今日は3月15日でスズカの中山記念のレース当日だった。レース内容は上々で無事に1着でゴールすることができた。ウイニングライブが終わった辺りに葵さんからの連絡が入った。
『忙しいと思うんですけど。今晩少しだけ時間を開けて貰えないでしょうか?』
今日と明日のうちにスズカの今日のレースについてまとめないといけないんだけど……けれど、それは葵さんも承知の上で連絡してきたんだろう。葵さんには世話になってるし、なによりも同期の友人の頼みだからな。幸いにも今回のレースは上手くスズカが勝利したし、特別作業が多いわけじゃないから明日頑張れば何とかなるだりう。
(それにしても葵さんから連絡が来るとはな……そんなに悪いことが起きてなければいいんだけど)
とりあえずはスズカ達を学園に送り届けて、軽く準備を済ませてからいつも集まる飲み屋に向かった。なんか長めに話すならここっていうのが俺や葵さんの中に定着しつつある。
「葵さんお疲れ様です」
「お疲れ様です紫葉さん。忙しい中わざわざありがとうございます……」
俺が飲み屋に着いた時には葵さんは既に席に着いていた。葵さんの顔には元気がなく、目の辺りには涙を流した跡が残っていた。これは少し覚悟しておいた方が良さそうだな……
「葵さんの方から誘って来るなんて思ってなかったから驚きましたよ」
「あっそうでした……紫葉さんは今日レースがあったから知らないんですよね。私レースがあって忙しい中誘ってしまったじゃないですか!ごめんなさい……」
ちょっとだけ葵さんがパニック状態になってしまった。今のを聞いた感じじゃ、俺たちがレースに行っている間に学園で何かあったのか?戻ってそのまま来たから分からないんだけど。
「いや、大丈夫ですよ。何があったのか話して貰えませんか?」
「実はグラスさんが骨折してしまったんです……とりあえず病院に連れて行ったんですけど、私どうしたらいいかわからなくなっちゃって」
グラスワンダーが骨折!?彼女はスカイ世代ではスカイたちと並ぶ実力の持ち主で、周りからは頭一つ抜けた実力の持ち主だ。しかも今は3月でクラシックに入る直前の重要な時期だ……骨折となると春の復帰は厳しいだろうな。状態が酷ければ復帰どころか引退までありえる。
「骨折の状態は結構ひどい状態なんですか?」
「幸いにも小さな亀裂だけで済んだんですけど……春の復帰は絶望的。しっかりと走れるようになるのも夏になると言われました……レースへの復帰は早くても秋になると思います」
いくら状態が悪くなくても骨折は骨折だ。それもウマ娘にとって命と言っても過言ではない足の骨折。葵さんが名門桐生院の出身で対処方法を知っていてもどうしたらいいか分からなくなっているんだ。それも俺が今日レースに行っていることを忘れるほどに取り乱してしまっていた。
「私がもっとしっかりしていればグラスさんを怪我をさせることなんてなかったんです……グラスさんはあんなにも頑張っていたのに」
「葵さんだけの問題ではないですよ。俺たちはウマ娘とトレーナー2人が一緒に頑張って結果を残しているんですから」
そうだ、葵さんは今はやらなきゃいけないことがある。担当を怪我……しかも骨折させてしまって葵さんは今とても落ち込んでいる。不安だろうし悲しいだろうし悔しいとか言ったそういった感情が渦巻いてると思う。でも、葵さん以上にグラスワンダーは今不安な思いをしているはずだ。
(だからこそ、俺はトレーナーとして友人として厳しいことを言わなくちゃならない)
「葵さんが辛いのはわかります。俺も担当のウマ娘を骨折とまでいかずとも怪我させてしまいましたし。だけど、葵さんはやらなきゃいけないことがありますよね」
「私がやらなきゃいけないこと……」
「今回の骨折のことを反省することも、自分の気持ちと折り合いをつけることも大切です。だけど今はグラスワンダーの事を考えて行動するべきじゃないですか?」
厳しいことを言っているのは分かっている。すぐに行動に移すのも難しいと思う。それでも、俺は友人として言わなくちゃならない。骨折となると今後のことについて考えることはいっぱいある。メンタルケアも勿論、怪我の治療だけじゃない療養中に何をさせるか、退院した後のリハビリの事やレース復帰プラン。考えることは大量にあるんだ。
「今一番辛い思いをしているのはグラスワンダーです。いくらウマ娘が肉体的に俺たちより優れていても、その心はどこにでもいる少女たちと変わりません。トレーナーと担当ウマ娘以前に俺たちは大人で彼女たちは子供です。今は葵さんが頑張らなきゃいけない時なんですよ!」
分かっていても中々難しいことだ。俺もスズカの怪我の時は凄い落ち込んだり、追い込まれてみんなに迷惑をかけることもあった。だからこそ、誰かが言ってあげないといけない。ハッピーミークは体が頑丈で怪我をすることが無かったから葵さんは自分の担当ウマ娘が怪我をしてかなり混乱している。
「私が頑張らないといけない。そうですね!今まではグラスさんが頑張ってきた。辛いトレーニングも頑張って、レースでも勝利を納めてきたんだから。今は私が頑張らないと!」
「その意気ですよ葵さん!」
葵さんは凄い人だ。こう言われてもすぐに気持ちを切り替えられる人はそういないだろう。言っておいてなんだが俺は担当ウマ娘が骨折した時にこうやって立ち直れるか。葵さんからは鋼の意思と鉄のような強さを感じる。
「ありがとうございます柴葉さん……1人で悩んでたらもっと大変な事になってたかもしれません」
「いや、葵さんも俺がもしもそんな風になったら声をかけてやってください」
「もちろんです!」
俺も葵さんもみんなが怪我をしないように細心の注意を払っている。それでも怪我という物は発生してしまうんだ。葵さんがグラスワンダーの怪我でこうなってしまったように、俺もスズカたちが大怪我をしてしまったら外から背中を押してもらえると助かる。
「誘っておいてすいません!今から寮に戻ってやらなきゃいけないことができました!」
「いいんですよ行ってください」
葵さんは今日の支払いをして帰って行った。割り勘する予定だったのに、葵さんが今日は急に呼んで迷惑をかけたからと聞かずに支払いを済ませてしまった。大して注文もしてなくてそんな高額じゃなかったから今回はおとなしくその言葉に甘えることにした。
「俺も帰って今日のレースのまとめに入るかな……」
「まぁまぁ、そう言わないで飲み直さないか後輩?」
「なんで先輩がここにいるんですか……?」
「居るのは俺だけじゃないぞ」
先輩が指差す方を見ると、南坂さんに東条さん、たづなさんまで居た。しかも、俺と葵さんが座っていたすぐ後ろの席に。色々と考えすぎて俺と葵さんが気がつけなかったのか、それとも先輩たちが気を使って気づけないように隠れていたのか。
「それにしても、つい最近まで新人右も左も分からなかったのに言うようになったわねあんたも」
「盗み聞きなんて良い趣味とは言えないんじゃないですか東条さん?」
「あんな声で話しててこの距離なら嫌でも聞こえるわよ」
まじで?ここにいる3人に全部話しを聞かれてたってことか。どうりで先輩がさっきからニヤニヤとこちらを見ているわけだ。たづなさんと南坂さんは微笑ましく俺の方を見ているし。
「男前でいいと思いますよ?僕もそれぐらい言えるようになればいいんですけど」
「南坂さんもからかわないでくださいよ」
「いえいえ、本当にそう思いますよ」
「私もですよ柴葉トレーナー。色々と不安になることはありましたけど、今は同期と支え合って頑張ってるんですね」
南坂さんとたづなさんのいう事もわかるんだけど、たづなさんだけお姉さんというか母親みたいな感じで答えてるのはなぜだ……
「まぁ、後輩も成長してるってことだ。いいことじゃねえか」
「それなら、もっと素直に褒めてくれたっていいんじゃないですか?」
そうは言うけど、俺はこの人たちに感謝しないとな。ここに居合わせたのは本当に偶然だとは思う。だけど、隠れていたのはもしも俺が失敗しても大丈夫なように。葵さんが挫けそうになったらいつでも声をかけられる用にしていたんだろう。俺たちの背中には先輩たちがいる……だから大丈夫ってことだろう。
「それと……先輩がもし何かあった時は力になるので先輩もお願いしますね?」
「言うじゃねえか」
俺も葵さんもいつまでも支えられるだけの新人じゃない。いつかは俺が先輩たちを支える時が来るかもしれない。そういう心構えができるようになっただけまた一つ俺は成長しているのかもしれない。
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