目を覚ますと横にたづなさんはいなかった。部屋に散らかっていた衣類だけがタンスに雑に放り込まれており、玄関までの足場が確保されていた。書置きに『大変すみませんでした』の1文だけが残されていた。
(とりあえず……トレーニングの準備しないとな……)
放課後に今後のことを話すためにみんなをチームルームに集めた。それはいいんだけど……チームメンバー4人全員が機嫌が悪そうだった。悪そうというか悪い。マックイーンとかはそこまででもなさそうなんだけど、スズカとスカイの機嫌の悪さが尋常じゃない。キングさんもなんでそんなに機嫌悪そうなの?マックイーンみたいな感じじゃないの?
「トレーナーさん?とりあえずそこに正座してください」
「はい……」
俺は4人の目の前でスズカに正座をさせられた。なんか怒られるようなことしたっけかな……いや、心当たりはあるんだけど、あれは今朝あったばっかりだし……みんなが知っているはずはないんだけど。
「昨日の飲み会の後、そのまま女性の家で一夜を共にしたって言うのは本当ですか?」
「なんでお前がそれを!?」
っは!自ら墓穴を掘った!待ってスズカさん?そんな目で俺を見ないで。顔は凄い笑ってるんだけどその目が笑ってないから!スカイは顔を膨れさせてるし、キングはムスッとしている。
「へ〜本当だったんだ。トレーナーさんがそんなことしてもいいの?」
「違う誤解なんだって!あれは酔っ払ったたづなさんを介抱して家まで運んだら!」
「運んで普通そのまま泊まるかしら?」
っく!こういうところはしっかりと冷静にキングがつっこんでくる。でも、俺が言ったことは事実だし弁解の余地がない!かと言ってたづなさんに捕まってというわけにもいかない。
「あの日は何もなかったんだ!本当だ!」
俺が渾身の命乞いをすると、スズカがため息をついていつもの表情に戻っていた。もしかしたら、許してくれたのかもしれない。
「トレーナーさんがそこまで言うなら本当だと思うんですけど……埋め合わせはしてくださいね?」
埋め合わせってどういうことだ。俺は昨日の飲み会でここのメンバーと約束を破るようなことはしていないはずなんだけど。今朝は学園の授業もあったろうし予定もなかったはずだ……いやここで口答えするのはやめておこう。
「今度の休みは予定があるからその後の休みなら大丈夫だ」
「何言ってるんですかトレーナーさん。スズカさんだけじゃなくて私たち全員に決まってるじゃないですか〜」
「はい……」
俺の貴重な休日が消えていく……って話が脱線したどころか本題に乗ってすらない。俺の命乞いに時間を使いすぎたから早くこれからの話をしないと。
「とっとりあえず、この話はここまでにしてミーティングを始めよう」
俺は立ち上がって、ホワイトボードの横に立って今後の方針について話し始めた。
「スカイは3週間後にあるジュニアカップに出走してもらう。トレーニングの内容だが、弥生賞まではとりあえずはスピードトレーニングを行う。詳しい内容はまた後で教える」
「は〜い」
「キングは弥生賞までひたすらスタミナトレーニングだ。弥生賞までレースはないが気を緩めるな」
「わかったわ」
とりあえずは2人のトレーニング方針は大雑把に言えばスピードとスタミナ強化。細かい内容はここでは言わない。2人はチームメイトだが、それと同時に同じレースで競り合うライバルでもあるからな。
「マックイーンはスカイとキングのトレーニング両方に参加してもらう。スズカは基本的にはスタミナ強化がメインだからキングと同じだ」
「「はい!」」
「とりあえず今日マックイーンはスカイとグラウンドに。スズカとキングはいつものコースに向かってくれ」
ミーティングを終えて、俺はスカイとマックイーンと一緒にグラウンドに向かった。今日はキングたちのトレーニングを見る予定だけど、トレーニングの内容と目的を話さなくちゃな。
「スカイの走りは逃げで先頭を取ってレースメイクするのがメインの走りだ。時には相手を揺さぶったりすることもあるが、それらをするのは基本的にはレース中盤だ。そのために必要なのはなんだ?」
「う〜ん、前提条件として抜かれないことが大事だからスピードが大事でしょ?」
「それはそうだ。だけど、レース中盤でスピードを上げることも必要になってくる。もちろん中盤でスピードを上げるのはスタミナを使うが、スタミナの量じゃお前はピカイチだ。そこらは心配する必要はないけど、負荷を減らすために練習は必要になる」
それに、逃げウマ娘が先頭を取られて蓋をされるのが1番危ない。逃げウマ娘は基本的には自分でペースメイクをして走るのがメインだから、目の前に壁があると上手く走れない。
「そのためにスカイは2000mを走って、マックイーンは1000m通過地点からスカイを全力で追いかけろ」
「私は2000m走らないんですの?」
「マックイーンのスピードじゃスカイに2000mついていけない。これはあくまでスピードトレーニングだからな、マックイーンが2000m全て走り切る必要はないんだ」
「そうですか……」
さすがにストレートに言い過ぎたか?でも落ち込んでるというよりか納得できないって顔してる。とりあえずは予定通りのトレーニングを行っていこう。マックイーンもスカイとの実力差は分かってると思うし納得してくれるだろう。
「今日はキングたちのトレーニングをメインで見るから、何かあったら連絡してくれ」
そう言って俺はマックイーンを連れてキングたちのいる所へと向かった。一応マックイーンも参加することもあるし、スカイも賢いやつだから問題は起きないとは思うんだけど。
「キングはペースを調整する術を身につけるんだ。このロングコースの往復は菊花賞の何倍もある。けど今までみたいにがむしゃらに走るだけじゃだめだ、ペースを調整してしっかりと力を使い切って走りきるんだ」
「トレーニングだからこそ限界に挑戦して走るべきじゃないのかしら?」
トレーニングは自分の力を伸ばすためにしている。そのためには限界の挑戦して走り続けるのもいい、もちろんオーバーワークは良くない。だけど、スタミナを伸ばすためには継続的に長い距離を走りきることも大切だからな。
「限界に挑戦するのも大事だけど、しっかりと長距離を走りきることが大事なんだ。これを繰り返していればペースメイクにも慣れるし、スタミナも上がっていく」
今日までの厳しいトレーニングでキングのスタミナは底上げされただろう。これからはそのスタミナを伸ばしつつ、長い距離を走るためのスタミナ管理を鍛えていくべきだ。
「分かった。とりあえずはそれでやってみることにするわ」
うちのチームメンバーは全員素直でいい娘ばっかりだ。トレーニングの中で自分でその意義を考えて、効率よく自分の体を鍛えていく。トレーナーとしては大歓迎なのだが、なんというか物足りなく感じる時もある。
「スズカはいつものこれな」
「うわ、なんですのこの重り……こんなものをつけてトレーニングするんですかスズカさんは……」
「いつも以上に負荷はかかるけど……何故か私に合ってるみたいで」
ウマ娘ってのは不思議なもので成長期や成長速度にかなり差がある。それと同時にそのウマ娘にあったトレーニングもある。スズカはスピードの成長速度は尋常じゃないし、スカイもスタミナの伸びが著しい。
「マックイーンはスズカの後ろを追いかけて走ってくれ」
「キングさんの後ろでは無くてスズカさんの後ろですの?」
「走ってみれば分かるとは思うんだけど、マックイーンはとりあえず走れる距離を伸ばしていきたいんだ」
マックイーンのスタミナは彼女の世代ではトップクラスかもしれないけど、クラシックやシニアクラスになればざらにいる。幸い彼女には時間があるから、まずは走れる距離を伸ばして行きつつスタミナを伸ばして行く。
「とりあえずはマックイーンはこのままスズカ達のトレーニングに合流してくれ、明日はスカイのトレーニングに合流してもらうからよろしく」
マックイーンも納得をして、スズカも重りを付けて準備万端だ。キングもかなりやる気に溢れてるし、新年に入ってからチーム全体の士気が高い。
「それじゃあ、トレーニング始めるぞー」
「「「はい!」」」
各々が目標のためにトレーニングを開始した。クラシック3冠はウマ娘が1度しか挑戦できない。それに、キングとスカイ2人の目標であるからこそ、俺は2人のどちらかしか勝利できないと分かっていても全力で向き合う。
チームレグルスで1番好きなメンバーは?
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