キャラ崩壊の恐れあり。
ついにこの日がやってきてしまったか……バレンタインデーが。つい先日にスズカのバレンタインステークスがあったばかりなのに俺もバレンタインステークスに出走することになるなんて。
(バレンタインなんて家族以外に一度も貰った事ないからな……義理も含めて)
今までは勉強三昧でコミュニケーションもうまく取れなかったせいでバレンタインにチョコなんていう物を貰ったことは無かった。しかし、トレセン学園に入ってから葵さんを初めとする女性トレーナーと関わってきたし。チームを持ったり、何人かのウマ娘と接点もあるからもらえるんじゃないだろうかという期待を抱いている。もちろんその為にトレーナーになたわけじゃないんだけど!それでも期待してしまう……俺だって男だから!
「柴葉さんおはようございます~」
「葵さんおはよう」
そんな邪なことを考えていたら早速葵さんに遭遇した。俺がチームルームに向かうのと同じように葵さんも向かっている途中だったのだろう。
「そうそう、これ東条さんから預かりものです」
「なにこれ?」
葵さんが取り出したのは少し小さい四角形の箱だ。東条さんからの預かりものって言ってたけどなにか渡されるようなものあったっけかな?
「ほら今日ってバレンタインデーじゃないですか。東条さんって忙しい人だから直接渡すのは無理だけど『義理チョコ』だそうです……って!なんで泣いてるんですか」
「いや……俺は本当にいい先輩を持ったなと思って」
まさか初めてチョコレートを貰えることになるなんて。東条さんありがとうございます。今度あったら崇めます……まじで。
「それとこれは私からです……柴葉さん?本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫……それよりも雨が降ってきたな」
「雨なんて……すごい涙の量ですよ!?」
俺はもしかしたらそのうち不幸な目にでもあるのだろうか。だって今日がこんなにも幸せなスタートを切っているのだから。同期の女性からバレンタインチョコをもらえるだと?そんなことが現実に起こり得るだなんて。
「あとこれはライスちゃんから預かったものです」
ライスから渡されたのは袋の中に一通の手紙とチョコレートが入ってるであろう箱が入っていた。手紙の内容を読んでみると、前回の水族館の一件や今までのお礼が書き綴られていた。
(ライス……君は人を不幸にしてしまうウマ娘なんかじゃないよ)
だって現に俺はこんなにも幸福になっているじゃないか。バレンタインに贈り物までもらってその中に感謝の手紙まではいってるとか……お兄さん泣いちゃう。
「ありがとう葵さん……ホワイトデーには倍返しさせてもらうよ」
「いえいえ、柴葉さんにはいつもお世話になっているので。そんなことよりも今日なんかキャラブレてませんか?」
最後の最後で言及されてしまったけど。なんとも言えない間をおいてお互いその場を後にした。すまない葵さんわかってくれ。皆にとっては当たり前のイベントかもしれないけど、俺にとっては初めての体験だったんだ。
「おはよ〜トレーナーさん」
俺がチームルームに入るとスカイが既に部屋の中にいた。今日は朝練をする予定とかは特にしてなかったんだけど、スカイにしては珍しく朝早く起きて自主練に励んでたとか?格好は学園の制服を着ているしそういうわけでもないか。
「どうしたんだ?スカイがこんなに朝早くからいるなんて珍しいじゃないか」
「実はですね〜トレーナーさんに大事なお話があるんですよ」
スカイの雰囲気はなんだかいつもと違った。フワフワしている感じでもなく、冗談を言うような感じもしない。声のトーンも結構ガチっぽい。怪我のせいで自分を追い込ませてしまったか?
「なんだ?俺に出来ることならなんでもしてやる」
「それじゃあ……これ受け取って貰えますか?」
スカイがそう言って俺の前に差し出したのは可愛いらしい箱だった。まさか、これが噂の本命チョコってやつか!?でも俺とスカイはトレーナーと担当の関係だからそういうのっていいのか?噂話程度だが共にトゥインクルシリーズを戦い抜いたトレーナーとウマ娘が結婚するケースは結構あるんだっけか。
(でも、俺も新人でチームも持っているしな……流石に応えるわけにはいかないが。かといって無碍にもできない)
「スッスカイ……気持ちは嬉しいんだけど。こういうのは俺の立場的にまだ受け取れないというかなんというか」
俺がスカイの言っている意味を理解したことに気が付いたのか、顔を真っ赤にしながら俯いていた。冷静になって考えてみるんだ。このチャンス逃してもいいのか?スカイは中等部の三年生だ。だけど来年になればもう高等部で立派な大人の仲間入りだ。世間体を考えればよいことではないがチームメンバーに話せば納得してくれるかもしれない。
「な~んて冗談ですよ。トレーナーさん照れちゃいましたか?」
俺が本気でどうするか考えていると笑いながらスカイがそう言ってきた。冗談なら冗談でいいんだが、ウマ娘って基本的にビジュアルが良すぎるからそういう事を言われると本気で照れてしまうから勘弁してほしいものだ……俺みたいに恋愛と女性耐性がそんな高くない人間には効く。
「あぁ……いつもよりガチみたいに見えたから勘違いしそうになったよ。俺みたいな女性耐性低い人間はスカイみたいに可愛い子に言い寄られるのは慣れてないんだ」
「かかかかか可愛い!?そっそうですね!セイちゃんみたいに可愛い子に言い寄られたら困っちゃいますよね!忘れものしたのを思い出したので一回帰ります!」
俺にバレンタインの贈り物を渡すだけ渡してスカイは颯爽とチームルームから出て行った。珍しくスカイの混乱している様子も見られたし、贈り物もしっかりともらえたので俺的には大満足なんだがスカイ大丈夫か?
(というか、嬉しいことにいっぱいもらえるけどその分いっぱい返さなきゃいけないんだよな。しっかりと考えておかないと)
スカイがいなくなった後、いつも通り今日のトレーニングの事を考えていると扉の方から音が聞こえた。今日は朝から来訪者が随分と多いな。扉の方を振り向くとスズカが部屋にはいってきた。朝のランニング終わりによってくれたのかな?
「スズカも朝はチームルームに顔を出さないのに珍しい日があるもんだな」
「私もっていうと他にも誰かが来てたんですか?」
「あぁ、スカイが朝から顔を出したぞ」
俺の発言にスズカは頭に?マークを浮かべている。スカイは基本的に授業中でさえ居眠りをすると言われるほど眠るのが好きだ。そんなスカイが朝早く起きてチームルームに来たのが不思議でならないのかもしれない。
「スカイちゃんが?何かあったんですか?」
「バレンタインだからって贈り物を渡してどこかに行っちゃったよ」
「そうですか……スカイちゃんが」
スズカが少し俯いて何かを考えている。ここまでの会話の中でそこまで何かを考えるようなことがあったか?昔の俺が聞いたら信じられないかもしれないけど、今はチームメンバーとは良好な関係を築けていると思うしそこまで考え込むようなことかな。
「それで、今日はどんな用件で来たんだ?スズカだって朝からチームルームに来ることなんてめったにないだろう」
俺が質問すると、結局考えていることの結論がでなくてもやもやした顔をしながら質問に答えた。
「いえ、少し忘れ物をしてしまった気がしたんですけどそんなことなかったみたいです。放課後またお願いします」
そういうとそのままスズカは部屋を去っていった。スズカは少し抜けているところがあるから部屋に置いてある場所でも思い出したんだろう。今日は朝からこんなに人に会う事になるなんてな。
ーーースズカサイドーーー
今日はバレンタインの贈り物をトレーナーさんに渡す為に少し早く寮を出ていた。チームの中の誰よりも早くトレーナーさんに贈り物を渡したかったから。どうしてそんなふうに思ったのかはわからないけど、自然と朝早くに目が覚めて準備を済ませていた。
トレーナーさんがチームルームに来る時間はだいたい決まってるから、その時間よりも少し遅いくらいに行った方がいいよね。朝はその日の準備とかで忙しそうだし。そう思いながら私はチームルームへと向かった。
「そうですか……スカイちゃんが」
(どうしてだろう、スカイちゃんが先に渡したって聞いて不安になっちゃった。トレーナーさんちゃんと私のプレゼントで喜んでくれるかな。スカイちゃんは可愛いし……もしかしたらあんまり喜んでもらえないかも)
そんなことを考えながら寮に向かって廊下を歩いていると、たまたま居合わせたスカイちゃんと出会った。たまたまというよりかは、多分私の事を待っていたような感じにも見えたけど……
「スズカさんはトレーナーさんにバレンタインデーの贈り物わたせましたか?」
「まだ渡せてないけど……スカイちゃんはもう渡してたのね」
スカイちゃんは朝はあんまり活発に動かないのに、髪の毛もしっかりとセットしてあるし化粧も最低限はしていて顔もさえてる。スカイちゃんは放課後のトレーニングの後とかに渡すと思ってたのに。
「私はトレーナーさんに一番最初に渡したい理由がしっかりとありますからね~スズカさんもそうだからこんなに早くからトレーナーさんのところに来たんじゃないんですか?」
「わからないわ……なぜかトレーナーさんには私が一番最初に渡したいと思って」
「スズカさんは本当に走ること以外には鈍感なんですから」
そう言うとスカイちゃんはそのまま先に寮に戻って行ってしまった。私がトレーナーさんに一番最初に渡したかった理由ってなんなんだろう。
ーーーお昼のチームルームーーー
「とりあえず一通り今日の準備は終わったし少し休憩するか」
『すいません柴葉トレーナーいらっしゃいますか?』
こんな昼間にわざわざ俺に用があるのかな?声的には多分たづなさんだとは思うんだけど……もしかして俺なんかやらかしてしまったのか!?たづなさんは一応は理事長秘書だし、俺が何かをやらかしてそれを報告しに来た可能性も十分にありえる。
「いますよーどうぞ入ってください」
俺がそう返事を返すとたづなさんが部屋の中に入ってきた。やはりたづなさんだったか……他愛もない世間話でありますように。
「そう警戒しないでくださいよ。別に問題が発生して訪れたわけじゃないですから」
(なに!?思考が読まれた?)
とりあえずは紅茶でも出しておこう。たづなさんって立場的に言えば一応は上司にあたるわけだし、一応軽いおもてなしぐらいしないとしないとな。
「わざわざありがとうございます。私情で来ただけなのでそんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ」
「それならそうさせてもらいます。それで今日は一体どういったご用件で?」
「そうでした、これを渡そうと思いまして」
そう言ってたづなさんはクッキー缶を取り出した。もしかして、たづなさんもバレンタインデーに手作りのお菓子を!?でも、前に飲み会に行った時にたづなさんの部屋を見た時はとてもお菓子を作れ様な感じではなかったんだけど……
「柴葉トレーナー。言いたいことは分かりますが私の言い分も聞いてください。私は昔から少し片付けが苦手ってだけで別に家事ができないわけではないんです」
少し苦手……そうか、女性の部屋なんかにはいままで入ったことが無かったから知らなかっただけで普通はそんな感じなのかもしれない。それはないな、たづなさんが明らかに掃除が苦手すぎるだけだろう。
「ちょうどここに紅茶もあるし時間があるなら一緒にどうですか?」
贈り物をくれた本人と一緒に食べるってのもどうかと思ったが、せっかく二人分の紅茶があるんだし二人で食べたほうがいいだろう。たづなさんは忙しい人だから実際に一緒に食べれるかどうかは分からないけど。
「そうですね。今はちょうど休憩時間ですし一緒にいただきましょうか」
たづなさんの手作りクッキーはシンプルな物ではあったけど、味の方はかなり美味しかった。家事はできるけど掃除だけは苦手というのは本当っぽいな。
「そういえば、たづなさんはどうしてわざわざバレンタインを?」
「先日の飲み会ではどうやら非常に迷惑をかけたっぽいので……そのお返しといいますか」
あの飲み会は本当に後処理が大変だった。主にチームメンバーのご機嫌を取るのが大変だった。もちろん一夜たづなさんに拘束されることになるとは思わなかったけどな……しかも布団の中で!
「あの時は葵さんも酔いつぶれてましたし、次から気を付けてくれれば問題ないですよ」
「ふふ、その時はまたよろしくお願いしますね?」
「勘弁してくださいよぉ……」
その後は他愛もない世間話をしながら、たづなさんが作ったクッキーをつまみながら紅茶を飲んでいた。たづなさんが作ってきたクッキーは普通に美味しくて、なんでこんなに料理はできるのに掃除は出来ないんだろうという疑問を抱いた。
「それじゃ、私はこの辺で失礼します。なにか困ったことがあったら私に相談してください。柴葉トレーナーのお願いなら少しくらいならオーバーなお願いでも聞いてあげますから」
ほう、オーバーなお願いと言うとお付き合いとかそういうのも含まれるのだろうか。普通にウマ娘関連のことを言っているのだとは思うけど、今日のたづなさんは少しだけいつもと雰囲気が違った気がする。
放課後になって、あとはチームメンバーを待つだけだ。1番最初にチームルームに訪れたのはキングだった。
「あなたにはキングからのバレンタインを貰う権利をあげるわ!」
「ありがとうキング」
部屋に入った勢いでそのまま押し付けられる形でキングから箱を貰った。中に何が入ってるかはわからないけど、多分手作りで作ってくれた物が入ってるんだろうな。
「いつもお世話になってるからあなたの分だけ少しだけ特別にしたんだから感謝して食べるといいわ!」
「感謝して食べさせてもらうよ……本当にありがとうキング」
俺に贈り物を送るキングの後ろでその様子をマックイーンが見ていた。両手を後ろに回して、まるで何かを隠しているようだ。
「マックイーンもなにかあるのか?」
「いや、そのですねトレーナーさん。私は普段はこういったことは全くしてこなかったですし、みなさんと作業をして初めて知ったのですが自分が想像以上に不器用でして……」
そう言いながらマックイーンは軽い火傷を何ヶ所かした手で少し不格好な梱包をしてある箱を取り出した。
「もしかして、わざわざ俺のために?」
「べっ別にトレーナーさんのためだけじゃありませんわ!他にも何人か配りましたし……それにこの通りスズカさんやスカイさんみたいに上手く出来てないですし……」
何を言っているんだマックイーン。出来が悪いか良いかなんて関係ないだろう。自分のためにここまで頑張ってくれて嬉しくないわけないだろうが。
「めっちゃ嬉しいよありがとうマックイーン。後で美味しくいただくとするよ」
「何回も固めるのに失敗してしまいましたが……頑張ったかいがありましたわ」
そうかそうか……そんなに何回も失敗して。待てよ何回も失敗した?失敗作のチョコレートはどこにいったんだ?処分したのか?
「マックイーン……作るまでに何回も失敗したんだな」
「そうですわね」
「今日はここに来てからお腹隠してるな」
「そう……ですわね」
「なら失敗作のチョコレートどこにやった」
その瞬間にマックイーンは背を向けて逃げ出した。ところが部屋を出る直前に部屋に入ってきたスカイに身柄を捉えられてそのまま尋問が始まった。
「まずは言い訳くらいは聞いてやろうじゃないか」
「違うんですの!これは不可抗力ですわ!失敗作をそのまま捨ててしまったら勿体ないじゃないですの」
うーん。それに関してはマックイーンの言う通りなんだよな……やっぱり仕方ないってことで無罪放免にするか?俺やみんなのために頑張ってくれたわけだし。
「マックイーンちゃんが食べたのは本当に失敗作だけかな〜?」
スカイがニヤニヤしながらマックイーンのお腹を見ている。マックイーンは甘いものには目がないし、作成中に材料のチョコレートをつまみ食いしていた可能性は十分にありえる。
「う〜……確かにつまみ食いはしてしまいましたが」
マックイーンがさすがに誤魔化しきれずに罪を認めた。マックイーンはただでさえ現状ウェイト管理に苦労しているからな。そこに大量の糖分とカロリーを摂取されたら大変なことになっちまう。
「罪人メジロマックイーンに判決を言い渡す……今日から1週間はスイーツの減量をすること!」
「そんな!殺生な!」
「お黙りなさいマックイーン!本来ならスイーツ禁止と言いたいところだが……今回はこの程度の処罰で見逃してやる。多少のことなら目を瞑るんだけど、さすがに今回は食いすぎじゃないか?」
俺がそう言うとマックイーンはバツの悪そうな顔をしながら俯いて納得してくれた。どうやら本人も今回は食べすぎてしまったことを自覚していたらしい。それにしても、さすがはスカイの観察眼だ……一瞬でマックイーンのつまみ食いを暴くとは。
「すいません少し遅れてしまって……なんでマックイーンちゃん縛られているんですか」
俺たちがマックイーンの尋問を終えた頃にちょうどスズカもやってきた。尋問のため拘束したマックイーンを見て少し引いてる。
「マックイーンがバレンタインのために手作りチョコを作ったんだけど、その過程で多量のチョコレートをつまみ食い及び摂取していることが発覚してな。その尋問をしていたわけだ」
「そうですか……マックイーンちゃんも」
スズカがなにかブツブツと言いながらも俺たちと合流した。マックイーンは直ぐに解放したが、解放したあとしばらくの間はスカイにお腹と頬をプニプニされていた。
「とりあえず、今日のトレーニング始めるぞー」
メンバー全員を連れて1度グラウンドに出るが、その間スズカの様子が少しだけおかしく見えた。どこか上の空で何かをずっと考えているようだった。
「スズカは来月にレースを控えているし、マックイーンもデビューまで半年ちょいだから先輩だから勝てませんとも言ってられないぞ」
「「はい!」」
マックイーンには厳しく言ったがマックイーンは十分に頑張っている。超格上のスズカやクラシック組の2人に食らいつくところではしっかりと食らいついていってるからな。
「それじゃあいくぞー位置について、よーいドン!」
今日もスズカとマックイーンは2000m走だ。でもスズカの走りがいつもよりも鈍いな……この1本目が終わったら少し話を聞いてみるか。
「スズカさん!?大丈夫ですの!」
スズカがゴールしてから倒れた。多分だけどぼーっとしていて躓いただけだと思うけど、さすがに少し注意しないといけないな。
「スズカ大丈夫か?」
「はい……すいません考え事をしていて」
「考え事もいいけど、走ってる途中は気をつけてくれ。スズカ達のスピードで倒れたら怪我に繋がるだけじゃない。それ以上に被害が出るかもしれないんだ」
しっかりと受け身をとれば擦り傷くらいで済んだりはするんだ。ウマ娘はそのスピードで走る分体も丈夫にできているから。それでもぼーっとしたまま受け身も取れなきゃ大怪我に繋がるし、何よりも他人を巻き込む恐れもある。
「わかりました……ごめんなさいトレーナーさん。それとその……そろそろ離して貰えると」
「うお!すまんすまん」
倒れ込んだスズカを抱き込むように触っていた俺は、焦ってその手を離す。さすがのスズカも少し恥ずかしかったようで少しだけ赤面していた。
「どうする?集中できないようなら今日は休んどくか?レース前に下手に怪我したり調子を崩しても困るからな」
「いえ……走ります。なにかわかった気がするんです」
本人は走る意思があるようだしもう1本くらい様子を見てからでもいいか。それでやばそうなら止めればいい……なんて考えてたけど心配はなかったみたいだな。
その時のスズカの走りはここ最近で1番いい走りをしていた気がする。力強く、それでいて俊敏で何かを目指すような走りには美しさすら感じた。
「トレーナーさん」
「おぉスズカお疲れ様」
「トレーナーさんこれ受け取ってください。バレンタインらしいチョコレートじゃないんですけど、トレーナーさんのことを思って野菜チップスをチョコレートで加工してみたんです」
休憩に入った直後にスズカが俺にバレンタインをくれた。こんなタイミングで渡されると思わなかったが、ちょうど小腹が空いていたところだしちょうどいい。
「ありがとう。すんげえ上手いわ」
「喜んで貰えたならよかったです」
最初の1本目の時みたいにぼーっとした顔はもうしていなかった。多少頬は赤らめてはいるが、いつも通りのスズカに戻っている。
「2本目は随分調子が良さそうだったけどなにかあったか?」
「私はレースを先頭で走ってゴールして見る景色が大好きなんですけど、もう1つだけ見たい景色ができたんですよ」
「もう1つの景色?それって一体……」
「秘密です♪」
スズカが珍しくイタズラする子供のような笑顔で俺にそう言ってグラウンドの方に戻って行った。見たい景色か……一体なんなんだろうか。
その後は何事もなくトレーニングを終えて、自分の部屋に戻っていた。ようやくみんなから貰えた初めてのバレンタインを味わえる!
(スカイって相変わらず可愛いセンスしてるよな)
スカイがくれたのは、バニラとチョコレートが混ざって作ってある猫の顔の形をしたクッキーだった。なんとも言えない可愛らしいさを持つ顔にデフォルメ化されていて、ビジュアルも良く味も美味しかった。
(キングも普段はお菓子作りなんてしないだろうによく作ってくれたな)
キングは生チョコを作ってくれた。普通のチョコレートと作る工程がどう違うなんかはあんまり詳しくないけど、俺のためにわざわざ作ってくれたんだから美味しく頂こう。
(マックイーンのチョコは不格好で少し苦い気もするけど美味しい。食べててなんだか暖かい気持ちになってくる)
聞いた話だとマックイーンはあんまり器用じゃないみたいだし、作ってる途中に何回も失敗したらしい。チョコ作りであんだけの数火傷できるんだから相当大変だっただろうに。
東条さんは1口サイズの食べやすいクッキーが入っていた。これなら業務の片手間に食べることができるしとても助かるな。
葵さんのは……ってこれ高級ブランドのチョコレートじゃねえか!?お返しどうすればいいんだこれ。うーん……とりあえずその時になったらもう一度考えるか。高級品をプレゼントされたことないから何を返せばいいのかわからない。
(それにしても……本当に俺は人に恵まれたんだな)
先輩に同期、担当のウマ娘からもこうやってバレンタインを貰えた。周りとの関係が良好な証拠だと思う。明日からもトレーナー業頑張るかー。
チームレグルスで1番好きなメンバーは?
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サイレンススズカ
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セイウンスカイ
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キングヘイロー
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メジロマックイーン
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トレーナー