるスピードは身に着いたと思う。
「それにして、ガッチガチだなスカイ。いつものフワフワしたお前はどこにいったんだ?」
「トレーナさんは緊張してないの!?いくら私だって緊張位します~」
まぁ、緊張してないって言えば嘘になる。スズカとキングに続いてスカイのデビュー戦で三回目だ。嫌でも慣れという物は来る、あんまりデビュー戦の緊張に慣れすぎてるってのも問題だ。出走するスカイはこうやって緊張しているし、トレーナーである俺は冷静でいられるくらいがちょうどいいのかな。
「とりあえず、今日の作戦について先に話し合っておきたいんだが」
「今回は先行策を取ろうと思うんですけど、どうでしょうかトレーナーさん」
先行策?スカイは自分の得意な逃げを打つと思ったんだけどな。先行策を取るって自分から言ったからにはきっと勝算はあるとは思うんだけど、逃げではなくて先行策を取ろうと思ったのか。
「お前の実力と脚質的には逃げを打つと思ったんだけど。先行策にしようと思った理由は何だ?」
「逃げ切れる自信がないんです……スズカさんは私と違って非凡な才能が有りましたから逃げ一筋でやってこれたかもしれないけど、私は平凡だからそんなにうまくできる気がしないんですよ」
スズカが非凡と言うならスカイも非凡だろうに。だけど、その非凡な才能を活かすことができたのは紛れもなく本人たちの努力の成果だ。となりの芝は青く見えると言うが、スカイは自分が平凡な家系な出を少しコンプレックスに感じているところがある。そんな自分とスズカ、最近入ってきたマックイーンを重ね合わせて劣等感を抱いていたのかもしれない。先行策でも今のスカイなら十分に勝てると思うし、自信を付けるという意味ならやる価値は十分にある。
「わかった。今日の作戦は先行で行こう」
「わかりました~」
「最後に……スズカーそろそろ入ってきてもいいぞ」
「え!スズカさんここまで来てるんですか?」
レース前には本人が集中力を乱してしまうことがあるから他のウマ娘を準備室にはあまり入れない。けど、スズカがどうしても言いたいことがあるらしいから特別に連れてきた。多分キングに言った事と同じことを言いたいんだと思うけど。
「スカイちゃん随分と緊張してるみたいね」
「スズカさんはデビュー戦緊張しなかったんですか?」
「そんなことはないわ。私だって最初は緊張してたのよ」
そういえばスズカも緊張していたな。すぐに緊張は解れてレース本番を迎えていたけど、あの時に俺が言った事が割と今のスズカに影響してると思うと嬉しいようななんというか。
「スカイちゃんは走るのは好き?」
「まぁはい、もちろん好きですよ?」
「それじゃあ、初めてのレース楽しんできてね。模擬レースやトレーニングと違った色んな感覚を体験できると思うから……それと、トレーナーさんのためにも頑張らなきゃね……」
「っちょっちょっとスズカさん何言ってるんですか!」
スズカがスカイに何かを耳打ちした後にスカイは顔を真っ赤にして声をあげた。どうしたんだろうか……何か変なことを吹き込んだんじゃ!いや……スズカがそんなことをするはずもないか。
「ふふ、スカイちゃん緊張解れたみたいね」
「も~、そうですけど……」
「作戦会議はここまでだな、いい感じにスカイの緊張もほぐれたし」
スカイも一人で集中する時間が欲しいだろうからあんまり長居するわけにはいかないし、キングとマックイーンに合流もしなきゃいけないしな。
「自信をもってけよスカイ。お前の実力は誰が否定しても、お前自身が否定しても俺が保証してやる」
「はい!」
スカイを送り出して、俺たちは観客席にいるキングとマックイーンに合流したんだけど……マックイーンがめちゃくちゃソワソワしながら待っていた。そんなマックイーンを見ていたせいか逆にキングは冷静でいた。
「なんでマックイーンがそんなにソワソワしてるんだ?」
「だって、朝会った時からスカイさんガチガチでしたのよ!?心配しないってほうが無理な話です」
「パドックでの様子を見て見ればわかるよ、スカイならきっと大丈夫だ」
俺も準備室でスカイの顔を見た時は少しヒヤヒヤしたけど、俺が部屋を出るときにはキリッとしていたし大丈夫だろう。スズカと話した後は自然と緊張も解れてたし、スカイはいざって時はやる気を出してくれる。
『本日出走するウマ娘たちがパドックに入場します!』
スカイは8枠16番大外からのスタート……かなり不利なスタートになるけど、スカイも何も策略なしでいるわけじゃないだろう。基本的にはメンバー本人の意見を尊重したうえで作戦を立てるようにしているけど、実際に走るのはスカイ本人だ、走ってるウマ娘のアドリブ力と判断力が試される。
『8枠16番セイウンスカイ!彼女はチームレグルスの3人目のデビューウマ娘です!大外のスタートということもあり5番人気です!』
スカイはいつもみたいにフワフワしながら観客席に向かって笑顔で手を振っている。途中で俺たちがいることに気が付いたのか、少し背伸びをして大きく両手で手を振る。周りから少しだけ視線が集まって恥ずかしいからやめなさいスカイさん。
「スカイさんいつもみたいにマイペースなのにその目が闘志に満ち溢れてますわ」
マックイーンの言う通りスカイは今までで一番闘志に満ち溢れてる。はたから見たらデビュー戦なのに緩んだ態度を取ってるように見えるけど、スカイは勝気満々だな。自信がないから先行策を取ろうなんて言ってたけど、この雰囲気じゃ逃げでそのまま勝ってしまいそうな勢いだ。
「へーよく気が付いたな……マックイーンはスカイのことよく見てるんだな」
「そっそういうわけじゃないです!いつもからかわれているせいでついつい視線が向いてしまうだけですわ!」
いやーうちのチームはみんな仲良しでいいな。うちのチームの中では新参のマックイーンとスカイが仲がいいのは良いことだ。まぁ、スズカもキングもしっかりとスカイの様子には気がついてる様子だけど。
「冗談はともかくとして、パドックの様子を見た限りスカイ本人にも問題はなかった。新年までデビューを引っ張ったウマ娘が集まってるだけあってデビュー戦にしては平均してレベルは高いが、スカイはその中でも頭1個抜けた実力があると俺は思ってる」
「スカイさんは私に勝ったうえでクラシック三冠を取ると言ってるのよ?こんなところで負けるわけがないわ!」
スカイの強敵になりえるウマ娘は同期にキング、スペ、グラスワンダー、エルコンドルパサーの4人くらいだろうな。スカイも含めてこの5人はずば抜けた才能と実力を持っている。スカイとキングは俺のチームで、スペは沖野先輩のチーム、グラスワンダーは葵さんのチーム、エルコンドルパサーは東条さんのチームで鍛えられている。全員知り合いってところが何とも言えないんだけど。
『出走予定のウマ娘たちが今ゲートインしました』
(あぁ……本番のレースってこんなワクワクするんだ。5番人気で周りからは警戒されてないのに、そこから一気に勝利したらかっこいいよね……!)
トレーナーさんには自信がなくて先行策で行くなんていっちゃったけど……あんなこと言われたら勝手に自信湧いてきちゃうなぁ。スタートはスズカさんほどうまくはない、それでも私はこのレースを……逃げ切る!
『中山競バ場1600m曇、馬バ状態は稍重となります』
『1600m先のゴールを目指して今……スタートしました!』
まずは先頭を取って、レースを引っ張る。そうすれば後は私の得意な位置で戦える。私は1600mを走りきれるスタミナがある、ただそのスタミナを活かしきれるスピードがない。このレースで私が勝つために重要なのは私のスタミナをゴールするまでにしっかりと使い果たすこと。
『おぉっと!セイウンスカイが大外から一気に前に出てレースを引っ張ります!』
『少し掛かり気味でしょうか。しっかりとここから落ち着くといいんですが』
私が掛かり気味?こんなペースで走ってたらスズカさんと走ってたらあっという間においてかれちゃう。私が保てる限界のスピードで走ってはいるけど……後ろを見て見ると二番の娘とはすでに距離が離れていた。
「スカイのやつそろそろ気づいた頃か」
レースがスタートして大体4分の1が終了した。その時点で他の逃げウマ娘とは2バ身から3バ身離れていた。二番のウマ娘が先行策ってわけじゃない、逃げを打ってはいるがスカイに追いつけないんだ。スカイはキングやスズカみたいなスピードはないが、そのスタミナはスカイの世代じゃスペやエルコンドルパサーと比べてもずば抜けてる。そのスタミナをもってすればスピードが特別速くなくてもハイペースを維持できる。
「スカイちゃんは自分に自信を持てなかっただけで実力は高いんだから」
「スズカさんの言う通りね、彼女が実力不足なんて言ったら私が自信を無くすわ」
スズカやキングの言う通りだ、スカイはチームの中で一番スズカと走ってきたんだ。逃げウマ娘としてはトップクラスの実力を持っているスズカと走ってきたんだ。その経験値は並じゃない、レースで十分……十分すぎる程の実力がある。
『1000mを通過して依然として先頭はセイウンスカイ!後続のウマ娘たちも懸命に追いかけますがセイウンスカイの後ろにつけません!』
「後続も全体的に引っ張られてハイペースになってる」
「中山の180m手前からゴール70m前までは急坂がありますわ。そこでさらにスカイさんが前に行きますわ!」
「キングちゃん随分とここの競技場に詳しいのね」
「いずれは走るかもしれないので調べただけです!」
『レースはすでに半分を終えました!セイウンスカイが速い!まるで同チームのサイレンススズカを彷彿とさせる走りです!』
スカイは確かに速い。だけどスカイの真骨頂はそこじゃない。今でこそ周りと実力差があって分かりにくいが、スカイが得意なのはレース中の駆け引きと煽りスキルだ。レース前までのフワフワしたスカイの雰囲気を見てた周りのウマ娘は、そんな緩みきったウマ娘に負けてたまるかと触発されてペースを上げたんだからな。
『レースは残り200m!ここからは急坂に入り最後の勝負どころです!』
『セイウンスカイはまだスタミナに余裕をもっていそうですし、このままトップで走り切るかもしれませんね』
あぁ、急坂か~。坂って走るの辛いんだよね、トレーニングではイヤってほどトレーナーさんに走らされたし。スズカさんには最初の1回目しか勝ててないし。そう考えれば、この程度の坂ならどうってことないよね!
『セイウンスカイペースが落ちない!急坂をそのまま駆け上がっていきます!』
(私は3冠を取るんだ!こんなところで負けてられない!)
『セイウンスカイがさらにペースを上げて!そのままゴールイン!』
「それじゃあスカイのところにちょっと行ってくるから、ウイニングライブの席どりよろしく頼むな」
「もちろんです!特等席を取ってお待ちしていますわ」
俺はスズカたちにウイニングライブの場所取りを任せてスカイのところに向かった。せっかく勝ったってのにゴールの後ずっと一人じゃ寂しいだろうしな。
「スカイお疲れ様。先行策で行くんじゃなかったのか?」
「いや~レース前にトレーナーさんにあんなこと言われて頑張っちゃいました」
俺が話しかける頃にはスカイはいつも通りのフワフワしたスカイに戻っていた。それでも、スカイの顔にはいつも以上に喜んでいるのが良く分かった。
「ウイニングライブ楽しみにしてるからな」
「はい!みんなで盛り上げてくださいね!」
ウイニングライブのスカイはいつも以上の笑顔でキラキラと輝いていた。ついでに俺の隣に居るマックイーンもいつも以上に水色のサイリュームを振って輝いていたんだけど、ウイニングライブの後にそれを見ていたスカイにからかわれて顔を真っ赤にしていた。
チームレグルスで1番好きなメンバーは?
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サイレンススズカ
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セイウンスカイ
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キングヘイロー
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メジロマックイーン
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トレーナー