第70話:激闘!弥生賞!
今日は弥生賞当日だ。今日のレース結果で皐月賞に出走できないということはないが、クラシック路線に乗り込むんならこのレースではしっかりと勝利を納めたいところだ。しかし、今日一着でゴールできるのはたった一人だけだ。
「スカイにキング、二人には既に作戦は伝えてあるしやることは分かってるな?」
「全力で走るだけですわ」
「一番にゴールするだけだよね~」
2人とも調子も良さそうだし、チームメイトが同じレースに出走しているからと言って普段と違う様子もなさそうだし良かった。これからクラシックで二人はバチバチにやりあうことになるから変に気をつかっていたらどうしようかと思っていた。
「俺は観客席から見ているから……今出せる全力で走って来い!」
「「はい!」」
2人を見送って俺は観客席へと戻る。今日は俺とスズカとマックイーンだけで見に来たわけじゃないからな。ついに沖野先輩と直接対決することになるんだ。スペは最初こそはレース経験の少なさからいいレース展開を繰り広げられずにいたが、それでも本人の実力で一着を勝ち取ってきた。
「待たせたなスズカにマックイーン」
「いえいえ、先に来ていた方々と色々とお話をしていたので大丈夫ですわ」
マックイーンの奥には葵さん一堂と沖野先輩とスピカメンバー、東条さんに南坂トレーナーも見に来ていた。東条さんはチーム全員を連れてきているわけではなかったけどデータを取るためにカメラの準備をしていた。
「よー後輩やっと来たか。今日を楽しみに待ってたぜ」
「先輩相手でも負けるつもりはないですよ」
「ひゅー言うねぇ……スペも一番のコンディションで挑んでる、簡単には負けないぞ」
元より簡単に勝てるとは思っていない。スカイとキングがお互い以外にライバルをあげろといったらスペの名前が一番最初に出てくるだろうからな。今回の強敵は間違いなく沖野先輩のスペだ。
「…………」
「どうかしたかスズカ?」
いつもなら今日のレースについて話しそうなものだけど、スズカは今日は妙に静かだ。何か考え事だろうか?もしかして去年の自分の弥生賞の事を思い出しているとか?
「いえ……チームメイトのスカイちゃんとキングちゃんに勝ってほしいのはもちろんのことなんですけど、同室で友達のスペちゃんにも勝ってほしいと思っちゃうんです」
「なるほどな」
チームメンバーに勝ってほしいと思うのはごく自然なことだけど、そのレースに別チームから自分の友達が出走してるとなると何とも複雑な気分だろうな……
「別にスペのことを応援したって構わない。スズカはスズカが頑張って欲しいやつを応援すればいいし、勝ってほしいやつに声援を送ればいいんだ」
出来ればチームメイトを応援してほしいけど、強要するわけではない。特別な存在っていうのは人それぞれだからな。
「そうですね……それじゃあ私はスペちゃんもスカイちゃんもキングちゃんも応援します!」
「そうだな!そうしてくれ」
全員応援するのもそれでいい。俺は全力でスカイとキングを応援するつもりだし、マックイーンはスカイの事を応援する気満々だ。一体どこからその黄緑のメガホンを取り出したんだ……
『本日出走するウマ娘達がパドックに入場します』
『……3枠3番キングヘイロー!ここまでのレースは4戦3勝!クラシック直前のこのレースでどのような成績を残すのか!?1番人気です!』
キングの調整はあの後無事に進んで行った。コンディションもいいし、やる気も十分。1着を狙っていけるはずだ。
『7枠10番セイウンスカイ!前回のレースの後に怪我が発生しましたが、以前のような走りを見ることができるのか!?3番人気です』
スカイは3番人気か……怪我のこともある。かなり戻せてはいるとは思うんだけど、それでも全盛期ほど戻ったかと言われるとなんとも言えない状態だ。スカイが今日のレースでどこまで戦い抜いてくれるのか。
『8枠13番スペシャルウィーク!ここまでのレースは3戦2勝!キングヘイローに続く2番人気です!』
スペの仕上がりも良さそうだ。ラストスパートでスカイが逃げ切るか、キングかスペが差し切るかの勝負になるか?キングとスペのどっちの末脚が速いのか、どちらが早く仕掛けるか良いポジションを取るのか……勝負が始まってみないと全くわからない。
「そういえば、葵さんも東条さんも見に来たんですね」
「クラシック路線に入る前の一番重要なレース、しかも他チームの未来のエースが出るんだから見ないわけにいかないでしょ」
「私も東条さんと同じような理由なんですけど、グラスさんがどうしても3人のレースだけは見ておきたいということなので」
葵さんの横には真剣な目でパドックのウマ娘たちを見ている。グラスワンダーは同じレースに出走していなくても同級生とかそういうものの前に既にライバル視しているんだな。
『出走するウマ娘たちがゲートインの準備をしています』
「スカイちゃんにキングちゃん」
「何々スペちゃん?まさかレース直前に宣戦布告?」
「私は逃げも隠れもしないけれど?」
スカイ、キング、スペの3人が円を描くように集まっている。3人がお互いを見合ってお互いを意識しているんだ。その空気はいつもの3人にはないピリピリとした空気感が漂っている。
「私は今日勝つために頑張ってきました!いいレースにしましょう!」
「私はいつも通りいかせてもらうよ~」
「私はキングヘイローなのよ?正面から正々堂々打ち勝って見せるわ!」
3人はお互いに視線を合わせた後に各々のゲートに入っていった。スカイもキングもスペも2人以上同時にレースに出走したことがない。3人ともこのレースの展開は読めずにいるが考えることは同じだった。
『『『自分の全力の走りで勝つ!』』』
『全員がゲートへと入りました。芝2000m晴バ場状態良となります。13人のウマ娘がクラシックへの思いを胸に、今スタートしました!』
「スカイが先頭を切ったな」
『先頭を切ったのはセイウンスカイ!1番人気キングヘイローは先頭集団に入ります!続いて3番人気スペシャルウィークは後方からのスタートとなります!』
「予想はしてたけどセイウンスカイの逃げ足は中々のもんだな」
「はい。スカイは順調な出だしです。ただキングのほうは……」
スカイはいつも通りの自分の走りができている。レース全体の流れもつかめてるし、ペースメイクもしっかりとできている。ただ、キングが少し掛かり気味だ。確かに今回の作戦は先行策で行こうという話ではあったけどスカイに引っ張られている先頭集団に無理についてくことはない。完全に掛かってるな。
「頑張れー!頑張れー!スカイさん!」
そんな俺の心配をしている真横でマックイーンは全力でスカイの事を応援している。スズカはキングのことを見ていて少し心配した顔をしている。スペは後方で冷静にポジションを確保しながら前を確実に狙っている。
400m800mを通過しても3人の順位は動かない。このままいくとキングのスタミナが確実に最後まで持たないぞ……頼むどこかで冷静に戻ってくれ!1000mあたりまでに気づかないと1着を狙うのは相当厳しくなってくる。
『おぉっと!ここでキングヘイローがペースを落とす!スペシャルウィークとキングヘイローが並びました!』
キングが冷静を取り戻して終盤戦に備えて足を溜め始めた。ここまで来ると俺も沖野先輩も無言でレース展開を見守ることになる。ただただ自分の担当ウマ娘の走りを見守って勝利することを信じて。
『スペシャルウィークがペースを上げます!そのすぐ後方にはキングヘイロー!登り坂に入る前にスペシャルウィークとキングヘイローがセイウンスカイと距離を詰めていきます!』
「勝負は坂を上り終わった後の最後の平坦の直線だな」
沖野先輩の言う通り坂道で勝負は起こりにくいから最後の平坦で勝負は決まると思うだろう。坂道はスタミナを多く消耗するし、それに対して大したスピードは得られない。
『坂道に入ってセイウンスカイが少しペースを上げている!?スペシャルウィークとキングヘイローもそれに食らいつくように坂道を駆け上がる!』
キングは前半でスタミナをだいぶ消費してスピードは伸びなかったが、スタミナが多いスカイはこの坂道からしかけ始める。普段のトレーニングで坂道を走るのはある程度慣れているし最後にバテるなんてことは無いはずだ。
『キングヘイローがここでスペシャルウィークに距離を離される!ここからはゴールまで平坦コースです!』
キングがスパート手前で取り残されて、スペはスカイを射程圏内にとらえ始めてる。このまま負けるのか?キングは掛かってしまって自分らしいレースができなかったしスカイも怪我が治ったばかりで本調子でしょうがないと割り切るか……?
「スカイ!キング!ラストスパートだ!まだレースは終わってないぞぉぉぉぉおおお!!」
理由があるから負けてもいい?そんなわけがない。負けてしまう理由があるから勝つ方法を考えるんだ。二人はこんなところで諦めるウマ娘じゃない!
(トレーナーさんも無茶いうな~……今でも今出せるトップスピードで足も限界に近いって言うのに。だけど、そこまで応援されたんじゃ負けられないよね!)
「うわぁぁぁぁああ!!」
スカイは自分の限界を叩き壊すように、今の足の疲れを吹き飛ばすように全力で咆哮した。そして、もう一段階だけペースを上げてスペから距離を離す。
(私の名前を呼ぶ声が聞こえる。たった一つ小さな声だけれど確かに私の名前を呼んでいる!私はキング……キングヘイローよ!)
【Call me KING】
『セイウンスカイがペースをさらに上げる!スペシャルウィークに一度は離されたキングヘイローもペースを立て直しスペシャルウィークに今並びました!』
残り100mでスカイとキングとスペの3人が完全に横に並んだ。スカイは既に限界のスピードを出しているし、スタミナ的にはキングは限界を超えて走っている。そうなると問題はスペにどれほど力が残っているか。
『スペシャルウィークが前に出た!セイウンスカイとキングヘイローはついていけません!スペシャルウィーク!スペシャルウィークだ!今1着でゴール!』
負けたのか……?スカイとキングが。スカイもキングも限界を超える走りをしていた。2人の全てをもってしてもスペには届かなかったのか……今の俺たちじゃスペには勝てなかったか。
「スズカ、マックイーン。俺は2人のところに行ってくるからウイニングライブの場所取りは任せたぞ」
レース終了直後に俺は2人のもとへ走り出した。一瞬でも速く2人の元に行かないといけないと思ったというのもあるが、体を動かさないと今でも泣きだしてしまいそうになったんだ。
「「トレーナーさん……」」
しかし、2人に会った瞬間にその涙は引いた。レースが終わって一番泣きたいのは俺じゃない。レースで走った本人たちじゃないか、俺が2人の前で涙を見せてどうするんだ。
「2人ともお疲れ様」
俺の言葉に安心したのか、それともレースが終わったという実感が疲れを一気に体に促したのか。それは分からないが、2人は今にも泣きそうに顔を歪めていた。GⅡレース、傍から見れば2着と3着の高順位。けれど2人はスぺに負けた。それが悔しくて仕方がないんだ。
「皐月賞だ!」
俺が急に大声を出したことによって2人が呆気にとられる。そして、視線が俺に集まっている。
「今は涙をこらえて悔しさを力に変えろ!皐月賞……GⅠの舞台でリベンジを果たすぞ!」
「「はい!」」
(私はまだまだ強くなれる!)
(ここで諦めたらキングの名折れよ!)
キングとスカイは溢れだしそうだった涙を拭いで俺と目を合わせる。その顔にはさっきのような弱気さは見られず、次は負けない自分が勝つんだという強い想いが感じられた。
ウイニングライブを無事に終えて、帰り際で沖野先輩に出会った。あちらも帰る直前だったようで、スペと他のメンバーは既に車の中に乗り込んでいた。
「沖野先輩。今日は負けましたけど次は負けません」
「次もうちのスペが勝つさ」
その一言だけ交わして俺たちは各々の車に乗り込んだ。本当の勝負は皐月賞からのクラシック路線の三戦だ。スカイとキングの二人がクラシックを掴んでくれる。俺はそう信じてるし、トレーナーとして二人を支えて行かなくちゃいけない。
チームレグルスで1番好きなメンバーは?
-
サイレンススズカ
-
セイウンスカイ
-
キングヘイロー
-
メジロマックイーン
-
トレーナー