スカイのデビュー戦が終わった翌日の夜に、前々から計画されてた飲み会を開くことになった。年始のもっと早いうちに開く予定だったんだけど、スカイのデビュー戦があったから少しだけズラして貰ったんだ。
新年初の飲み会ということもあって集まるメンバーもいつもよりも多いんだとか。トレセン学園最強チームのトレーナー東条さんに、スペのデビューによって注目を集めてる沖野先輩、桐生院出身の葵さん、理事長秘書を務めるたづなさん。傍から見ればトレセン学園のヤバいメンバーが集まってるわけだけど。
「よー後輩!お前が一番乗りか」
「今日はトレーニングが休みだったんで少し早めに出れたんですよ」
とりあえず、俺と先輩の2人で飲み屋に先に入ることにした。集合時間よりは少し早いけどそのうちみんなも集まるだろう。
「それにしても、お前んところの新チームは大暴れだな」
「おかげさまで、でも先輩のスペだって大活躍じゃないですか」
スペは去年にデビューしてから3戦2勝で重賞レースでも1着を取っている。おそらくこれからは弥生賞に出走して、そのまま皐月賞に挑むんだと思うが。
「スペのやつ張り切ってんぞ。キングちゃんやスカイちゃんに負けないように頑張らないとって」
「私のところのグラスさんも張り切ってますよ?エルコンドルパサーさんをライバル視しているみたいで、スペシャルウィークさんも意識してます」
俺と沖野さんが話していると、店に着いた葵さんが席に座った。葵さんのとこのグラスワンダーはデビューしたばかりなのにURA賞を受賞したとかで、かなり話題になっていた。
「うちのエルも全員意識してるどころか、サイレンススズカのことまで意識してるわよ?絶対にいつか勝つんだって」
葵さんに続くように東条さんも席に着いた。ここにいるメンバー全員の担当ウマ娘が今年バチバチにやり合うって思うとゾワゾワするな。
「皆さんのチームメンバーもそうですけど、トレーナーさん達も
注目されているの忘れないでくださいね?」
続々登場で全員集まったかな?って思ったらたづなさんの後ろにも1人だけいた。なんか細身の人だけどみたことないな。
「どうも、南坂です。よろしくお願いします」
南坂トレーナーが1番後方にいた。俺はあったことはないけど、誰かの知り合いなのだろうか?
「よーし全員集まったな乾杯するぞカンパーイ!」
「「「「カンパーイ!」」」」
「それで、南坂さんってどんな人なんですか?」
「担当が付いたからってこいつが連れてきたのよ」
なんだかんだ言って沖野先輩の顔は広い。変わった人だけど何故か1部からはしっかりと人望がある。やっぱり根がいい人には人が集まるのだろうか。
「よろしくお願いします南坂さん。俺は柴葉っていいます」
「お噂は聞いてますよ。そして、噂通りの人じゃないってこともね」
トレセン学園のトレーナーってみんな俺の噂を知ってるんだな。まぁ1年目の新人がクラシック1冠と天皇賞秋に加えて、デビューして3勝したキングに新年から勝利したスカイの3人を活躍させたんだもんな。
「沖野先輩から何か聞いたんですか」
「いえ、あなたのチームのトレーニングを見たことがありますし、レースも見ました。トレーニング方式は独特ですが悪いとは思わないし、ウマ娘の才能だけじゃレースであれだけ凄い走りはできないですよ」
「そう言って貰えると気持ちが楽ですよ」
まぁ、沖野先輩がここのメンバーを悪く言う人を連れてくるとは思ってなかったけど、こういうことを言われると安心する。認めてくれる人はしっかりと認めてくれるんだって。
「ていうか、たづなさんと桐生院が凄いハイペースで飲んでるけど大丈夫なの?」
「東条さんなんれすか?このくらいのペースなら余裕れふ」
「そうですそうです!秘書だからってお酒ガバガバ飲まないわけじゃないんですー!」
葵さんは呂律が回ってないし、たづなさんは饒舌になって生ビールのジョッキを振っている。葵さんは普段は度数の弱いお酒をちょびちょび飲んでるけど、今はたづなさんと一緒に生ビールをグイグイと飲み干している。
「ほら葵さん水飲んで水」
「う〜柴葉さーん!」
葵さんがジョッキを置いて俺に抱きついてきた。あぁ……葵さんってこういう酔い方するタイプだった。というか葵さん?僕も一応男性なんですけど、そういう風に密着されると困るんですけど。
「どうしたんですか葵さんらしくもない」
「聞いて下さいよ!ライスちゃんがーライスちゃんがー!」
「はいはいライスシャワーがどうかしたんですか?」
葵さんのチームは十分に活躍してる。ハッピーミークはクラシックで1冠を獲得し、グラスワンダーも活躍してURA賞を獲得した。ライスシャワーに何かあったっぽいのだが、葵さんは担当ウマ娘に当たるような人じゃないし自分で抱え込んでしまったんだろう。
「ライスちゃん才能はあると思うんです……いやあります!ただ、少し臆病というか自責の気持ちが強いというか、ミークやグラスさんの活躍を見て自分に自信が無くなってしまったのかトレーニングにも力が入っていないんです……」
そうか……たしかに周りに実力も才能にも溢れているウマ娘が2人もいれば自信を失うこともあるだろう。自責の気持ちが大きいライスシャワーなら余計に辛いと思う。
「気持ちが分かるなんて言えません……だけど、葵さんならきっと答えを導けると思う。ハッピーミークとも最初は上手く行ってなかった、それでも今では彼女はあなたを信頼してついてきている。その経験が活かされる時じゃないですか?」
「じゃあ、柴葉さんも手伝ってくださいよ〜私1人でやれるか分からないですし」
ライスシャワーは選抜レースまでに1度立ち上がった。だからあの日のレースに彼女は参加していた。それなのに俺は彼女を冷たい言葉で跳ね除けた。だから、俺にも責任はあると言えばあるんだけど……俺に出来ることがあるのか?
「まぁ、俺に出来ることがあるなら可能な限り手伝いますけど……」
「本当ですか!じゃあ次のトレーニング休み空けておいてくださいね!」
「ほら、桐生院こっち来なさい涙やらなんやらで顔ぐちゃぐちゃじゃない」
葵さんは東条さんに連れられて化粧室に連れてかれた。女性にしかできないサポートもあるだろうし……この中に女性が1人だけじゃなくて良かった。
「たづなさん、葵さんに変わってといっちゃなんですけど俺が付き合いますよ」
「柴葉トレーナーですかーあなたも私のことダラしないとか思ってるんですか?いつもは気を引き締めてるからこんな時くらいいいじゃないですかー」
「いやいや、そんなこと思ってないですって」
たづなさんは学園長秘書。やる仕事の量は俺たちトレーナーの比じゃないはずだ。それに立場ってものもある、学園長秘書がダラダラしていたり緩んでる所を学園で見せるわけにはいかないだろうしな……
「柴葉トレーナーの例の誹謗中傷も止めようとはしたんです。あなたみたいにウマ娘と真剣に向き合って真面目に取り組む優秀なトレーナーは多くはありません。ただでさえトレーナーの人数は少ないのに、変な人は出てくるし。何よりも世間の目には勝てません……」
この人も俺たちと違う舞台で理事長と戦ってるんだ。自分のためじゃないウマ娘みんなのために、彼女達の幸せのために頑張っているんだ。
「たづなさんは立派ですよ。こうやって今でもウマ娘達のことを苦しんでるってことはそれだけ彼女達のことを思ってるってことじゃないですか」
「そう言ってくれたのはあなたが初めてですよ……すいません湿っぽい話をしました」
「そうですよ!せっかくの飲み会なんだから飲みましょう!」
なんでもかんでも酒に頼ってたら悪いことが起こりはするけど、酒の力ってのも必要なことだってあるんだ。心を守るってのはそれだけ大切な事だから。
「お前ら楽しそうに飲んでんじゃねーか!俺らも混ぜろって。なぁ南坂」
「はは、お手柔らかにお願いします」
その後の飲み会は数時間に渡って行われた。俺はそこそこ酒には強い方だと思ったんだけど上には上がいるもんだな。南坂さんはあんだけ飲んでもケロっとしてるし、今は沖野先輩に肩を貸して寮に送っていった。葵さんは東条さんに連れられて女性寮に運ばれてったし。
「たづなさん歩けますか?」
「何言ってるんですかーほら真っ直ぐ歩けてるじゃないですか」
そう言って数歩フラフラと歩いてからたづなさんが転けた。ダメだこの人、1人で家まで行かせたら途中で倒れてそのまま寝そうだ。俺は適当なタクシーを拾って、たづなさんを家まで送ることにした。
「たづなさん家の前まで着きましたよ?」
「え〜もう着いたんですか?もう1軒くらい回りましょうよー」
俺はたづなさんの言うことを無視してカバンの中から鍵を拝借した。男女の差とかプライバシーとか言ってられない、たづなさんすんごい力強いしなりふり構ってられない。
「って……なんじゃこりゃ……」
たづなさんの部屋は散らかり放題だった。ウマロングZEROやらの鮭缶が詰まった袋が何個もあったり、服や下着が出しっぱなしだったりとめちゃくちゃだ……足場を探しながら何とか布団にたづなさんを寝かせた。
(一応上着位は脱がせてあげた方がいいよな)
そう思ったらたづなさんが自分で上着を脱ぎ始めた。酔っ払いながらも寝ずらかったのか……って待ったそれ以上脱いじゃいけない。
「たづなさん!?俺まだいるんですけど!」
俺は急いでその手を止めようとしたら、その手をそのまま掴まれてたづなさんに抱き抱えられてしまった。俺はそこから何とか抜け出そうとしたんだけど、たづなさんの力が強すぎて抜け出せなかった。
「ごめんなさい……守れなくって」
たづなさんは飲み会に呼ばれるだけあって沖野先輩とも繋がりがある。あの時のことを聞いて気負いしていたのかもしれない。たづなさんは理事長秘書であると同時に、学園のウマ娘だけじゃなくてトレーナーまで気にかけてくれてるんだ。
(あぁ……どっちにしろ抜け出せないし明日のことは明日の俺に任せよう)
俺は半分諦めて眠りについた。酒が回ってたってこともあって、少し気を抜いたらそのまま意識を失った。明日もトレーニングあるんだけどな……
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