休日が終わった翌朝のチームルームでキングを呼び出し2人で話し合いをしていた。さすがに事情が事情なだけに他のメンバーにあまり知られたくないだろうからな。
「キングはミークが言っていた意味が分かったか?」
「いえ……昨日一日考えてはみたけど分からなかったわ」
やっぱりキングも無意識か。無意識に人の走りを真似していたら本人も気づけないし、見ているこちらも違和感を感じないわけだ。
「単刀直入に言おう。お前は母親の背中を今も追いかけてるんだ」
「っ!あなたもそんなことを言うの!?私は私!キングヘイローよ!」
「じゃあ先日の模擬レースの走りをどう説明するんだ?弥生賞で殻を破りかけたお前がなんであんな走りをしたんだ」
俺の言葉にキングは押し黙った。ここまで言われればキングにも心辺りがあるようで後ずさりする。母親と比べられ続けてきたからこそ、その事実を認めたくないんだろう。
「教えてくれないか?弥生賞の後に一体お前に何があった」
「弥生賞……私は自分なりに全力を尽くして挑んだわ。それでスペシャルウィークさんとスカイさんに負けたのだから悔いはなかった。それでもお母様は私を認めてくれなかったのよ。『セイウンスカイさんは自分の走りを突き通して走り抜いて素晴らしかった』ですって」
「なんだよそれ」
「あの人は私が走ることを認めてない。トレセン学園に入るのも猛反対されたわ。私はお母様に憧れて、お母様のように輝きたかっただけなのに……お母様は1度も私を応援してくれなかったし認めてくれない」
キングはこんなにも頑張っているのに?どうして認めてやれないんだ。俺には子供はいないし親じゃないと分からないのか?今1番問題なのはそれが走りに影響が出てしまっていることだ。
「母親が認めてくれないから母親の真似事を続けるのか?」
「あの人を超えればきっと認めてくれるわ!認めて欲しい人に認めて貰えない気持ちが分かる!?」
「超えたい相手の真似をしてて超えれるわけないだろ!」
「それなら一体誰が私を認めてくれるのよ……」
泣きたいのは分かる、悲しいのも悔しいのも分かる。でもそれをするのは今じゃない。お前は一流のウマ娘になるんだからな。
「キングヘイロー!」
「っ……」
「誰がなんと言おうとお前の努力は俺が認めてやる!キングヘイローというウマ娘はこれだけ凄いって俺が証明し続けてやる。たとえお前の母親がお前を認めなくても、代わりに俺がお前の1番の理解者でいてやる!」
誰が認めるだって?そんなのトレーナーが認めてるに決まっているだろうに。母親が認めてくれない?それじゃあお前をライバルというスカイやスペ、エルコンドルパサーやグラスワンダーはどうなる。共に走ってる相手が1番お前を認めているんだ。
「あなたは私を認めてくれるの?」
「あぁ、お前の努力を1番見ているのは俺だ」
「あなたは私が一流と言ってくれるの?」
「お前を一流にするために俺はいるんだ」
「本当にあなたはズルい人だわ……」
キングは一流になり得るポテンシャルを持っているし、そのポテンシャルを引き出すための努力もできるウマ娘だ。前までは皐月賞でスカイたちと肩を並べて走れるなんて誰が思っただろうか。キングは血が滲むような努力をしてその舞台に舞い上がった。
「それでも無理よ。お母様は日本ダービー……いや早くて皐月賞が終わったら私を連れ戻そうとすると思うわ」
「なんだって?一体なんの権限があってそんなことを」
「トレセン学園に通ってるのは私だけの力じゃない。家の支援なしじゃ通い続けるのは無理でしょう?」
トレセン学園は名門校だ。通うのにもそれ相応の費用がかかる。それを1生徒のキング1人で負担しきるのは不可能だ。だけど、それが親のやることなのか?
「キング……今日のメニューは用意してあるから、それを見てみんなで今日のトレーニングはこなしてくれ」
「えっちょっとあなたどこに行くのよ!?」
「俺はちょっと行かなきゃ行けないところがある」
俺はキングに今日のメニューを押し付けてチームルームを後にした。幸いキングの家の住所は知っている。こういうことで家に押しかけるのは非常識かもしれないけど……
「でけぇ……」
マックイーンの家行った時も思ったけどお嬢様の家のサイズは別次元だな……うちの家の何倍のサイズなんだこれって。
「すいませーん」
インターホンを押して御相手の返事を待つ。いくらか担当トレーナーだからってほいほいと敷地内に入るのは完全に犯罪行為だしな。
『どちら様でしょうか』
「私はキングヘイローさんのトレーナーをさせて頂いてます柴葉和也といいます」
『……少々お待ちください』
使用人らしき人は俺がキングのトレーナーであることを伝えると、何かを確認しに行ったのか1度インターホンが切れてしまった。
(さすがに門前払いってことはないと思うが……)
しばらくすると、さっきの使用人と思わしき人が屋敷の中から出てきて俺を屋敷の中へと案内した。奥へ奥へと連れて行かれてるっぽいからおそらくこの屋敷の家主……キングの母親の元に連れていかれてるんだろう。
「この部屋で少々お待ちください」
俺は応接室らしき部屋に案内されて、その部屋のソファーに座って待機することになった。応接室だけでもこの広さ……チームルームくらいの広さはあるんじゃないか?
「お待たせしました」
「初めまして……キングのお母様ですよね?」
「あら、よく一瞬で分かりましたね」
キングの母親はキングにそっくりだった。いや、娘である彼女が母親に似たと言うべきなんだろうが……?
「キングとそっくりでしたので」
「なるほど。娘の担当をしているだけによく娘を見ているんですね」
2人で対面して少しの沈黙が流れる。いざ対面してみると中々言葉が出ないものだ。
「娘は元気にやっていますか?」
その発言に俺は呆気に取られてしまった。キングから聞く話だけだと、母親とは不仲だと思っていたから。もっと厳しくて硬い人かとも思ったが想像以上に雰囲気は柔らかい人だ。
「どうしたのですか?何か変なことを言いましたか?」
「いっいえ。娘さんは元気にやっていますよ。たまに元気すぎて無茶しすぎることもありますが」
「そうですか……あの子は昔から少しやんちゃなところがありますから」
「それにしても意外でした……お2人は不仲なものだとばかり」
実はキングの勘違いだったりするのだろうか。だけど少しの勘違いでキングがあそこまで追い詰められることもないだろうし……
「不仲?私は母親として娘のことを愛していますよ」
「じゃあ何故キングのことを応援してやれないんですか!」
「なるほど……娘から話は聞いていますか」
「あなたは現役時代に大きな戦績を残していたのは知っています。その走りも動画で拝見しました」
「確かに、私は現役時代に全力でレースに向き合い。その走りを研ぎ澄まし、レースで勝利して記録を残してきました」
「あれほどの走りをできるあなたならばレースの尊さとその楽しさを知っているはずです!それなのに何故その道を行こうとする娘を応援してあげないんですか」
俺はそう発言した瞬間に彼女の気迫が一気に増して、その威圧感に一瞬押し黙りそうになった。その威圧感はまるであのルドルフをも彷彿とさせるほどだった。
「レースの尊さや楽しさは私も理解しています。勝利した時の喜び、ライバルと切磋琢磨したあの日を今でも鮮明に覚えています」
「それならばなぜ!」
「私はそれ以上にレースの厳しさや苦しみを知っているからです。それはあなたも理解できるのではありませんか?新人のトレーナーさん」
「それは一体どういう……」
「勝利するためには厳しいトレーニングと血のにじむような努力が必要です。勝利をすれば周りから賞賛されますが、時には誰かから妬み恨まれることもあります……そして、敗北をすれば罵声を飛ばされバッシングを受けることも」
レースに挑み続ければいずれはそういったことは起こり得る……いや、彼女は実際にそれを経験して最前線で競い合ってきたんだ。だからこそ娘に同じ思いをさせたくないのか。
「でも、キングは自分の殻を自らの力で破ろうとしていました」
「それは弥生賞の話ですか?私に言わせれば、あの走りはまだまだ私の真似事をしているにすぎません」
「いいじゃないか。自分の娘が自分の背中を追いかけてる……微笑ましいことじゃないか」
「昔はそうでした。娘が走るのが好きだと言い。私のレースの動画を何度も見て私の真似をする……とても微笑ましいと思いました。しかし、レースとなると話は別です。あそこには自らの走りを研ぎ澄まして勝利を目指し走り続ける天才達が出走しているのです」
キングの同期のスペやスカイのことを言っているのか。確かにあの二人は天才と言ってもいい。スペのあの末脚は天性のものだし、スカイの持久力とレースセンスは群を抜いてる。
「キングではスペシャルウィークやセイウンスカイに勝てないと言うんですか」
「そうです。特にスペシャルウィークさんは素晴らしいです。今はまだ荒削りではありますが、彼女の走りには周りを引きつけるものがあります。将来は必ず何かを成し遂げると思います。セイウンスカイもかなりの才能の持ち主だと思います」
「だからキングからレースを取り上げるんですか?」
辛い気持ちをさせたくないから、負けさせたくないから夢を取り上げるのはいかがなものだろうか。
「取り上げるつもりはありませんが……私は今すぐにでも戻って欲しいと思っています。スペシャルウィークさんやセイウンスカイさんのデビュー戦を見たその日から」
「それは一体どういう」
「例年通りなら私の娘ならばある程度のレースならば勝利できたでしょうが……?今年はメンバーが悪すぎます。スペシャルウィークさんセイウンスカイさんグラスワンダーさんにエルコンドルパサーさん。この4人を相手にし続けなければならない」
「だから皐月賞が終わったら帰ってこいなんて思ってるんですか?」
「私は多くの夢を叶えて来ました。つまりそれはそれ以上に多くの夢を奪って来たということです。そして、そんなウマ娘達を実際に多く見てきました。夢を奪われ心を折られる娘みたい母親がどこにいますか」
彼女の言うことももっともかもしれない。最愛の娘に辛い思いをさせたくない。けど、過保護すぎるあまり彼女は見逃しているものがある。
「キングの心は折れません。そして、彼女は必ず夢を叶えます」
「一体何を根拠にそんなことを」
「俺とキングが証明してみせます。皐月賞……いや日本ダービーで。それまでキングのことを見守ってあげてください。そして、もしも証明出来たなら……キングのことを応援してあげてください」
「もしも証明出来なかったら?」
「俺はこの話から手を引きます。俺はキングの指導を続けますが、今後この話に口を挟まないことを約束しましょう」
元々は家族間での問題。そこに俺が口を挟んで聞いてもらえてるだけ温情というものだろう……それとも彼女もどこかでキングの可能性を信じたいのか。
「いいでしょう。その話受けることにします」
「最後に一つだけいいでしょうか」
「なんですか?」
「あなたはキングの才能を一つだけ見逃しています」
「私が娘のことをあなたよりも理解していないと?」
「キングのあの不屈の魂は誰にも負けません」
俺はそう言ってキング邸を後にしてトレセン学園に戻った。学園に戻る頃にはすっかりと夜になっていて、みんなはもうトレーニングを終えてかえってあとだった。
「はぁ……なんだか今日はどっと疲れた」
「あれ、柴葉トレーナーじゃないですか」
俺が学園から出ていこうと正門に向かっている途中で、仕事終わりのたづなさんと偶然出くわした。
「たづなさんお疲れ様です」
「お疲れ様です。何か悩み事ですか?」
どうやら疲れが顔に出ていたらしい。まさかこんな時間に人に会うと思っていなかったから油断していた。
「まぁ……少し色々とありまして」
「なんでしたらちょうどいい時間ですし。お話お聞きしましょうか?」
たづなさんは博識な人だし経験も豊富だから何かいいアドバイスを貰えるかもしれない。今日はお言葉に甘えさせてもらおう。
「それではお言葉に甘えて」
こうして俺たちは2人で飲みがてらに食事をとることにした。きっと何かしら役にたつはずだ。
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